軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.転生王子、おさがりをもらう

オリヴィエーロ兄様の一団と別れて、温室に急いだ。もう温室は近くなので抱っこはなしだ。

別れる時、オリヴィエーロ兄様の見えない所で取り巻きたちが睨んでたりしたけど気にしない。オリヴィエーロ兄様も大変だなとは思ったけど。

立場がお強くて、沢山人がいるのも考えものだね。まぁ弱いと命の危機があるけどね!

それはさておき絵本絵本!

温室が見えてきた廊下のところで、見覚えのある人影が見えた。

「あれ? イェレだ」

あの印象的な青髪は、間違いなくフィレデルス兄様の執事のイェレだ。

となると、フィレデルス兄様も?と思って辺りを見渡すが、そのお姿はない。

それよりも、イェレの手元に赤い本が見える。

そ、それは……!

「リエト王子。ああ、ちょうどお伺いしようと思っていたのですよ」

小さく礼をして、イェレはボクに向かってその赤い本……ノエル兄様に借りたアルダの絵本を掲げて見せた。

ボクは半泣きで走ってイェレの元に。

わ~んあった~~~~良かった~~~~!

イェレから絵本を受け取って、表に裏にとしっかりチェックをする。

なんてったってノエル兄様に借りた大事な本だからね。汚れていたりしてたら大変!だもの。

「ありがとうイェレ! 助かったよ~」

キレイな状態を確認してから礼を言うと、イェレはいつもの顔で「いいえ」と微笑んだ。

「リエト王子は近隣国にご興味がおありなのですね」

今日フィレデルス兄様とお話をしていた時に、イェレもいたから知っている事を確認する様に聞いてきたので、ボクも当たり前に頷く。

まぁ近隣国って言ったら、ミフルとかザハも入ってきちゃうんだけど。

ボクは未来のお嫁さんと仲良くなるために、婚姻に結び付きそうな国の事をお勉強しているから、優先順位的には今既にコネがあるアルダとエステリバリだ。

余裕が出来たら他の国のお勉強もするよ、父様の代で縁続きになっていない国との国交のために婿に出される可能性ももちろんあるもの。

でもやっぱり、エステリバリとアルダとの国交も現状を見る所そこまで堅いものじゃないから、その辺をもっと確実に固める可能性が高いと思う。

エステリバリは周辺の島を統一して生まれた、えーと何て言うんだっけ?ぐんとう、何とか。そういうお国柄だからヴァルテが大国であろうとへりくだる事をする気はない感じ。何て言ったって、あの国は広い広い海を支配しているからね。

あとエデルミラ様がそもそもそんな気質じゃないって言うか、あれは全然王位を諦めてないとボクでも分かる。

つまりは一応繋がっているけど微妙な関係だから、ボクを差し出して更なる友好関係を、てなる可能性もあるってこと。

アルダもね。

アルダの場合は、ボクが婿入りしたら今のナターリエ様と逆バージョンになるね。

「うん、他の国のこともいっぱい知りたいんだ~」

「そうですか、それは素晴らしいですね」

イェレは最初からずっと、みそっかす王子のボクにも丁寧に優しく接してくれる。さすがあのフィレデルス兄様のおそばに仕えられるだけある。完全に空気を読んで、こっちが欲しい言葉を言いすぎないくらいに言ってくれるんだよね。こういうのって女の子に好かれるのには大事だと思うから、ボクも見習いたい。

「それでしたら……」

そのイェレの目が、一瞬光った気がしてボクは何だろうとイェレの言葉の続きを待とうとしたけど、その前に天変地異が起きた。

「えっ!」

「うわっ」

「わわ」

違った。

見覚えのある人が降ってきたのだった。

完全にデジャヴってやつである。

「ラウレンス様!」

そう、本塔名物【空から降ってくる第四王子】である。

「ラウレンス兄様~、前に怒られたばかりじゃないですか」

ボクが少し呆れながら言うと、ラウレンス兄様は悪びれた顔もせずに「悪ぃ悪ぃ」と笑った。何だかとてもご機嫌だ。

「ラウレンス様! またこんな所から飛び降りて!」

見覚えのある大きな体の従者が二階の手すりから怒鳴っている。えーと、確かドミソレ?

「固い事言うなよドミニク」

ドミニクだった、おしい!

「固くありませんよラウレンス様」

従者を適当にあしらうラウレンス兄様に、イェレがいつもよりも固い声で注意した。

「お怪我をなさったらどうなさるおつもりですか。あなたが怪我する事で、監督不行き届きで周りの者も叱りを受けるのですよ。それに……」

イェレの手がボクを指す。

「こんなにお小さいリエト王子が巻き込まれでもしたら、お怪我ではすまないのかもしれないのですよ」

何かこれもデジャヴ。

前回もラウレンス兄様の従者ではなく、うちのベディに注意されていた……え、もしかしてラウレンス兄様の従者たちって、ラウレンス兄様に注意出来ないの?

