軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その日の投網漁はいちおう最後まで助手をやり遂げた。

干潮から満潮へと潮が動き始めた頃に網を投げ始めて、満潮を迎えて潮が止まると漁も終わり。

それ以上続けても魚が入らないらしい。

しかし、後半はやっぱりバテバテでジルをかなり待たせてしまった。

早く投げたいだろうに、でもジルは文句を言わなかった。

つくづくできた男だな。

こんな人格者の元で育って、なんでジッタはあんな風になってしまったんだろう?

そんな思いが頭を過ったが、よく考えてみればバカバカしい。

俺の前世の親だってまともな人だったのに俺も中学時代はやたら反発したし暴言も吐いた。

サルみたいに発電もしてたし、エロいことを考えてない時間なんてなかった。

スマホどころかエロ本すらないこの世界で若い欲求に抗うことはさぞかし大変なのだろうと思うと、むしろジッタに申し訳ない気すらする。

かと言って、怖い力持ちの男子にイタズラされるいたいけな女子を放って置くわけにもいかん。

最初はジッタをとっちめてやろうと思ってたけど、例えばエロ本を一冊与えれば奴も紳士でいられるのかも知れない。

いや、逆にもの凄く興奮して本格的にイータを襲ってしまうかも知れない。

まあ要はアレか「僕は村長の息子だし子供たちのリーダーだしこれくらい許されるよね」というスタンスが宜しくないと、こういうことな訳だ。

ふむふむ。

考えがまとまってきたぞ。

では、正しく恋愛をしてお互いが求め合うならそれは構わないのだ。

てことは、やっぱしイータにも話を聞いてみないといけないよな。

でも泣いてたっていうんだから嫌なのだろうが。

いやあ、しかしこういうセンシティブな内容はどうにも聞きにくいなあ。

そんなことを思っていたらメシの時間である。

今朝仕込んだ卵を取りに行った。

捌いた魚を入れられないように袋と海水ごと別の桶に避けておいたのだ。

袋を開けて中を覗いてみると卵はぷりっぷりのパンパンに膨れて完全にイクラの姿になっていた。イクラの醤油漬け、ではなくてイクラの海水漬けだ。

俺はいそいそとイクラの入った袋を開け、早速ひとつぶ味見をしてみた。

しょっぱい。

そりゃそうか、俺は水魔術でイクラを洗って器に移しもうひとつぶ味見。

イケる。

俺はスプーンですくって口いっぱいにイクラを頬張った。

う、美味い!!

プチプチと粒が弾け、口中に旨味がトロけ出していくる。

こぼれるほどイクラを盛った軍艦巻きとか、溢れるほどぶっかけたイクラ丼とか、いつか北海道に旅行して食べてみたいと思っていたアレが今、口の中に!

うむ、唯一の難点は掘っても掘ってもご飯が出てこないところだ。

ふと気づくと村人全員の注目を浴びていた。

気味悪そうに、心配そうに、変人を見るように、色んな目が俺を捉えていた。

「美味いよ?」

近くにいたシオンの妹に差し出してみたけど彼女は恐ろしげに首を振って走り去ってしまった。

ありゃ、これは隠れてやるべきだったかなと思ったが後の祭り。

なんとか取り繕わないとな、と思ったらジルが近寄ってきた。

「どれ、ひと口もらおう」

そう言ってスプーンを受け取ると少なめに掬って口に入れた。

「なるほど、美味い。だが腹を壊すかも知れない。皆はやめておけ。俺とオミで食べて明日まで様子を見よう」

ジルがそう言うと皆安心したのかいつもの雰囲気が戻ってきた。

「ありがとう、ジル」

「うむ、さっきお前の親父から聞いていたからな。もっと慎重に食うかと思ってたらいきなりガッつくから驚いたぞ」

「すみません、、、」

「構わん、もう少しもらおう」

ジルは自分のスプーンで今度はごっそり掬うと口に運んだ。

「なるほど、本当に旨いな。鶏の卵とは全然違うんだな」

「鶏の卵を生で食べたんですか?」

「うむ、焼くのも殻を剥くのも面倒臭いからやってみたんだ。だがやめておいたほうがいいぞ、酷く腹を壊したからな。フハハハ」

「分かりました」

鶏の卵は排泄孔から出てくるから殻に付いた糞が危険なんであってキレイに洗えば大丈夫。

とは思いながらも流石に勇気が出なかった。

さすがはジルだ。

男らしい。

俺が世話をしてる我が家の鶏も卵は産むが食べるのはとうさんだけだ。囲炉裏の灰に埋めておいてカチカチのハードボイルドになったヤツを朝食に食べてから海に入るのだ。

前にひと口もらったけど塩気もないし硫黄臭いしイマイチだった。

ほら、コンビニの茹で卵はさ、中まで塩気が入ってて、しかも黄身の中心が半生だったりして臭くないじゃん?

アレをイメージして口に入れたもんだからちょっとね、、、

「おい、もういいのか?」

そう聞くとジルは残りのイクラを全部口に流し込んだ。

「さあ、シチューを食おうぜ」

「あ、はい」

俺たちはいつも通りの、貝と魚のアラと野菜のシチューをもらうべく鍋の前に並んだ。

これで俺たちが腹を壊さなければイクラの大量生産もあり得るかもしれない。

まあ冷蔵庫がないから大量生産の必要はないんだけど。