軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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キャラバンの後に続き、薄曇りの夕暮れを進む。

右手を見れば雲の隙間からもう星の瞬きを確認できる。

いつもならロレンツォが先頭で率いてくれるが今日はアウグストと並んで後ろを警戒してくれている。

翼竜もそうであったように黒狼もやはり最後尾から狙う性質があるらしい。

黒狼の襲撃があったら魔力を抑えつつ一匹ずつ倒さねばならないらしい。

野生のオオカミならば大規模魔術を見せれば諦めてくれる可能性があるけれど黒狼は魔術で脅しても諦めることはないのだとか。

もっともそれらの話も別に専門家の研究データという訳ではなく昔からの伝聞というヤツで、本当にそうなのか疑問ではある。

落ち葉はらいの時のようなフレイムピラーを見て怖気つかないなんて事があるのだろうか?

大規模魔術が抑止にならないからこそ魔獣と呼ばれているのだとロレンツォは言っていたが、雑で残念な分類だ。

やはりこの世界には生物学者が必要だと思う。

シートン先生の誕生が求められる。

でもよくよく考えると、ファーブルにしろシートンにしろダーウィンにしろ近代の人か。

どの学者も写真が教科書に載ってた気がする。

となれば、この世界は大航海時代が始まったばかりなのだからまだまだ先の話か。

まったく他の転生者は何をやっているのか。

早くあれこれ科学技術を与えて文明を発展させてくれないと、、、

いや待て。

それをやると大規模な戦争や環境破壊が起きるのか。

まさかそれを見越して知識を秘匿している?

いやいや、そんな訳あるもんか。

巨大な富と権力を手に入れる欲望に人間が勝てるわけが無い。

なにしろこの世界は魔法があって、船に大砲が積んであるのに銃が広まってないという歪でヘンテコな世界なの、、、だ?

いや待て、それはやっぱりおかしいよな。

何で銃がない?

以前、長官に銃について聞いたら大砲の小型化はまだ技術的に難しいらしいという説明で納得したが、そもそも火薬は誰が作っているんだ?

普通だったら小型の銃で実証実験をしてから大型化を目指すというのが健全な道筋の気がする。

質の高くない黒色火薬なら尚のことだ。

大砲よりも爆弾を作るのではないか。

初期の爆弾はその爆発力よりも音と煙で人や馬を怯えさせるのに効果的だったという。

初めて戦争で使ったのはフビライ・ハーン率いるモンゴル軍だった筈だ。

元寇の戦いのゲームをやったから俺は詳しいんだ。

ところで。

王都には異世界人が集められ、大量殺戮兵器や内燃機関の研究をさせているという話だった。

知識が先に行き過ぎていても再現が不可能な事が多いという話だったけど、それでも火薬があればその活用に全力投球するのが当然ではないだろうか。

別に専門家じゃなくても薬莢というものがあるくらいは知ってる転生者は多い筈だ。

精密な銃身や弾丸を作る技術がまだでも、散弾銃に詰めるような丸い小粒の弾ならこの世界の技術力でも簡単に作れるのに。

溶かした金属を少しずつ水に落とせば大体均一なサイズの鉄球が作れると、確か俺は小学校の時に理科の先生に教わったような気がする。

そんな事を知っているあの先生が異常だったのか?

いやいや、落ち着け。

今は火薬の事だ。

「王子、前にセイレーン号の見学をしたと言ってましたね?」

「ああ、あんな大きな船は初めて見たから驚いたな」

「その時、大砲は見ましたか?」

「いや、見てないな。それは何だ?」

「櫂を漕ぐ部屋に車輪のついた黒い大きな筒がありませんでした?」

「船の内部といえば姉の部屋や食堂は見せてもらったが、その他は特に見ておらん。いくら身内とはいえ部外者に軍の最新の機密は見せられまい」

そりゃそうか。

ふむ、なるほど。

火薬や大砲の存在は王都が独占し、まだ一般公開してないのだな。

軍の本部が俺を船から降ろさせたのもその辺りが理由か。

十歳のガキなら技術の流出はあるまいと判断されたから命がまだあるって事かもな。

俺がいい歳だったら海に沈められてたかも知れない。

おめおめパラディーノ医師と王都に向かってたら良くて監禁、なんなら抹殺されてたろう。

断って良かったー。

え、俺このまま王都へ向かってアカデミー入りして大丈夫だろうか?

