軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

227

残る光源(馬糞)は道を戻った位置にある。

離れていても魔術は使えるとは思うが確証がないので少しでも近づきたい。

「このまま来た方へ少しずつ戻ってもらえますか? 次の光源にあそこの馬糞を使いたいです」

こうした指示を出す時に漫然と「前」とか「後ろ」と言ってはいけない。

誰にとっての前なのか分からないからだ。

ボイチャを繋いでFPSゲームをやっていると、この事でよく揉める。

ゲーム内だったらピン刺しで何とかなるが、現実世界にはピンが無いので不便なのだ。

ジリジリとお互いの背中を守りながら移動する。

俺の脱ぎ捨てたローブはまもなく燃え尽きそうだ。

そう伝えるとロレンツォから指示が入る。

「無理に急ぐと危険です。一旦燃え尽きさせましょう。奴らは影を伝って来るようですから各自注意してください」

なるほど点光源だと敵の来る方向が限定されるから戦いやすくもあるのか。

俺もダガーを抜く。

ダガーはリーチが短いので引き付けて刺すしかないので恐ろしい。

距離を見誤れば黒狼の牙が先に届いてしまう。

風が吹いて火が大きくなり俺のローブが燃え尽きた。

かと思うと消えたと思っていた飼い葉の火が息を吹き返した。

ふたつの事が同時に起こり影がチラつく。

ハッとした。

俺の影の中に黒狼が潜んでいたのだ。

しかし黒狼は俺ではなくロレンツォを見ていた。

大きく明らかに強そうなロレンツォから倒して残された弱い俺たちを嬲るつもりだったか。

当然ロレンツォは自分の影の先しか見ていない。

クソッ、確かにロレンツォなら見落としはしなかっただろう。

光源が揺らいだ以上、黒狼はタイミングを図らずにもう飛び出すだろう。

ロレンツォに口頭で教えている暇はない。

この場を動いてお互いの背中を守る陣形を崩すのも悪手だがロレンツォを失うことはもっと悪手だ。

俺は飛び出した。

足音を聞かれると気付かれてしまうと思い、その場から身体を倒して黒狼に向かって文字通り飛ぶ。

こうなったらもう体勢は立て直せないが知った事か。

届け!

黒狼が俺の動きに気づき、一瞬身体を硬直させる。

俺の攻撃を避けるかこのままロレンツォに飛び掛かるか。

その一瞬の判断の迷いが俺の味方をした。

ダガーの切先が黒狼の腹に吸い込まれる。

吸い込まれた刃はそのまま腹を大きく切り裂いた。

避けようとその身を捩ったせいで黒狼自ら傷を広げてしまった形になった。

血が噴き出すのを待たずに黒狼の内臓が噴き出す。

以前、聞いた事がある。

腹にはかなりの高さの腹圧が掛かっていて、生きたまま腹を切り裂かれるとその圧力で内臓が噴き出るのだ。

俺はそのまま腹から地面に落ちる。

両腕を頭上に伸ばしているせいか胸骨に強烈な衝撃が掛かる。

少しでも身体を捻れば良かったと思っても後の祭り。

身体全体を地面に打ち付け、顎も砂利の散らばる地面に擦り付けた形になって酷く痛い。

きっと擦り剥けている筈だ。

しかしそんな事を構っている暇はない。

地面に這いつくばったまま首を捻って王子達を見る。

時を同じくしてもう一匹の黒狼が王子を狙っていたらしく、既にその黒狼は王子によって仕留められていた。

王子のロングソードは黒狼の口を貫き首の後ろから突き抜けていた。

やった、、、!

そう思った瞬間、俺は足をロレンツォに掴まれ、陣形内に引き摺り込まれた。

痛い痛い!

地面に転がったまま王子を見上げれば黒狼の喉から剣を引き抜きそのまま腰を落として辺りを警戒した。

そうか、まだ二匹だけとは決まっていないのだ。

俺も慌てて立ち上がろうと身を起こすが胸骨が折れたのか強烈に痛い。

地面に手をつき片膝をついて何とか立ち上がる。

ロレンツォがこちらに目を向けずに言う。

「オミ殿、大丈夫ですか?」

「、、、大丈夫です」

「ありがとうございました。そちらは見れておりませんでした。申し訳ありません」

「大丈夫です。他に黒狼が?」

「どうでしょう。申し訳ないのですが明かりをお願いしてもいいでしょうか?」

あ、マズイ。

火を付けた馬糞はまだ燃えているが消えるのは時間の問題だ。

暗闇に包まれてしまったら圧倒的に不利になってしまう。

俺は別の馬糞を乾かし火を点けた。

ジャンプしたお陰かしっかり魔力が届く位置までその馬糞に近づいていた。

「可能だったら魔術の光もお願いします」

だよね、これじゃあ暗いよね。

俺は慌ててルチエ・ソラレの魔術を焚いて指先を高く掲げた。

辺りを見渡すと逃げた馬達が近くで待っていてくれた。

彼らが居るという事はもう大丈夫なのだろう。

ほっとして大きなため息を吐くと胸骨が痛んだ。

まあこの程度で済んだなら良かったよな。