軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

563話 即売会

音楽系プレイヤーが集まっていると思しき、小さな広場。足を踏み入れてみると、かなりの熱気だ。

雰囲気的には、コミケみたいな即売会に近いかもしれない。

「あれぇ? 白銀さんですか?」

「うん?」

入り口で広場を観察していると、不意に声を掛けられる。振り向くと、そこには見知った顔があった。黒目黒髪の、優男である。外見年齢は20歳くらいかな?

「セキショウか」

「お久しぶりです」

立っていたのは、コクテンのパーティメンバー、セキショウだった。トップレベルの魔術師である。

イベントなどで何度も顔を合わせたことはあるが、1対1で喋るのは初めてだろう。

「1人なのか?」

「はい。今日は自分の趣味できてるんで」

「趣味って、ここ?」

「あれ? 知らずにきたんですか? ここは、音楽系のプレイヤーが、オルゴールと楽譜を販売してる即売会ですよ」

本当に即売会だった!

ゲーム内で音楽活動をしているプレイヤーがいるって話は知ってたけど、ここではそのオリジナル楽曲などを売っているらしい。

「色々なバンドやクリエイターが揃ってますから。回ってみたらどうですか? 気に入る曲があるかもしれませんよ?」

「なるほど……。面白そうだな。セキショウはどこかお目当てがあるのか?」

「俺はニャムンちゃんですよ!」

「ニャ、ニャムンちゃん?」

「はい! リアルでは猫だけど、なんの手違いか猫耳少女のアバターでLJOにログインしてしまったという超猫系アイドル! それがニャムンちゃんです!」

「そ、そうか……」

人の趣味をとやかくは言わんけど、俺は遠慮しておこう。しかし、すげー設定の地下アイドルがいるんだな。いや、ゲームアイドル?

「白銀さんも一緒にどうです?」

「う、うちはほら、モンスもいるから。迷惑になるかもしれないし、ゆっくり見て回るよ」

「そうですか?」

「ああ、楽しんできてくれ」

俺はセキショウをニャムンちゃんのブースへと送りだすと、広場をゆっくりと回ってみることにした。

まず最初の露店では、3人組の女性たちがオルゴールを売っていた。

「私たちのミニアルバムでーす」

「今流れてる楽曲も収録されてますよ!」

「ぜひお願いしまーす!」

マジでストリートミュージシャンの手売りっぽい感じなんだな。クラシックギター、肩から下げた小型の鍵盤楽器、小太鼓で曲を演奏しながら、呼び込みを行っている。

バンドというよりかは楽団という感じの楽器編成だが、フリフリ衣装や曲調は普通にリアルのアイドルっぽい。

バンド名は『陽だまリズム』。演奏している曲は、老若男女誰でも楽しめそうなメロディだ。爽やかな、少しレトロな雰囲気のする正統派アイドル曲である。

ゲームの中ではクラシック系の曲ばかり聞いていたので、かなり新鮮だった。

「ヤー!」

「お、ファウは気に入ったか?」

「ヤ!」

どうやらファウは彼女たちの曲を気に入ったらしい。俺の頭の上で、楽し気に体を揺すっている。次の曲に入ったが、こちらも清純派のアイドルソングだった。

アルバムというか、3曲収録可能なオルゴールだな。これに収録された曲名を見ると、『猫のいる日陰』、『ヒマワリ』、『Continue to Tomorrow』と、なんとなくアイドルソングっぽく思える曲名が並んでいる。

ただ、意外にも他の子たちには刺さらなかったようだ。好きな骨董品を選んでいる時と、表情が違っている。嫌いじゃないけど好きでもない。そのくらいの雰囲気だ。

こいつら、いくらなんでも態度があからさま過ぎじゃね?

そんなことを考えながら、ファウと一緒に体を左右に揺らしながら少女たちの曲を聞いていると、向こうもファウに気づいたようだ。

「か、可愛いですね!」

「フェアリー、初めて生で見た!」

「というか、白銀さんじゃないですかっ!」

音楽系のプレイヤーなだけあって、フェアリーの情報もしっかり仕入れているようだ。その流れで、妖精発見者の俺のことも知ってるみたいだった。

それにしても、妙に焦っている様子だ。演奏を中断して、ワタワタと動かしている。他のお客さんがこっち見てるんだけど。

あの、俺がクレーム入れたりしたわけじゃないっすよ? 何故か、勝手に向こうが焦り出しただけですから!

「あ、あの、えっと……これどうぞっ!」

「え? いや、どうぞって……。か、金払うから」

「だ、ダメですよ!」

「こっちこそダメだから!」

傍から見たら、俺がクレーム付けて、詫び代わりにオルゴールを巻き上げたみたいじゃんか! 変な噂立てられたらどうするんだ!

「だいじょうぶです!」

「な、何が? ともかくタダは申し訳ないし、貰う理由もないから!」

「いえいえ、白銀さんですから! むしろ、自分で押し付けておいてお金貰ったら、私たちが危険なんです!」

「そうなんです!」

「貰っておいてくれませんか?」

「き、危険? 何が? だ、だったら、押し付けなければいいんじゃ……?」

「もう今更引っ込みつきません!」

「えー?」

手と首をブンブン振って断る少女たちに、それ以上金を払うと言い続けることができなかった。結局、楽譜をいくつか買って、その場を離れる。

他のお客さん――というか、ファンの人たち、怒ってないよね? チラッと見た感じ、苦笑いしてるくらいだったし、怒ってはいなかったと思うが……。

「ま、ファウがお気に入りの曲だし、楽譜は買うつもりだったからいいけどさ」

「ラララ~♪」

「お、さっそく演奏しちゃうか?」

「ララ~♪」

楽譜は以前もオークションで購入したことがあるけど、スキルスクロールみたいなものだった。

読むのではなく、使用すると消えてしまう消耗アイテムなのだ。そして、使えばすぐにその楽曲を習得、演奏できてしまう。

すでにファウが陽だまリズムの曲を奏でつつ、ノリノリで歌っていた。楽器が違うので全く同じではないが、俺はリュートの方が好きかもしれない。

不思議と、ファンタジーっぽさがあるのだ。リュートの音色がそう思わせるのだろう。特に効果はないただ演奏しているだけの楽曲だが、いい買い物したんじゃないか?

「他にも色々と楽譜を買ってみようか」

「ラララ~♪」