軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58.転生王子、手紙を書く

王宮にたどり着いたのは、夜もすっかり更けた頃だった。

国境近くの町からローレンツが連絡を入れていたから、大騒ぎにはならなかったけど当然ナターリエ様はノエル兄様の事をとっても心配していたみたい。

王宮に着いて側妃棟に向かおうとした時も、あのナターリエ様が待ち構えていて、すぐにノエル兄様の所に走って来て抱きしめていた。

ボクの方はと言うと、お出迎えはメリエル一人。

「テレーゼ様には、リエト様は体調が悪くお休みになられていると伝えています」

うん、そうだね。ボクもそれがいいと思うよ。

「ただいま、メリエル」

「ご無事で良かったです」

いつものメリエルに、ボクは思わず笑みがこぼれた。

「オーバリの子……そなた」

ナターリエ様がボクに向けて何かを言いかけたが、ノエル兄様がバッと間に入ってかばってくれた。

「お母様、リエトは僕に巻き込まれた被害者です!」

ナターリエ様はその様子に、白金の長いまつ毛に縁取られた、ノエル兄様と同じ紫の目を瞬かせた。

「僕はヴァルテの王子としての自覚が足りませんでした。それを教えてくれたのも、リエトです。僕の弟です」

え、そうなの!?

何かしたっけ!?全然心当たりがないんだけど……。

ボクが驚いているうちに、ナターリエ様は一度目を閉じ、再び開けて、ボクとノエル兄様をじっと見つめた。

「そう……。ノエルも、成長しているのですね。母としては、嬉しくも寂しくもあります」

「お母様……っ」

親子の感動シーンの様なので、ボクはおじゃまみたい。早いところおいとましよう。いつもならもう寝ている時間だから、けっこう限界でもある。

そそくさと、メリエルとベディと共にその場を去ろうとしていたらナターリエ様の声が飛んできた。

「ノエルが世話になりました。礼は、後日させていただきます」

「そんな、礼なんて……」

「オーバリに借りを作るなど御免です」

あ、そういう……はい、了解いたしました。

ナターリエ様とノエル兄様にご挨拶をして別れると、なぜかローレンツがついて来たので、ベディが思いっきり顔を顰めて威嚇している。

「ローレンツ、まだ何か用?」

「いえ、俺からもお礼を。ちゃんと生贄の役目をはたして頂き感謝です」

「うわぁ」

まだ言うんだってボクもさすがに嫌な顔になったけど、ベディはその比じゃないみたいで、手が剣に掛かっている。

「ベネディクテュスさん、不愉快でしょうがその人は敵ではありません」

「でもよぉメリエル、昔からの知り合いじゃあるめぇし、なんでそんな断言できるんだよ」

「それが、昔からの知り合いなんですよ」

「え!?」

これにはボクもびっくり。

そう言えば、メリエルは前からローレンツを知っていたようだし、おじいさまに剣を習ってたこともあるって言っていた様な……。

「あん時のちっちぇ嬢ちゃんが、こうして立派に王子付きのメイドなんてやってんだから、俺もなかなか気付かなかったんですけどね」

ローレンツの方は最近になって気付いたらしい。

「オーバリの屋敷に私が見習いとして働いている頃に、住み込みでいたんですよこの人」

「じゃあ何だってぼっちゃんにあんな失礼な事言いまくってんだよ」

ボクが生まれる前の頃だけど、まさか住み込みのお弟子さんがいたとは。

それが今では他王子の護衛騎士なんて、大出世じゃん。

「ああ、この人、オラフ男爵の厄介信奉者なんですよ」

「は?」

おじいさまに騎士や軍人のファンが多いのは知っていたけど、厄介信奉者って何?

