軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196話 ハナミアラシ

イベント開始を押した瞬間、視界がいきなり変化していた。

「え? 広場だ」

桜の木はある。枝ぶりまで正確に覚えているわけではないが、多分俺の畑に生えていた桜だろう。だが俺たちが立っているのは今までいた畑ではなく、大きな広場であった。

地面は押し固められた土が剥き出しの、田舎の小学校の校庭みたいな感じだ。短い下草は所々生えているが、戦闘の邪魔にはならないだろう。その広場を囲むように、透明な壁が並んでいる。ボスエリアと通常エリアを隔てる、通称ボス壁と呼ばれるものだ。

ただ、ボスフィールドに転移したって言う訳ではなさそうだな。イベントに参加できなかった早耳猫の男性が絶望している姿や、畑の外から花見を見ていた野次馬の姿は相変わらずそこにある。

どうやら畑にあった作物が姿を消し、桜の木だけが残ったらしい。

「ええ? ちょ、俺の畑は!」

俺が――というかオルト達が丹精を込めて作ってくれた畑はどこにいった? 消えちゃったんだけど!

「ユート君落ち着いて。ボス戦が終われば元に戻るから」

「ほ、本当ですか?」

「レイド戦じゃないけど。宿屋で幽霊と戦闘するイベントがあるの。その時も部屋の私物が消えて、戦闘後にちゃんと戻って来るから」

「そ、そうですか」

よかった。まあそうだよな。これで畑が消滅なんてなったら、確実に運営に抗議が殺到するだろうし。ていうか、俺なら絶対に抗議する。畑が消えたせいで少し取り乱してたよ。

「あれがボスか? さっきの奴にそっくりだけど」

「ピンクのクリオネ?」

「いや、クリオネは浮かばないだろ」

桜の木の前に巨大なピンク色の何かが浮かんでいた。クリオネ風の形だが、その大きさが尋常ではない。大型トラックくらいはあるのではないだろうか? さっきのピンククリオネが巨大化した姿であった。

鑑定すると、名前はハナミアラシとなっている。花見荒らしってことかね?

「みんな! 行くわよ! 前衛は前に!」

「おう!」

「後衛は牽制頼む!」

「生産職は援護で! 無理するなよ!」

おおー、前線組は慣れているな。すぐにコクテンたちが先頭に立って、皆に指示を出してくれた。

さて、俺はどうしよう。これでも一応後衛職なのだ。魔術もあるし、後ろからの牽制くらいなら――。

「ユート君は生産職と一緒!」

「はーい」

問答無用でアリッサさんに生産職組に入れられてしまった。まあ、そうですよね~。

「一斉攻撃だ!」

「ホゲゲ~!」

そして、レイドボス戦が始まる。最初に仕掛けるのは前衛組だ。コクテンを先頭に、前線で戦うトッププレイヤーがそれなりに揃っているので、かなり頼もしい。

半分くらいは酩酊に苦しんでいるので、千鳥足だが。まあ、的がでかいので攻撃を外すことはないだろう。ただ、防御に不安はあるな。酩酊状態では回避も難しいだろうし。

「ホゲゲ!」

ハナミアラシがその場で回転しながら、何かをばら撒いた。あれが攻撃か? よく見てみると、ビールの空き瓶や、中身が詰まったビニール袋だ。後は木の串とか、空き缶も混じっている。

