軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

39.転生王子、アルダのご本を読んでもらう

まさかそんな冗談でしょって思ってたら、本当にノエル兄様はアルダのご本を読む気みたい。

どう言う風の吹き回しだろう?

イスに座って隣にボクを座らせたノエル兄様は、ハキハキとした声でアルダの本を読み始めた。

マチェイ先生に習うアルダ語よりも発音がキレイだ。これがネイティブってやつなんだろう。

「ちゃんと聞いてるのか」

感心していたら、キッと睨まれた。

「あ、ごめんなさい! すごくキレイな発音だから聞き入ってました!」

「……ならいい」

プイッとされたが許された様だ。よかった。

「あ、白いお馬さん! アルダでは白い動物は神聖なんですよね?」

さっきマチェイ先生に教えてもらったことを言うと、ノエル兄様がチラっとこちらに紫の目を向ける。

「ふぅん、そのくらい知ってるのか」

「はい、このご本の前にも少しアルダのご本を読みました」

改めて説明すると、アルダ国はヴァルテのお隣に位置する。

国土面積自体はあまり大きくなくて、戦争でどんどん領土を広げたヴァルテの四分の一程度だし、すごく高い山があって住める面積はもっと少ない。その上海に面していないので、海運もやっていない。

でもヴァルテが出来る前から存在した国で、その歴史は長く、近隣国でも一番だ。ヴァルテとはお隣さんなれど、いくらでも領土を広げたいヴァルテと自国の歴史を重んじるアルダで仲が良いはずがない。

だからお隣さんなのに、結構文化的な面で見ると違ったりするのだ。

アルダでは白い動物を神聖な生き物と見なすのでわかるように、アルダ国民はとても信仰深いみたい。それとは別に、王家の人気も高いらしいから、王家と宗教も上手くいってるんだろうね。

まぁナターリエ様とノエル兄様を見たら分かる通り、アルダ王家は芸術的な美形揃いだからってのもあるのかも。誰だって美しい人は好きだもんね。

それでノエル兄様が読んでくださったアルダのご本の内容をまとめると、主人公の男の子が白いお馬さんに案内されて楽園にたどり着くお話だった。

旅の途中で他にも白い生き物が出てきたり、人に会ったりの冒険をして男の子自身も成長していく。

神聖な生き物に導かれて様々な出会いを経て楽園へ…………

(これってもしかして、アルダの王様になるお話かな?)

最後の楽園の後ろには、高い山が描かれている。

アルダの王城は高い山のすぐそばだって、前にディートハルト兄様が言っていたから、多分そうだ。

「ちゃんと理解できたか?」

「あ、はい!」

ボクがぼんやりと考えていたので、ノエル兄様はちゃんと聞いていたのか心配になったみたいだ。慌てて返事をするも、眉間のシワは取れない。

(あ、そっか)

「とっても面白かったし、絵がとてもキレイですね!」

「ふん、まぁな」

感想待ちで合っていた様だ。

元々はノエル兄様の本だし、アルダのことが書いてあったら感想が気になるのも分かるよ。

でも本当に、ノエル兄様が貸して……あ、くれてたんだっけ、くださった本の絵はすごくキレイなんだ。

色づかいって言うか、色彩?が今まで見た事がない感じで、もしかしたらアルダ特有の絵なのかもしれない。

こういう、国独特の文化っていうのはその国の人には大事だろうから、大事にしないとね。未来のお嫁さんが違う国の人の可能性もあるからね!

「!」

少し離れた所に控えていたベディが急に動いた音に、ボクは顔を上げた。

見ると、ベディと遅れてアードリアン、それから最初からノエル兄様の近くから離れなかったノエル兄様の護衛騎士が全員視線を図書館入口の方を向いている。

つられてボクやノエル兄様、ディートハルト兄様も図書館入口の方を注目する。

しばらく経つと、一人の騎士が入ってきて、ボクらを見て目を丸くした。

「おお。何ですなんです皆して。大注目じゃないですか」

二度ほどまばたきをした後、切れ長の目を細くして、嫌味じゃない感じで笑う顔は人好きしそうな雰囲気だ。

「ベルレアン、何の用だ」

ノエル兄様の護衛が鬱陶しそうに声をかける。

「何の用も何も、交代時間になっても戻ってこないから探しに来たんだよ」

「あ、そうです時間!」

新しく来た騎士の言葉に、従者の方が慌てて懐中時計を見る。

どうやらノエル兄様の護衛騎士の交代時間だった様だ。

騎士が複数いると当然交代制だ。

うちみたいに一人だけで付きっきりなのがおかしいんだよね!

そもそも騎士の仕事は護衛だけじゃない。

ベディも言っていたけど、鍛錬も仕事の内だから多分だけど護衛として付いている時間とは別に、結構な時間を鍛錬に当てるのが普通みたい。

だから1日の内に2人か3人で交代するのが普通だ。

その交代時間が、ちょうど今だったって事みたい。

「これはディートハルト王子にリエト王子。ご歓談中に失礼いたしました」

そう言って綺麗な所作で礼をするのだから、ディートハルト兄様のこともボクのこともバカにする気はなさそう。

それより何か親近感が湧くな、と思ったら、顔を上げたその騎士と目が合って分かった。色合いだ。

薄青色の髪に灰色っぽい目で、少し黄みがかった肌をしている。ボクの母様の故郷である東の方の色合いだ。

という事は、彼はヴァルテの東の方の出身なのかもしれない。

つまりは、ヴァルテ側の護衛騎士という事だ。

「私、ノエル王子の護衛騎士を務めさせていただいております、ローレンツ・ベルレアンと申します」

膝を折って挨拶をするローレンツに、あの気のよさそうな従者も慌てて駆け寄ってきて膝を折る。

「ノエル王子の筆頭従者を務めております、クルト・ブラヴェと申します。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」

苦労してそうな感じだと思ったら、筆頭従者だったらしい。筆頭と言ったら、まとめ役だ。夢の中の世界で言うなら「チーフ」とか「バイトリーダー」が当てはまるのかな?

