軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

206

麦畑の大海原はもう飽きた。

時々、作業小屋。

時々、サイロ。

時々、牛。

昼を食って午後になっても全く同じ風景なのだ。

しかも馬の上というのはやる事がない。

船の上はなんだかんだとやる事があったのだ。

暇な時もあったが昼寝ができた。

馬の上でも慣れれば寝れるようになるかしら?

やはり欲しいのは携帯である。

動画を見てもよし。

ポッドキャストを聞いてもよし。

音楽があるだけでも違うんだけどなあ。

ドライブ中の楽しみと言えば爆音で音楽を聴く事だった。

そして今思えば車は速い。

時速百キロで巡航できるのってヤバいよな。

誰か早く蒸気機関で良いから発明してくれねえかな、、、。

「見えてきましたね」

先頭のロレンツォが振り返ってそう言った。

言われて先を見ると地平線に張り付くように濃い緑がある。

森だろうか。

「あの森に入った所に溜池がある。できればあそこまで行ってしまいたいな」

「ですね。では一旦馬を休ませて速歩で行ってしまいましょうか」

「うむ、馬も常歩ばかりでは飽きるだろう」

俺たちは馬から降りてそれぞれに馬のおやつを与える。

今日のおやつは人参と蕪である。

俺の愛馬(?)である茶ブチはあれこれ俺をおちょくろうと不意に前脚を持ち上げてみたり後ろ脚を蹴ってみたりと面倒臭いヤツなのだがおやつの時ばかりは従順だ。

大人しく俺の手から人参と蕪を食うと満足げにブフンと笑って糞を落とした。

ブフンと馬糞を掛けたのか?

馬ジョークだろうか。

「誰か来ますね」

ロレンツォが緊張した声を出した。

仕事熱心なのは感心するが警戒し過ぎだろう。

こんな畑の真ん中で盗賊や追い剥ぎがいるはずもない。

見ると確かに馬に乗った二人組が森の方からこちらに向かって来ていた。

なるほど確かに怪しい。

農民だったら馬には乗らない筈だ。

馬は高価だしすぐ病気するから畑仕事には向かないのだ。

冬城かポリオリに向かう商人なら馬車だろう。

「騎乗して下さい。話を聞いてみましょう」

ロレンツォに言われた通り俺たちは速やかに馬に跨った。

そして予定通り速歩で先へと進む。

常歩でこちらに近づいてくる二人組が手を振って来た。

ロレンツォも手を振りかえす。

そして近づいて来た二人の片方が声を掛けてきた。

「俺たちはバルベリーニ伯に雇われた冒険者だ。魔物が出ないかパトロールしてたんだ。この先の森は今見て来たから今は安全だと思うぞ」

「それは助かる。俺たちは夏城へ戻る所だ。冬城に帰るのか? あっちは今ゴングが来ていて臭くて敵わん」

「そうなのか? 聞きたくなかったな。帰りたくなくなる」

「それじゃ」

「ああ、良い旅を」

「そっちもな」

二人組はそのまますれ違い、常歩で離れていった。

小汚い格好をしてたが、冒険者ならそんなもんか。

友好的だったし怪しいところはなかった。

早朝に冬城の街を出て森をパトロールしたのなら時間的にもおかしくはない。

そう思ったのだがロレンツォは違う意見らしい。

「盗賊ですね。おそらく馬泥棒かと」

「そのようだな。この先の森で待ち構えているのだろう」

「え?」

「今の二人は逃げ道を塞ぐ役割だな」

「どうします?」

「殺ってしまおう」

「ええ?」

「我々の馬ならおそらく突破できるだろうが、野放しにしても何の得にもならん」

ロレンツォは暫し考え込んだ。

「分かりました。連中は池の辺りでキャンプを張って待ち構えて、我々を安心させてから襲う腹づもりでしょうから突っ込んで先制しましょう」

「よし、では急ぐぞ。明るい方が良い」

ロレンツォが馬を駈歩にしたので俺たちもそれに続く。

「王子、僕はどうすればいいですか!」

「向かって来た相手を斬れ!」

なるほどシンプルだ。

しかし本当に馬泥棒なのだろうか?

無実の人を斬るのは避けたい。

森に入ると急激に暗くなった。

かつて歩いて来た山の森と違い、緑が濃くて木の背が高いのが見て取れる。

森に入って直ぐの所に溜池があり、幾つかの天幕が張ってあるのが見える。

俺たちはその場で馬から降りて手綱を枝に掛けて歩いて溜池に近づいた。

天幕の前で火を焚いていた男が声をかけてきた。

「あんた達も野営だろ? もっと近くに馬を寄せて良いぜ。水をやるんだろ?」

その言葉には耳を貸さず、ロレンツォが大声を張りあげた。

「貴様ら盗賊だな! ポリオリの騎兵である我々が成敗してくれる!」

ロレンツォはシャキリと腰の剣を抜いて構えた。

俺たちも続く。

行動が早い。

もう少し相手の出方を見るのかと思った。

と、その刹那、天幕からナイフを持った男達が飛び出して来た。

やっぱり盗賊だったのか。

木の影からも棍棒を持った男達が飛び出して襲いかかってきた。

これはもう斬っても正当防衛だろ。

俺は覚悟を決めた。

正面から来る相手はロレンツォとアウグストが相手してくれるだろう。

俺は横合いの藪から飛び出して来た男の棍棒を掻い潜ってそいつのふくらはぎを後ろから斬った。

王子がナイフを持った男の腹部を貫いていたのでそいつの脛から下を切り落とす。

ロレンツォ達に複数の盗賊が向かっていたのでそちらに駆け寄り、ナイフを持って振りかぶった腕を斬り落とし、すぐ横にいたロレンツォと鍔迫り合いしている男のアキレス腱を斬る。

