軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:152 高跳びフロッグの秘密

パトリックから名前の出た高跳びフロッグは、沼地に生息する大蛙である。この大蛙は天敵の大蛇に追い詰められると、胴体全体を膨らませて空高く飛び上がる。

その高さは、十メートルを超えるほどだ。体重二十キロはありそうな大蛙が、筋力だけで飛べる高さではない。

リカルドは何か秘密があるに違いないと考えた。

高跳びフロッグが生息する沼地は、ミル領にある。ミラン財閥の炭田がある場所に近いらしい。

パトリックは、究錬局からの依頼でミル領のトリデル沼に行ったことがあった。その沼で採取できる薬草を採りに行かされたのだ。

「トリデル沼に行く。案内してくれないか」

「お安い御用だがね」

リカルドはパトリックと一緒にミル領に向かった。モンタも一緒である。ミル領へはヨグル領のヤロまで馬車で行き、そこから徒歩で西へ西へと進む。

途中、ヨグル領の草原で一泊してからミル領へ向かった。ミル領は魔境から溢れた魔獣が 跋扈(ばっこ) している土地だ。ミル領へと通じるトンネルの扉は、王太子の部下が守っている。

「魔術士協会の者です。高跳びフロッグの調査に来ました」

「ああ、魔術士協会の方ですか。身分証をお願いします」

リカルドとパトリックが身分証を見せると通してくれた。

ミル領に入る。この辺はウルファルが多いと知っているので、リカルドは【地】の魔彩功銃、パトリックは【風】の魔彩功銃をヒップホルスターごと収納紫晶から取り出して腰に巻く。

収納紫晶から直接出して撃つという方法もあるが、これは難易度が高く失敗することもある。ヒップホルスターから抜いて撃つ方が確実なのだ。

「リカ、あっちの方から何か来るよ」

モンタが右前方にある林を指差した。

リカルドとパトリックは、魔彩功銃を抜いて身構えた。モンタの告げた通り、林からウルファルの群れが飛び出してきた。

リカルドはウルファルの頭に狙いを定め、魔彩功銃の引き金を引く。ウルファルの額が陥没し、仰け反るように倒れた。

魔彩功銃の威力は、一撃でウルファルを倒すのに十分。二丁の魔彩功銃は、次々にウルファルを倒した。モンタも魔術を使ってウルファルを攻撃する。

二人と一匹で十数匹を倒した頃、ようやくウルファルが諦めて逃げ出した。

「手応えのない奴らだがね」

「モンタも倒したよ。すごいでしょ」

リカルドはモンタを褒めた。

ウルファルを撃退したリカルドたちは、まずパレンテ炭田に向かった。

ミラン財閥が採掘している炭田は、大きく変わっていた。何もなかった場所に町が建設されている。それも要塞のような町だ。

近くに生息していた妖樹デスオプの群れは、何度も撃退され近寄らなくなったようだ。残る魔獣は、地走り蜘蛛と鎧山猫だが、魔功銃で武装させた魔獣ハンターが撃退していた。

リカルドたちが町に入ると、大いに歓迎された。初期の頃からいるミラン財閥の者や石炭掘りの鉱夫がリカルドたちを覚えていたのだ。

「町になっているなんて、驚きました」

リカルドがミラン財閥の代表であるクラウディオに言った。クラウディオはベルナルドとリカルドが最初にパレンテ炭田に来た時に、ベルナルドの補佐として一緒だった人物である。

