軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35話「急転と反撃」

その日、俺は兄上とともに第一王子殿下のもとへ呼ばれた。というか、ギンさんから「至急登城するように」との命令があったから。

そんなわけでまだ日が昇る前だというのに王城へと向かっている。いつもはふざけたギンさんからの、短い命令は異常事態で緊張する。

ひっそりと迎え入れられた第一王子殿下の私室。いつもより血色はいいように見えるが、これは発熱しているのだろう。

「レオナリスくん、リシアン!セイランが……」

眠っていないだろうギンさんのほうが酷い顔色をしている。

「先日まではここまで悪くなかったですよね?一体、何があったというのです?」

第一王子殿下の体温や脈拍を確認しながら兄上がそう尋ねる。そうだよ、こんな弱って眠ってたらこないだまでの王族オーラと尊大さがない。

こんなに急に悪くなるっておかしいよな。

「分からない……身体を診てくれないか?痣があるんだが……魔法によるものなのか、何なのか検討がつかない」

兄上がそっと第一王子殿下の袖を 捲(まく) って腕を 露(あら) わにする。

樹枝状に広がる赤い傷跡が痛々しい。

「雷紋……に近いが?」

「これ広がっていってるんだよ。元々弱っているセイランは熱まで高い。体力を消耗する治癒魔法は使いづらいし、どうすれば……」

話している二人の後ろからそっと第一王子殿下の痣をまじまじと見つめる。

「あぁ、解毒剤がいりますね。これ蜘蛛に噛まれた跡なんで」

「「え?」」

え?これって魔獣の 玄蜘蛛(アトルムアラクネー) に刺された跡でしょ?

辺境でもたまーに深層部までいった冒険者のやつらがこれに刺されてきたから見たことあるしな。厄介なのはディフレイアの解毒剤くらいしか効かないあたりか……。

でも第一王子殿下の傷跡はまだ小さいし、広がり具合からしてもそこまで強い個体に刺されたってわけじゃなさそう。

「リシアン?理由を聞いても?」

「解毒剤持って来る!ありったけ!」

走り出そうとするギンさんを止める。

「解毒剤はディフレイアから作るから待って!で、理由ですよね。樹枝状の赤い痣、そこって別に熱は持ってませんよね?むしろ冷たくて、皮膚は硬くなってるはずです」

合ってるかな?と兄上に目で聞くと頷かれたので続きを話す。

「辺境大森林の深層部に行った冒険者が稀に刺されることがあるんですけど、玄蜘蛛に刺された特徴で合ってると思います。俺が見たことあるのよりだいぶ痣も小さいし、そんな心配しなくて大丈夫ですよ」

こんくらいならまぁ……解毒剤もそこまで量もいらないだろうし、何とかなるんじゃないかな。

トピリア侯爵邸にあるディフレイアの花弁とか根こそぎ使えば材料も足りそうだし、いけるいける。

他の解毒剤が効かない……というか、悪化するから使うなってのが難しいだけで。

「二代目マジ神!!」

と言って、抱き着いてくるギンさんを引き離すのに苦労した。

トピリア侯爵邸の温室の方が、辺境由来の薬草も師匠のおかげで種類も豊富だしそこで調合して持って来ることになった。

第一王子殿下の容態は兄上がそのままついて診てくれることに。ギンさんも同じくこの場に残って、他の医官が入ってこないよう見張り……という名のただ見守っていたいそうだ。

トピリア侯爵邸に戻り、エヴァンハルト様に事情を説明してディフレイアから解毒剤を作る。

木属性の魔法が得意なエヴァンハルト様も手伝ってくれるそうだ。師匠から借りて読んだ「辺境固有種による薬の調合」が気になっていたので、是非にと。

薬のレシピなんかも完璧に覚えているそうで心強い。難しいんだよ、ディフレイアの解毒剤作るのって。

温室に行ったら

「……だいぶ育ちましたね?俺が持って来たやつで合ってます?」

エヴァンハルト様が日々、手ずから世話をしたというディフレイアは二周りは大きくなってんですけど。

「育てるのは得意なのですが……辺境固有種ともなれば必要な魔力が桁違いでして、まだまだですよ」

俺、ここまで持ってくるのも現状維持で精一杯だったんだけど。謙遜しながら恥ずかしげに笑ってるけど、やっぱ師匠の弟さんなだけあっておかしいわ。

あと高位貴族の魔力半端ねぇな。花弁はさらに瑞々しく透明度も上がっている。

こんなん失敗するわけもねぇなと思って、俺は不敵に笑った。

夜半、出来上がった解毒剤は完璧なんじゃね?

俺はエヴァンハルト様にお礼を言ってから、再度王城へ向かう。

途中、嫌な視線を感じて精霊たちに頼んでその半身を土魔法で埋めてもらう。うっぜ。

最近やたらと魔法で狙われてんの。返り討ちにはしてるけど、急いでるんだっての。王都ってマジ治安悪くね?

トピリア侯爵邸と王城の往復しかしてないのにさぁ。

「あと一人います。詰めが甘いですね」

「ルミちゃん、久しぶりじゃん!」

どこからともなく現れたルミちゃんだけど、さっすが!

「……リシアン、狙われている自覚あります?」

「さすがにあるよ?!でも心当たりはない。俺、そんな金持ってる風には見えないはずなんだけど……王都ってもっと治安もいいのかと思ってたのにさぁ」

……呆れた目で見るのやめない?

「ザファルド一派に狙われてます。あと裕福そうには見えませんし、むしろ地方から出てきた一旗揚げたい冒険者です」

「付け足す必要ある?それ」

最近はわりとちゃんとした格好してんですけど。エヴァンハルト様が用意してくれた服をちゃんと着てるし。

「……新手が来ますね。ちょっとリシアン、今から黙っていてください」

そう言ったルミちゃんに引き摺られて、影へと吸い込まれたんだけど……びっくりして声も出ねぇよ。

そうして引き上げられたら、第一王子殿下の私室で……全力疾走した後みたいに体がきついんだけど!

