軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.転生王子、街に出る

「俺がいて外出が出来るんなら、今年の建国祭に行けなかった代わりに、これから町に出るってのはどうです?」

ベディが軽く言った提案に、ボクは目をぱちくりしてしまった。

お祭りでなくても、護衛がいたら町に出るの?

その発想はなかった。

あ、でもな~

「なんかまずいんですか?」

「なにかって言うか、ボクそもそもお城から出たことないからな~」

誰に言って、どうやって行くのかも分からない。

「ええっ!? 生まれてこの方ですか!?」

「ああ、2回くらい母様と里帰りはした事はあるよ」

ボクが歩けるようになった1歳半くらいの時と、去年にオーバリ家が治めているアグレル地方に行った。何せド田舎もド田舎なので、馬車で片道5日は掛かる。もちろん宿泊しながらだけど、幼児のボクにはかなりの長旅だ。

それに、王族に輿入れしたのにあんまり長いことお城を離れるのも周りから見て良くないみたいだし。母様とボクの場合は、逆にいないのが普通にされちゃうって言うか、存在を抹消されそうでっていうのもあるね!

で、話は戻るけど、そんな感じでオーバリでは市とかにも行った事があるけど、それもおじいさまも一緒だったから“領主様御一行”としてで自由に出歩いてはない。アグレルと王都では全然違うだろうしね。

「それって退屈じゃないですか?」

退屈?かなぁ……?

生まれてこの方ずっとそうだし、最近じゃ勉強も鍛錬もやる事がいっぱいすぎて時間が足りないくらいだけど。もちろん街を直接見たいって気持ちはあるけど。

「街には色んな店や人がいるんですよ?」

「!」

ベディの言葉に、ボクはハッとした。

そうだ……街には色んな人……女の子がいる!

王子としてでは8才のデビュタントを済ませないと社交の場に出られないから出会いが無い。でも将来市井に下る事になる可能性もあるんだから、そっちの出会いの機会は今から作れるなら作っておくべきじゃないか!?

それに街で女の子とデートする事もこれから有り得るんだから、ちゃんとどんなお店があって、何が流行ってるのかも知っておくべきだ!流行が大事なのは、何も社交界だけじゃない!女の子はいつだって流行に敏感な生き物だって、夢の世界でテレビで言ってた気がする!

「よし! 行こうベディ!」

「はい坊ちゃん!」

「ちゃんと許可を取ってからにしてくださいませ」

◇◇◇

な~んて、メリエルに水を差されたけど、聞く相手は側室棟の執事にだけど、許可はあっさり出た。

「拍子抜けでしたね」

王章の入っていないお忍び用の馬車の中で、ベディが不思議そうに言ってるけど、ボクは別に不思議じゃなかった。「いいですよ」って言うのは、「(どうでも)いいですよ」っていうのと同じだって分かってるから。

でもこれ言うとベディがまた泣いちゃうかもしれないから、ボクものんきに「そうだね~」とニコニコしといた。

さすがに初めての街散策、という事とボクの年齢も加味して、お出かけ時間は短めに、貴族御用達の高級店の通りだけ、という約束をメリエルとした。

本当はメリエルも一緒に行きたかったんだけど、お仕事があるからそんなに急には無理なんだって。今度はちゃんと予定を立てて3人で行きたいね。

貴族向けのお店の通りはさすがに綺麗だった。

オーバリの村と違って、地面は全部石畳だし、ところどころの石の色も違っておしゃれだし。建物も大きなのがキレイに並んでいて、おしゃれな外観のお店ばかりだ。

馬車を降りたボクとベディは、まずはどんなお店があるのか見て回ろうって歩いた。貴婦人なんかはあんまり歩かないから馬車の往来も多いので、手を繋ぐように言われた。

ボクはもちろん初めての街だから見るもの全部が新鮮でキョロキョロしちゃったけど、護衛のはずのベディまでキョロキョロしてるのは何でだろう。

「ベディ、あのお店は何のお店?」

「さ、さぁ……。中も見えませんし……」

うん、役に立たないね!

何で!?

「いや、普通にこんな高級な所初めて来やした……」

そう言われて、丸洗いする前のベディを思い出した。たしかに、あの格好なら来れないかぁ。

となると、ここにいるのは初心者と初心者なわけで、案内役がいないよ!

