軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.転生王子、おみやげを買う

「何で俺がお前の面倒見なきゃいけねぇんだよ!」

「面倒はみなくていいです! ベディがいますから! 兄様の行くお店に付いて行くだけですから!」

ボクとベディだけじゃどこのお店にも入れそうにない!こうなったらボクに合う合わないは置いておいても、どこかのお店には入りたい!せっかく来たんだもん!

それにアルブレヒト兄様が行くお店ってなると、将来ボクの役にも立つかもしれないから、お勉強にもなるしね。

「おジャマしませんから~!」

足にしがみついて訴えると、アルブレヒト兄様はうぐぐって顔をした。貴族御用達のお店ばかりだから道を歩いている人は少ないけど、その少ない人が何?て感じでこっちを見てる。

アルブレヒト兄様は足をブンってしてボクを振り払った。吹っ飛ばされたボクは、ベディがナイスキャッチをしてくれたので、ちょっと目が回っただけだった。

「しょうがねぇから連れて行ってやるけど、うるさくしたら置いていくからな!」

やったね、案内人ゲットだよ!

アルブレヒト兄様が最初に入ったお店は、3階建てて、一番下は白い壁だけど2階以上は黒いレンガと黒い木、屋根も黒の何だか大人っぽい外観のお店だった。

扉を押して中に入ると、すかさず黒いベストとズボンの壮年男性が兄様に話しかける。

「これはアルブレヒト様、ようこそお越しくださいました」

「ああ」

お店の人に丁重に案内をされても、兄様は慣れた感じに返事をしている。

「そちらは……」

お店の人はボクの身なりと護衛を連れているのを見て、丁寧だけど少しいぶ……いぶか?が?何かそんな、不思議そうに、ちょっとだけあやしい奴?みたいな顔で見た。

「身内だ。構わなくて良い」

「お身内の……大変失礼いたしました」

お店の人は改めて、ボクに笑顔を向けて礼をしてくれた。

これが王族の力!

「この店の支配人を務めさせていただいております、ベンジャミンと申します」

「リエトです! よろしくお願いします」

「……以後お見知りおきをお願いいたします」

お店の人改めベンジャミンは、ボクの名前を聞いて一瞬の間の後、笑顔で言った。

これがみそっかす王子の力!

それはともかく、ここは何のお店だろう?

店内はキレイで壁には絵とか飾ってあるし、テーブルやイスがいくつかあるけど、商品らしき物が見当たらない。家具屋さん?

そう思っているとアルブレヒト兄様は、ベンジャミンの案内で店内にあるソファに座ったので、ボクも付いて行く。

「本日はどの様な物がご入用ですか?」

「そうだな、カフスと、あとはあまり派手じゃない装飾品を見せてくれ」

兄様の声を聞いて、店の奥から違う店員さんがいくつかの薄い木箱の様な物を持って来てテーブルに並べる。同じく、別の店員さんがお茶も用意してきた。

覗き込むと、上面がガラス面になっていて、中に宝石の付いたボタンが並んでいた。

なるほど、ここのお店は貴族たちがお茶をしながら、欲しい物を持って来させて選ぶみたいだ。さすが高級店だね!

「兄様、何か良い物ありましたか?」

「ん~……まぁ、この辺くらいか」

そう言って兄様は、ダイヤ形の青いボタン……カフスって言うの?を手に取る。そんな素手で持っていいの?て思ったけど、お店の人は何も言わずニコニコしてるから、いいみたい。

アルブレヒト兄様が手に取ったカフスを覗き込むと、とても鮮やかな蒼色で、光を受けてキラキラする様が海みたいだった。最近こういうの見た気がする。

「あ、フィレデルス兄様の目と同じお色ですね!」

「!!」

あれ?アルブレヒト兄様ったら高級なカフスを投げるみたいに戻しちゃった。お店の人もさすがにちょっと慌ててる。

「…………違うのを見せろ」

「かしこまりました」

「え? しまっちゃうんですか? とってもキレイなのに」

アルブレヒト兄様はボクの事を嫌そうに見て舌打ちをした。お行儀が悪いね。

「欲しけりゃお前が買えよ」

「え。うーん、別に欲しくはないですけど……ちなみにおいくらですか?」

ベンジャミンに聞いたら、スッと紙を渡された。高級店では値段は口に出して伝えるものじゃないらしい。

お値段ビックリ!ボクのおこづかいじゃ買えない。

一応街に出る許可と一緒に、執事からおこづかいをもらってはいる。母様付きと言うか、第三側室棟の執事がお金の管理もしているからね。

「むりです、ボクのおこづかいじゃ買えません」

「足りないなら 王宮(いえ) にツケときゃいいじゃねーか」

ツケ!

