作品タイトル不明
687話 Side アリッサさんの場合
「うみゃぁぁぁぁぁぁ!」
「ど、どうしたんだよ?」
「これ! これ見てよ!」
「なんだ? 生配信か?」
私の上げた大声に反応して近寄ってきたルインに、モニターを見せる。
「ユートがいるなぁ」
「最初っから飛ばしまくりよ! これで、ユート君の番がきたらどうなるのか……!」
次第にルインの顔からは表情が消えていき、遂には菩薩のような悟った顔になってしまった。
でも、仕方がない。
これを見たら、悟るか叫ぶかのどちらかになるだろう。
二人でしばらく無言で配信を見ていると、ルインが何かに気が付いたようだ。驚きの顔で、モニターの中を指さした。
「これ、メイプルが映ってんじゃねぇか」
「ええ。品評会に行くって言ってたから。それでしょうね」
「た、助かったな……」
「まだ分からないわ」
ファーマーたちがやってる品評会には、メイプルも参加している。生配信されているとはいっても、映ってない部分、聞こえていない部分もある。
それがメイプルによって補完されれば、かなりの部分をカバーできる。いえ、ぶっちゃけカバーしてほしいプレイヤーは1人だけだ。
「頼むわよ、メイプル。あなたが持ち帰るユート君の情報次第で、うちの被害の桁が変わるんだからっ!」
「冗談じゃ済まねーからなぁ」
「お願い! メイプル! というか、私たちも行くわよ!」
「ええ? 儂もか?」
「つべこべ言わない!」
「うへぇぇ」
そうして、ルインと共に畑へと急ぐこと5分。
畑区画には、既に大量のプレイヤーが押し寄せていた。続々と集まってくるプレイヤーに、前も後ろも囲まれてしまっている。
ユート君の畑の前にいるのに、全く見えないんだけど!
周囲のプレイヤーと同じように、モニターで品評会を視聴する。ユート君が本格的にプレゼンをし始めてからは、悲鳴の嵐だ。
そして、決定的な大爆弾が落とされる。あ、あの木像はなに? なんなの! それに、植え替えに、検証ですってぇ?
もっと前にいれば、検証に参加できたかもしれないのにぃぃぃ!
「ち、近くで見るとヤベェェ!」
「さ、さすが白銀さん……!」
「感動だ」
周囲のプレイヤーたちも騒いでいる。うう、身動きができないんだけどぉ!
「うみゃぁぁぁぁぁ!」
私の叫びは、空しく虚空へと消えていった。
翌日。
あれから、なんとか人ごみを脱出した私たちは、一度ログアウトしてからギルドハウスへと再集結していた。
夜の内に集まってきていた情報を整理しつつ、考察を重ねていく。でも、考えているだけじゃ詳しい部分は不明のままだ。やはり、検証しなければ。
「できればお祈りした人たちのデータも欲しいし、もう一度お祈りもしたいわ。やっぱり今日も畑に行かなきゃ。あと――」
「お主、あれだけの目に遭って懲りんのう」
「なにが?」
「……いや、何でもないわい」
なんか、ルインにジトーっとした目で見られてる気がするけど、気のせいよね。皆がユート君を見る時の目に似てる気がしたけど。
「とりあえず、品評会の情報はほとんどメイプルの証言と生配信でカバーできるのがありがたいわね」
「まあ、ユートが情報を売りに来るとしても、そこまでヤバイ爆弾はなかろう」
「ええ」
そんな話をしていたんだけど、畑監視班や、各地の協力者から新しい白銀情報がもたらされ始める。
「見慣れないNPCが畑に? ど、どういうことよ!」
「水臨樹の周りに、何かの種を植えてる? 何かって、なに!」
「え? オルト君が進化してるっぽい?」
「今度はサクラちゃん? 大人っぽくなって可愛いって?」
く! ユート君は相変わらずユート君ね! 品評会が終わってから全然時間が経ってないのに、もうこれよ!
で、でも大丈夫!
オルト君たちの進化は、そろそろかもしれないって予測していたのよ! たとえ、見たことがない進化先だって、ちょっとくらいしか驚かないわ!
それに、未見の新NPCの情報だって、事前に来るって分かってれば耐えられる! はず!
「がんばれがんばれがーんばれー」
自分で自分を励ましていたら、新しい情報がもたらされた。ユート君がうちに向かうルートを取ったというのだ。
相変わらず、連絡とかないんだから! あの人、自分の情報は大したことがないってまだ勘違いしてるのよね。元々ゲームエンジョイ勢で、LJO以外で有名プレイヤーだった過去とかもないみたいだし、自覚がないのも仕方ないかもしれないけど。
このゲームのサービスが開始されて、リアルではまだ3週間くらいだ。自己認識が大きく変わるほどの時間も経っていないのである。
私たちがそこら辺をしっかりと教えるかどうかも悩んだけど、踏ん切りがつかないのよね。それでユート君が変わっちゃったら、多方面から叩かれるだろうし。
「サブマス、白銀さんがもう少しで着くぞ!」
「了解! 練習した、悪の秘密結社の首領モードで出迎えるわ! 少しでも自分にロール入れないと、心が折れちゃうもの!」
「……が、頑張れ」
「ええ!」
素の状態でユート君の話なんて聞いてられますか! 今日こそ、勝ってみせるわ!