困った。

何せ貴族向けの高級店ばかりなので、一見様お断り感がすごいと言うか……外からだと何のお店なのかよく分からないのが多いのだ。

どうしようかな~。一か八かで入ってみるかな?

みそっかすの末王子だけど、王子は王子だから身分的な事で断られる事は無いと思うんだよね。でもボクにはまだ早い、大人の店とかだったら気まずいな。

道の真ん中でう~んと考え込んでいたら、ベディが急に手を放してボクを後ろに隠した。

「!?」

え、なになに!?と思ってベディの足の影から見たら、そこには手を上げていた見覚えのある赤茶髪の少年が、ちょっと驚いた顔をした後、不機嫌そうにその翠の瞳をしかめた。

「アルブレヒト兄様!?」

そう、それは第三夫人マルガレータ様の長男、第二王子のアルブレヒト兄様その人だった。

アルブレヒト兄様は、緑のシャツにベスト、黒いズボンといったシンプルな出で立ちでボクを見下ろして舌打ちをした。

「でけぇ声で呼ぶな。お前と違って貴族界で認知されてんだから」

ボクは確かにデビュタント前で社交界ではお披露目されてないけど、認知って言うと王様の子供として認められてないみたいな響きになるからやだなぁ。認知は一応されてるもん。

でもボクが大きい声を出したのがいけないから、ちゃんと謝っておく。

「ごめんなさい、兄様。兄様はここにご用事……」

ですか?と言いかけて、兄様の周囲に誰もいない事に気付く。

「何だよ」

「兄様、護衛や従者はどこですか?」

「ああ、まいた」

「ええっ!?」

アルブレヒト兄様は、みそっかすのギリ認知のボクとは違い、正統な第二王子だ。何なら王位継承権順位もかなり上位の。これは王子だけじゃなくて、お父様の兄弟とか従兄弟とかも関わっててややこしいから、正確な順位は分からないけど。

あ、第三王子のオリヴィエーロ兄様が第一位なのは確かなんだけどね。

ともかく、そんな大事な王子様が貴族街とは言え、一人でウロウロしてるなんて危なくない!?

ボクがよっぽどビックリしたのが分かったのか、アルブレヒト兄様はバカにするみたいにハッて笑った。

「お前みたいなチビと一緒にしてんじゃねーよ。俺はもう15で、騎士としての授業も受けてんだ」

たしかに、5才のボクと比べたら10才も上のアルブレヒト兄様は大人で強いだろうけど……大人なら護衛とかまいちゃいけないんじゃ……。

いや、待てよ?アルブレヒト兄様は15歳!

ボクは15歳になった自分を想像してみた。

そう、お年頃だ!

この年ともなれば女の子とデートをしてもおかしくない年頃だ。それに護衛や従者が付いてきていては、確かに困る。

良いなぁ、アルブレヒト兄様はもうデートとか出来るお年なんだ。

ボクも大きくなったらきっと……!

その時までにちゃんとデートコースとか考えておかなきゃ!

でもここには、経験値ゼロのボクとベディ…………と、もう一人。

「アルブレヒト兄様! この後ご予定はありますか!?」

ボクがガバッと兄様の腕にしがみついたから、兄様はビックリしたのか普通に答えてくれた。

「は!? 別に、ねぇけど……」

「無いんですか!? わざわざ護衛と従者をまいたのに、お友達や女の子と遊んだりしないのですか?」

「うぐっ! うるせぇな! 俺は一人で買い物がしてぇんだよ!」

「そんな人いるんですか!?」

ええっ!?

正統な血筋の第二王子でお年頃で女の子とデートしまくれるはずなのに、わざわざ一人でお買い物に!?

ボクにはちょっと考えられないけど、アルブレヒト兄様はそうらしい。

いけない、人の主義を否定しちゃダメだ。

世の中には色んな考えの人がいる。

人と人は分かり合えないかもしれないけど、認め合って譲り合う事は出来る生き物だって、ご本で読んだよ。

「じゃあじゃあ、ボクもそのお買い物に付いて行かせてください!」

「はぁ!?」