軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40.転生王子、平民からの評判を聞く

「それはローレンツ・ベルレアン様ですね」

図書室から戻っておやつを用意してくれたボクのメイドさんが、知った風にその名を口にした。

「メリエル、知り合い?」

おやつのカスタードが入ったロールケーキを頬張りながら聞くと、お茶を入れながらメリエルが答える。

「知り合い、と言うと語弊がございますね。こちらが一方的に知っているだけです」

紅茶にはミルクと砂糖をたっぷり。みそっかす王子だけど、この辺はブルジョア~だなと思う。

「ローレンツ様は以前オーバリで男爵様に師事いただいていた事もある騎士様です」

「あ、やっぱり? 何か色合いとかオーバリの方っぽいなと思ったんだ」

オーバリは東にある農業と牧羊が盛んな土地だから、領民はみんな朝から外で仕事に励む。そのせいか王都の人たちより少しだけ日焼け肌傾向にあるのだ。

母様も少女時代は野山を駆け巡っているおてんば娘だったって、おじいさまや母様のメイドのマルヤが言っていた。

王宮入りしてからは、ドレスに日焼けした肌が合わないとかで、一生懸命おうちにこもってお化粧をしているみたいだけど。そうは言ってもエデルミラ様は肌の色が濃くていらっしゃった上でお綺麗だから、それぞれ似合うドレスがあるのではと思うのだが。

どうも母様は、側妃棟でよくお見かけするせいか、ナターリエ様にひそかに憧れている節があるっぽいんだよね。

ナターリエ様は生粋のお姫様だし、何よりも『白』を重要視されるアルダ国のご出身だから、あれを目指すのは違うと思うんだけどなぁ。

ボクはきっと、未来のお嫁さんにはお嫁さんのいい所をたくさん見つけて伝えられる様になろうと思うよ。

それはともかく、話題はローレンツだ。

「そっかぁ、おじいさまに師事を受けた騎士は大体母様の騎士を希望されるのかと思っていたけど、違う人もいるんだね」

「テレーゼ様がお輿入れされたのは五年前ですから。それにテレーゼ様付きになれる騎士は四人ですよ。狭き門すぎるでしょう」

確かに、うちの陣営は人が少ないからねぇ。と思っていたら、ベディが不思議そうに口を挟んできた。

「坊ちゃんの護衛になればよかったじゃねぇか」

ボクとメリエルは多分、同じ顔をしたんだと思う。

へって小さく口角を上げる表情だ。

「何なんスか二人してバカにした様な顔をして!」

「いや~ベディは本当に忘れっぽいなぁと思って。貴族名鑑ももう忘れてない? 大丈夫?」

「そこは毎日抜き打ちテストをしておりますので問題ございません」

「毎日やるのは抜き打ちって言わねぇんだよ!」

「内容が抜き打ちでございます」

さすがボクのメイドさんだ。抜かりない。

ベディの今後のお仕事への支障がなさそうな事に安心しつつ、話を戻す。

「ベディ、ボクの護衛になる時に同僚に何て言われたか思い出してみなよ」

「へ? あ――……」

ベディは、ボクが毒殺されかけた事で母様が上に掛け合って、無理やり就けてもらった護衛兼毒見だ。

元々は平民出身者が多い 赤軍(ルベル) の方で遠征探索部隊にいたから、あんまり王族のことを知らないままに護衛を受けちゃった後、同僚から色々教わったらしい。

何を言われたかはまぁ、大体想像がつくから特に追及していないんだけど、それであの初対面の態度だったわけだ。

「別にベディを責めているわけじゃないよ~。多分母様の態度も悪かっただろうし」

本人を目の前にして「蛮族」とか言ってたもんね。

気まずそうなベディに言うも、本人の目線はキョロキョロとしている。

え、待って、もしかしてボクの予想よりもひどい事聞かされてる?

ま、まぁともかくそんな訳でようやく付けてもらえた位の護衛である。

恐らくだけど、王族が社交界に顔見せをし始める7才になるまで、王宮はボクに護衛を付ける気は無かったんだと思う。

護衛がいないと、外にも出られないから面倒事も起こらないしね。下手したら、公事の時だけ隣人の騎士を付けて、アカデミー入学まで……だった可能性もある。

第一に母様がボクの護衛だとか世話係だとかをちゃんと用意しようとしていなかったのが原因なんだけど。

母様は基本的にボクを産んで側妃入りしてからは、ボクよりとにかくお父様からの関心を買いたい、他の妃たちに負けたくない、って事に夢中だ。何せ田舎のおてんば娘が大した後ろ盾もなしに王の側妃に無理やり入り込んだのだ。いくら努力しても足りないし、周囲の目も厳しくて必死だったんだと思う。当時母様は16歳とかだしね。夢の中の世界では立派な未成年だ。