「ぎゃー! なんだこれ!」

「汚い! 装備が汚れる!」

「いやー! 臭い!」

それはまんまゴミだった。まるで花見の後に打ち捨てられている、マナー違反者たちが残していったゴミのようだ。それをばら撒いて、プレイヤーを攻撃しているらしい。

威力は大したことが無くても、装備の耐久値を削りつつ、毒の状態異常を与えてくるみたいだな。嫌らしい攻撃である。

「うげー……酩酊で毒とか……」

「やばい~」

「真っすぐあるけん……」

これはピンチなんじゃないか? 俺たち援護組は慌てて前衛に駆け寄り、キュアポイズンを振りかける。

「皆も頼む!」

「ムム!」

「クマ!」

「――♪」

人手が足りていない。俺はうちの子たちにも解毒薬を持たせて、前衛を回復させていった。薬を振りかけるだけだから簡単だ。

「やったー! オルトちゃんに回復してもらっちゃった!」

「なんで水精霊ちゃんがいないんだ~」

「サ、サクラたんにぶっ掛けられた!」

何とか立て直せたかな。うちの子たちに回復してもらいたいからといって解毒拒否する奴がいたのは驚いたけど、そこは無視して無理やり解毒薬をぶっかけておいた。

おい、うちの子たちに回復してもらうために、わざと毒になったりするんじゃないぞ? 次は回復しないからな。

「ホゲゲゲ!」

しばらくサンドバック状態だったハナミアラシが、再び回転する。お次はピンクの霧の様な物を吐き出したぞ! 範囲が中々広く、近くでハナミアラシを攻撃していたメンバーだけではなく、後衛まで巻き込んでいた。これもダメージはそこそこで、低確率で酩酊状態に陥らせる効果があるらしい。

低確率とは言え厄介だな。未だに酩酊は直す方法が無いので、食らってしまえば確実にこちらの戦力が低下してしまうのだ。

それでも、参加者全員に付与された全ステータス上昇、クリティカル率上昇、自動HP回復、自動MP回復効果のおかげでまだ十分に戦えている。

特に回復系は非常にありがたい。酩酊で低下した攻撃力を技を多く使って補えるし、回復の頻度も少なくて済む。

全ステータス上昇、クリティカル率上昇も目に見えて効果はないものの、きっと活躍してくれているんだろう。

「ホンゲェエエェェェェェェン!」

「うわ!」

今度は大声攻撃か! マイクを使って怒鳴っているかのような、頭にキンキンと響く大きな音が響き渡る。耳だけではなく、脳内まで揺さぶられるかのような衝撃があった。痛みはないんだが、立っていられない。しかも低確率で麻痺の効果もあるようだ。

オルトが手足をピーンと伸ばして、まるで気を付けをしているかのような体勢で地面に突っ伏したまま、動けなくなっている。

「ム……」

「オルト! 大丈夫か? ほら!」

「ムム~」

慌ててキュアパラライズをふりかけてやると、オルトが額の汗をぬぐう動作をしながら、ササッと立ち上がった。他の子はどうだ? ファウは起き上がって再びリュートをかき鳴らしているな。サクラ、クママ、リック、ドリモも元気で動いている。

「大丈夫か……」

「ムム」

厄介なことに、このボスは範囲攻撃で状態異常を付与してくるタイプであるようだ。これ、時間をかけ過ぎていたらすぐに回復アイテムが底をつきそうだな。

「ごめん! 援護組も攻撃に加わって! 時間をかけるだけこっちが不利になりそうなの!」

アリッサさんもそう考えたらしい。俺たちに近寄って来て、そう頼んで来た。レイドボス戦とはいえお祭りみたいなものだからな、周囲の生産職の戦意も高い。

「よっし、いったるぜ!」

「ふふ、秘密兵器を使う時が来た!」

俺もここは腹をくくろう。うちの子たちを引きつれて、前に出る。俺とサクラ、ファウは後衛の位置から攻撃だ。クママ、リックは前衛に合流する。ただ、ドリモはどうしようかな。ここまでは無理をさせず、俺の側で戦闘を見学させていたんだが……。

「ドリモ、土魔術で攻撃できるか?」

「モグ」

「無理か……。じゃあ、クママたちと一緒に前衛だ。でも無理はするなよ?」

「モグ!」

ドリモがやる気満々でハナミアラシに向かって駆けて行く。短い脚をちょこまかと動かす姿が、すごく頑張って見える。うーん、大丈夫かな?

「無理すんなよ~」

「モグモ~」