軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話「王族との謁見」

数日はトピリア侯爵邸にてのんびり過ごしていた。温室がもうすごかった。文献でしか見たことない薬草もあるし、品種改良もしているみたいで通常よりも葉の枚数が多かったりしてさ。

エヴァンハルト様とも「水魔法を使った水やりだと生育に影響がある」とか色々お話したのも楽しかった。

辺境の俺の薬店の裏の畑……あれは木と土属性の精霊が何かして野菜をおいしくしてくれた。だから、属性ごとにまた違った効果があるのかもしれないということでまた話は盛り上がった。

旅路の食料として持ってきた根菜類には余りがいくつかあったので、分けたらやっぱり味が全然違うみたい。

これはトピリア侯爵領内で実証実験を始める準備をしなくては、とエヴァンハルト様は目を輝かせていた。

そしてお礼にといくつか礼服や普段着を仕立ててくれることになった……。きっと足りないだろうからって。

いらない……。そんなにもらっても着れないし、持って帰れない……。あとお礼が重い。

既製服を俺用にサイズ合わせて仕立て直した分と、専用に誂えるからと仕立て屋さんが来て採寸とか色々された。

俺、布だけ見せられても何をどう選べばいいのか分かんない。とりあえず、兄上ではなくアグニスに助けを求めた。

ちなみに断るのは失礼になるからダメなんだって。貴族ってマジ難しい。よかった、俺は平民で。

採寸諸々でぐったりしていたら来客……かと思えばルミちゃんだった。

「第一王子殿下、ならびに王弟殿下殿との謁見の日程が決まりました。明日の午後からですので、その頃にまたお迎えにあがります」

相変わらず淡々としたルミちゃん。

「……で、どうしたんです?」

「何かめっちゃ細かく体のあちこち採寸されて、疲れきってるから労って」

聞いてきたのに無視するのはよくないと思うよ、俺でも。

兄上とアグニスと打ち合わせを始めないで。

「そんな体たらくで明日の謁見はどうするというんです?しっかりしてください」

年下に怒られた。

そんなルミちゃんは翌朝から来て、俺の支度を手伝ってくれた。

あの……侯爵家の使用人の方々が戸惑っているんですけど。

「使用人に慣れていないでしょう?自分の方がリシアンも気楽でしょうから、大人しくじっとしていてください」

「はい」

……貴族って大変なんですね。大人しくされるがままになっていた。

「リシアン、おさらいだよ?精霊様とは?」

「話さない、話しかけない、話しかけられても反応しない、です」

何度目だろうか、兄上とのこのやり取りも。

ルミちゃんの案内で今は第一王子殿下と王弟殿下を待っている。

あ、王城はトピリア侯爵邸よりもっとすごかった。広いしどこをどう通ったか分かんないし、たぶん俺は一人じゃ帰れない。

あとトピリア侯爵邸で高級品慣れ?しといてよかったなと思った。何か目に付く物全てがヤバい。

大人しく待っていたんだけど

「噂の辺境大森林の魔王が来たってマジー?!」

護衛より先に扉を開いて現れたのは、短い白銀の髪に深い青の瞳はどちらも王族の色。

バリトンのいい声をしたイケオジが……ハイテンションでやって来た。

「二代目辺境大森林の魔王です。あと先に行かないでください、王弟殿下」

ルミちゃんに怒られているのこの人が王弟殿下なのか……。

「いやー、早く見たくってさー!ねぇ、セイたん?」

護衛騎士を伴ってやって来たその人は王弟殿下と同じ髪色に……瞳はさらに青く澄んでいた。

怜悧なその雰囲気は、森で出会った高位の精霊と同じだった。上に立つ人ってやっぱ皆、そんなオーラがあるんだなぁと思いながら臣下の礼をする。

「叔父上、その呼び方はどうにかしてくれませんか?あぁ、楽にしてくれていい」

王弟殿下を窘めて、こちらにも声を掛けてくれる。

顔を上げて改めてはっきりと見た第一王子殿下。長い白銀の髪に華奢な体で……すげぇ美少女。いや、男だと知っているけど超美人だな。

「リシアン・フェルネスか。初めて会うな。第一王子のセイラン・グランティスだ。召集に応じてくれて嬉しく思うよ」

……あれだ、笑ってるけどちょっと遅くなったの怒ってるわ。俺、こういうのはすぐ気付くもん。よく怒られるから。

「ルミちゃんがさー、冒険者たちから二代目辺境大森林の魔王とか呼ばれてるって言うからどんな子かと思ったらフツーじゃん。いやー、てっきりバルドレム氏のミニチュアバージョンが来るかと思ったよね!」

声と口調と顔が一致しないな、王弟殿下。

「あ、俺は王弟で医官総長をしているギンケイ・グランティス。気軽にギンさんと呼んでくれて構わないよ!あと口調も気楽にね、魔王くん」

……えーっと?

