軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

230

夜が明ける前にディーヌベルクに到着した。

ポリオリの裏門みたいに丘陵の切れ目に木の門が閉ざされて鎮座し、周囲にバラック小屋や難民キャンプは無し。

エルフのドームの遺跡、つまりダンジョンがある都市はスラム街がありがちという話だったから少々覚悟していたのだ。

門の前に並んで馬車を停めて開門を待つ。

東の空は白んで来ているのでそんなに待たされる事はないだろう。

流石にもう魔物とかの襲撃はないだろう。

改めて胸を撫で下ろし、深くため息を吐く。

あれ胸が痛い。

忘れてたけど腹から地面にダイブして痛めたんだった。

胸に手を当て、慎重に呼吸する。

息を吸い過ぎなければ大丈夫そうだ。

「どうした?」

「いやあ、黒狼に向かった時に腹から地面に落ちちゃって胸骨の辺りが痛むんですよね。あ、でも大丈夫ですよ。大した事ないんで」

心配してくれた王子とそんな話をしていると聞いていたロレンツォが寄ってきた。

「肋骨は意外と簡単に折れるんです。ちょっと見せてください」

ロレンツォのゴツい指先で触診される。

「この辺りは?」

「大丈夫です」

「この辺りは」

「全然です」

「じゃあこの辺りですかな」

「あだだっ! そこです!」

「じゃあ大丈夫でしょう」

ロレンツォは頷いて続けた。

「こう胸を張って肩を回すと背中が痛みませんか?」

「ああ、確かに痛いです。軽くですけど」

「よくあるやつです。揉み合いになって激しく胸部にのし掛かられたりするとそうなります」

「はー、、、どこがどうなるんです?」

ロレンツォは自分の肋骨に両手を添えて大きく呼吸してみせた。

「不思議じゃありませんか? 骨で囲まれているのに膨らんだり萎んだりするのです」

「本当ですね。そういえば不思議だ」

「あまり知られてませんが、肋骨には関節があるんです」

「え」

「胸骨との継ぎ目と背骨との継ぎ目、下の方には肋骨の途中にもあります」

「へー」

「少なくとも鹿にはありました。人間はバラして確かめた訳ではないのですが、骨を見ると大体どの動物も同じような構成ですから人にもあるのだと思います」

「おおっ」

身近なところに生物学者が居た。

「それは素晴らしい! では魔物なんかも同じような構成なのですか?」

「そうなのだと思いますよ。ポリオリで出くわすのはコウモリ程度ですから確かな事は言えませんが」

コウモリかあ。

アレはキモいってだけで普通の野生動物な気もするんだよな。

この世界は色んな事が雑なのだ。

ヒゲクジラの事もバハムートって言ってたし。

「話を脱線させてしまいましたが、僕の胸が痛むのは、、、?」

「瞬間的に関節に負担が掛かった事が原因で痛みがでいるのです。足首を挫いた時と同じです」

「なるほど。じゃあ治るのは時間の問題ですね」

感心しているとキャラバンの面々が火を焚いて猿の腰掛けに火を点けていた。

なるほどこの辺りは岩山に囲まれ風が通らない。

風が止まると蚊やアブが寄ってくる。

そういえばキャラバンの方々は火はどうやって起こしているのだろうか。

キャンドルの魔術程度なら使えるって事だろうか。

不思議に思って訊いてみるとそれもロレンツォが教えてくれた。

「火種壺ですよ。灰の中に火のついた炭を埋めておくんです」

「消し炭ですか?」

「いえ、専用に作られた高価な炭で、とても長持ちするのです」

ああ、備長炭とかそういうヤツか。

高価だったのか。

セイレーン号の厨房で使ってたけど、まあ確かに普通に考えれば薪と比べたら手間が掛かってるぶん高価だよな。

「そうした炭というのは煙が出ず、燃える温度が高いので大変重宝するものなのです」

「なるほど」

今更知ってるとも言えずに相槌をうつ。

「因みますと、ポリオリで作られる炭というのも質が高く全国で有名なのです」

「あ、ドワーフが鍛治で使うから!」

「そうです。よくご存知で。北の方になりますと自生する木が炭に向かないのだそうです」

そうか、寒い地方は針葉樹が多いイメージあるもんな。

違うか、標高が高いと針葉樹なんだっけ?

ああ、切実にウィキが欲しい、、、!

前にカイエンからポリオリに向かっている時に遠くの山脈を見つけたけど、あの時に見えた青黒い森は針葉樹な気がするんだよな。

ううむ、やはりよく分からん。

岸壁に背中を預けて腰掛けていた王子が口を開く。

「ちょっと良いか? 話を戻させてしまうがコウモリと我々が同じような構造なのか?」

「ええまあ、骨の構成だけ見ればの話ですが」

「羽があるではないか」

「ええ、膜が張ってますが骨を見ると肩、肘、手首があって指があります」

「指?」

「ええ、ちょうど羽ばたく羽の部分です」

ロレンツォは地面にコウモリの絵を描いた。

上手い。

「ここに親指が飛び出して、他の指がこう長く伸びてまして、、、」

「そこに膜が張っているのか」

「脚に繋がって尻尾の先まで繋がっておりました」

「うわ、、、」

「めっちゃキモいですね」

「それでは鹿はどうなのだ、脚の形状など全然違うではないか?」

ロレンツォは馬の脚で説明をする。

「ここ、足先は確かに違うのですがそれ以外は似通っています。ここが太ももで、ここは二本の骨で構成されてこの部分が我々でいう踵に当たります」

「あ、そこが踵なのか、ずっと爪先立ちということか?」

「そうです」

「ふーむ、、、」

ロレンツォはウサギの解体が異様に早いと思ったらこうした研究をしていたのか。

俺は現代人の知識としてなんとなく分かっていたが、自分で解体してその境地に至るのは中々の素質をお持ちだな。

そっちの研究を頑張って欲しい。

そうなると黒狼の死体を森に投げ込んできたのは少々悔やまれるな。

ロレンツォが解剖すれば魔獣とはなんぞや、みたいな事が判明したかも知れない。

俺たちが馬を囲んでそんな話をしているとキャラバン連中が火を消して出発準備を始めた。

門の中で動きがあったのだろう。

さあ、ディーヌベルクに入国だ。