軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43.転生王子、兄王子たちとお茶会をする2

エアハルト兄様といっぱいおしゃべりをした翌日、昨日は来られなかった図書室に行くと、先にいたディートハルト兄様がボクを見て席を立った。

「リエト、よかった」

ホッとした様に笑われて、もしかして心配を掛けたのかなと思った。

「ごめんなさい。昨日は別のご用事があって来れなかったんです」

ボクが謝ると、ディートハルト兄様は少し慌てた様に首を振った。

「いや、約束していた訳じゃないし、リエトも用事がある事だってあるよね。僕が勝手に来るものと思い込んでいただけだから、謝らないで」

そうは言いつつ、目の色が何だか暗い。

ボクは別に約束している訳じゃないのだから、わざわざ行くも行かないも伝えなくてもいいと思ってたけど、確かに毎日会っていた人が急にいないと心配するかも、と思い直す。

「来れない時は今度からお伝えしますね。えーと……」

言いながら視線をディートハルト兄様の後ろのアードリアンに向けるが、すいっとよそを向かれた。ぐぬぬ。

「そうだね、それだったらアードリアンか、筆頭従者の名前がゾーイって言うから、そのどちらかに言付けて。僕から言っておくから」

「はい、分かりました」

兄様の目に光が戻ったし、これでディートハルト兄様陣営への伝手も出来たね、良かった。

それにしても、ディートハルト兄様がボクと図書室で会うことをルーティンに入れているとは思ってなかったな。それだけボクが毎回ディートハルト兄様に教えてもらったりして、ご迷惑をかけていたってことで申し訳ないね。

あ、でもそれなら……。

「兄様、ボク今日は少し早めに図書室を出なきゃいけないんですけど」

「え、そう、なんだ……。じゃあ今日は簡単な本に……」

「兄様もこの後空いているなら、一緒に行きません?」

「という訳で、ご存じだとは思いますが、ディートハルト兄様です」

ボクが手の平でディートハルト兄様を指してご紹介すると、目の前の人物はキラキラの緑の目をぱちくりした。

ボクはくるりと向き直し、今度は目を丸くしているディートハルト兄様に向かって紹介する。

「ディートハルト兄様、こちらエアハルト兄様です」

そんな訳で、温室にてエアハルト兄様とディートハルト兄様と3人でお茶会をする事になった。

兄弟で紹介し合うっておかしな図なんだけど、ボクはエアハルト兄様とディートハルト兄様がどの程度交流なさっているか知らないからね。

何事も、足りないよりもやりすぎの方がいいと思うのだ。

一方向い合せた兄様2人と、それぞれの護衛騎士は頭にいっぱいはてなマークが浮かんでいた。

「り、リエト。ご用事って、エアハルト……様、とのお茶会だったの……?」

戸惑いながらも訊ねてくるディートハルト兄様にうなづいていると、エアハルトお兄様も我に返った様で問いかけてきた。

「リエト? 僕は君とおしゃべりするって約束していたと思うんだけど、どうして別の人を連れてきたの?」

エアハルト兄様のお言葉に、ディートハルト兄様はサッと青ざめた。

第三妃の王子であるエアハルト兄様と、元平民の側妃の王子であるディートハルト兄様とでは、完全にあっちが上だ。

その上ボクが許可なく連れてきた現状なので、ディートハルト兄様は言わば『招かれざる客』状態だ。

でも、だからこそなのだ。

「ディートハルト兄様も派閥争いには関係ないので、エアハルト兄様とも楽しくおしゃべり出来ると思いました!」

「へ?」

ふたりの兄様が、同時に目を丸くして同じ音を口にした。

「エアハルト兄様は派閥争いとかに関わらないボクとおしゃべりするのが楽しいって言っていたので、ディートハルト兄様もそうだなって思って」

とりあえずテラスへ……とエアハルト兄様の従者のセレスタンに促され、急遽追加されたイスと共に席に着いたボクは、改めて説明をした。

エアハルト兄様は、ちょっと納得がいっていないのか、笑顔だけど目の光が消えかけている。

ボクはディートハルト兄様の方を向いて更に続けた。

こちらも若干目が死んで、俯きがちだ。

「ディートハルト兄様! エアハルト兄様はすごいんですよ、本には載っていない様なことをたくさん知っていて、おしゃべりもお上手なんです!」

「あ……そうなんだ、すごい、ですね……」

明らかな愛想笑いで絞り出す様に答えている。

「平民上がりの商売人の息子かぁ……確かに、派閥争いには絡んできそうにはないね」

エアハルト兄様がそう言うと、ディートハルト兄様は膝の上の手をぎゅっと握り締めた。

「でも商売人だからね、どんな汚い事をやってくるか分からないからあんまり付き合いたくないんだよね。リエトの所はそういう裏工作とか、考えもしなさそうな人ばっかりだからいいんだけどさ」

それってボクの母様おじいさまの事を『政治が出来ないバカ』だと言っていますね?

