軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42.転生王子、モテを学ぶ

温室に顔を覗かせると、すぐ見える距離にいたエアハルト兄様が、パァッと顔を輝かせて駆けてきた。

「リエト! 来たんだね」

キラキラニコニコで話しかけてくるエアハルト兄様の後ろから、いつもの目つきの悪い騎士がこちらを睨んでいる。

今日はそれに加えて、従者もいた。薄い茶と銀を混ぜたような色の髪……アッシュっていうのかな?で年齢はイェレと同じくらいっぽい。

こちらを見ていると言うよりも、全体を眺めている様な視線だ。

「ここで会おうって言ってたのに、全然来ないんだもの」

キラキラ美少年の少し拗ねたような顔というのは、とても魅力的だ。

なるほど、格好をつけるばかりではなく、こういった表情も大事なんですね兄様!勉強になります!

「ごめんなさい兄様、ボクからはご連絡出来なかったので」

本当はすっかり忘れていたんだけど、ボクもしおらしい感じでそう言ってみる。

目つきの悪い騎士をチラリと見たら、思いっきり睨み返された。彼を通じてだと絶対連絡握りつぶされていたと思う。

「あ、そっか。セレスタン、リエトの所と連絡とれるようにしといて」

「かしこまりました、エアハルト様」

あの従者の名前はセレスタンというらしい。名前の響きがアルダっぽいなと思いつつ、エアハルト兄様にいただいたカードを思い出す。

「あ、エアハルト兄様カードとお花ありがとうございました!」

ちょっとの待ち合わせでも、あんな素敵なカードとお花を添えられたら、女の子メロメロ間違いなしだよね!オシャレな兄様に尊敬のまなざしを向けると、兄様もニコってキラキラ笑顔を返してくれた。わーこれはモテる!!

「リエトの好きな花が分からなかったから、僕の好きな花だったけどよかった?」

「はい、今の所特に好きなお花はないので大丈夫です! あの花は兄様がお好きなお花だったんですね。それにカードも良い匂いがしました。あれはどうやっているんですか?」

なるほど、添えるお花は基本は相手の好きなお花!

分からなかったら自分の好きなお花もアリと!心のメモに次々書き記していく。

「え、そうなんだ。カードは香水を振りかけたんだよ。でも元々花を刷り込んでいる紙とかもあるよ」

へえええ!!

エアハルト兄様は、ご本やディートハルト兄様から教わるのとは別に事をたくさん知っている。すごいや、めちゃくちゃ勉強になるよ。

「エアハルト様、こちらにお掛けになってお話されては?」

さっきの従者、セレスタンがフィレデルス兄様がいつも座っていたバルコニーへと誘う。

当然だけど、そこにフィレデルス兄様もイェレもいない。

ついでに、フィレデルス兄様がいた時とは違うテーブルと椅子がある。わざわざ入れ替えたのだろうか。第二妃陣の持ち物を使うのはよくないのかな。

そうなると、どっちも座っていいのだろうかボクが。

でも席を勧められたので、遠慮なく座ることにした。

セレスタンがお茶を入れてくれて、ベディとあの目つきが悪い騎士は少し離れた場所で周囲を警戒していた。

「リエトは温室に入り浸っていると聞いたから、てっきり花が好きなのかと思っていた」

イスに座った後、エアハルト兄様がそんな事を言った。

あ~それでお花を添えてくれたんだ。

ボクが温室に入り浸っているのは、毒がある植物探すためですけどね!

でも女の子はお花が好きな子が多いと聞くし、もっと効用だけじゃなくて種類自体を勉強した方がいいかも。

それこそ、エアハルト兄様みたいにさり気なく「君が好きなお花だよね」ってプレゼント出来るし。

「う~ん、お花そのものに興味があった訳じゃないですけど、今日エアハルト兄様に頂いたお花がとてもきれいだったので、お花のことも勉強していこうと思います!」

ボクがそう言うと、エアハルト兄様は緑の目をぱちくりした後に、クスクスと上品そうに笑った。

「リエトは勉強熱心だね」

「はい! 色んなことを知るのが好きです!」

「そっか、そうだね。前もそう言ってたね」

さすがエアハルト兄様。ちゃんと相手が話したことを覚えている!

