軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談「うっかりテイム(5年ぶり2回目)」

今日……というか、昨日からずっと熊肉を煮込んでいる。ずっと濁った灰汁が出てくる。

ミレア姉さんのレシピで作ってるんだけど、めっちゃ大変じゃん。自分も食べたいし、第三騎士団が来るから量のある肉をと軽い気持ちで始めたらこれだよ。

レシピの量をそのまま増やして、寸胴いっぱい作るもんじゃなかったなとだいぶ後悔はしている。

それでも何とか熊肉の煮込みが完成して、第三騎士団も辺境にやって来た。

あいつら騎士のくせに街中じゃなくて、冒険者向けの宿が多い麓に来るんだよな。辺境大森林まで近くていいからとか言ってるけど……変わった貴族だ。中には冒険者上がりの平民もいるけど、大半は貴族なのになぜ。

「久しぶりだな、リシアン!」

真っ先に声をかけてきたのは部隊長のマルヴィン。よく俺を第三騎士団に勧誘してくる人。

定期的に第三騎士団は幻蚕の繭の採取にやって来るため、すっかり顔馴染みだ。

「第三騎士団に入る気はないよ?」

とりあえず顔を合わすと断るところから始める。

「そうか……それは残念だが今回は別件だ」

手渡されたのは王家の封蝋が押された手紙。

何だろ?ギンさんから返事かな。こないだスノウモスルァーたちの繭を贈ったからそれかな。

何々……スノウモスルァーの群れの規模と新しくいる蜘蛛のことを知りたい?

正直、俺も群れの正確な数までは知らないんだけど。大体50くらいだろうとは思うからこの際、数えてみてもいいか。

スノウモスルァーに頼めば群れを整列させてくれるだろう。蜘蛛のことはお蚕さんたちが連れてきたやつだからよく分からん。

「お蚕さんたちの数の調査と座布団のこと教えてって手紙だった」

「……そうだな。それで同行したいのだが、いいだろうか?」

第三騎士団がこの手紙を持ってきたってことは、同行させろとのセイラン殿下あたりから俺への遠回しな命令だろう。

何でいきなりこんな調査を……あぁ、王法も改定されたしより厳密な繭の管理のためってことか。なるほど、と一人納得する。

『ちょっとスノウモスルァーに伝言をお願い!お客さん連れて行くから群れも集めといてって伝えて』

その辺にいた風の精霊に頼んでから森に出発する。

飛び立つ風の精霊を第三騎士団は不思議そうに見ていた。

「伝令を頼んだから、群れは集めといてくれると思う。行こっか?」

「そうだな、行こうか。相変わらず無茶苦茶だな」

唐突に遠い目をするのはいいけど、森に入ってからはマジでそれ命取りだから気を付けろと思った。

「それにしても従魔はいいな。俺も憧れてはいるのだが」

マルヴィンたちは主に討伐が仕事だからなぁ。チャンスは多いが中々難しいようだ。

団員の中にはちゃんと従魔持ちもいる。アグニスの兄ちゃんとかな。

ただ、討伐の時点で周りに被害が出ていることが多くそれを従魔化することには反対されがち。

そんなわけで、今回みたいなお蚕さんたちの繭の採取時なんかは絶好のタイミング。

あと長期休暇がもらえたときに目当ての魔獣をテイムしに行ったり……お前らよく仕事と同じようなことを趣味で出来るな。

まぁ、他人事ではないけど。俺も新薬の調合とか趣味の採取は楽しいから何とも言えない。

あとマルヴィンは魔獣への手加減が苦手。倒したらテイムも何もねぇよ。採れるの魔石くらいじゃん。

深層部の入口で第三騎士団の空気が一気に警戒モードに切り替わる。

「スノウモスルァー、おいで!」

待っててくれたんだな。相変わらずかわいいし賢い。

「今日はこいつらも一緒でいい?」

ちらりと第三騎士団を見てから、こくりと頷くスノウモスルァー。

いつもの群れの場所には……きちんと整列しているお蚕さんたちがいた。

めっちゃ数えやすいな、これ。ちなみに最近になって風乃たち精霊とお蚕さんたちは話せることが判明した。

「整列させてくれたの?皆えらいなー!」

よしよしとスノウモスルァーを撫でる。

「どしたの?数えなくていいの?」

大した距離でもないのに第三騎士団は汗びっしょり。いや、マジでどうした?