「これもリカルド君のおかげです。ここは板や土嚢を使って作った円形砦が発展した町なんですから」

町と言っても、鉱夫たちが寝泊まりする長屋や小さな料理屋、雑貨屋などがあるだけの小さな町だ。ただミラン財閥が大勢の労働力を集めたので人口だけは多いようだ。

パレンテ炭田は大きな収益を上げるようになっていた。炭田から掘り出された石炭は、リカルドが開発したストーブの燃料として、売れている。

暖房用の燃料としてだけでなく、外輪船の燃料としても売れ始めており、ミラン財閥では大きな賭けに勝ったと喜んでいる。

町で一泊して、リカルドたちはトリデル沼へ向かった。町を出ると、すぐに魔獣と遭遇。ウルファルや山賊ウルフなどの比較的弱い魔獣が多かったが、その数は多い。

「魔獣が多いがね。王太子が派遣したミル領魔獣討伐軍が、本来の仕事をしとったら、こんなに苦労せんでよかったんやが」

「仕方ないですよ。国王陛下の命令には、王太子殿下でも逆らえないんですから」

「王太子殿下はどうする気やろ。もう一度、ミル領魔獣討伐軍を編成するんきゃ?」

リカルドは、王太子ならミル領を魔獣の手から奪還するだろうと考えていた。セラート予言では、異常気象が続く年の最後には、魔境から魔獣が溢れ出ると伝わっている。

このままミル領を放置すれば、ミル領から溢れた魔獣がヨグル領やコグアツ領へも侵入する恐れがあった。

「間違いなく、王太子殿下はミル領の魔獣討伐を行いますよ」

「ふーん、リカルドが言うんなら間違いないがね」

トリデル沼に近づくに連れ、周りの植生が変わってきた。今までは道の両脇は針葉樹の林になっていたのだが、それが背の低い落葉樹に変化する。

空気に湿り気を感じ始め、秋も終わりの季節なので色づいた葉っぱが風に乗って舞い落ちる。

モンタが風に舞う葉っぱに反応して、飛び上がりながら葉っぱを追い駆け始めた。

「キュキャ、葉っぱが黄色と赤♪」

歌うように声を出し跳ね回るモンタは楽しそうだ。旋風が起こりモンタを捕まえた。モンタは飛膜を広げ、宙を舞う葉っぱを蹴って上昇する。

赤と黄色、鮮やかな葉っぱが風に踊る中で、モンタが舞い上がる。リカルドにはモンタが妖精のように見えた。楽しげに空中を舞う妖精だ。

風の中を滑空したモンタが、リカルドの肩に着地。

「楽しかったか?」

「すごーく、楽しかった」

モンタの目がキラキラと輝いているようだ。

パトリックは、モンタの知らなかった一面を見て驚いた。旋風の中で舞うモンタは、風の妖精のようで神秘的な存在に思えた。

「モンタって、あんな動きもできるんきゃ?」

「楽しいよ」

モンタは小さな胸を反らして、リカルドに褒めてと合図する。リカルドは笑いながら、妖精みたいだったよと褒めた。

トリデル沼に到着。リカルドは収納碧晶から新しいコンテナハウスを取り出して、野営の準備をする。

「パトリックは、何で高跳びフロッグが高く飛べると思う?」

「脚力が強いんじゃ」

「それだけで、飛び上がれる高さではないと思う」

「だったら、何?」

「それを調べに来たんだ」

その日はコンテナハウスで眠り、翌朝から高跳びフロッグを探して沼を探索した。

直径七百メートルほどの沼の周囲を回りながら、魔獣を探す。高跳びフロッグが沼に突き出ている岩の上でキョロキョロしていた。

体長一メートルほど体重が二十キロを超えているだろう。

リカルドは【地】の魔彩功銃で頭を狙って引き金を引いた。衝撃波が大蛙の頭に命中。頭がボコッと陥没したが、すぐに元に戻った。

「こいつ、衝撃波に強いがや」

高跳びフロッグは危険を感じて、膨らみ始めた。体長一メートルだった大蛙が四メートルまで膨らんで飛び上がった。

飛び上がった高跳びフロッグは、風に流され南へゆっくりと落下していく。リカルドたちは追いかけた。

モンタが樹の枝から枝へと飛び移りながら追いかける。追い付いたモンタが、【重風槌】の魔術を放った。上から強烈に吹き下ろす風が発生し、高跳びフロッグを地面へと叩きつける。

