軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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焼き上がったマグロは粗熱が取れるまで壺の中で放置され、触れるくらいの温度になったらナタで切り分けられた。

チキンの丸焼きを切り分けるのと同じ感覚なのだろう。

食べやすいサイズとかキレイにとかではなくてとにかく皿に盛れるサイズにすることを主眼にバラしていく。

バラした肉は大皿に置き、デカイ部位は更に刻んでいく。

そうするとボロボロのグチャグチャな山盛り焼きマグロの完成である。

「どうだ壮観だろう?」

ロッコは胸を張って満足げである。

確かに食いではあるだろう。

味見はさせてもらったが、腹周りの肉はまだジューシーだが、大半の肉はパサパサで味気のないものだった。

「なんだこういうの、村では食べなかったか?」

「そうですね、この魚は釣れませんでしたね。あと魚を焼いて食べることもほとんどありませんでした。そもそも捕れた魚は軍に収めなきゃいけませんから僕らは主にそっちを野菜や芋と煮たものを食べてましたね」

俺は山積みになったヒレや骨を指さした。

ロッコは気の毒そうな顔をした。

気の毒なのはお前だよロッコ。

荒汁の美味さを知らないのだからな。

夕食は賑やかだった。

みんなメイン食材があることが嬉しいようでモリモリ食べた。

確かに脚気になる程コメばっかり食べてたんならメインは嬉しいよな。

タンパク質は正義だ。

しかし俺はやっぱり刺身が食えなかった悔しさが枷となってイマイチ楽しめなかった。

長官も肉と比べると味気ないななどと言いながらも口数多く、焼きマグロを楽しんでいた。

「どうしたオミ、浮かない顔をして」

「いやあ、今日のこの魚なんですけど。僕の住んでた異世界では最高級魚でしてね」

「ほう」

「生で食べるんですよ」

案の定、長官はゲッて顔をした。

「ふっくら炊き上げた米を酢と塩で味付けして一口大に丸めたものに、同じく一口大に切ったマグロを乗せて醤油というソースを付けて食べるんです」

「それで一人前では少なくないか?」

「それを10個ほど食べるんです」

「エライ手間のかかる料理だな」

「ええ、高級料理ですから」

「なるほど、米をふっくらというのは?」

「あら、長官ご存じない?」

長官は粥を口に運ぶのを止めて頷いた。

「米を適切な量の水で煮ると、柔らかいけど粥のようにゲル状ではない状態に仕上がります。そうすると茹でて潰した芋のように丸めたり手で持ったりできるようになるのです」

「ほう、それを見てみたいな」

「お安い御用で。明日にでもご用意しておきます」

「直ぐにはできんのか?」

「30分ほどかかるので、、、」

「構わん、今日は運動は休みなのだろう?」

「そうですね、じゃあやってみましょう」

俺は皿に残った粥を口に流し込むと厨房に戻って一番小さい鍋とコップ一杯の米を取ってきた。

米炊きの実演会である。

「米はこんな風に洗いまして、水加減は米の1.2倍ほど。加熱をして湯が沸いたら水気がなくなるまで弱火で沸騰させ続けます」

「焦げんのか?」

「焦げないように火加減します。少し焦げてもそこがまた旨いんですけど」

「ふむ。そこはパンと同じか」

床に直置きされた鍋から盛んに湯気が上がるのを見るのはなんともシュールだ。

火のないところに煙を立たせるのが魔術の恐ろしいところだ。

キャンドルなどの火魔術は使わずに鍋を直接温めているのだが、じわじわ魔力を消費する練習になっていいかも知れない。

イメージしてるのはガスコンロの弱火だが、沸騰の状態をイメージしても出来るかもしれない。

この辺は要チェックだな。

湯気が少なくなってフツフツとした音がチリチリとかパチパチに変わったら加熱をやめて暫くそのままおく。

「む、できたのか?」

「このまま蓋を開けずに蒸らしておく事によってふっくら仕上がり、鍋底から剥がれやすくなるのです」

「ふむ」

5分ほど待って蓋を開けると美しい白米とご対面である。

スプーンでほぐすと中々いい感じに炊けている。

水魔術で手を濡らして一口サイズのおにぎりを握ると少しだけ塩をまぶして皿に乗せ長官の前に置いた。

「表面をぬらしたのは?」

「あ、これは米が手にくっつくからです」

長官はまずひとつぶだけ米を摘むと指先で潰して硬さを調べていた。

「ふむ、では、、、おっ、これは中々に美味いな。柔らかいのに一粒一粒がバラけて、噛むと滋味がある。粥と同じ材料と製法なのに全く違う料理だな」

「そうでしょう?」

俺は自分のぶんの塩にぎりを作ると口に放り込んだ。

美味い!