その通りなんですけどね!

ディートハルト兄様の目はどんどん死んでいくし、アードリアンの目つきも悪くなっていって、とっても雰囲気が悪い。セレスタンもお茶を出すかどうか迷っている感じだ。

だからボクは、思いきり笑った。

「やだな、エアハルト兄様! 汚い事なんて王族貴族でもするじゃないですか~」

むしろ王侯貴族の方が権力とか使って陰湿そうだよね!

そりゃあディートハルト兄様のおじいさまは、国一番の商人と呼ばれるくらいだから、色んな裏工作とかもして来たんだと思う。じゃないと爵位をもらった上に、娘を王の側妃にするなんて無理でしょ。

ボクがきゃらきゃらと笑っているのを、エアハルト兄様もディートハルト兄様も目をぱちぱちさせて見てる。

「…………確かに、それもそうだね」

エアハルト兄様がぽつりと言うと、従者と騎士がギョッとして見ている。

何だろう?

この空気読みマスターのエアハルト兄様が、自陣の汚い所業に気付いていないとでも思っていたのだろうか?

ディートハルト兄様の方はまだ戸惑って、視線が落ち着かない。

「どれだけ汚い事をやろうが、元商人の側妃の子の代くらいじゃ、うちに干渉すら出来なさそうだし、いいかな」

「ディートハルト兄様、エアハルト兄様はヘルシュプルング家の教えにのっとったお考えでしゃべられているだけで、たいはないんです」

エアハルト兄様の物言いに、一瞬目が曇るが、ボクが事実を述べると、ふっと体の力を抜いた。

そうなんだよね、この2人って、立場は少し違うけど、似た境遇なんだ。

親や親族の見栄やプライドのために、偏った思考と教育を植え付けられて自我を抑え込んでいた者同士、気が合うと思ったんだ!

それにエアハルト兄様は「派閥争いが絡まない相手」を欲しがっていたし、ディートハルト兄様もお家が貴族社会では新人だから、由緒正しきヘルシュプルング家のエアハルト兄様から学べることはたくさんあると思う。

貴族の常識とかって、なかなか本だけでは学びきれない、暗黙のルールとかもいっぱいあるんだよね。

「おふたりとも学ぶのがお好きだから、気が合うと思ったんですよね」

ボクがセレスタンがおそるおそる出したクッキーを頬張りながら言うと、ふたりはボクを見た後、お互い顔を見合わせ、ふっと笑った。

「まぁいいか」

「リエトが、そう言うなら」

こうして改めて、王子3人による温室お茶会バージョン2が開催された。

主塔の2階、立ち止まって廊下の大きな窓から外を眺めるノエルに気が付いたクルトが、足を止めて振り返った。

「どうかなさいましたか? ノエル様」

問われたノエルは、ふいと視線を前に戻し、何でもないと言って歩き出す。その後ろから、護衛騎士であるローレンツはノエルが見ていた先に目を向けると、中庭が見えた。

その中の温室から、小さな子供たちが出てくる。

視線をノエルに戻すと、もう何の名残もなさそうに進む小さな背中に話しかける。

「そうだ、ノエル王子。アシャシュ侯爵がいらっしゃると聞きました?」

「ローレンツ、その話はナターリエ様から……」

クルトが窘めてくるが、笑っていなす。

振り向いたノエルの顔は少し嬉し気に見える。まだ7才だというのに、母親に似たのかつんとした顔が多いこの王子には珍しい表情だ。

「ブノワ大叔父様が?」

「はい、使者として近々いらっしゃるそうです。お会いするのは久しぶりですね」

「ふぅん……」

素直じゃない反応だが、嬉しいのだろう。

「まったく……今夜にでもナターリエ様からお伝えする予定だったのに、余計な事を」

クルトはぶちぶちとお小言を言ってくるが、それをするーしながらローレンツは、ノエルの反応を注意深く見た。

そして、もう一度窓の外に目を向ける。

3人の王子たちは仲良さげに中庭を駆けていく。

その中の、懐かしい色合いの一番小さな王子を目で追う。

少しずつ、均衡が崩れていくのを感じながら。