その一撃で気を失った大蛙は、急速にしぼんで地面に横たわった。

「モンタが倒したのか。偉いぞ」

リカルドが褒めると、モンタが 小躍(こおど) りして喜んだ。

気を失っている高跳びフロッグの足に紐を結び樹に固定した。

大蛙が気絶から覚めた。グワッグワッと鳴き声をあげた高跳びフロッグが体を膨らませる。リカルドたちは、その様子をじっくりと観察する。

高跳びフロッグは、空気を吸い込んで膨らんでいるのではないようだ。

リカルドたちは高跳びフロッグを解剖して調べた。その結果、不思議な金属結晶を発見する。

紫色に輝く金属結晶は、生物の体内にあるには異質なものだ。リカルドは持ち帰って詳しく調査することにした。

その後、数匹の高跳びフロッグを狩り、体内を調べた。同じように紫色に輝く金属結晶が見つかる。

「その金属結晶は、何だか分かるきゃ?」

「まだ分からないけど、高跳びフロッグが高く飛び上がれることと、何か関係する気がする」

「リカルドの勘は当たるからな。目的達成だがね」

二人はコンテナハウスに戻って、謎の金属結晶を調べ始めた。

擦ったり叩いたりしてみたが、何の反応もない。パトリックが魔力を流し込んだ。すると、金属結晶から何か気体が吹き出た。

パトリックは、驚いて金属結晶を投げ出す。

「毒ガスか。気をつけるがね」

パトリックの声が甲高いアヒル声になっていた。

「ぷっ、あははは……」

リカルドは思わず笑い出す。パトリックは不機嫌な顔になってリカルドを睨む。

「ごめん。おかげで高跳びフロッグの秘密が分かりましたよ」

リカルドは、その金属結晶の正体が分かった。ヘリウム吸蔵合金である。水素吸蔵合金というものがあるのは知っていたが、ヘリウム吸蔵合金というのは初めてである。

この世界の大気には、地球よりヘリウムの含有率が高いらしい。ヘリウム吸蔵合金は、大気中からヘリウムだけを抽出して吸蔵する特性を持っており、高跳びフロッグはその特性を利用していたようだ。

翌日から、リカルドたちは高跳びフロッグを狩りまくった。合計で五十七匹も仕留めてヘリウム吸蔵合金と皮を手に入れた。

高跳びフロッグの皮は、ヘリウムを漏らさず軽いという特性があるので利用できそうだ。

トリデル沼へ来た目的を果たして一息ついている時、沼の周りにある林が静かになった。

「何か、変な感じがするがね」

パトリックの言葉にリカルドも頷いた。

リカルドはコンテナハウスを収納碧晶に仕舞い、撤退の準備をする。

沼に潜んでいた高跳びフロッグが騒ぎ出し一斉に空高く飛び上がった。リカルドはエルビルロッドを取り出した。パトリックもロッドを取り出して身構える。

沼の東側にある林から、白く巨大な角を持つ虎が音もなく現れた。ホーン白虎と呼ばれる魔獣で、体長三メートルほどもある。

モンタは野生の勘で、こいつが危険な相手だと分かったらしく、木の上に避難した。

「デ、デカイがね」

リカルドとパトリックは【真雷渦鋼弾】の触媒を取り出す。

ホーン白虎がリカルドたちに気づいた。二人は一斉に魔術の準備を始める。先手必勝、二人は【真雷渦鋼弾】を放った。

帯電した鋼鉄の渦が、ホーン白虎に向かって飛ぶ。白虎は大口を開け咆哮を放った。それは単なる咆哮ではない。強烈な魔力を帯びた咆哮は、魔彩功銃の衝撃波を何倍にも強力にしたような威力があった。

真雷渦鋼弾が咆哮により弾き飛ばされる。

「馬鹿な。あの魔力は尋常なもんじゃないがね」

「パトリック、盾を使え」

リカルドは黒魔術盾を取り出し身構える。

ホーン白虎は二人を睨み唸る。その目には敵意があった。

凶悪な威力を持った咆哮が二人に向かって放たれた。リカルドは黒魔術盾を使って撥ね返す。同時にリカルドの身体が後ろにはね飛んだ。

黒魔術盾でもすべての威力を撥ね返せなかったようだ。恐ろしいほど威力を持つ咆哮だ。

リカルドは、炎滅タートル以上に危険な相手だと直感した。

パトリックがもう一度魔術を放とうとして、咆哮で邪魔された。

「リカルド、どうする?」

「黒震槍で仕留める。パトリックは黒魔術盾で敵の攻撃を受け止めてくれ」

「任せるがね」

リカルドはエルビルロッドを仕舞い、黒震槍を取り出した。

ホーン白虎は素早い動きでリカルドに飛びかかった。パトリックが前に出て黒魔術盾を作動させる。空中で魔力障壁とぶつかったホーン白虎は、猫族特有の動きで体を捻り着地する。

その瞬間を狙って、リカルドは黒震槍を突き出した。空震刃がホーン白虎の胴体を抉った。白い巨体が暴れ、リカルドの身体が突き飛ばされる。

地面を転がったリカルドが起き上がって、黒震槍を構える。ホーン白虎は口から血を流しながら迫ってきた。頭上から【重風槌】が放たれ、ホーン白虎がよろめく。

モンタの援護攻撃である。リカルドは渾身の力を込めて黒震槍を突き出した。空震刃がホーン白虎の心臓を抉る。

その巨体が音を立てて地面に倒れた。