軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

269話 ランタンカボチャの有用性

「そうだ。こんな物もあるんだが、どうだろう?」

「う? これはジャム?」

パティシエのウサミが興味を示したな。

「ワインジャムなんだが、どうだろう?」

「ワインジャム? え? ちょっと見せてもらっていい?」

「ああ」

俺がジャムの入った小瓶を渡すと、それを鑑定して驚きの声を上げている。

「食べ過ぎると酩酊ってことは、アルコールが残ってる? どうやって作ったの?」

「どうやってって、普通に材料を煮込んだだけだが」

俺は製作過程をウサミに教えた。そんなに特別なことはしてないんだけど。

「ワインとワイルドストロベリー、ハチミツにロイヤルゼリーね……」

「ああ、他には何も入れてない」

俺は知らなかったが、リアルでもワインジャムは存在しているらしい。そんなお洒落な物が本当にあるんだな。

ウサミはスコーンに合わせるためにワインジャムの再現を試みたことがあるそうだ。しかし、いくら煮詰めてもワインの成分が消えて普通のジャムになるか、ホットワインになるかのどちらかで、どうやっても再現は出来なかったという。

そんなに難しいとは思えないんだがな。材料を全部ぶち込んで煮込むだけだし。だが、ウサミには心当たりがあるらしい。

「ロイヤルゼリーなんて貴重品、さすがにジャムに使ったことはなかったわ……」

なるほど、ロイヤルゼリーか。俺の場合はクママの養蜂のおかげでいくつか持っているし、養蜂箱を増やしたおかげで今後は増産の目途もついている。貴重な品ではあるが、二度と手に入らないレベルではない。

だが、ウサミたちにとったらなかなか手に入らない、超貴重な素材であるらしかった。少なくとも試作品に使うことはできないんだろう。

今回、品評会に持って行くために作ったから、ちょっと見栄を張ってロイヤルゼリーを混ぜてみたんだが、それが奇跡的にワインジャムを生み出してくれたらしかった。

「でも、これってそんな騒ぐ程のことか? だって、食べ過ぎたら酩酊になるからあまり使えないし」

「そんなことないわ! 酔拳使いにとっては最高の食べ物だもの! 絶対に喜ばれる!」

「そりゃそうだろうが、酔拳を覚えてるプレイヤーってそんな多くないだろう?」

「今はね。でも、桜を育ててるプレイヤーは多いし、すぐに増えるわよ!」

ということらしかった。

「それに、ワインジャムは珍しいし、それだけでも十分話題になるわ」

「これは最高ダ!」

ワインジャムを一舐めして声を上げたのは冬将軍だった。早速ジャムをハーブティーの中に入れて飲んでいる。その顔には至福の表情が浮かんでいた。

これが本場のロシアンティーってやつか? いや、でも、本当のロシアンティーって、ジャムを舐めて、お茶を飲むんじゃなかったっけ? 直接ぶち込むのは本当のロシアンティーじゃないっていうウンチクを、どっかの芸能人がドヤ顔で話していた気がする。

冬将軍に疑問をぶつけてみたが、その答えはあっさりしたものだった。

「別にどちらでモいいんじゃないカ?」

「え? そうなの?」

「日本人ガ全員、日本の伝統を完ペキに守っている訳ジャないだろウ? お茶を飲むとキ、正座して器まわしテるカ? それと同じダ。飲みやすいように飲めばいイ。俺は直接入れルほうが楽で好きダ。甘すぎないしナ」

また、このジャムにアルコールが入っていることも冬将軍が喜んだ理由だった。彼はロシアにいた頃は、紅茶に少量のジャムと大量のウォッカを入れて飲んでいたそうだ。それってもうお茶じゃない気もするけど……。

勝手に期待していたけど、ロシアの人が全員ハラショーウォッカコサックダンスな訳じゃないんだよな。日本人だからといって全員が芸者遊びや富士登山をする訳じゃないのと同じだ。そう言えば、若者のウォッカ離れが深刻とか言う話を聞いたことがある。いや、冬将軍はウォッカを飲むみたいだけどさ。

まあ、とりあえずワインジャムは喜んでくれているし、冬将軍本人が気にしてないみたいだから俺も気にしないでおこう。

隣では料理プレイヤーが多いだけあって、皆があーだこーだ言いながらレシピを見ている。

「このランタンカボチャのクッキー、火霊の試練に挑戦するプレイヤーには絶対に売れるわ」

「ランタンカボチャを使えば、他の料理でも燃焼耐性が付くかしら?」

「ファーマーに頼んで増産してもらえば……」

「これがあればうちのモンスが燃えることも無くなる! もっと欲しい!」

「やはりどこかで大量に栽培を……」

ランタンカボチャのクッキーには、テイマーたちも食いついているようだ。そういえば、火霊門では俺も酷い目に合ったんだよね。確かに彼らの言う通り、ランタンカボチャの燃焼無効効果が他の料理にも付与できれば、モンス達を守ることができるかもしれない。

他の人が研究してくれるだろうが、俺も少し実験してみようか。ジュースは行けそうな気がするし。

そんな中、アメリアと会話をしていたプレイヤーが話しかけてきた。エリンギと言うテイマーだ。

右肩に蝶タイプのモンスを、左肩にリス。頭の上にカブトムシを載せた熊獣人の男性である。

茶色い髪の間から、茶色いクマ耳が飛び出している。笑顔がないうえに眼鏡をかけているのも相まって、非常に怜悧な雰囲気を醸し出している。まあ、ラブリーモンス達と熊耳のせいで、ギャップが凄いんだけど。

初めましてかと思ったらフレンドでした。やはり花見参加組であったらしい。

「改めて、エリンギです」

「ユートです。よろしく」

笑顔はないが、その口調に悪いものは感じない。単に表情が硬いタイプなんだろう。

「このクッキーは素晴らしいですね。うちは昆虫系のモンスが多いので、火霊門でかなり苦戦していたんです」

燃焼ダメージを回復している内に、アイテムを消耗して撤退を繰り返しているそうだ。

「へえ、やっぱり昆虫は火に弱いんだな」

「そうですね。でも、風や土には強いので、多少使い所が難しいかもしれませんが、ハマれば強いですよ」

「空を飛べるモンスは貴重だしな。俺もファウを使っていて実感するよ」

「羨ましいですね」

全然羨ましそうには見えないが、本心なのだろう。その目はファウから離れない。

可愛い上に昆虫の羽を備えているのだ。エリンギには垂涎のモンスなのかもしれない。

エリンギとそんな話をしていたら、メールの着信があった。しかも連続して。確認すると、アシハナやマルカなど、比較的仲の良いプレイヤーからだ。

「同じタイミングで、いったいどうしたんだ?」

「どうしたんです?」

「いや、知人連中からメールが一斉に……」

俺が困惑した顔でそう告げると、エリンギは何やら悟ったらしかった。

「もしかして、メールの着信を一時オフにしてないんですか?」

「え? なんでだ? もしかして参加者はメールを一時オフにしておかないといけなかったのか?」

「いや、そういうことではないんですが。皆、白銀さんが参加するってなったら、自発的にオフにしてましたよ」

「はあ? 俺が参加したら……?」

どういうことだ?

「あ、いえ。何でもないんです。まあ、今回は配信してるんで、何か事件があったらフレンドからガンガンメールが来ちゃいますよ。とりあえずオフ設定にしておいた方がいいと思いますが?」

「ああ、分かったよ」

でも事件? 皆が気にする様な事件があったか? いや、生配信が初めてって言ってたし、色々と想定外のことが起きているんだろう。