作品タイトル不明
658話 水臨樹
畑に戻って、手に入れたばかりの『水臨大樹の輝き』を使う。いや、使おうとして、俺は固まってしまった。
完全に緑色の宝石なのに、どうやって肥料として使うんだ? 悩んでいると、すぐに使い方が分かった。
アイテムとして選択すると、使用するか否かの選択肢が現れたのだ。使用可能な対象は、樹木だけであるらしい。
「それじゃあ、使うぞ!」
「――!」
「え? ダメなの?」
「――」
「この辺の木を、どかす?」
「――!」
サクラが、本体の周囲に植えられた樹木を指さし、どうにかしろと訴えかけてくる。どうやら、植え替えをして、水臨樹の周囲を空けろと言いたいらしい。
いや、今朝、作物の植え替えしたばかりなんだけど……。サクラも一緒にやったよね?
まあ、水臨大樹の輝きを手に入れたのはその後だし、予測しろって言う方が無理なのは分かるんだけどさ。
「仕方ない。またギルドに行かないと。えーっと、どこの木をどこら辺まで移せばいい?」
「――」
「ほうほう。なるほど」
サクラが動かす樹を軽くポンポン叩いてから、走って移動させる場所を指示してくれる。俺が思っているよりも、水臨樹の周囲を広げないとダメっぽい。
これは、雑草畑を1つ他の町へと移動させないとダメかもな。ギルドレベルが上がったから、まだ少し畑を広げられる。
新エリアで新しい作物が増えることを見越して、余裕を持たせておいたのだ。自分の先見の明が恐ろしいぜ!
しかも、サクラの主張はこれだけで終わりではない。何やら地面に円を描いている。
「――!」
「ム!」
「トリリ!」
オルトとオレアと相談して、何がしたいんだ? 見守っていると、オルトが土魔術で地面を掘り返し始めた。結構掘るね! サクラが水臨樹の周囲を広げさせたのは、このスペースを確保するためでもあったらしい。
いつの間にやら、直径10メートル、深さ3メートルほどの穴が出来上がっていた。水臨樹が大きくなるだけなのに……?
「いや、待てよ」
俺は、遠くにそびえたつ水臨大樹を見つめた。巨大な幹の途中から水が滝のように流れ出し、美しい虹を生み出している。
「え? もしかして、あれ?」
「――♪」
「ムムー!」
「トリー!」
「まじかー」
どうやら、水臨樹がついにその名前通りに水を生み出すようになるらしい。そりゃあ、池になる予定の穴は必要ですわ。
むしろ、こんな小さい池でいいの?
「水が溢れないか?」
「ムム!」
大丈夫らしい。そこはゲーム的なシステムで、いい塩梅にしてくれるようだ。ただ、水臨樹から流れ出る水は品質も良く、農業に適しているようだった。
オルト的には、水路を通して水を畑全体に回したいらしい。そのために、畑の作物の場所を弄りたいようだ。
今朝、大金をつぎ込んで大植え替え祭りを行ったばかりなのに……。あれはなんだったのか。
「ム?」
「な、なんでもないよ。それで、水路はグルッと回ってここに戻ってくる形でいいのか?」
「ム!」
どうせならオルトが掘るよりも、オブジェクトを設置する方がいいよな。
さらに散財することになるが、俺は水霊の街で水路を購入してしまうことにした。ついでにプールも買ってしまおう。
オルトが頑張って掘ってくれたけど、オブジェクトを設置した方が見栄えもいいしね。
「こうなったら、とことんやるぞ! オルトもサクラもオレアも、好きなだけ買え!」
「ムム!」
「――♪」
「トリ!」
俺はサクラたちを引き連れて、水霊の街のオブジェクトショップや、農業ギルドを巡る。ただね、テンションが上がったサクラたちが、想像の3倍くらい注文を出してきた。
好きなだけって言ったのがマズかった? だが、一度宣言したことを翻すなんてできない。オルトたちに怒られそうだし。
結果、俺は半日かけて畑の大改造を行うのであった。
今のところ、水が流れていない空の水路が張り巡らされた、ちょっとみすぼらしい畑である。本当に、大丈夫なんだよね?
「それじゃ、改めて水臨大樹の輝きを使用するぞ?」
「――♪」
水臨大樹の輝きがその名の通り輝きを放ち、俺の手の上から姿を消した。そして、サクラの本体である水臨樹全体が強い輝きを放つ。
「何か変わったか?」
「――!」
首を捻る俺に対し、サクラがアピールしている。見た目に違いはなくとも、明らかに変化があるらしい。
だが、鑑定をしても、よくわからない。
「うーむ。サクラ、どう――」
「――♪」
「うおおぉぉぉ?」
俺がサクラにどう変わったのか問いただそうとした、その時であった。水臨樹が光り輝いたかと思うと、一気に成長を始める。
幹が捻れるように太さを増し、どんどん背も高くなっていく。さらに、太くなった幹の一部に穴が空いて洞ができるのが見えた。
「水出た!」
「――!」
洞からチョロチョロと流れだす水が、段々と勢いを増してジャバジャバとなり、最終的にはジャージャーと滝のように樹の幹を流れ落ち始める。
水は根元の穴に溜まって池となり、張り巡らせた水路に流れ込んでいった。
「うおぉ! スゲー!」
「――♪」
何か特別な効果もあるのかもしれないが、今はただその美しい光景を楽しもう。