いや、注意をしているのは何回も見たな。

でもラウレンス兄様が大人しく言う事を聞いているのを見た事はないから、あんまり意味が無……いけないいけない。他の王子やお妃さまたちの教育方針に口を出せる立場じゃなかった。

なのでボクはにっこり笑っておいた。

「ボクは大丈夫です! ボクには護衛が付いていますから!」

後ろのベディを指して胸を張る。この間までいなかったけど、今なら危険だったらベディが助けてくれるもん!

ベディを見ると、心なしか胸を張っている。

ベディを見て思い出したのか、ラウレンス兄様はバツが悪そうな顔から機嫌の良い顔に戻って、ボクをひょいと抱き上げた。

「悪かったって! でもほら、リエトも鍛えてるからそう簡単には死なねぇよな!」

「そうありたいと思っています」

そのために、現在毒の知識や予防、回避術を習っているのだ。

イェレは何とも言えない顔をして、後ろを振り返る。ちょうどさっき中二階で怒っていたドミニクっていうラウレンス兄様の従者がどたばたとした走りでこちらに駆け寄ってきた。

「長期休暇の課題は終わったと聞いておりますが、だからといって野放しにされては困りますよ」

「す、すみませんっ」

同じエデルミラ様のお子さんに仕えているから親しいのだろう。あのイェレが注意をした。

「あ、そういやさ、昨日あの後どうなったんだ?」

抱っこされたままラウレンス兄様に問いかけられる。そういえばお医者さまが来る前にラウレンス兄様も出て行ったから、あの後の事は知らないんだった。……いや、周囲に聞けば分かる事だから、多分今の今まで忘れていたんだと思う。

現に昨日はあれだけ見せろと言っていた“黒い粉”の事も忘れている。そのまま忘れていてほしいので、ボクは話を逸らす事にした。

「すぐにお医者さんが来て、元気になりましたよ。それより課題が終わっているなら、逃げていたんじゃないんでしょう? 今日はどうして飛び降りてきたんです?」

「あ、あ~……」

「課題は終わりましたが、長期休み明けのテストがあるんですよ」

声の方を見ると、薄茶色の髪の男。ラウレンス兄様の家庭教師の一人のヴィルデマールだ。

「長期休み明けにテストなんてあるんだ~」

確かに長いお休みだもんね。勉強していないと前にやった事を忘れちゃいそうだから、それの確認もあるのかな。

「あるんだよそれが……。ったく、課題終わったんだからもういいだろうによ」

「本来はその課題をやっていれば問題ないテストなのに、詰め込みで急いでやったせいで身についていないからでしょう! だからこちらでテスト問題を予想しているのですから、その部分だけでも復習をしてください!」

なるほど、王子の成績はそのまま自分たちの仕事の評価になるから、そういう手助けをしながらでもいい成績を取ってもらいたいんだね。

うちの家庭教師は……そこまで気が利くかと、アカデミーに入る頃にまだいるか、両方分からないなぁ。

「ん? リエトお前その本なんだ?」

ボクを依然抱っこしたままのラウレンス兄様が、ようやくボクが持っている本に気付いた。

「アルダの絵本です。ノエル兄様が貸してくださいました」

「へぇー。あ、そういや昨日もアルダとエステリバリの言葉を勉強しているって言ってたな」

ラウレンス兄様はようやくボクを地上に下ろしてくれて、ひょいと本を手に取ってパラパラと見た。

「自主的に他国の言葉の学習を……それに比べてうちの王子は……」

「うるさいぞヴィルデマール。それより……」

ひとりごとにしては大きな声で呟くヴィルデマールをひと睨みして、ラウレンス兄様は絵本をボクに返してくれた。

「こういうのって、うちにも結構あったよな?」

「え? それはまぁ、保管しておりますが」

こういうのとは、エステリバリの子供向け絵本とかって事だろうか?

「じゃあそれ、リエトにやるよ」

「「「え!」」」

ラウレンス兄様の家庭教師ヴィルデマールと従者ドミニクと、あとなぜかイェレの声がハモった。

「え、いいんですか!?」

図書室にはあまり子供向けの本が無いのと、正直な話、我が陣営はあまり予算がもらえないので、外国の絵本なんて取り寄せられないからめちゃくちゃ助かる!

「ああ、いいよな?」

問われたヴィルデマールは戸惑った顔をしているが、「え、えぇまぁ……もう使う物ではないので、問題はないかと……」と歯切れ悪く答えた。

その横にいるイェレが何か言いたげなのが気になったが、貰える物は貰いたい派のボクとしては、ラッキー!てな訳でありがたく貰う気満々だ。

「あとで届けさせるわ。あと何か読めない字とかあったら、教えてやるよ」

「わーありがとうございます!」

「!!」

しかも解説付き!兄様はもうすぐアカデミーに行っちゃうけど、ありがたい限りだね!

「あのラウレンス様が……人に字を教える……だ、と……!?」

「あああ……フィレデルス様から差し上げたかったのに……」

各従者たちの声はボクらには届かず、ボクとラウレンス兄様はしっかりと約束した。