作品タイトル不明
688話 耐えるアリッサさん
ジェミナが帰って行った後、俺は貰った種を前にオルトたちと相談していた。見た目はごく普通の花の種だが、何か珍しい植物の種であることは間違いない。
「どこに植えればいいかね? 普通に蒔いても大丈夫か?」
「ム!」
「トリリ!」
「ダメなのね」
オルトとオレアが、同時に首を横に振った。この2人が無理だと言うのなら、確実に無理だろう。
「――!」
「えーっと、水臨樹の近くじゃないとダメってことか?」
「――♪」
ということらしい。3人と一緒に水臨樹へと向かう。
近くというか、水臨樹と同じ畑に植えろってことね。俺は大勢の参拝者さんたちに見守られながら、奇妙な種を蒔いていった。
さすがにこれだけ見られてると、視線が気になるな。外から畑が見えないように設定し直すか?
でも、この混雑って、俺のせいだしなぁ。自分で「お祈りできるよ! みんなきてね!」ってやっといて、「見られんの嫌だわー。隠しとこ」って、人としてダメじゃない?
マナー違反というか、誠実さに欠けるっていうか、微妙な感じ? 言語化できないけど、やっちゃいけない気がするのだ。
まあ、どうせ数日で収まるだろうし、それまで我慢すればいいか。
朝の日課は終了したし、この後どうするかなんだが……。
「よし、とりあえずアリッサさんのとこ行こうかね」
オルトとサクラの進化情報や、ジェミナ関連の情報を早耳猫に売りに行くのだ。
俺はオルトたちを引き連れ、始まりの町にある早耳猫の支店へと向かう。
そこで、ミスに気づいた。
「ジェミナに貰った奇妙な種を、全部植えてしまったぞ!」
あまりにも地味な見た目だから、スクショも残していないのだ。ログはあるけど、できれば絵も欲しかったよなぁ。
「枯らしちゃったらスコップさんの花屋で買えるって話だったけど……」
枯らす前でも購入可能なのか?
俺は早耳猫に行く前に、花屋に寄ってみることにした。すると奇妙な種が買えるではないか。1粒1万と高額ではあるが、買えない金額ではない。
譲渡不可なので転売できないが、見せるだけだしそれで構わないだろう。
俺は種を5粒だけ購入しておいた。もっと買おうかと思ったけど、水臨樹の隣はもうほとんど空いてないからなぁ。
今回買った種はアリッサさんに見せた後は、あえて水臨樹から遠くに植えてどうなるか検証してみようと思う。
そんな風に寄り道をしながらも、もう少しで早耳猫に到着するというその時であった。
「うみゃぁぁぁぁぁぁ!」
アリッサさんのいつもの叫び声が聞こえた。え? なんで? ああ、俺の前のお客さんが、凄い情報を売ったのね。でも、あの声って外に聞こえる仕様なの? いや、まるで誰かを出迎える準備をしているかのように、ドアが開いているからか。
これ、入って平気なのだろうか?
俺は開いているドアからソーッと中を覗いてみた。するとそこには、アリッサさんしかいないではないか。
「あれー?」
「よく来たわね! 待ってたわ!」
店の中に入ると、アリッサさんが腕組み仁王立ちで待ち構えている。不敵な表情で、ゴゴゴゴゴゴゴゴという効果音が今にも聞こえてきそうな雰囲気だ。
いや、というか、後ろにマジでBGM流れてるな。オルゴール系のアイテムを利用しているのだろう。
ドラムとか太鼓の重低音が腹に響く、マーチ風の音楽だ。今の雰囲気にはメチャクチャ合ってるけど、店内BGMってもっと軽やかなもんなんじゃ?
完全に、悪の大ボス、もしくは敵の大軍団が登場する前の音楽なんだけど。
店内の照明も微妙に暗いし。明らかに雰囲気を演出してるよね? 早耳猫の新サービスか何かだろうか? 悪の秘密結社ごっこ?
事前に連絡をしたわけでもないのに、よく準備できたな。まるで、俺の動きを監視でもしてたみたいだ。いや、まさかね。
いつでもこんな風にお客さんを出迎えられるよう、準備をしてるってことだろう。さすが早耳猫。エンターティナーだねぇ。
「お客さん、いないんですか? 叫び声が聞こえてましたけど」
「いないわね!」
だったら、あれはなんだったんだろうか? まあ、俺には関係ないってことか。
「えーっと、売りたい情報があるんですが」
「ふふふふ! いいわよ! どーんと向かっていらっしゃい!」
「えーっと……?」
「さあ! さあ!」
これは、情報を話していいってことだよね? いつにも増してアリッサさんがロールプレイに入り込んでいて、テンションが高いのだ。
「大丈夫……大丈夫よ私」
うん? なんか呟いてる?
「だって、品評会関係の情報は、もう持ってるもの。生配信も見た。メイプルから報告も受けた。水臨樹も見に行った。驚くことなんてないわ。でも、ユート君のことだから、昨日からの間に……。いえ、それでも、戦闘前に1叫び消費したし、もう無様に叫ぶことなんてしないわ!」
「あのー、大丈夫ですか?」
「! ご、ごめんなさい。大丈夫! 準備オエーケーよ! さあ! どこからでもかかってきなさい!」
やっぱり、テンションの上がり下がりが凄いな。オーケーとか噛んどるし。
「じゃあ、まずはオルトの進化情報から――」
「えっ?」
「どうしました?」
「う、ううん? 品評会系の情報かと思ってたから」
「いや、メイプルさん参加してたじゃないですか? それに、マモリが生配信しちゃいましたから」
マモリがやらかしてしまったので、品評会関係の情報を売るのは気が引けるのだ。だいたい、配信されたことで売るような情報もないし。
今日売るのは、オルト、サクラ、ジェミナの情報だな。特にジェミナの情報は、高く買ってくれるんじゃないかと期待している。
そうして情報を語っていくと、次第にアリッサさんも落ち着いてきたらしい。
最初は不敵に笑いながら立って話を聞いていたんだが、すぐに真顔になって椅子に座ってしまった。
段々と顔がムッツリとし始め、こめかみを指でトントン叩き始め、途中で小さな呻き声を上げながら眉間を揉み始める。
「クワ上手……霊木の精霊……チェーンクエスト……くぅっ!」
「だ、大丈夫っすか?」
「ぅぅみ……ぬああぁぁぁっ! くぅ……。だい、じょうぶよ!」
何かを堪える様にうずくまるアリッサさん、全然大丈夫に見えないんだけど! うみゃーにかわるロールプレイなの?
「はぁ……はぁ……耐えた、わ!」
「そ、そうっすか……」
すんごい憔悴してるように見えるけど、ロールプレイの一環なんだよね? じゃなかったら、バイタルヤバそうなんですけど!