軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:146 ミコルの魔獣狩り

グレタたちと一緒に王都へ戻った。グレタは屋敷に戻って一晩休養した後、翌朝待ち合わせる約束をした。リカルドはユニウス飼育場へ行き、アントニオを探した。

「兄さん、神珍樹の枝が手に入ったんだ。また実験したいんだけどいいかな?」

アントニオが仕方ないなというように笑う。

「いいぞ。ダリオたちに妖樹トリルを捕まえるように言ってくるよ」

リカルドは、接ぎ木を行う専用の部屋で待った。

アントニオが二体のトリルを持ってくる。二人で閃鞭が生えている場所に、神珍樹の枝を接ぎ木した。

「今度は枯れないかな?」

アントニオが首を傾げながら声を上げた。

「前回の妖樹クミリに接ぎ木した時には、生命力を吸い取られて枯れましたからね。今度こそは、大丈夫な気がするんですが」

リカルドが答えると、アントニオも「そうだといいな」と笑う。

二〇体の妖樹トリルに接ぎ木するのに二時間ほどが必要だった。

接ぎ木した妖樹トリルは、ヨタヨタしながら柵の中を移動していく。神珍樹の枝に慣れるまで時間がかかるのだろう。

リカルドは接ぎ木した妖樹トリルを託し、魔術士協会へと戻った。イサルコに戻ったことを報告し、ペルーダ病の治療薬を手に入れたことを告げた。

「それは良かった。だが、必要なかったかもしれんぞ」

「どういうことです?」

宮廷魔術士が大海蛇の血を持ち帰ったことを教えてくれた。

「すると、宮廷魔術士の誰かが大海蛇を倒したんですか?」

「いや、血だけは手に入れたが、逃げられたらしい」

逃げられたという言葉から、魔術によって大海蛇を追い詰めたのだとリカルドは勘違いした。大海蛇は賢者を除いて倒したという記録がない強敵である。

それを追い詰めたのだから、宮廷魔術士の実力は侮れないと思った。

考え込んだリカルドに、イサルコが質問した。

「それで、ペルーダ病の治療薬とはどういうものなのだ?」

「ペルーダの血から作った血清です」

「血清?」

リカルドは血清について説明した。

「血液が固まるときに分離する少し黄色の液体です。その中には病気に効果のあるものが含まれているんです」

イサルコは眉間にシワを寄せ、血について書かれた文献を思い出そうとした。

「ふむ、ペルーダ病には、その血が特効薬になるということか?」

「そうです」

イサルコへの報告を済ませたリカルドは自宅に戻った。

モンタの熱烈な歓迎を受けたリカルドは、何となくホッとした。

「ねえ、お土産は?」

「ごめんよ。お土産は買えなかったんだよ。何か欲しいものがあるのかい?」

「んーとね。自由に空を飛ぶものが欲しい」

リカルドは笑った。モンタが滑空だけだが、空を飛べるからだ。

「モンタは、空を飛べるじゃないか」

「ダメ、メルみたいに高く飛びたいの」

ここにも空を自由に飛びたいという者がいた。

「分かった。研究してみるよ」

「約束だよ」

リカルドはモンタと約束した。現時点で可能と思われるのは熱気球くらいしかないが、モンタのような軽い者ならドローンみたいなものを作れば、空を飛べるかもしれない。