「オラフ様はそれはもう全てにおいて規格外だった。剣の強さもそうだが、意志の強さも行動力もカリスマ性も桁違いの御人です」

「へぇ」

「その直系の孫ともなれば、王宮の全ての悪意を受け止める逆境にあっても成果を出せるべきだ!」

「ん?」

「今回はまぁまぁ、及第点って事で、これからも精進してください」

ニコっと人好きする笑顔でウインクをして、ローレンツは去って行った。

なるほど、厄介 信奉者(オタク) ……。カジマールと仲良くできてたのにも納得できたよ。

こうしてボクとノエル兄様の、長い一日は幕を閉じた。

「そんなわけで、兄様たちには大変お世話になりました!」

たっぷり寝た翌日、温室でボクは二人の兄様に両手を合わせてありがとうをした。

もちろんそれは、ディートハルト兄様とエアハルト兄様だ。

「ふぅん、ノエルと馬車でおしのびで遠くまで遊びに行ってたら、馬が暴走して迷っちゃったんだ」

「なるほどね~」

ふたりの兄様は、ボクが言ったてんまつをくりかえしながら、セレスタンの入れたお茶を飲んだ。

あわやアルダとの戦争に発展しかねない事柄なので、ボクらで話し合ってそうした。

ナターリエ様にはさすがに事情は話してあるが、あの方も故郷と輿入れ先の戦争など望まれていないので了承してくださった。

クルトは職を追われ、カジマールはアルダに帰された。

王子誘拐ともなれば、下手すれば極刑だがこのように秘密裏に処理した事と、二人にとって一番嫌な処分がなされたってわけ。

クルトは何せ、王宮で王子の筆頭従者だったのが突然の首だから、貴族社会ではもう就職先は無いだろう。

「まぁまぁ、いいけどね」

エアハルト兄様が唇を尖らせながら言うのを、ボクは笑ってごまかした。

こんな事、十才と九才でありながら情報通の二人には通じないことは分かっているけれど、そういう事にしてほしいという意図までくみ取ってくれる事も分かっている。

「ありがとう兄様たち!」

ボクがお礼を言ったら、ふたりとも「しょうがないな」って顔をした。どうやら話を合わせてもらえるみたいだ。

さて、じゃあボクもお菓子を食べようかな、と席に着こうとしたら、ベディたち護衛騎士たちが一斉に入口の方を見た。誰か来るらしい。

「ふーん、まあまあの温室だな」

「ノエル兄様!?」

現れたのはビックリ!ノエル兄様とおじいさま厄介オタクのローレンツだ。

温室どころか主塔で会うのも初めてでビックリしていると、この中で一番身分が高いと言っても過言ではない、エアハルト兄様が口火を切った。

「側妃棟のアルダ王子様が何しに来たの?」

うーん、相変わらず偏見入ったキツイ言葉だ。これで悪気が無いから、本当にすごい。

以前までのノエル兄様だったら顔を真っ赤にして帰るか、キツイお返しをおみまいしていたと思うんだけど、ノエル兄様は全然効いていないみたいな顔してる。

「この温室は王族なら誰でも使っていいって聞いたけど、いつからヘルツシュプルング家で独占する様にしたんです?」

そしてノエル兄様は、まだ立っているボクを見つけるとタタッと軽く走ってきて、ぎゅっと抱きついてきた。

「!?」

ガタっとディートハルト兄様とエアハルト兄様が立ち上がる。

「それに僕はリエトのお兄様だからね、リエトに会いに来て何が悪いのさ」

「君、こないだまでリエトの事いじめてばかりいたじゃないか」

「そんなのどうでもいいから、リエトを返してよ! リエトは僕の弟なの!」

ノエル兄様に抱きしめられながら、三人の言い合いを聞いていたボクはそこで思い出した。

ちょうどここに、未就学の王子が全員集まってるじゃないか。

「兄様たち、アカデミーの兄様たちに向けて、みんなでお手紙を書きましょうよ」

「「「はあ?」」」

三人が三人とも、同じ表情で同じ声を出すものだから、ボクはおかしくなって笑ってしまった。