いや、こっちの世界でもアカデミー在学の年齢なんだけど。こういう場合は休学して、その間に自宅学習っている特別措置があるんだって。

まぁそんなわけで、育児なんてしている暇ないよね。そもそも貴族や王族の女性は、自分で育児をしないんだけど。

それでも、王子の教育や従者選びは側妃として大事なお仕事……なんだけどねぇ。

王宮からの扱いが悪い上に、他陣営からのジャマも入るし、さらに立場的になかなか人員を集めるのも難しい。

今回で言うと、あそこで大義名分も出来たんだからまずはおじいさまに訴えれば、騎士団からいい人をって言うか、ちゃんと騎士と毒見両方雇えたかもしれないんだけど……。

感情的になって大臣に直訴しちゃったらしいから他の陣営に付け込まれた。

あ、ベディが護衛になってくれたのは喜ばしい事なんだけどね!

ベディに不満があるとかじゃないよ、もちろん!色々勉強して頑張ってくれていると思うし。

「いや、あの、俺がいた十五部隊は基本的に遠征で僻地にいて、王宮内や王族についてよく知らない奴ばっかだったんで!」

ベディが慌ててフォローしてくれているけど、それって王族に詳しくない……平民の間では大体そういう認識ってことだよね?

この間の踊り子さんの解毒をした事でちょっと評判は上がったとは聞いたけど、これは……平民のお嫁さんとの出会いにとっては、ゆゆしき問題なのでは!?

ボクの立場上、お金持ちの平民との結婚も全然ありうる。アンネ様パターンだね。

まずは自分磨きをと思っていたけど、こ、これはイメージアップ作戦を考えなくてはいけないのでは!?

「十五部隊では、どのように言われていたんですか?」

ボクが考え込んでいるうちに、優秀なメイドさんがベディに聞いてくれるが、ベディはボクを気にしてか言いよどんでいる。

「教えて、ベディ。今後のために必要なんだ!」

「う……ええ、と……だ、第八王子は王家の血筋じゃないかもしれない……どこの種かも分からないのに、前騎士団長のごり押しで側妃になったア……いや、えー……ず、図々しい家系だとか」

何か言いかけて止めたけど、それを言い直した言葉が「図々しい」だから、相当悪い言葉なのだろう。

でも良かった!

評判的には、血筋の事が問題みたい!

たしかにね、父様と母様のひとなつのランデブー?は 避暑地(オーバリ) で行われていたし、その前後は何もなかったのだから、疑われるのも仕方ないよ。

何せ王様、王族なのだから簡単に受け入れられるわけにはいかない。

そこを言うと、王様が避暑地で簡単に貴族の娘に手を出すなよって話なんだけどね!

「坊ちゃん……その、俺は信じてますから!」

ボクが黙っていたのを落ち込んだと思ったのか、ベディが励まそうとしてくれるけど、ノーダメである。

「あ、うん。母様は夢見がちなお嬢さんだから、父様以外の可能性はボクも無いと思ってるよ」

5年経ってもまだ恋する少女な母様だ。

母様のことをちゃんと知っている人から見たら、他の男の子供なわけはないんだけど、それを皆に信じろと言うのも難しい。

「ボク自身の悪い噂じゃないなら、全然いいよ! 血筋の問題は証明がむずかしいけどね」

夢の中の世界なら、いでんし?とかで親子かどうか調べる事が出来たけど、ヴァルテにはそんな技術はない。ない……のかな?

色々お勉強はしているけど、ボクだってすべてを知っているわけではない。もしかしたらあるのかも?

いや、でもあったら王家の血筋のことだから、既に使われているはず。

でも、親子鑑定まではいかなくても、それに近しい技術があったりするかも?

ちょっと調べてみようかな。

王族証明はどちらでもいいと言えばいいんだけど、未来のお嫁さんが王族のボクが好きかもしれないから、王族証明が出来るに越したことはない。優先順位は低めだけど、これも未来のお嫁さんのためにする事リストに追加しておこう!

「坊ちゃんって……」

「真似できない前向きさですね」

メリエルに褒められているのか呆れられて言うのかわからない感想をもらいながら思い出す。

「そういえば、クルトのことはメリエルは知らない?」

アルダとヴァルテに板挟みになっていた、あの人のよさそうな従者を思い出しながらたずねると、メリエルは当然とうなずいた。

「ノエル王子の筆頭従者ですから、もちろん情報は集めております」

「え、情報?」

「リエト様が自分で出来ることが増えましたし、ベネディクテュスさんと一緒の事が増えましたから、その時間を情報収集に使っております」

事も無げに言う優秀すぎるメイドさんに、ボクは腹の底から声を出した。

「ちゃんと休もうよ~~!!!」

人の陣営の心配をする前に、うちの労働環境を改善しなきゃ!!