その約束を耳にしたセルジュとパメラが、突撃してきた。飛びかかってリカルドの身体にしがみつく。

「パメラも飛びたい」「僕も」

二人の目がキラキラとしている。

「分かったよ。飛べるようになったら、二人も空の散歩をしよう」

翌日の朝は家でゆっくりした。午後からは妖樹トリルの様子を見るために飼育場へと向かう。

自転車で飼育場へ到着。接ぎ木した妖樹トリルが動き回っている姿を見てホッとした。

「リカルド様」

後ろから声をかけられ、少し驚いて振り向く。

そこには魔獣ハンターを目指すミコルの姿があった。

「何だ。ミコルですか」

「お願いがあるんだ」

ミコルは魔獣ハンターになろうとしている友人たちと一緒に、狩りに行きたいらしい。だが、アントニオがまだ早いと許可をくれないという。

ミコルは十歳になったばかりである。魔獣と戦うには早いような気がする。だが、思い返してみれば、リカルド自身が魔獣と戦い始めたのも同じ頃だ。

「魔術の訓練はどこまで進んだんです?」

「初級魔術は使えるようになったよ」

認定試験に合格し魔術士となったロブソンとニコラから魔術を学んでいるミコルは、魔力制御を徹底的に仕込まれているらしい。

「頭突きウサギくらいなら、仕留められる実力がありそうですね。兄さんに頼んであげよう」

「ありがとうございます」

リカルドはアントニオに頼んだ。しかし、アントニオはすぐには許可を出さなかった。

「ミコルなら、大丈夫だと思いますよ」

「でも、まだ十歳だぞ」

「指導係みたいな年長の魔獣ハンターが一人参加するそうです」

「その指導係は、頼りになるのか。リカルドは暇なんだろ。一緒に行くなら許可しよう」

アントニオは過保護なところがある。子供でもできたら、親馬鹿になるに違いない。

「ええっ、魔境から戻ったばかりで、ゆっくりしたかったんですけど」

「どうせ狙う魔獣は、頭突きウサギだろ。リカルドなら散歩みたいなものじゃないか」

「まあ、見守るだけなら、行ってもいいけど」

妖樹トリルの世話を任せていることもあり、アントニオの願いを断るのも悪い気がして、リカルドは引き受けた。

翌日、準備をして玄関前でミコルたちと待ち合わせた。モンタも一緒に行くというので、リカルドが肩に提げているショルダーバッグの中にモンタが入っている。

ミコルの友人というのは、同年代の少年二人と十五歳ほどの魔獣ハンターだった。

「何だ……魔術士が付きそうというから、ベテランだと思ったのに」

生意気そうな若い魔獣ハンターだ。

リカルドは薄笑いを浮かべ、兄の希望なので一緒に魔獣狩りに同行すると説明した。彼らの両親は、リカルドたちが建設中の新しい町で働いている。

この新しい町は『副都街』と呼ばれることに決まった。最初は創設者であるリカルドにちなんで、『ユニウス街』にしようという案も出たのだが、リカルドが断った。

「アントニオ様の頼みなら、しょうがない」

若い魔獣ハンターは、ボニートという少年だった。短槍を装備している。ミコルの友人はチーロとドナートというらしい。二人とも防具はなくショートソードだけを装備している。

ミコルの装備は、リカルドのお下がりである妖樹トリルの枝を使った魔成ロッドと牙猪革製戦闘ローブである。戦闘ローブは着丈を腰辺りにまで縮め、動きやすいようにしている。