「……リシアン、我々は常に魔獣との戦いでは最前線にいる。いるがな?これだけの圧倒的戦力には会ったことがないんだよ?!」

落ち着け、マルヴィン。お蚕さんたちは何もしてこないから。

『スノウモスルァーたちのが第三騎士団より強いからねぇー』

『弱い者イジメはしないもんねー!』

……精霊たちに笑われているし弱い者イジメって。王国内では対魔獣特化の最強部隊なのに。

仕方がないから1人で先に数えるか。

あれ?見たことないお蚕さんがいるかも。

「あっちの端にいる子は?新入り?」

一回り小さい三体は新入りらしい。これで総数54、と。

「集まってくれてありがと!じゃあ、好きにしておいで」

群れを解散させてもいいだろう。気を遣ってか通常の群れの規模……スノウモスルァー含めて4体だけが残った。

「……はぁっ!やっと、息が吸える」

「分かっている、守護獣様だと分かってはいるんだ……」

余程、お蚕さんたちの大群が恐ろしかったのか。ボスのスノウモスルァーがいるから何もしないのに。

てか、そんな恐ろしい生き物ではないだろ。

「次ー。座布団どこ行った?」

第三騎士団なら新種の魔獣かどうかも分かるだろう。専門家だもんな。

両サイドのお蚕さんに引きずられるように座布団がやってきた。

相変わらずこの群れの中で座布団は最弱らしい。

座布団を見るなり、一斉に抜刀したりと各々の武器を構える第三騎士団。……ねぇ、ホント今日はどうした?

「これ、座布団。お蚕さんたちが捕まえてきたんだけど、新種の魔獣だったりする?」

ポンポンと撫でるとお蚕さんたちとはまた違ったもふもふ具合。

意外とさらりとした手触りでいいんだよな。

「……リシアン、そいつは 玄蜘蛛(アトルムアラクネー) だ。いまだかつて見たことがない大きさだが」

「はぁ?玄蜘蛛ならこんくらいでしょ?」

手をひらひらと振ってみせる。拳大くらいのサイズってことくらい知ってるっての。

こいつはさすがにデカすぎるから辺境在来種のただの蜘蛛か……新種の魔獣だろう。

精霊たちを使役していることもないし強いて言うならお蚕さんたちにむしろ使役されている側だ。

「あとこいつはなぜか織物が好きらしいし、無害だと思う。ほら、蜘蛛って益虫なわけだし?」

そしてやたら俺に着いてきて森から出ようとする困ったやつでもある。

一度だけ群れの縄張りの外に出たあたりところでお蚕さんたちに回収されていったけど。それ以降は俺が帰るときにはがっつり捕まっている。

寂しがりなのかどうかは知らないけれど、このサイズの蜘蛛を連れて回るわけにはいかない。野生の生き物はむやみに連れて帰らないほうがいい。

「リシアン、冒険者ギルドで従魔登録の更新はしているか?」

真剣な目でマルヴィンが聞いてくる。

「あ……」

更新どころか一度もしたことはない。スノウモスルァーが従魔と判明したときは、王都に行ったり色々忙しくてそのまま……完全に忘れてた。

「本来はギルドに従魔を連れて行く必要があるが、それはやめてくれ。絶対に連れて行かないでほしい。魔力が分かればいいから……守護獣様とそこの蜘蛛の糸を少し持っていけばいい」

うん……まぁ、スノウモスルァーは連れて行かないけど。目立つしかわいいし狙われそう。座布団はたぶんお蚕さんたちが逃がしてくれないし、そうでなくともこいつも目立つしさすがに置いていくよ?

「あ、じゃあこれでいい?この袋」

ウエディングヴェール試作前に出来上がった布が手頃な大きさだったから、袋に仕立てて持ち歩いている。薬草採取時の持ち歩きにちょうどいい大きさ。

「……それでいい。冒険者ギルドに行くぞ」

何か言いたげにじっと袋を見つめていたけれど、とりあえず冒険者ギルドに行けばいいようだ。

スノウモスルァーたちに別れを告げて、麓へ戻る。

「ギルド長!リシアンの従魔登録の更新を頼みたいんだが」

わざわざギルド長まで呼ばなくてもいいんじゃ?と思いながらも黙っておく。

「リシアン、いつの間にテイムしてたんだ?」

ギルドタグを手渡す俺。ランクと自分の名前くらいにか彫られていない。確か従魔の名前も書き込まれるだっけな。

「えーっと、 二十歳(ハタチ) の頃だから5年とかそんくらい前?」

「言えよ!!」

いや、だってその頃は知らなかったから仕方がない。スノウモスルァーが従魔だってことを知ったのは、後になってからだし。

「あ、一緒に契約精霊の登録もお願い!」

そうだ、風乃のこともまだギルド登録してなかったわ。危ないとこだった。

「だからそういうことはその時に言えよ?!」

ギルド長、キレッキレの突っ込みだな。あとその声のデカさ、周りに全部バレるやつな。

Bランクなんだから報告義務は云々とかを聞き流す。あの頃は!マジで俺忙しかったんだって!

