作品タイトル不明
655話 地下アスレチック
突如現れて声をかけてきたのは、青いローブを着込んだ黒髪の青年と、その肩に乗った白い鼠だった。
「僕はテイマーのムーレン。こっちはダッシュだ」
「チュー!」
「お、俺はテイマーのユートだ」
のんびり庵で、ノモルに声を掛けられた時と全く同じだ。
「ユート、君はわんぱくイベントに興味ないかい?」
「ある!」
「そうか! じゃあ、一緒にイベントに参加しないか?」
思わず食い気味に叫んじまったぜ。
だが、ムーレンは面白そうに笑うと、俺をイベントに案内してくれた。
というか、テンション上がり過ぎて詳しいことを聞かずにオーケーしてしまったのだ。ムーレンが道中で、イベントの詳細を教えてくれる。
「これから行くのは、アスレチックコートなんだ。そこで、レースが行われるんだよ」
「レースってことは、タイムを競うのか?」
「その通り。でも、順位が出るんじゃなくて、特定のタイムを超えられるかどうかなんだ。つまり、自分との戦いだな」
どうやら、敏捷値や所持スキルによって、目標タイムが変化するらしい。
場所は、町中にある小さな建物だった。入り口の扉には『腕白』と書かれたシンプルな木の看板がかかっているが、それだけでは何の建物かは分からない。
その建物に入ると、受付のようなものと、地下への階段が姿を現す。
「ここでエントリーを済ませるんだ」
「わかった」
参加費などはかからないらしく、入り口で名前を告げるだけだった。
受付のお兄さんが、イベントの説明をしてくれる。ムーレンの説明通り、目標タイムはプレイヤーそれぞれで変化し、それを上回れるかどうかでクリアしたかどうかが決まるそうだ。
つまり、誰であっても攻略可能ギリギリのタイムが表示されるってことなんだろう。
一応ランキングのようなものはあるが、特段景品があるわけではない。得られるのは名誉のみってことだった。まあ、躍起になって順位を上げようとするプレイヤーもいるだろうけどね。
俺はどうせ上位に入れんし、目標タイムを超すことだけを考えよう。
そのまま地下へと降りていくと、そこには驚愕の空間が広がっている。
非常に広い空間に、巨大な砦のように見えるアスレチックがそびえたっていたのだ。木製の、非常に温かみのあるデザインだな。
下からでは全貌が良く分からないが、奥行きもかなりあるんだろう。それもそのはずで、攻略には5分以上かかるらしい。
俺の目標タイムが、5分23秒だった。
某忍者風障害物競走の1stステージの制限時間が、確か1分半とかだったはずだ。5分もかかるってことは、それだけ広くて困難だってことだろう。
「よーし! やってやるか!」
「キキュー!」
「ヤー!」
さすがにモンスたちは参加できないらしい。まあ、リックが参加したらぶっちぎりでトップだしね。
「それじゃあ、みんなはここで待っていてくれ」
「――!」
「ニュー!」
「ユート、頑張れ!」
「チュー!」
俺はモンスやムーレンたちに見送られながら、アスレチックへと突入した。
まずは、幾つものロープが張られた上も横も狭い通路だ。しかも、グネグネと蛇行しており、非常に進みづらい。
ここを抜けると、次はボルダリングだった。いくつもの持ち手が取り付けられた壁を、必死に登っていく。
その後は、雲梯や縄梯子、ロープ登りに、トランポリンを使ったジャンプなど、色々な障害物が姿を現す。
地下アスレチックに挑戦し始めて、もうどれくらい経過したかね? まだタイムオーバーではないと思うが……。
というか、地下アスレチックって書くと、急に怖いものに思えるな。デスゲームが行われていそうだ。
まあ、実際は爽やかな運動施設だけど。
「よ! ほ! やべ!」
段々難しくなってきたぞ! 螺旋階段状の雲梯とか、きつすぎる!
「ぐぬぬ……」
「ヤヤー!」
「えぇ? ファウ?」
「ヤー!」
アスレチックの外側に、いつの間にかファウがいた。見えない壁のようなもので仕切られているせいで、中には入ってこれない。
だが、すぐ近くで応援してもらうだけで、元気が湧いてくるのだ。
「フママー!」
「ニュー!」
「おお、お前らまで」
よっしゃ! 頑張るぞ!
「どりゃあぁぁ!」
まあ、タイムオーバーだったけどね! 7分くらいかかったのだ。初見だし、仕方ないけど。
その後、さらに2回挑戦して、なんとか目標タイムを超えることに成功したのであった。多分、順路と攻略方法を頭に入れないと、初見突破は難しいだろう。
「おめでとう! 攻略達成だな!」
「チュチュ!」
ムーレンとダッシュが、サムズアップで讃えてくれる。これで、WPが溜まっているんだろうか?
とりあえずわんぱく邸にもどって確認してみると、ばっちり10WPをゲットできていた。のんびりして居ればいいだけのNPとは違って、貯めるのが結構大変かもな。