なるほど、お金持ちだからって現金をいっぱい持ち歩いている訳じゃないから、そういうのも有りなのか!

でも別に欲しくないし、それをボクがやっても良いのかもあやしいな……。

王室からボク用に用意されている予算って、多分アルブレヒト兄様よりずっとずっと少ないと思う。今日もらったおこづかいも、もちろん普通に考えたら大金だけど、そんなに多くないし。

「ううん、いいです」

ボクが首を振ると、ベンジャミンはフィレデルス兄様の目の色のカフスが入った箱を下げて、違う箱を広げてアルブレヒト兄様もそっちを見始める。

宝石の良しあしは分からないけど、どうもこのお店の物はボクのおこづかいでは買えそうにない。でもでも、いずれお金を貯めて、女の子にプレゼントする為には装飾品のお勉強もしなきゃと一緒になって見てた。

結局アルブレヒト兄様は蒼い装飾品は買わず、緑と銀のカフスと、赤い小さい宝石の入ったタイピンを買った。お支払いはツケだった。

「かっこいいです兄様! 大人の男って感じです~!」

「フン、お前に比べりゃそりゃそうだろ」

アルブレヒト兄様は憎まれ口を叩きながらも、嬉しそう。

お店に入ってからの立ち居振る舞いや、支払い方法なんかとっても勉強になった。

ボクもアルブレヒト兄様くらい大きくなったら、こんな風にスマートにお買い物できるかな。ボクは出来ればお友達や女の子と来たいけど。

ベンジャミン達に礼をされながら店を出て、次に入ったお店は白い壁に木枠が何だか可愛らしい建物だった。

ここも商談用のテーブルやイスはあったけど、壁際の棚にいくらか商品が並んでるみたいだった。と言っても、ボクの背では見えないからぴょんぴょんしてたら、アルブレヒト兄様に首根っこを持ち上げられた。

「兄様、首がくるしいです」

「見せてやってんだろうが」

兄様はまたチッて顔をしてボクをベディの方にポイっとしたので、ベディも再びナイスキャッチしてくれた。すごいねベティ。今日一日でキャッチ力急上昇じゃない?

で、改めてベディに抱っこされて商品を見ると、そこにはキレイな装飾の入ったペンや本のカバーなんかが並んでいた。どうやらここは文具屋さんみたいだ。

兄様はペンを買いに来たみたいで、またお店の人に色々持って来させている。ここにある以外にも商品があるみたい。

でもさっきのお店よりも、店内を見て回る人が多い。装飾品とかと違って、貴族の子も買いにきたりするみたいだし、ちょっとフランクみたい。

ボクはベディに抱っこされたまま、店内を見て回った。

そこである物を見つけて、さりげなく近くで見守っていた店員さんに声を掛けた。

「あの、すみません……」

言ってから、お店の人なんかに声を掛ける時は、自分じゃなくて従者に声を掛けさすと習った事を思い出した。でもそもそも従者はいないし、アルブレヒト兄様も一人だから普通に店員と話してるし、いっか。

「はい、御用でしょうか?」

白いシャツに黒いロングスカートをはいて、髪をしっかりと束ねた女性店員さんに尋ねられ、ボクも気にせずショーケースを指差した。

「あのリボンが見たいです」

ボクが指したのは、紫色に金の刺繍が入ったリボンだ。

出してもらったリボンは絹なのかな?ツヤツヤした触り心地で、近くで見ても派手すぎず、かっこいい。長さは2mくらいかな?

「これはおいくらですか?」

店員さんはニコリと笑って、小さな紙を差し出す。

うん、買えるお値段だ。

「これを3本ください!」

「はい、お包みいたしますか?」

「うん、3つに分けてください」

物はリボンだから、紙袋にだけどキッチリキレイにラッピングしてもらった。

「坊ちゃん、リボンなんかどうするんですか?」

「装飾品にも使えるし、本や紙を束ねるのにも使えるんだよ」

「3本もですか?」

ベディは不思議そうにするけど、分かってないなぁ。

「オイ、行くぞ」

兄様の方もいつの間にかお買い物が終わったみたいで、ボクは慌てて追いかける。

「お前も何か買ったのか?」

「はい!」

「ふぅん」

兄様は聞いておいて興味無さそうに返事をして、それからもう帰るぞと言った。

ボクも初めてのお出かけでメリエルに早く帰ってくる様に言われてたから、一緒に帰る事にした。て言うか、アルブレヒト兄様が従者と護衛を撒いてるから、来た時の馬車が使えなくて一緒に乗せてけって。

