作品タイトル不明
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翌日、朝靄の中を縦列で歩く。
今日も怪我を治す練習である。
一応、提案はしておいた。
何って子鹿を痛めつけることだよ。
しかし、ふたりの反応は微妙だった。
「子鹿だから怪我の治りも早いのじゃがな」
「それに大人の雄鹿なぞ、ワシらは押さえつけられんぞ?」
「じゃあ鹿じゃなくて、それこそ昨日食べた鳥とかじゃ駄目なんですか? アレなら失敗しても食べれますし」
「鹿だって失敗したら食べるわい」
「サイズが小さければ小さいほど死にやすく難しいのじゃぞ?」
それもそうか。
そういえば小型動物は難しいって獣医さんの漫画で読んだわ。
それに鹿は美味いもんな。
赤身で柔らかくて塩だけで旨いんだよな。
しかし何でだろう?
苦しんでる動物を見ると湧くのは食欲ではなく可哀想という気持ちなのだ。
腹が減ってたら大丈夫かしら?
いや、それだと助ける意欲が削がれる気がする。
駄目だ。
意図的に失敗とか許されないだろ。
「まあ、しかしお主が言うのも分かる。ワシらだって苦しむ子鹿は気の毒に思うからの」
「程よく小ぶりなメスが居たらそっちにしてやろう」
それも嫌だ。
鹿とはいえ女の子を傷つけるとか受け入れられない。
「やっぱりやめましょうよ。誰かを傷つけるのは良くないですって」
「なら、お主の脚で練習するか」
「ワシらの脚は嫌じゃぞ? 歳をくうと傷の治りが遅いんじゃ」
それも嫌。
自分のふくらはぎを矢で射られるとか信じられない。
失敗したら一生後悔する。
それに痛くて治療に集中できなさそう。
そういえば矢傷の次は刀傷って昨日言ってたし。
ぐぬう、、、
「やっぱり小ぶりなオスの鹿にしましょう、、、」
「お主、言っとることがブレブレじゃの」
「昨日の子鹿はオスだったわい」
そんなやりとりがあって朝靄の中に居る。
既に藪の中にスタンバって沢の方を見ている。
なかなか鹿が現れず半ば残念ながら、半ばほっとして目の前の枝を這う蟻に気を取られていると、ふたりが突然弓を引き絞り、ひと呼吸おいて矢を放った。
ふたり同時に打ったのか?
慌てて沢の方を見ると何かの動物が倒れていた。
今度はキツネだった。
前脚と後ろ脚両方に矢が刺さっている。
「なんで二本も、、、!」
「奴らは想像以上にタフじゃ。矢が一本当たったくらいじゃ逃げてしまう」
「そして結局弱って死ぬんじゃ」
そう言われたら反論できない。
すぐに治してやらねば。
俺は駆け出す。
「待て! そいつに触れる前に注意することがある!」
「キツネに触れた手で目を擦ったり口元に触れたりしてはならんぞ」
なんだっけ、狂犬病?
「すぐには死なぬが数年後に酷い目に遭うのだ」
「そういえばこれも転生者からもたらされた役に立った知識じゃの。寄生虫の仕業なのだとか」
あ、エキノコックスか。
出る症状が複数あるから特定が難しいんだっけ。
「え、触って大丈夫ですか?」
「ワシらは手袋をさせてもらう」
「お主はなるべく触れるな」
ふたりはいつの間にかベルトに挟んでいた手袋を両手に嵌めていた。
威嚇し噛みつこうとするキツネの口吻を素早く掴んで地面に押し付け、年嵩の方は尻尾を掴み腰のあたりを地面に押さえつけた。
「矢はお主が抜け」
「キツネに触れてしまったら直ぐに魔術で洗え」
マジか。
見れば矢には鏃が付いておらず、引き抜いても今以上に傷が酷くなることはなさそうだ。
意を決して矢を引き抜く。
キツネは口吻を掴まれたまま悲鳴を上げた。
脚を暴れさせて必死に抵抗しようとする。
済まん済まん済まん!
俺は謝りながらもう一本の矢も引き抜く。
「よし、今日は二箇所あるんじゃ。魔力を無駄に使うなよ?」
「そして手早くな」
まごまごしてると失血が増えてしまうものな。
だったら矢を抜くのは片方が終わってからにすれば良かった。
早速患部に手をかざし、脳内の医者に手術を開始させる。
そういえば、あの医者も漫画の中でエキノコックスに感染し鏡で見ながら自分の腹を開いてたっけ。
いやいや、余計なことを考えるな。
消毒、縫合だ。
傷全体を魔術で洗浄し固着させていく。
昨日のように筋繊維一本一本、神経一本一本は繋がない。
まとめてギュッと押し付け固定する。
それが終われば前脚だ。
同じように洗浄、止血、縫合だ。
昨日と比べたら手早く出来たし魔力の減りも昆布が必要な程ではない。
「よし、距離を置け。離すぞ」
「せーのっ、ほい」
解放されたキツネはいきなり走り出そうとして痛みのせいか転び、横に一回転してから身を低くして威嚇のポーズをとった。
耳を寝かせ歯を剥き出しにして可愛くないぎゃーという声を上げる。
俺たちはキツネから目は離さずに後退りを続けた。
噛まれたらきっと狂犬病な気がする。
治療法は無く、致死率は百パーセントだ。
キツネは俺たち三人を順番に見ながら警戒をしていたが、もう充分に距離が離れたと判断したのか威嚇を解いて足を引きずりながら藪へと消えていった。
「大丈夫そうじゃの」
「うむ」
「足を引きずってましたね」
ふたりは抜いた矢を拾って沢の水で洗った。
「こんなのが貫通したんじゃ。足くらい引きずるわい」
「歩けとるだけ充分奇跡じゃろ。今の治療は早くて良かった。魔力はどうじゃ?」
「全然使ってないですね。もっとちゃんとやってあげれば良かった」
ゲオルグは矢筒に矢を戻すと別の矢を取り出した。
「次は鏃のある矢を使う。もっと治療が困難になるぞ?」
「魔力の残量を意識しながら最善を尽くすのじゃ」
マジか。
俺は額に浮かんだ汗を拭いかけて手を止め、魔術の水で両手を洗ってから手拭いを頭に巻いた。
「よろしくお願いします!」