「兄様は温室を見に来られたんですよね?」

ボクもあの時話したことを思い出しながら言うと、兄様が笑う。

「それもあるけど、リエトとおしゃべりしたいのが一番だったよ」

ひぇえ~~~!

こんな事をこんな顔で言われたら、どんな女の子もメロメロになっちゃう!

メモメモ~!

セレスタンがお茶をエアハルト兄様の前に置いた後、ボクの前にも置いてくれた。

ボクもいいの?とセレスタンを見上げると、目が合った。

「あ、そうだ紹介するね。僕の従者のセレスタン」

エアハルト兄様の明るい声に押される様に、セレスタンは簡略的な礼をした。

「セレスタンとお呼びください」

あ、フルネーム名乗らないんだ。

「あとオルフィエルも紹介したかな? オルフィ、挨拶して」

多分紹介された様なされていない様な……と思い出そうとしている内に、エアハルト兄様に声を掛けられたガン付け騎士が、渋々といったていでボクの前にやってきた。

「エアハルト殿下の護衛を務めております、オルフィエル・ツア・シューレンです」

そう言って騎士の礼をした。

ボクのことは嫌いそうなのに、礼をちゃんとしたことに驚く。前回は無視された気がするから、どういう心境の変化ってやつだろうか?

それにしても、名前がみっつあったね。

ちなみにボクの名前もリエト・ヴァルテ・ハームビュッフェンっていってみっつあるやつなんだけど、これは王族だから真ん中に国名が入っているんだ。ハームビュッフェンは王家の家名だよ。

だからってオルフィがどこかの王族なのかと言ったら、違う。

確かヴァルテの北部の方で、民族名を入れる地域があったと聞いた事があるから多分それだと思う。

あれ?

それだったらもしかして、ベディの故郷のクバラと近いのかな?

考えていたら、オルフィの後ろに見えるベディがソワソワしているのが見えた。

あ、そっか。

「兄様、ボクの護衛もご紹介しますね! ベディ、あいさつして」

ボクが呼ぶと、ベディは名前を呼ばれた犬みたいにパァッと明るくなって、その後キリっとしたお顔になった。あいさつの時はこの顔って決めてるみたい。

「リエト殿下の護衛を賜りました、ベネディクテュスと申します」

きちんと跪いて騎士の礼をする。うんうん、大分板について来たね。

「ああ、ルベルの兵士だったってこの間言ってたね」

そうそう、前回ここでラウレンス兄様も合わせて3人でお茶会をした時に、ラウレンス兄様が言っていたね。

「ルベルの兵士でも騎士の挨拶って出来るんだね」

あ、久々に来たエアハルト兄様の悪気のない剛速球。

マルガレータ様陣営では、ルベルの兵士はあいさつも出来ないと言われているんだろうな。思い出したけど、前回あいさつしなかったのはオルフィの方だったよね。

「ベディは最初から真面目だったし、教えた事はちゃーんと覚えてあいさつも上手なんです」

見た目は野良犬みたいだったけど、ボクとメリエルでピカピカにしたしね!