それなのにボクらが乗って来た馬車を見て、貧相だなんだと文句を言ってた。

でも兄様のおかげで、街のお店にも入れたし、お買い物も出来たのでボクはにっこにこだ。

馬車は程なくして王城に着いた。

ちょうどボクらが乗っている馬車のすぐ後に、豪華な白い馬車が門に入って来た。あれは王室用馬車だから、王族の誰かがご公務に使ったんだろうな。

アルブレヒト兄様の後にベディに抱っこされて下ろされながら、ぼんやりと見ていると、馬車が停まり、御者によって扉が開かれ、階段が用意される。

「あれっ、フィレデルス兄様」

「げ」

ボクが呼んだのが聞こえたのか、アルブレヒト兄様の漏らした声が聞こえたのか、いつも温室で見るよりもキッチリと豪華な衣装に身を包んだゴージャスフィレデルス兄様が、顔を上げてバッチリ目が合った。やっぱり兄様の目は海に似てるな~と眺めていると、こちらに歩いて来た。

「リエト、出掛けていたのか。……アルブレヒトと?」

フィレデルス兄様は全く感情が読めない顔でボクを見下ろした後、横に立ってるアルブレヒト兄様を見た。

「いえ、た……」

「そうだよ! 一緒に街に買い物に行ってたんだよ! なぁ?」

「たまたま街で会った」って言おうとしたら、アルブレヒト兄様がボクの口を塞ぐように肩をガシッと強く抱き寄せて同意を求めてきた。

どうしよう?本当の事を言った方が良いのかな?でもアルブレヒト兄様のおかげでお買い物も出来たしなぁ。う~ん、まぁいいか。

「はい、一緒にお買い物をしました」

そういう事にしといても、別に何も損はしないし。

「…………そうか、何を買って来たんだ?」

「アルブレヒト兄様はカフスとタイピンとペンを買ったんですよね?」

「お、おう」

「……お前は?」

「ボクですか?」

よくぞ聞いてくれました!

ボクはポケットから3つの小さな紙袋を取り出した。

初めてのお買い物なのだ!誰かに自慢したかったから嬉しい!

「じゃ~ん!」

「……それは?」

大げさに見せたのに、フィレデルス兄様は眉一つ動かさない。

「おみやげです! ボクのとお揃いのリボンなんです!」

一つはボクのだから、中を開けて、紫色のリボンを見せる。

「おみやげ?」

フィレデルス兄様の目が、ちょっと大きくなる。分かりにくいけど、驚いたのかな?

うふふ、初めてのお買い物記念で、初めてのおみやげにして、ボクとおそろい!なかなかセンスが良いんじゃない?モテちゃうかな?

ボクは得意満面で答えた。

「はい! メリエルとベディに!!」

「…………」

「…………」

なぜだろう?フィレデルス兄様の目から感情が消えた気がする。

あと何かアルブレヒト兄様も顔をしかめている。

「誰だそれ」

アルブレヒト兄様何言ってるの!?ベディは今日ずっと一緒だったじゃん!

「お前の護衛とメイドか」

「はい!」

フィレデルス兄様はよく知ってくれている!ベディはちゃんと紹介したしね!

「ぼ、坊ちゃん……っ!」

王族同士の話に入れなかったベディの声が聞こえたので振り返ったら、でっかい体をプルプルさせて泣きそうだった。体は大きいのに、子ウサギの様な護衛である。

「お、俺のためだったんですね……っ」

「うん、本当はもっと良い装飾品とかにしたかったんだけど、ボクのおこづかいじゃ買えないからさ。リボンならそんなにジャマにならないし、お守りにも出来るでしょ?」

本当はベルトとかに付けれる飾り緒とかが良いかなって思ったんだけど、あの辺のお店にあるやつはボクじゃ買えなかったから。甲斐性のない主人で申し訳ないけど、今回はこれで我慢してほしい。

はい、て包みを差し出すと、ボクの手ごとベディのでっかい両手で包まれた。

「ありがとうございます……っ! 大事に、大事にします!!」

プレゼントを喜んでもらえるのって、あげた方も嬉しいなー。

早く大きくなって、未来のお嫁さんに会えたらたくさんプレゼントしたいな。

それには甲斐性のある男にならなくては!

決意を新たにしていたら、正門じゃない方から何だか騒がしい声が聞こえる。

「ああっ! いたあああああああ!!」

「アルブレヒト殿下あぁぁぁぁぁ!!!」

見ると、騎士らしき人2名と成人前っぽい銀髪の男の人が鬼の形相でこちらに走ってくる。

「げ、エリーアス」

どうやらアルブレヒト兄様が撒いた護衛と従者みたいだ。

「何一人で帰ってんですか、何勝手に動き回ってんですかああああ!!」

とっても怒ってる従者の大きな声に、フィレデルス兄様は眉間に皺を寄せてさっさと王城の方に入って行ってしまった。

ボクも巻き込まれない内に退散しよう。

何よりも、早くメリエルにおみやげを渡したいし!