「第一王子殿下につきましてはお待たせして申し訳ございませんでした。王弟殿下……魔王とはいえ恐れ多くも王族から“王“とつく呼び名は少々遠慮したいのですが」

あと二代目辺境大森林の魔王ってなんだよ?二代目ってことは初代はアレか?ジジイだよな、絶対。……踏襲した覚えもねぇよ!

「固いなー、もっと気楽にしてよ二代目!男爵家とはいえ二代目も同じ貴族な仲間じゃーん!」

「え?俺、貴族じゃなくて平民ですけど……?」

びっくりして貴族の微笑みキープできなかった。

「え?レオナリスくんの弟で、今はフェルネス男爵家に移籍したんでしょ?」

……フェルネス男爵家?は?

「兄上……?」

え、どういうこと?兄上に助けを求める。

「リシアン、子爵家を出るときに父上から説明はなかったのかい?」

兄上も何か戸惑ってるんですけど。

「ヴァルディリア子爵からは、今日からリシアン・フェルネスと名乗るようにとしか……」

言われてないよ?

「あの……リシアン・フェルネスという平民として生きていけってことではなかったんですか?」

……やべぇ、全員黙ってる。何かやらかした気がする。

「リシアン、平民は基本的に名字はないんだよ?あっても一部の商人くらいじゃないかな。それも国への届け出と手続きが必要だから、本当に一握りの平民だね」

マジか。知らなかったわ。

「あー、分かる分かる。日本って皆、名字あるもんねー」

王弟殿下だけめっちゃ同意してくれてんだけど。

「叔父上、その話は後でしてください」

第一王子殿下から止められた。

「父上と相談して、リシアンが子爵家を出る前にフェルネス男爵家に移籍をしたんだよ。リシアンは成人前だったから、父上がその手続きをしたんだけれど……」

兄上が困ったように微笑んでいる。

あと何で父上は俺に貴族籍を……?フェルネス男爵家とか親族にはいなかったはず。

「レオナリスもその話は後だ。さて、リシアン。お前の精霊言語の翻訳機能と発話についてを詳しく聞きたい」

俺的には謎のフェルネス男爵家と王弟殿下の「日本」発言が気になってならないのですが。

いや、王弟殿下の手紙にも「我らが魂の故郷、日本について語り合おうじゃないか!」とか書いてあったし。

たぶん前世、同郷?だよな。ニホンとかニッポンって国で合ってるよね?

それより精霊言語についてか……第一王子殿下が最初から話すようにとの事だったので、順を追って説明した。

耳飾りに付与されたその能力は……俺以外の人が耳飾りを付けても効果は発動されないことが分かった。

それを見て、兄上も第一王子殿下もホッとしていた。

耳飾りをザファルドたちに奪われることへの危惧が減ったと……。

ただ、精霊言語が分かるのって俺だけみたい。

王城って優秀な人がいっぱい集まってそうだから「他にもいるんじゃね?」とか思ってたらいないってマジで?

「リシアン、私の精霊とも話せるか?許可する。彼が何と言っているか教えてくれ」

「はい」

そう頷くと……

『助けて!このままだとセイランが死んじゃう』

それまでぴったりと第一王子殿下に寄り添っていた精霊がそう……縋ってきた。

『何で?!どういうこと?』

いきなり国の第一王子殿下が死ぬかもしれないなんて言われるこっちの身にもなってくれ。だいぶヤバいじゃん!

『わたしたち、一対なの。セイランが生まれたときにバラバラにされちゃったの。ねぇ、お願い。片割れを取り返して……そうじゃないとバランスがもう取れない』

『バランスが取れないって……』

『バラバラだと上手に力が使えないの。セイランが成人するまでに何とかしないと、セイラン……耐えきれなくて死んじゃうよぅ……』

泣きじゃくるその精霊を風乃と……ついでに他のやつらも呼んで、必死になぐさめる。

『分かったから!そのために俺は呼ばれたっぽいし。で、その片割れは今どこにいんだよ?』

『どこにいるかもう分かんない。でも、連れてった悪い人は知ってるよ』

……ザファルド・アルケイン。

兄上たちからも聞いていたその人の名前だった。