従魔判定機にギルドタグをセットしながらも、口が止まらないギルド長すげぇな。

反対側に先程の袋を置いて判定開始。

仕組みはどうなっているのか分からん。魔石を用いているのは分かるけど、絶対これいい魔石だよなぁと思いながら終わるまで眺める。

「仕組みを解析しようたってそうはいかないからな?」

すぐに判定機はギルド長から厳重に仕舞われた。

そしてギルドタグには新しく――

――従魔:スノウモスルァー【幻蚕】

座布団【玄蜘蛛】――

……へー、種族名まで出るんだぁ。そっと裏返したが、遅かった。

「リシアン!!従魔の名前はさておきこれはどういうことだ?!」

マルヴィン、超早い。あとめっちゃ動体視力いい、第三騎士団だから?

「知らない!座布団のことはマジで知らないから、俺。え……あいつ、座布団を自分の名前と思ってんの?!」

俺も今、初めて知ったんだけど。てか、いつテイムにしたことになってんの?

『リシアン!次は風乃の番!座布団より前に風乃の名前を書いてくれないといやだよ?』

あー……もう両サイドがマジうるさい。

「リシアン」と風乃の声がいきなり聞こえて一瞬固まったマルヴィンからギルドタグを取り返し、契約精霊の登録もした。

幸いニ行で記載されたようでホッとした。一行目がスノウモスルァーと風乃。下に座布団……なんか座布団のやつ不憫だなとまじまじとタグを見てしまった。

帰路もひたすらに話し掛けてくるマルヴィンをあしらいつつ……きっとこの口うるさいのは腹が減っているせいだろうと、熊肉の煮込みを振る舞う。

「何だこの肉!うっま」

「香草の調合が見事だな、これ。あと肉が素晴らしいな」

大好評。さすがミレア姉さんのレシピ。あれだけ大変な思いをして寸胴っぱいに作ったのに、すっかり空になった。

うん……俺、今ミレア姉さんの気持ちがすごいよく分かった。味わって食べるし、もっと感謝しないといけない。

こいつらどんだけ食うんだよ……酒も強いしさぁ。

「このままここに泊まらせてくれ!」という第三騎士団を急患が来たら困るからと言って追い出して、やっと一息つく。

新しく刻印されたギルドタグに「そういえば……」と箱から取り出したのは蹄鉄の形をした小さな飾り。ゴルディが最初に付けてた蹄鉄を加工したやつ。

一緒にチェーンを通してギルドタグに重なって「カチリ」と小さく金属が触れ合う音がして満足する。

「……何で馬は登録してくんないのかなー」

昔もこれを言っていた気がして、当時を思い出して目を伏せた。

◇──◇──◇──◇──◇

――さて翌日、小熊を引き連れてマルヴィンが上機嫌で帰って来た。

この赤毛は 大牙熊(グラズバルト) の小熊か……。

「リシアン!ついに俺にも従魔が出来た!かわいいかわいいルビーちゃんだ、よろしくな!」

獣魔化しているからルビーちゃんとやらは大人しい。

「お、おう……何かあれだな?変わった趣味してんな?」

さすがの俺もちょっと引くよ。

「何がだ?大牙熊だぞ!これからもっと大きくなるに違いない」

期待に満ちた目をしている。これは……どっちだ?

「これは……非常食としての大きくなることを期待してんの?」

「馬鹿なことを言うな!この愛らしいルビーちゃんを非常食扱いするわけないだろう!」

フツーに怒られた。

「あー……ごめん。だって、昨日あんだけうまいって言って食ってたから」

マルヴィンの目を見れない。

「……昨日?」

「昨日の、煮込み。大牙熊の肉でその……」

マルヴィンは崩れ落ちた。いや、ごめんて。

小さく嘆くその声は「もうあのおいしかった熊肉を食べられない」とか「二度と味わえないならあの時もっと……」と混乱しているようだ。

マルヴィンが立ち直るまで数日、第三騎士団は辺境への滞在が延長された。

なお、彼は鹿の魔獣の肉を食卓に出したところで無事に立ち直ってルビーちゃんと王都に帰って行った。