ミコルの腰には触媒ポーチがあり、魔術を放つ準備もしている。触媒は海岸で採れる夜蝶貝と呼ばれる特別な貝を粉々に砕いたものだ。

北門から出て、クレム川を上流へと向かう。モンタは久しぶりにリカルドと一緒の外出なので、はしゃいでいる。

「ねえねえ、モンタも魔獣をやっつけていい?」

「そうだな。ミコルたちが魔獣を倒した後ならいいよ」

モンタが気合を入れて、鼻息を荒くする。

「リカルド様は、どんな魔獣を倒したことがあるの?」

ミコルが尋ねた。リカルドがどれほど強いのか知りたいのだろう。

「ん……ミコルくらいの時に、妖樹エルビルを倒したことがあります」

「へえ、妖樹エルビルって、脅威度4の魔獣だよね。凄いな」

魔獣ハンターのボニートが、対抗するように魔獣の名前を挙げた。

「俺は牙猪を仕留めたことがあるぞ」

十五歳くらいで牙猪を倒せるのなら優秀である。ただ一人で倒したとは言っていないので、仲間がいたのかもしれない。

「あっちに何かいる」

モンタが声を上げた。高性能な鼻と耳を持つ賢獣は、レーダーの代わりとなる。

林の中から三匹の鬼面ネズミが現れた。

少年たちはそれぞれの武器を抜いた。それぞれの真剣な戦いが始まる。二人の少年は、鬼面ネズミの素早さについていけないようだ。

その動きに振り回され、ショートソードを空振りしている。ミコルは体内の魔力を制御し、魔成ロッドを打ち込むタイミングを狙っている。

飛びかかってくる鬼面ネズミの牙を躱しながら、ミコルは魔成ロッドをネズミの胴体に打ち込んだ。魔成ロッドから発生した衝撃波が鬼面ネズミの内臓を破壊。

「よし、ミコルは後ろに下がれ」

ボニートが指示を出した。

ミコルがボーッとしているので、リカルドが引き戻した。魔獣を初めて倒したミコルは、『恩恵選び』のメッセージが頭に浮かんでいるのだろう。

「ミコル、何を選ぶかは決めているんでしょ」

リカルドが声をかけた。

ミコルは頷きながら、決断したようだ。

「選ぶよ」

【筋力増強】にすることは決めていたようだ。ミコルは身体を動かすことが好きだと言っていたので、魔術より戦闘技術を学んで伸ばすつもりなのだろう。

他の二人は鬼面ネズミを仕留めて戻ってきた。彼らは初めてではなかったようだ。

その後、鬼面ネズミ数匹を倒したミコルたちが、調子に乗り始めた。

「鬼面ネズミなんて、ちょろいな。もっと強い魔獣を探そうぜ」

「そうだ、牙猪とかいないの」

チーロとドナートの威勢のいい意見を聞いたボニートは、上流に移動することにしたようだ。

ボニートは頭突きウサギの巣穴が多い地区ではなく、ホーン狼のいる方向へと進む。狩りの怖さを教えようと考えているのかもしれない。

「リカルド様、俺の戦い方はどうでした?」

「兄さんの教えた通り、よくやっていると思う。ただ敵の動きを見るだけでなく、動きの癖を見付けるんだ」

「癖ですか?」

「そうです。癖を見極めれば、敵を攻撃するチャンスが分かる」

ボニートが鼻を鳴らして笑う。

「ふん、魔術士が魔獣ハンターみたいなことを言う」

後輩たちの前だからか、偉ぶった態度をとっている。

その時、モンタの耳がピコピコ動いた。それを見たリカルドが警戒する。

下草がザザッと鳴り、ホーン狼が現れた。ボニートの意図した通りとなったのだが、彼の顔が強張った。ホーン狼の数が予想より多かったのだ。

「八匹も……まずい。木に登れ」

通常、二、三匹で群れているホーン狼なのだが、今回は特別なようだ。初心者であるミコルたちには、一匹でも荷が重い。

リカルドの収納紫晶には、【風】の魔彩功銃が入っている。リカルド一人でも始末できるだろう。とはいえ、この狩りのチームリーダーはボニートである。リカルドはチームリーダーの言葉に従った。

大口を叩いていたミコルの友人たちは、実物のホーン狼を見て恐怖し駆け上るように木に登った。

全員が木に登った時、モンタは梢の上でホーン狼を睨んでいた。

「ボニートさん、次はどうするんです?」

ミコルの声が聞こえた。

その声に答えるように、ホーン狼たちが一斉に吠え始めた。リカルドは魔彩功銃を取り出す。

「ミコル、魔術が使えるんだったな。あいつらの数を減らせるか?」

少し青褪めた顔のミコルが頷いた。

ミコルが魔術の準備を始める。【流水刃】を使うつもりのようだ。触媒を用意し魔成ロッドから魔力を放出する。【流水刃】が発動し水の刃がホーン狼に向かって飛んだ。

その一匹が悲鳴を上げ地に倒れた。

「いいぞ。その調子で倒せ」

ボニートが指示を出すと、他の二人が羨ましそうにミコルを見た。魔術が使える魔獣ハンターというのは、貴重な存在らしい。

皆の視線がミコルに集まる。それがミコルにとってプレッシャーとなったようだ。四回魔術を発動し、倒せたのは二匹だけだった。

ミコルは魔力が尽きてヘロヘロだ。