軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

205

翌朝、宿の食堂のメニューはジャガイモのポタージュとサラダと白パンだった。

給仕によると、サラダの野菜は今朝収穫してきたものだとの事で確かに美味かった。

シャッキリした歯応えが新鮮そのもの。

「生野菜とは珍しいな」

王子が声を掛けると給仕が困ったように笑った。

「王子様御一行に是非にとあれこれ持ち込まれまして、、、お口に合いませんか?」

「そんなことはない。美味い」

この世界ではあまり生野菜を食べる習慣がない。

流通が徒歩か馬車だし冷蔵庫も領主クラスの金持ちしか所有していないので鮮度の問題で無理なのだ。

農家も基本的には麦のような穀物や日持ちのするものをメインで育てるので、畑を所有している金持ちか、日持ちのしない葉物野菜を育てられるゆとりのある農家しか口にできないレア食材扱いなのだ。

ロレンツォが眉を顰める。

「安全性は大丈夫なのでしょうか?」

マジでこの人は心配ばかりだな。

仕事熱心とも言える。

「むしろ素材そのままなのだから毒は入れられまい」

「確かに。それもそうですね。失礼しました」

ロレンツォ氏はともかく、アウグスト氏は食事中はやけに口数が少ない。

王子や俺と目も合わさないようにしている。

やけに恐縮しているように見える。

直接聞いてみよう。

「あの、アウグストさんは誰かと一緒に食事をするのが苦手だったりします?」

「いえ、そんなことは、、、!」

王子が困ったように微笑んだ。

え、何?

「オミは相変わらずだな。我が解説しよう。普通は王族と兵は別に食事を摂るものだ。行軍中であっても別天幕で執事かメイドに給仕させて王族だけで摂る」

「ああ、そういえば」

「それが急に同じ卓を囲むのだ。慣れんことこの上ないだろう。おいアウグスト、オミのように一切を気にせず傍若無人に振る舞って良いのだぞ?」

「いえいえ、そんな!」

そうか、俺は傍若無人だったか。

「なんか済みません」

「よい。確かにオミのような庶民出身ではオミを超える無礼者はそうはおらんだろうがな」

確かに、城では基本別だったわな。

「長官ともいつも食事をご一緒させてもらってたんで、こういうものかと」

「よいのだ。我が姉を真似ておるのだ。あの人は船員や、それこそその辺の職人なんかとざっくばらんに同席するだろう?」

「ええ」

「マシュトマを訪ねて初めて見た時は驚いたものだ。姉に初めてお会いした時は船の修理工と呑み交わしていてな」

目に浮かぶな。

こないだもじゃんじゃん兵に絡みに行ってもんな。

ドワーフとも仲良しだったし。

ああそうか、長官は帝王学や淑女の振る舞いなんかを教えられる前からドワーフと一緒に坑道で寝泊まりしてたんだもんな。

長官の常識は王族のそれじゃなくてドワーフのそれなのか。

「王子にはそれが合ってますよ。だからこそドワーフ達とも仲良くなれた訳だし」

「何と、クラウディオ様はドワーフともご懇意に?」

「オミの発明したあれこれの関係でな」

「おお、例の新製品ですな」

「それどころじゃないんですよ。王子ったらドワーフ女子にモテモテで、、、」

「おい、やめないか。勘違いするだろ!」

「いいじゃないですか、ご公務みたいなもんだし、、、」

顛末を話すとふたりとも顔を赤くしたり青くなったり忙しそうだった。

「なるほど、、、ゴホン、ドワーフ絶滅の危機ともあれば仕方がない事ですな、、、」

「ええ、領主様や兄君様たちに務まらないのであれば仕方のない事です、、、」

ロレンツォもアウグストも歯切れが悪い。

俺がズバッと言ってやろう。

「異人種と交わるなんて、イリスの風上にも置けな、、、」

「オミ殿、おやめください!」

流石にヤバいかしら。

昨日の事もあるから壁に耳あり障子にメアリーか。

ロレンツォが続けた。

「他のお客様がいらっしゃらないからと過度に親しくしてはなりません」

「確かにその通りですね。王子、失礼しました」

王子は蔑むような目付きで俺を睨むとこう言った。

「オミよ、今の話をアカデミーでひと言でも漏らしてみろ? お前がパンツ一丁でポリオリの裏門に乗り込んできて衛兵に捕えられた話を何倍にも盛って吹聴してやるからな」

「ブッ!」

アウグストが噴いた。

初耳だったらしい。

下ネタに弱いのはポリオリ人らしいな。

しかし別に内緒にしてる訳ではないが、そうバラされるとなんか恥ずかしい。

「ええっと、、、ぼちぼち出発の時間ですかね、、、?」

「ブッ!」

今度はロレンツォが噴いた。

我慢してたらしい。

「今日は移動ノルマがないからと無駄話が過ぎたな。確かにもう出たほうが良いだろう」

王子がそう言って俺たちは立ち上がった。

部屋に戻って荷物を持って出発準備だ。

階段を降りてくるとオーナーとロレンツォが押し問答をしていた。

オーナーが料金を受け取れないと主張しているようだ。

ロレンツォとしては他国で安易に施しを受けるなどポリオリの王族一行として受け入れられない、という主張のようだ。

王子が仲裁する。

「主人どの、お気持ち有り難いが我々王族は他国で金を落とす事も仕事の内なのだ。だから受け取って欲しい。そしていつか商売が復調したなら、その時はこないだのような痛ましい事件が起きないように仕事にあぶれた者に何でも良いから仕事を与えてくれ」

オーナー氏はその言葉に神妙に頷き、代金を受け取った。

「またのお越しをお待ちしております」

「うむ」

馬小屋で馬にハミを噛ませ手綱を取り付け鞍を乗せて出発準備をする。

気づくとやけに毛艶が良い。

今朝はブラシがけしてないのに。

蹄を見てもキレイに掃除してある。

昨日はほとんど石畳を移動してきたので蹄の掃除はしなかったのだ。

小僧さんがやってくれたのかしら。

昨日は墓地に付き合わせてしまったから帰りが遅くなったろうに。

見ると王子が小僧さんに小遣いを渡していた。

「世話になったな。名は?」

「マルコです!」

「よし、マルコ。他の客にもしっかり仕えて主人殿を支えてやってくれよ」

「はい、お任せを!」

小僧マルコはもう王子にぞっこんだな。

目をキラキラさせている。

まあ、昨日のアレを見れば特別な霊能力者か何かだと思うわな。

馬小屋を出るとやけにひとが多かった。

昨日の顛末を聞いてまた新たな野次馬が集まったのか。

昨夜の夫婦も来ていた。

しきりに頭を下げている。

王子が手を挙げて応えた。

「見送り痛み入る。帰りにまた寄らせてもらおう」

帰りって二年後か三年後かしら。

随分先の話だ。

俺も一応手を振って、街を抜けた。

昨日の池を越えれば、遥か彼方まで延々と続く麦畑だ。

みっしりと実を付けた麦が風に揺れる様はまるで海のようにも見える。

豊かさの象徴のような眺めだな。

そこここで麦の刈り入れをしている。

そうか、秋に種蒔きをする冬小麦は今が刈り入れ時だとこないだ聞いたばかりだったな。

ぽっくりぽっくりと麦畑を進めば鼻歌のひとつも歌いたくなる。

今日は晴天だ。