振り返るとさっきふくらはぎを斬った男がびっこを引きながら王子に向かっていたので後ろから背を突いた。

アウグストが短刀を腰溜めにして突っ込んでくる男の頭を豪快にかち割り、それで溜池の周りに居た盗賊は全て倒されたようだった。

「後ろだ!」

王子の声で振り向くとさっきすれ違った二人組の男達が長剣を振り翳して騎乗で駆けて来ていた。

俺たちが駈歩で森に向かったのを見て慌てて追いかけて来たのだろう。

相手が馬では分が悪い。

俺たちは藪に飛び込んで襲撃をやり過ごした。

二人組はそのまま逃げれば良いものを、ターンするとまたこちらに向かって来た。

こうした場合は馬を狙うのが定石だが罪のない馬を斬るのは躊躇われる。

いやしかし、馬上からロングソードで狙われるとこんなにやりづらいのか。

騎兵が主戦力になるのが分かるな。

もう一度攻撃をやり過ごすと、またターンをして向かって来た。

これはもう馬の体力が落ちるまで待つしかないか。

幸い森なので躱せる場所には困らない。

馬鹿そうな二人組がそれに気付いて逃げてくれると助かるんだけど。

と、向かってきた馬を、茶ブチが後ろ脚で蹴り飛ばした。

バランスを崩した馬は隣を駆けていた馬にぶつかり倒れ込みながら藪に突っ込んだ。

蹴られた馬も前脚の膝を突くように倒れてしまった。

馬から落ちて地面を転がる男の剣を踏み付け顔を蹴り上げる。

鼻から血を噴き上げて仰向けに倒れた男の喉を王子が突いた。

藪に突っ込んだ方の男もロレンツォ達が仕留めたようだった。

興奮したまま立ち上がって暴れようとする馬に襲いかかるように茶ブチが後ろ脚で立ち上がり嘶いた。

それを見て二匹の馬は意気消沈したのか大人しくなった。

茶ブチやるじゃん。

マジ助かったわ。

盗賊の残りがまだ居ないか周りを見渡す。

俺が腕を落とした男にまだ息があった。

ロレンツォが近寄る。

「お前ももう助からん。お前らは何者だ?」

「うう、、、俺たちは冒険者だ、、、しかしバルベリーニではそれだけじゃ食ってはいけない、、、」

「それで馬泥棒か」

「お前ら金持ちは馬を失ったって何も困らねえじゃねえか!」

男は突然叫んだ。

ロレンツォは男から離れる。

「クソッ、、、金持ちは身ぐるみ剥いだって街まで辿り着けば助けてもらえるじゃないか、、、」

男はそのまま息を引き取った。

この連中は命までは取らない盗賊だったらしい。

後味が悪い。

「生きて引き渡しても、どのみち縛首だ」

王子がそう呟いた。

ロレンツォが頷いた。

「さあ、片付けをしましょう。池が汚染されてしまう」

俺たちは死体を引きずって池から離してまとめて積んだ。

武器もまとめて置いておく。

天幕の中には結構な量の食料が残されていたが、これも死体と一緒にしておく。

こんなもの口にしたくはない。

「埋めたりしなくていいんですか?」

「こんな奴らのためにそんな重労働は割りに合いません。それにこの森は狼が居る筈ですから処理してくれるでしょう」

「馬泥棒を成敗した件は夏城近くの冒険者ギルドに申し出れば良かろう」

「さ、血の匂いで狼が集まる前に離れましょう」

俺たちは馬に跨り森を奥へ進んだ。

ロレンツォとアウグストの馬に鹵獲した馬を繋いで行く。

馬が二頭増えてなんだか賑やかだ。

駈歩で小一時間ほど進んだ辺りで空の見えるポイントがあったのでそこを野営地とする。

少しでも明かりがある方が良い。

干し肉とナッツと堅パンの食事を摂り、食料の入った袋は二〜三分離れた木の上にぶら下げて置いておく。

馬の近くで毛布に包まって寝ることにした。

狼が居ると聞くと恐ろしいが、狼が近づけば馬が先に気付いて騒ぎ出すから分かるのだそうだ。

俺にも役割が与えられた。

狼の襲撃に遭ったらこの場所の中央に積み上げた薪木の場所に普通サイズのフレイムピラーを打って火を熾すこと。

そのあとは各自が臨機応変に狼に対処することとなった。