軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333話 板海苔

「そろそろサウスゲートに向かおうかな」

「ム?」

「レイドボスイベントだよ」

レイドボスなんて俺には少々荷が重い気もするが、一応自分たちで発生させたイベントだからね。

参加しておきたい。

「アイテムもお金も倉庫に仕舞ったし、これで死んでも大丈夫だ」

「クックマ!」

「モグモ!」

「キキュー!」

うちでも武闘派な3人が、やる気に満ちた顔で並んでいた。縁側に座る俺の前に立ち、「俺たちを外すなんてことしないよな?」と訴えかけているようだ。

まあ、実際誰を連れて行こうか迷っていたから、参加したいのであれば連れて行ってやろう。

「じゃあ、クママ、ドリモ、リックは確定として。あとは――」

アタッカーは足りている。となると回復役のルフレ。バフ担当のファウ。俺の直衛役のオルトでいくか。

サクラ、ヒムカ、アイネは控えをお願いしよう。

「じゃあ、行ってくる。召喚することもあるかもしれないから、よろしくな」

「――♪」

「フマ!」

「ヒム!」

「トリリー!」

出発する俺たちを、サクラたち留守番組がガッツポーズで送り出してくれた。頑張ってこいってことなんだろう。

始まりの町からサウスゲートに転移すると、そこは凄まじい数のプレイヤーで溢れていた。どうやら全員がレイドボス戦への参加者であるらしい。

「白銀さんだ――」

「あれが――」

「初ナマ白銀――」

視線が俺に集中している。まあ、うちの子たちが注目されるのにはもう慣れた。とりあえず端っこに移動しようかな。

それにしても、こんな数のプレイヤーが一気に戦闘とかできないよな? サーバー分けするのか?

そんな事を考えていると、声をかけられた。

「ようユート。さすがに自分が発生させたイベントには参加するんだな。戦闘イベントだから、見送るかもしれないと思ってたんだが」

「タゴサック。昨日ぶり」

相変わらず男言葉にツナギのような格好のタゴサックであった。

「まあ、お前が言う通り、自分で発生させたイベントだからな。っていうか、知ってるのか?」

「そりゃあ、地底湖突破はもうかなりの騒ぎになってるし。少なくともレイドボス戦に参加する奴は全員知ってるんじゃないか?」

「そっか」

ちょっと怖くなって、周囲を見てみる。誰も攻略できていなかった場所を攻略したのが、俺みたいな戦闘力皆無のプレイヤーだ。クルミたちに寄生して攻略したって、嫉妬してるプレイヤーもいるかもしれん。いや、それは間違ってないんだけどさ。

パッと見た感じ、睨んでいるようなプレイヤーはいない気がするけど……。

「どうしたんだ? そんなキョロキョロして」

「い、いや、何でもない」

「そうか? まあいいや。それより、こいつを見てくれよ」

「うん? おいおい、なんだよこれ!」

「へっへ。すげーだろ?」

タゴサックが見せてくれたのは、A4くらいの大きさで、黒く薄い紙状の食材アイテムであった。

「海苔かっ!」

「おう」

俺の驚いた顔を見て、タゴサックが悪戯が成功した子供のように笑う。

「どうしたんだよこれ」

「西の第8エリアの一部で採取できるんだよ。第8エリアになるとルートが分かれててフィールドが複数存在してるんだが……。その片方、『流砂の回廊』の中にあるオアシスに、採取ポイントがあるんだ」

「育てられるのか?」

「水耕プールがあればな。ネットや柵は自作でどうにかなった。ただし、塩水にしないとダメだ。完璧に海苔専門のプールになるぞ。水草を植えてみたけど、枯れちまった」

つまりそのオアシスは塩水なのか? もしかしてさらに西に行けば海に出るのかもね。そのオアシスにだけ、地下を通って海水が流れ込んでいる的な設定なのかもしれん。

ただ、俺がそこにたどり着くには相当な時間が必要だろう。

しかし、海苔は欲しい。おにぎりを作っている時、板海苔があればと何度思った事か……。

「……なあ、作物状態で少し譲ってもらうことって……?」

「見せておいて、ダメですとは言わねーよ。むしろ水耕持ちが少なくて全然広まりそうもないから、育ててくれるならありがてー。対価なんざいらないから、好きなだけ持って行ってくれ」

「おお! まじか! 恩に着るよ!」

これで完璧なおにぎりが作れる! しかし、喜ぶ俺をタゴサックが変な目で見ている。どうした?

「いや、海苔は確かに珍しいかもしれないが、現状だとあまり用途がないんだよ。和風ピザのトッピングに使ってるやつがいたが、そんな程度かね?」

あー、確かに。米がないとなかなか難しいかもしれない。だが、これはいい取引なんじゃないか? タゴサックは水耕を持っているみたいだし、間違いなく米を育てられるだろう。

それに、こんないい物をタダでもらうのは心苦しい。

「対価なんだが」

「いや、さっきも言ったが対価はいらない」

「まあまあ。とりあえず、これでも食べてくれよ」

「なんだ? ユートの新作料理か? それくらいなら――」

俺がインベントリから取り出した白い塊を見て、タゴサックの動きが止まった。そして、恐る恐る、俺の手からおにぎりを受け取る。

「おいおいおいおい! お前!」

「ふっふっふ。どうだね? 驚いたか?」

「当たり前だ! 握り飯じゃねーかっ! 塩にぎりだ!」

タゴサックが思わず叫んだ瞬間、周囲から音が消え、全員の視線が俺たちを向いていた。

「あ……」

「うぉ……」

やべー。海苔にテンション上がり過ぎて、周囲の事を完全に忘れてた。タゴサックも自分がしたことを理解したのだろう。顔を引きつらせている。

「す、すまんユート」

「いや、俺も無防備過ぎた」