「リシアン、ルミスくん!」

兄上が駆け寄ってくる。汗を拭いながら

「……ルミちゃん、今の魔法は何なわけ?」

「影の秘術ですが、お気になさらず。ですが口外禁止でお願いします」

しれっとした顔で言うけど、俺王都に来てから一般人が知っちゃいけないことだいぶ聞いた気がすんだけど。

「例の温める魔法のお礼です」

……レンチンの魔法のことですか。王家の影がその魔法をどう使っているのかを聞くのはさすがにやめた。

「兄上、第一王子殿下の具合はどうです?」

「少し持ち直している。こちらに……」

幾分と顔の赤みが落ち着いた第一王子殿下が、ベッドの背にもたれ掛かるようにして座っていた。

「……来たか」

「二代目ぇぇぇ!解毒剤早よ!!」

疲れてんだろうけど、ホラーな動きで這い寄ってくるのはやめてほしい。

ギンさんに解毒剤が入った瓶を手渡す。

「ほら、セイたん飲んで!」

「王弟殿下、なりません。毒見も済んでいないものをお渡ししてはなりません」

護衛騎士が止められたが

「じゃあ、俺が毒見するから!」

そう言って、ギンさんがそれを口にした。ちょっと、それ第一王子殿下用に量を調整してたんだけど!

「ほら、どうもないじゃん!」

とドヤるギンさんに

「どうもないってことはねぇよ!これ予備でこんだけあるからいいけど、作るのめっちゃ大変だしまた測り直しになんだからな?!」

「遅効性の毒だったらどうするのですか!もっと王族としての意識を持ってください」

俺と護衛騎士の怒りが炸裂した。

「リシアン……」と俺は兄上に諌められ、護衛騎士も第一王子殿下から静止するよう手で指示がなされた。

「イグナート、どの道私はもう長くはない。だが、諦めるつもりはない。リシアン、準備ができたら解毒剤を」

「殿下!」

尚も食い下がろうとする護衛騎士を

「これは命令だ。何度も言わせるな」

そう言った第一王子殿下の目は冴え冴えとして、いつもの王族オーラが復活してた。

兄上がついていたから、ここまで持ち直したんだろうな。

解毒剤を飲んだ第一王子殿下は「ふぅ……」と一息ついた。効くまでには少し時間もかかるけど、とりあえずは安心かな。

ただ効果が出るまではと結局、俺たちも別室にて待機となった。その部屋はめっちゃ見張られてて気まずいけど、見えないなら別にいっかと思ってゆっくり眠った。

翌朝、第一王子殿下の痣も薄くなり始め回復の兆しが現れたところで待機は終わった。

「リシアン、よく休めたかい?」

寝不足ですって顔の兄上にそう聞かれる。そして待機ではなく、何かあったら扉の前の騎士たちによってよくても拘束……悪ければそのまま殺されていてもおかしくなかったことを聞かされ……王族怖って思った。

「レオナリス、リシアン大義であった。あぁ、リシアンも私のことを名で呼ぶことを許す」

さっきまで怖って思ったけど、セイラン殿下に何かすごい褒められてる。

「さて……今後だが、私はまだしばらく原因不明の病として表には出ない。リシアンは叔父上とともに医官たちと……解毒剤を作るように。レオナリスはこちらで部屋を用意させるから、そのまま私の近くにいて診てくれ」

「はい?」

ちょっと待って、頭いい人の考えることマジ分かんない。

「……そうすれば近いうちにザファルドからの接触があるだろう。私が倒れたと思っているうちに事を進めたい」

なるほど、潜入捜査ってことね。

「俺が行くの不自然じゃないですかね?」

「叔父上がいるから大丈夫だ。薬師合同演習にて非常に優秀だった薬師に目を付けたとすれば然程の違和感もない。叔父上が私のために何か薬を欲していることにすればよい」

あぁ……王城内でもやっぱ甥っ子溺愛は有名なんだ。

「ギンさんならセイラン殿下命って感じだし、その理由なら大丈夫そうですね」

「叔父たんは!セイたんとルイたんのためなら何だってするからね!!」

昔から二人ともマジ天使でーなんて喋りだすギンさん。その天使エピソード、もう何回も聞いた。

てか、前から疑問だったんだけど……

「そんな子供好きなのに何でギンさんって独身なの?」

政治的な情勢も落ち着き、国王陛下にも二人の成人間近な息子がいる。前までは王弟殿下は跡目争いを避けるために独身を貫いているとかって噂があったみたいだけど、そんな感じじゃないし。

「それは……三十まで童てっ」

パァン!といい音をさせながら、セイラン殿下がギンさんの口を塞いだ。

「叔父上?」

冷ややかに見つめられて、改めて

「三十歳まで清い身体でないと魔法が使えなくなるかなーと思って。ほら!三十歳まで清いままだったら魔法使いになれるって言ってたじゃん?!もうその年齢は過ぎたけど、魔法が使えなくなると困るからそのままにしてて……」

すごい同意を求められたけど

「え?知らない。てか、そんなわけないじゃん」

「馬鹿な!」とでも言いたげに見つめてくるのはやめてください。

「日本ではそうだったよね?」

と確認されるけど知らねぇよ。てか、日本で魔法とか見たことねぇし。

言い合う俺たちを邪魔だとばかりに、セイラン殿下から

「父上……陛下だって魔法を使っているからそんなわけはないと何度も言っているでしょう」

との言葉とともに追い出された。