軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37.転生王子、戦争の話を聞く

「セーフ!」

「うわっ! 何ですか騒々しい!」

ベディの超特急便でどうにかマチェイ先生の授業の時間には間に合った。でも王宮内を走ると危ないし、こうして怒られちゃうからね。キンキュウ時以外は控えよう。

ボクらが勢いよく部屋に入ると、先に来て学習準備をしていたマチェイ先生が珍しく猫背を反らせて驚いた。伸びるんだ、あの背中。

「遅刻しそうだったので、ちょっと急いじゃいました」

てへっとごまかしてベディの背から降ろしてもらう。

「本はどうします?」

「あ、置いていって」

マチェイ先生の授業の時間は、ベディは鍛錬の時間だ。

さっきヴィルデマールに貰った本は置いて行ってもらう。どんな本なのかも確認していなかったから、ちょっと見たいもん。

「そちらは……エステリバリ語で書かれた絵本ですね」

机の上に置かれた本の束に目をやって、マチェイ先生が言う。アカデミーを首席卒業した(15年前)マチェイ先生はエステリバリ語も堪能だ。

「はい、ラウレンス兄様におさがりしてもらったんです」

「エステリバリ王室御用達のエステリバリ産の本という事ですか! ほう! ほうほうほう……」

「……見てもいいですよ」

チラチラそわそわと本を見るマチェイ先生に声をかけてあげると、カッと目を見開かれた。

「! そ、それでは失礼して……」

エステリバリとは国交はあるとは言え、本はお高いし、何よりラウレンス兄様の持ち物という事は、エステリバリ王室が用意して送ってきた選りすぐりの本という事だ。ラウレンス兄様がそれをしっかりと活用したかは分からないけど。

マチェイ先生も何だかんだ言って学者さんだから、気になるみたい。

ボクもちょっと見てみると、全体的に海に関する本が多い。

「やっぱりエステリバリでは海のお話が多いんですね」

「エステリバリは海運の国で群島諸国ですからね。信仰の対象も海ですから、幼い頃から親しんでいるのでしょう」

やっぱりお国柄ってやつで、国によって色々常識は違うみたい。

自分の国の大事な事を軽視されたら嫌だもんね。しっかり勉強して、いつか他国に婿入りする様になってもいいようにしないと!

「あ、そういえば」

ボクは思い出して、今日の学習準備にメリエルに用意してもらっていた赤い絵本を手に取った。ノエル兄様からお借りしている、アルダの絵本だ。

「マチェイ先生、こっちのアルダの本で質問があるんですけど」

ボクがそう言って本を開くと、エステリバリの本に夢中になっていたマチェイ先生も気付いて向き直った。

「アルダの本? 図書室にあった物ですか?……それにしては見た事のない表紙ですね」「ううん、これはノエル兄様にお借りしたんです」

マチェイ先生ってば、まるで側室棟の図書室の本を全部知っているみたいな言い方だった。

「え! それではそちらも、アルダ王室からの!?」

ノエル兄様のお母上であるナターリエ様は、アルダ国の公爵の娘だから、そうかもしれない。

「うーんと、分かりませんけどノエル兄様のご本です」

「!?いつのまにそんなに他の王子達仲良くおなりになられたんです?」

え、仲良くはないよ別に。

確かに最近兄様方との交流は増えた。

フィレデルス兄様とディートハルト兄様には、いつもお勉強を教えてもらっていたけど、それだってたまたま一緒の所にいたから、ついでにって感じだし。

ノエル兄様にいたっては、相変わらずボクに会うと「フンッ」てそっぽ向かれる事の方が多いもん。

「本の貸し借りが出来るなんて、十分仲が良いでしょう」

たしかに、前だとノエル兄様から話しかけてくる事も無かったから、それもそうかと思うと同時に、マチェイ先生には本の貸し借りをするお相手が……っ(察し)