何でにぎりたての温かい塩にぎりってこんなに美味いんだろうね?

俺は残りの白米に飛魚フレークを混ぜ込むとそちらも一口おにぎりにしていった。

全部で4つのおにぎりしかできなかった。

米をもっと炊けば良かったと思うも後の祭りである。

「こちらもどうぞ」

「うむ、、、おお、これはまた、、、なんというか魚の脂と相まって更に完成度が高いな」

そりゃそうだろう。美味しいものは脂肪と糖でできているのだ。

「ううむ、これは凄いぞ。パンと同じくらい満足感があるではないか」

「見方によってはそうかもしれませんねえ」

俺も飛魚おにぎりを口に放り込んだ。

美味い。

「これは冷めてもイケるのです」

「ほう、そうか、、、」

長官は2個目に伸ばしかけた手を引っ込めた。

そして冷めるのを待つのかと思ったら直ぐに手に取った。

「ふむ、こんなもんか」

ああ、魔術で冷ましたのね。

無詠唱って相手が何をしてるのか分かんないから怖いよね。

「ああ、なるほど。分かる。わたしは温かいほうが美味いと思ったが冷めると米がもっとしっかりとして噛みごたえが変わるな」

「この状態で、天気に寄りますが一日くらいは持ちますので弁当にしても良いのです」

「弁当?」

「個人で携帯する行動食です。朝作って昼に食べるのは僕の暮らした世界では一般的なおにぎりの用法でした」

「なるほどなあ、、、」

長官は目が真剣だ。

また軍で運用する事を考えているんだろう。

「まあ、大量に作るのは大変なので軍での運用は難しいかもしれませんが」

「ふむ、弁当は誰が作るのだ?」

「お母さんが子供の為に作るのが一般的ですかね? 僕の世界では子供はあまねく学校に、つまりアカデミーに通う義務がありましたので」

「おお、知っているぞ。国民全員を優秀な兵士に仕立て上げる為に行われる義務教育というヤツだ」

「よくご存知で。僕が聞いたのは工場で働かせる為の労働教育って話でしたけど」

決められた時間と指示の通りに動けるように仕込まれるという意味では軍隊も工場も同じか。

「それも聞いているぞ。機械による大量生産だな?」

「はい。糸や布を作るのから始まったとか」

「ふうむ、我々がやらねばならぬのは先ずは鉄の大量生産だな」

「鉄はあまり取れませんか?」

「そうだな、金属は錫や銅が主流だな。例えば、我が領地でも鉄鉱石は取れるのだが燃やす木や石炭が少ない」

「ははあ。しかしそこは魔術でなんとか補えるのでは?」

「今でも鉄は少量なら作っているがドワーフ総出で炉の温度をキープしなければならないので年一回しか作れていないのが現状だ」

「ドワーフ総出? 鉄を作るのは大変なんですねえ」

「うむ。課題は多いな。ドワーフ自身も鉄は欲しいのだから全てを接収する訳にもいかんしな」

やっぱ剣とか槍とかかしら?

そりゃそうだよな。剣と魔法の世界だもの。

ドワーフは武器や武具を作らなきゃならんのだろう。

「となるとやはりナイフや包丁は高価なのですね?」

「もちろんだ。お前の村でも農具もナイフもギルドが管理していだだろう?」

そういえば女たちはギルドで農具を借りて農作業をして、返却もギルド員立ち会いで数を数えていた気がする。

魚を捌く時のナイフもギルドに返していた。

男たちの銛もただ尖った木の棒だったしな。

ハサミに至っては村に1本しかなかった。

なるほど、そうやって考えると村が国の正式な領地になるのは大切なことだったんだ。

まさか農具やナイフが国の用意したインフラだったとは考えなかったぜ

「鉄といえば明日から剣術の稽古が再開されるぞ?」

「といいますと?」

「皆の体力が戻ってきたからな。タッキングに間があるときに手の空いてる者が集まって剣術の練習をするのだ。オミは剣は?」

「全く経験ないです。村で枝を振り回して遊んだことはありますが教えてくれる人も居ないですし」

「そうか。タイミングが合えば観るだけでも参加すると良いぞ」

「僕は荒っぽいことは得意じゃなくて、、、」

「お前は既に軍の関係者だ。自分の身くらい守れるようにしとかんと戦争が起きた時に後悔するぞ」

なるほど。

そう言われると断ることは出来ないが、この10歳の身体で大人たちとどう戦えばいいと?

そんな思いが顔に出ていたのだろう。

「早くに始めれば上達も早い。揉んでもらって慣れておけ」

珍しく有無を言わさない長官なのだった。

そういえば長官は結婚するなら自分より剣が強い人が良いんだっけ。

なんだか少しおっかないが仕方ない。

まあ、いきなりぶちのめされたりはしないだろう。