軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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イリスの教え。

イリス人気に火を点けたのは『神はエルフではなく我々人族を選んだ』というアジテーションであったのに対し、教えとなると前述の通り『イリスの水を飲む者は神の国に招かれる』というやつである。

しかし、より敬虔であるかどうかの指針としてよく語られるのはそこに含まれる禁忌についてである。

では禁忌とは?

これはふたつある。

『人から奪ってはならない』

『神の言葉を疑ってはならない』

これがイリスの禁忌である。

ざっくりしていて細かな規定がない。

ひとつ目は『命を奪う』『金品を奪う』『自由を奪う』辺りがこれに該当すると考えるのが一般的だ。

ふたつ目は言葉のその通り、聖典に書かれた言葉を疑わないという事だ。

さて、そのイリスの教えに基づいた刑の執行についてである。

軽犯罪を執り仕切るのはギルドである。

つまり町役場が警察と裁判所を兼ねているわけだ。

軽犯罪はギルドが罰金や労働奉仕などを取りまとめる。

そして凶悪犯罪は、例えば殺人や額の多い強盗事件などは領主の下に引き渡され、投獄、裁判、刑の執行を執り行う。

立法がイリス。

行政と司法はギルドと領主が手分けしてという微妙な三権分立である。

分立してねえか。

でも立法だけでも分離してて良かった。

教会に裁判権と執行権まであったらなんか酷いことになりそうだもんね。

無宗教が多い日本人ならこの感覚は分かってもらえるはずだ。

宗教ってなんか怖えよな。

「民がイリスの水を手に入れられないからと、教えを信じなくなっては大問題だ。これはどうすればいいのだ?」

「いい具合に解釈するなり何なりして、民が離れないようにするしか無いでしょう」

「例えば?」

「それは教会が考えることですが、、、例えば神父が祈ればそこら辺で汲んだ水でもイリスの水だってことにするのが手っ取り早いですよね」

キリスト教の聖体拝領なんかがこれに当たる。

薄いパンを『これはイエス・キリストの身体である』と言い張るのだものね。

「なるほど」

「しかし、、、」

「それではカイエンのイリス教会が収入を失うことになるな」

長官が指摘した。

「その通りです。カイエンの教会は財政的な力を失って、同時に宗教の中心としての求心力も失うでしょう。教会内での政治に負けます」

「教皇の任命権か」

「はい。多額の献金をより多く集められる教会が力を得るでしょうね」

「となると王都の教会が有利か」

「おそらく」

全ての権力がひとつの都に集中するのはオススメしない。

過度な権力は絶対に腐敗するし、権力争いの火種になること必至だ。

「それを狙っていると?」

「おそらく、そうじゃないですかね?」

俺と王子で長官を見た。

国と教会で対立している問題が何かあるのならほぼ確実なのだがそういう情報は俺は持ってない。

「おい、こっちを見るな。私に断言させるな。そんな大きな話」

「姉君でも無理ですか」

「しかし、北部でそうした動きが起きているのは軍にも報告が来ている」

「では、、、?」

「少なくとも公式には王都の政治は中立だ。という事しか分からん。政治と宗教は分離しているという建前があるのでな」

政教分離の考えがあるのに刑法の根拠が宗教ってのは何か微妙だけど大丈夫なのかしら?

この辺りは俺たち日本人には本当に理解できない理屈だよな。

大統領の宣誓の時に聖書に手を置いて神に誓うのとか、紙幣に『神を信じる』って書いてあるアメリカさんならスッと腑に落ちるのかもしんないけど。

それはそうと。

王都には北部の人も南部の人も居るのだろうし、色んな利権を持つ色んな思惑の人たちがそれぞれしのぎを削り合って水面下で熾烈なバトルを繰り広げているのだろう。

政治ってそういうものだよね。

嫌だ嫌だ。

どっちにしろ俺はそういうの苦手だ。

『カノッサの屈辱』みたいな事があるのかも知れないが俺には関係のない話なのだ。

あ、『カノッサの屈辱』てのは王様よりも教皇が偉くなっちゃって王様が教会から破門されちゃって雪の中、裸足で断食して赦しを請うたというローマの逸話ね。

「そんな大事な話ならすぐさま父上に進言すべきではないのか? 何故秘密にする必要があるのだ?」

「あ、僕が思い付いたんじゃなくて王子や長官が思いついた事にしてくれれば別にいいですよ。でも多分、領主さまか宰相さま辺りはこれくらい想定してると思うんですが、、、」

ガチで政治してるならこれくらい想定済みだろう。

そもそもイリスが割れているって話は宰相付きの文官であるウベルティさんから聞いた話だもんな。

軍事機密っぽい感じのニュアンスだったから俺が漏らした事にはしたくない。

またスパイ容疑を掛けられて投獄されるのがオチだ。

ガスプーチョ氏に拷問されちゃう。

それは絶対的に嫌。

王子は長官を見つめた。

「安心しろクラウディオ。この件の話し合いには同席させてもらって考慮が足りていないようなら助言させてもらう」

「それなら安心です。ありがとうございます、姉君」

話がひと段落したところで控えめにドアがノックされた。

「入れ」

扉を開けて入ってきたのはメイドだった。

俺を風呂に入れてくれた子。

ドアの前で話が終わるのを待ってたのかな。

内容までは聞かれてないと思うけど少しばかり構えてしまう。

「クラウディオさま、アレッシアさまがお呼びです。リサさまにも是非お目通りしたいとご所望です」

アレッシア?

誰だろう?

バルベリーニの人かしら?

「ああ、すぐ行く」

「そうお伝えしますか?」

「いや、その必要はない。今すぐ向かう。オミも来い」

俺は慌ててズボンを履いてジャケットを羽織っ

た。

ちょっと待て。

今気づいたがシャツとパンツのまま長官とお話ししてたのか。

「ふたりとも僕が下着のままって何で教えてくれなかったんですか!」

「なんだ、いつものことだろう?」

「最初お主に会った時は完全な素っ裸であったろう。何を今更」

ぐぬう、俺だってお年頃なのに、、、

靴下の紐を結び、靴を履く。

式典用の靴はブーツじゃなくて良かった。

あれは脱ぎ履きが面倒なのだ。

帽子を被って準備完了である。

「あ、そういえばズボンを濡らしたのは長官ですか?」

「うむ。お主が居ると話が拗れると思ったのでな」

「ありがとうございました」

ほれみろ、と王子を見たが王子は全然効いてないようだ。

俺がお漏らししようがしまいが関係なかったらしい。

王族はお漏らし耐性でもあるんだろうか?