なるほどこれは……わざとらしいまでにそっぽを向いている体格のいい騎士に必死にアイコンタクトを送りながらもこちらを窺う様子を見る限り、見事な板挟み状態のようだ。ドンマイ!

「あの、あちらの騎士は以前に挨拶を……」

「いいえ」

「ううん、してないよ」

ディートハルト兄様とボクが首を振ると、ますます青い顔になる。しかし騎士は動かない。

「申し訳ございません」

「大丈夫だよ、慣れてるし」

実際問題、つい先日も挨拶をしない騎士に会ったし。

ねえ?とアードリアンを振り返ると、にがぁいお茶を飲んだみたいな変な顔をしていた。

「彼はカジマール・バラボー。アルダから来たノエル様の護衛騎士です」

代わりに挨拶する事にしたのだろう、クルトが眉を下げつつ手で指し示す。もちろん礼などしないが、さすがにこちらを向いていた。

そう言えばカジマールって、ノエル兄様が言っていた気がする。そんでもって、やっぱりアルダの人だった。

ボクはニコって笑ってから、ベディを振り返る。

「ボクの護衛騎士のベディです!」

ベディも慣れたもので、礼をする。

「リエト殿下の護衛を賜りました、ベネディクテュスと申します」

うんうん、上手に挨拶出来るようになったね!えらいぞ、ベディ!

その姿を見て、ディートハルト兄様がアードリアンを振り返るが、こちらは不遜顔だ。

「ああ、君があの 赤軍(ルベル) の辺境探索部隊出身の。噂はかねがね! あ、アードリアンとは顔見知りだから紹介は結構ですよ、ディートハルト王子」

ローレンツは随分と情報通の様だ。

まぁ同じ側妃棟の護衛騎士同士だから、最近入ったばかりのベディはともかく、他の騎士達は顔見知りでも不思議ではない。鍛錬場とかも一緒だしね。

あ、その前のベディを人事にねじ込んできたのは多分ナターリエ様陣営の仕業だった。もしかしたら、彼らがその手回しに一役買っているのかもしれない。

ちなみにアードリアンは澄ました顔で、カジマールはまるでローレンツの声が聞こえていないかのような顔でノエル兄様の傍を離れない。

「ノエル様、申し訳ございませんがお時間ですので、お戻りください」

騎士の交代は自陣営でする予定だったという事は、ノエル兄様はこの時間は図書室にいる予定ではなかったのだろう。

ボクはマチェイ先生の授業以外は基本予定はなくて、自分でスケジュールを組んでいるんだけど、ノエル兄様やディートハルト兄様はまだアカデミー生でもないのにスケジュールがぎっしりの様だ。側妃の子とは言え、王子は大変だね。ボク以外。

「…………」

クルトに言われてもノエル兄様は、むぅと納得のいっていない顔をして、ボクに視線をよこす。

あ、そっか。

「ノエル兄様大丈夫です! 兄様に一度読んでいただいたので、あとは自分で勉強できます!」

ちゃんと一回で理解出来たのか心配だったんですよね?

全部を理解はしていませんが、一度お見本を見せていただきましたので、あとは自分で勉強がんばります!

「…………お前……」

七才にしてノエル兄様は綺麗に整っている眉をひそめて、何かを言いかけた時にふとボクの後ろに目を留め口を閉じた。

視線を追って振り向くと、ボクの護衛騎士が本を持っている。ラウレンス兄様からお譲りいただいたエステリバリの本だ。

「それ……ヴァルテの本じゃないな」

「あ、そうです! ラウレンス兄様からエステリバリの子供向けのご本をお譲りいただけたんです!」

こんなにたくさん!

とニコニコで答えたら、ガタっと大きな音を立ててノエル兄様がイスから立ち上がった。

どうしたんだろう?と思う間もなく、プイっとそっぽを向いて歩き出してしまう。

「戻るぞカジマール!」

「はい」

「あ、お待ちくださいノエル様っ」

「いやいや、カジマールはもう交代だって」

それぞれ声を出しながら、3人の従者と騎士が小さなノエル兄様を追いかけて行った。

何であんなに急に立ち上がったんだろう?

4人が去った出入り口をポカンと眺めていたら、ディートハルト兄様がソワソワしながらそばにやってきた。

「ねぇリエト。ヤントゥネンから珍しい本を取り寄せたんだけど、読んでみる?」

「え、いえ、ヤントゥネン語はまだ分からないので、今はアルダとエステリバリのお勉強を先にしようと思っています」

「そっか……」

ディートハルト兄様もしゅんとしてしまった。

そんなに見せたかったのだろうか、ヤントゥネンの本。寝食を忘れて読みふけっていたとかアードリアンが言っていたもんな。

でも兄様、五才児には外国語の学習は二か国でいっぱいいっぱいです。