「何ですかその顔は」

「ナンデモナイデス」

いつものジト目に戻ったマチェイ先生が、憮然とした顔でボクを見て言葉を続ける。

「大体ですね、ノエル王子のお立場から見て、あなたは敵視されて然るべき存在なのですから、本を借りられるなんて奇跡でしょうに」

どれだけ本の貸し借りを重視しているのだろう。もしかして学生時代から憧れていたのだろうか。

「敵視? ナターリエ様が側室入りした後に父様がワンナイトラブした子だから?」

「わんなと? あー、言わんとする事は分かりますし、それもありますが、オラフ男爵のご令孫でしょう」

ああ、そっちか。

確かに、アルダの人にとって、ボクのおじいさまはにっくき相手である。

何と言っても、長きにわたるアルダとの小競り合いで活躍しまくった“英雄”なのだ。

「先生、国同士の戦争は騎士達の決闘をするんですよね?」

夢の中の世界みたいに民間人は巻き込まずに、国境か決まった場所で騎士同士で戦うんだって、以前里帰りした時におじいさまから聞いた。

その中のMVK……最優秀騎士がボクのおじいさま、オラフ男爵ってわけだ。

「それは今となっては少し古い戦い方ですが、ヴァルテとアルダ間に関しましては長年に渡って争っていますので、両国ともに被害を最小に抑えたい事からその形になっていったんです」

「あ、そうなんだ」

聞けば今は大将もいるが、もっと全体で戦うらしい。

おじいさまは、今は現役を退かれて領地で領主をしているが、十年くらい前までは王宮騎士団長をやっていた。

その時は「最強の騎士」なんて呼び声まであって、今いる騎士たちの間でもまだ憧れの存在なのだそうだ。だから母様を側室にねじ込めたんだけどね。

ちなみに50をとうに超えているおじいさまだが、いまだ筋肉隆々でボクなんて片手でひょいっと持ち上げて肩車をして猛ダッシュ出来るムキムキ具合だ。

「アルダとの最後の戦争で騎士団長を務められていたのもオラフ男爵でしたからね。結果、現王の姪御であらせられるナターリエ様が側室としてヴァルテにお輿入れされたのですから、それはそれは……恨まれているでしょうねぇ」

よりにもよって、側妃ではなく側室枠だもんね。

アルダの王室にケンカを売っているとしか思えない行為である。

でもそれも仕方ないんだよ。

ヴァルテ王室では妃は最大三人までって決まっていて、その時すでにヴァルテの公爵家ツェツィーリア様とエステリバリの王女エデルミラ様、ヴァルテのやり手侯爵家マルガリータ様で全て埋まっていたんだもの。

実際ヴァルテ王室もどうにか出来ないかと悩んだと思うけど、どの方を動かしても、絶対にめちゃくちゃ角が立つ事は安易に予想出来た。

その上アルダは敗戦国。

我慢をさせるなら、やっぱりここかってなったんだろうな。

「でもアルダの王族の誰かを人質に差し出すには、嫁入りが一番安全ですもんね~」

だから側室とは言え、王族入りの既成事実が作れる道をあちらも飲んだわけだ。

「! そ、そこまで理解されているんですね……」

マチェイ先生がぎょっとした顔でボクを見るが、ボクとしては周囲の人間の立ち位置を正確に把握するのが一番の生き残りの道だもの。そりゃあ勉強しますとも。

「してますよぉ。ナターリエ様もノエル兄様も難しいお立場だとは思いますけど、安全は確保されているんだから、もう少し楽しく生活すればいいのに」

ナターリエ様はいつお見かけしてもお綺麗なのに、不満気だ。

ノエル兄様も。何だかいつも怒っている。

でもボクと違って毒を盛られる事も、お散歩してて剣が飛んでくる事もないのだから、好きな事や目標を見つけて過ごされたらいいのに。

たとえば未来のお嫁さん探しとかね!

「そう簡単にはいかないのですよ……。リエト王子は幼くいらっしゃるから分からないと思いますけど」

なんて、マチェイ先生はため息交じりに言った。

「あそこの陣営は色々事情があるのです」

ナターリエ様の陣営には、アルダから来た人がたくさんいて、あの人たちは傍から見ていてもものすごい忠誠心だ。

2人がどんなワガママを言おうとキツイ叱責をしようと、何か嬉しそうな顔をしているのを何度か見た。ああいうのを『親衛隊』?て言うのだと思う。

確かに、ナターリエ様もノエル様もめちゃくちゃお美しいからね。

お美しい高貴な方から叱られるのは『ごほうび』なんだって、夢の中の世界では言われていたみたい。

しかしナターリエ様陣営は全部が全部、こういう人たちではない。

立場上側室ではあるけれど、アルダ国からの大事な人質なのでヴァルテの使用人や護衛騎士も同じくらいの数付けられているのだ。要は監視役だね。

同じ陣営内で、国も思惑も違う人たちがいるわけだ。大変だろうな~。特にまとめる人。

この場合は、ヴァルテ側の誰かになるのかな?