軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

334話 おにぎりと生贄たち

「「「……」」」

なんだろう。沈黙が怖い。

周囲にいたプレイヤーたちが、一斉に無言になって、俺とタゴサックを取り囲んでいた。

いや、取り囲むというか、遠巻きに見つめているだけなんだが……。無表情って、こんなに迫力があるものなんだな。

そして、少しずつさざめきが広がっていく。

「握り飯?」

「米?」

「米!」

「こめこめ!」

昔見た映画のワンシーンで、主人公の探検家が未開の地の蛮族に囲まれるシーンを何故か思い出した。

「ど、どうしようタゴサック」

「いや、これは……。逃げるか? でも、もう直ぐイベント始まるから、遠くに行けないぞ?」

「どちらにせよ、これじゃ逃げられんし」

何故か一定の距離からは近寄ってこないので、揉みくちゃにされることはない。しかし、退路はなかった。全方位を囲まれたのだ。

まあ、気持ちは分かるけどね。俺だって米を入手していない状態で向こう側に居たら、同じことをしていると思う。

別に取り囲んで威圧しようという気はないのだろう。ただ、少しでも情報がほしくて、できるだけ近くで観察しているだけなのだ。

そんな異様な雰囲気を破ったのは、男性の声であった。

「皆、気持ちは分かるが、ユート君が困っているぞ?」

声の主は、紫髪の爽やかイケメンである。歯がキラリンと光って見えるのは気のせいだろうか?

紫髪の冒険者こと、ジークフリードであった。人垣の向こう側にいるんだが、白馬に乗っているので目立つ。

彼が動き出すと、自然と人垣が割れて道ができた。貫禄の為せる業か? いや、ゲームの中であっても、あのデカイ馬の前に立つのが怖いだけか。

「久しぶりだねユート君。まあ、皆も悪気があるわけじゃないんだ。許してやってほしい」

「わかってるよ」

さすがジークフリードだ。この状況で間に割って入って、普通に笑っている。しかもその爽やかさによって、皆が毒気を抜かれた表情をしていた。

普通、こういうタイプはもっと嫌われてもおかしくはないと思うんだけど、罵声を浴びせるような奴はいない。

ジークフリードは実績もあるし、各地で騎士プレイをしてプレイヤー、NPC関係なく助けまくってるらしいからな。もう、ジークフリードなら仕方ない的な扱いになっているのだろう。さすがだよね。

ただ、今が事態を多少なりとも沈静化するチャンスだ。

「あー、米の情報は早耳猫に売ったから、もう売りに出されてるかもしれないぞ?」

俺がそういった瞬間、群衆が騒めいた。中には思わず駆け出そうとして、足を止めている者もいる。今すぐに早耳猫に行きたいのだろうが、それをやったらイベントに間に合わなくなってしまうのだ。

ただ、これで少しは収まったかな? いや、まだ見られている。どうしようか? 悩んでいたら、再び声をかけられた。

「白銀さん!」

「お? おお、ふーか」

「お久しぶり!」

ジークの作った道を通って駆け寄ってきたのは、料理プレイヤーのふーかだった。さらに、見た顔がいる。

「アスカ、ウサミ、石田も一緒か」

ふーかと同じ料理系プレイヤーたちだ。花見やお茶会で世話になったし、それ以外でもレシピの交換をしたこともある。

ふーかと一緒に現れたのは料理人たちだけではない。ツヨシ、タカユキ、ヒナコ、セルリアン、イワンの、高校生パーティも後を追うように姿を見せた。

なんと、料理人グループとチーム組んでいるらしい。俺の知らないところで、繋がりがあるもんだね。

しかし、挨拶をする前にふーかが詰め寄ってくる。ふーか、目が怖いんだけど!

「それで! お米! お米はまだあるの?」

「え?」

「おーこーめーっ!」

「え? いや、少しだけなら」

ふーかの迫力に負けて、思わず答えてしまった直後、今まで以上の騒めきが起きた。やばい、ないって言えばよかった!

「……欲しいのか?」

「うん!」

ふーかがキラキラした目で俺を見ている。こいつ、完全に周りが見えてないな。

いいだろう。欲しいのならくれてやろうじゃないか!

それでプレイヤーたちの注目が分散したり、嫉妬されたりしても知らんからな!

いや、でもな……。ここでふーかにあげたら、他のプレイヤーたちも群がっては来ないだろうか?

「え? 米? もしかして米があるんですか?」

空気が読めない子がもう1人いました。赤髪短髪剣士のツヨシである。相棒である、青髪真ん中分け槍士のタカユキとカップリングされている疑惑のある、不憫な子だ。

「……あるよ」

「へぇ! ゲームの中にもやっぱあるんですね! 美味しいんですか?」

「まあまあだ」

「すげー興味あるんですけど! 余ってませんか?」

こいつすげーな。俺だけじゃないよ。仲間や、周囲で成り行きを見守っているプレイヤーたちも、同じ感想を持ったらしい。ゲームに関しては素人とまでいかなくても、あまり詳しくないようだし、それ故の無邪気な行動なんだろう。

そして、ツヨシの言葉でピーンときてしまった。

「おにぎりを持ってるには持ってるんだが、数が少ないんだよ。しかも試作品で、売る程のできじゃないし。だから、ここでフレンドのお前らに会ったのも何かの縁だし、進呈しよう」

少しわざとらしいかな? だが、これで俺の手持ちがおにぎりだけで、少ししか持っていないとアピールできたはずだ。

そして、俺の大根演技にツヨシが食いついてくれた。

「まじっすか? もらえるんですか?」

「ああ。ちょうど、ここにいるフレンドに渡す分くらいはあるから!」

「やった! ラッキー!」

すまんツヨシ。純粋な君を利用した。

「ほら、焼きおにぎりだ」

「あざーっす!」

「イワンたちはどうする?」

テイマー仲間であるイワンに、おにぎりを差し出しながら聞いてみる。今はモンスの姿は見えないが、状況に応じて召喚するつもりなのだろう。

「いいんですか? 貴重なものですよね」

「君らがいいんなら」

「あ、あー」

イワンは俺のその言葉で理解したらしい。軽く周囲を見回した。プレイヤーたちがツヨシをガン見しているのが分かる。

「どうすればいいんだ……」

「さあさあ、どうする? 欲しければ受け取ればいいじゃないか」

「くっ! 大人はずるい……!」

「ふっふっふ。これが大人というものだ。まあ、嫌なら別に――」

「いただきます!」

おにぎりへの興味が勝ったのだろう。イワンは、俺が引っ込めようとしたおにぎりを慌てて受け取った。他の面々も同様だ。苦笑いしつつ、結局おにぎりを受け取る。

「おー、美味いな!」

「これなら十分食べれる!」

「さすがユート君! 美味しいよ!」

「あ、バフが付いたよ!」

よしよし、周りを囲んでいるプレイヤーたちの視線が俺以外にも向いたな。これでイベント中、突撃される確率が分散しただろう。

ほくそ笑む俺に、アスカが近づいてくる。

「これ、お代は……」

「いや、いいよいいよ」

むしろ俺がお礼をしたいくらいだ。その気持ちが顔に出たかな? アスカは自分たちの今後の災難を想像したのだろう。イベント中、質問責めにあってもおかしくはない。僅かに天を仰いだ。

だが、すぐにニコリと微笑んだ。

「……分かりました。その代わり、後でお話し聞かせてくださいね?」

どうせこの後の質問責めが回避できないなら、それを受け入れて、せめて情報をゲットすることにしたらしい。

「お、おう。すまないな」

いや、本当に。