長官がうっかり「このオミクロンというのは私の船で使ってたヤツだから良きに計らってくれ」などと手回ししていたらマズイ事になる。

うーん、、、いや長官は俺をジロ河下流の町で捨てた事にすると言っていたから、ポリオリで匿っていたことは内緒にする筈だ。

大丈夫だ。

「おい、オミ。その大砲というのは、、、」

あ、ヤバい。

こっちから聞いといて何だけど聞かないで欲しいな。

なんと言って誤魔化そうか。

いや、王子になら教えても大丈夫か、、、?

プシ!

いいタイミングでロレンツォが注意を向ける合図の音を口で鳴らした。

俺たちは振り向く。

アウグストが身を寄せて囁いてきた。

「お二人、ご注意を。影の中を何かが付いて来ています」

「大声を出して知らせなくて良いのか?」

「後ろにしか居ないのならチャンスなのです。少々前を見てきます」

「うむ、頼んだ」

アウグストは急いだ様子を見せずに前方へ向かった。

本格的な夕暮れになるまでもう僅かしかない。

それとなく周囲を見渡し、特に影の中に注意を払うが何も見えない。

何かが森の中を蠢く音も聞こえない。

ロレンツォやアウグストはよく気付いたな。

やはり殺気というヤツだろうか。

俺も殺気というのを感じてみたい。

ふと思いついて魔力を影の中に伸ばしてみる。

こないだ茶ブチや王子にイタズラしたのと同じ要領で細く魔力を伸ばして影の中に置いておく。

何かが付いて来ているのなら何処かのタイミングで触れるのではないか。

茶ブチも王子もこちらが魔力で触れると気付いたように、こちらも注意していれば魔力に触れられれば分かるのではないか。

それがもし可能なら『円』の使い手になれるのでないか。

『円』が何かって?

漫画で出て来た念能力だよ。

有名だからみんな知ってるでしょ?

前を行く馬車の後ろを見るともなく見つめたまま、伸ばした魔力に気持ちを集中させる。

目は開いているが何も見ておらず、耳にも何も聞こえない程に魔力に集中する。

それでもやはり何も感じない。

そもそも感じる事が出来るのかどうか試していないのだ。

漫然と日々を過ごしてしまっていたが、こうした研究や鍛錬はちゃんとやっておかないとこういう時に困るのだ。

やっぱり無理だったかと諦めて魔力を引っ込めようとしたその時、植物の根のように伸ばした俺の魔力の先に何かが一瞬触れたのを感じた。

何かが俺の魔力を踏んで、慌てて足を引っ込めた感じがしたのだ。

反射的にそちらを振り向く。

かなり遠い。

あんなに離れた場所だったか。

その場所で微かな二つの光が明滅したのを俺ははっきりと見た。

あれは何かが瞬きをしたのに違いない。

影の中からこちらを窺っている。

その事実に薄気味悪さを感じて背中にゾワっとした電流が走る。

これが殺気か。

自分が怖気づいたという事に焦りを感じて慌てて咳払いをして身震いをする。

「どうした?」

王子が俺の様子を見て首を傾げた。

「確かに何かがこちらを窺ってます」

「そうか」

王子は背筋を伸ばして大きく深呼吸をした。

俺も倣って深呼吸をする。

ほんの少し落ち着きを取り戻した。

空が完全に暗くなるまであとほんの僅かだ。

嫌だな。

アレと闘うのか。