「所詮は未開の地から出てきた辺境探索部隊の者です。エアハルト王子はあまり関わり合いになられない方がよろしいかと」

うわーすごい事言うなこの騎士。

由緒正しき血筋の王子殿下に、ベディみたいな野生児を近付けるなってそんな……そんな……?うん?考えてみたら別に普通のことしか言っていない気がした。

エアハルト兄様が王子である事も、ベディが野生児なのも事実だしな。

そもそも敵陣営の人間に近付けさせたくないって気持ちもそりゃそうだ。

「あ、じゃあおいとまします?」

「えっダメだよ! もうっ、オルフィ余計な事言わないでよ!」

そういうことなら帰ろっかって提案したら、エアハルト兄様が慌ててボクを止めてオルフィを叱った。オルフィはボクを睨む。なんでさ。

「リエトは僕とおしゃべりするの! 大体テレーゼ様の所なんてうちと比べて相手にならないんだから、気にせずに仲良くしようよ!」

うん、それってボクやボクの母様の立場が底辺すぎるから、派閥争いにも関係ないでしょってことだね。まぁそうなんだけど。

「エアハルト兄様はもう派閥の事とか考えられているんですね」

大変だなぁ、と思って言ったら、セレスタンがギョッとした顔をしてた。

「もーだって皆が毎日そう言う事言ってくるんだもの。どこの王子が王太子に近付いた~とか、どこの陣営の大臣が功績を上げたから~とか、聞き飽きたよ」

は~とエアハルト兄様は、キラキラ美少年のお顔のまま椅子に背を付けてため息を吐いた。

派閥争いの渦中にいるのも大変なんだなぁ。

「その点リエトは関係無いからね! 安心しておしゃべり出来るね!」

「あはは」

品格が落ちるとかは言われてるっぽいけどね。

「でもオリヴィエーロ兄様の所も由緒正しいヴァルテの血筋だから、そことは敵対していないんじゃないんですか?」

ふと思った疑問を投げかけると、セレスタンが食器を落としそうになってわたわたしていた。大丈夫かな。見かけによらず、結構ドジっ子なのかな。

「うーん、そうもいかないんだよね。もちろん家柄的にもあちらが上だし、何てったって正妃様だけどね、ヴァルテ内でも色々あるんだよ」

「そうなんですね~。ノエル兄様の所は従者内でもバチバチでしたけど、オリヴィエーロ兄様とエアハルト兄様の所だったら従者同士仲良いと思ってました」

同じヴァルテ国出身で、同じ王宮勤めで、似たような経歴だろう。それこそ、そこかしこにアカデミー時代の同級生とかいそうだ。

「同じだからこそ、派閥争いになるんだよ。誰に付くかで自分の出世が変わってくるから、従者や騎士達もその辺はシビアに見てるだろうし。ねぇ?」

エアハルト兄様に笑顔で同意を求められても、二人の騎士と従者は無言だった。

そっか~そういうのがあるのか。

マチェイ先生とかベディみたいに、他から求められる事なく選択肢が無いことの方が少ないんだね。優秀な人材の奪い合いもあるのか。うちには関係なさそうだけど。

「それこそ、アルブレヒト兄様のところのエリーアスくらいじゃない? そういうの無いのって」

「エリーアス?」

「知らない? アルブレヒト兄様の従者で、幼なじみの乳兄弟なんだ。兄様より三つ年上なんだけど、ずっと一緒だよ」

そう言えば、アルブレヒト兄様と街でお買い物をして帰って来た時に、若い従者が来た気がする。結構不敬な態度でアルブレヒト兄様を怒っていたから、幼なじみと言われてなるほどと納得できた。

「信用できる人がそばにいるのはいいですね」

「ほんとだよね、僕にもそういう人を付けてほしかったよ」

残念そうに言うエアハルト兄様越しに見る、エアハルト兄様の騎士と従者は、今日見たマチェイ先生みたいな顔をしていた。

ボクとベディや、ディートハルト兄様とアードリアンみたいに、育んでいく関係っていうのもあるとは思うけれど、今の所エアハルト兄様にその気は無いみたい。

あ、そういえばエアハルト兄様に指定された時間が早かったから、今日は図書室に寄らなかったんだけど、ディートハルト兄様は今日も図書室で本を読まれているのかな。

ディートハルトは本を読みながらも、そわそわと何度も図書室の入口を見てしまう。

今日は末弟のリエトが来ていないのだ。

別に約束しているわけではないのだが、ほぼ毎日会っていたので会えるのが当然だと思ってしまっていた。

今日は他に用事があるのだろう。

もしくは、普通に別の所で遊んでいるのかもしれない。

そう自分に言い聞かせても、どうしても入り口を気にしてしまう。

その時、図書室の扉が開き、小さな影が見えた。

「!」

ガタっと思わず立ち上がるが、視界に入ってきたのは青灰色の丸い頭ではなく、金色に輝くサラサラ髪だった。

「……何?」

「……別に」

生意気そうな紫の瞳でこっちを睨んで聞いてくる、かわいくない方の弟に訊かれ、ディートハルトも表情を失くして、言葉少なに答えて座り直した。

(今日はもう、来ないのかな)

諦め半分に、視線と意識を本に向けようとしたが、金色の髪が視界の端にチラつく。

動向を見守ってみると、ノエルはキョロキョロと辺りを見渡し、図書室をぐるりと一周すると、本の一冊も手に取らず出て行った。

「何しに来たんだ……あいつ」