軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話「リシアンと王弟殿下の手紙」

「じゃあ、お前ら冒険者ってことにするから。ルミスとアグニスって呼ぶからそっちも合わせて」

リシアンの堂々と臆することがないのは長所だと思うよ。でも相手は秘匿された存在とはいえ伯爵家と、庶子とはいえ正式な侯爵家の五男です。

子爵家なお兄ちゃんの心臓に悪いよ。

話を遡るとこうなる。

「てか、どうやって俺と兄上がここを出るってことにするわけ?兄上はいいよ?元々王都にいたんだし」

リシアンは辺境でもう六年もの月日を過ごしている。急に出ていくには不自然だ。

「フェルネス様にはこちらを」

ルミスくんが封筒が差し出す。

「……王都薬師連合による合同研修ねぇ」

どうしよう、全く興味がなさそう。

「王都薬師連合は王国内最大規模です。各領から参加を希望する薬師も多いといいます。実際に参加してもらっても構いません」

「ふーん」

ねぇ、もうちょっと興味を示して?

「師匠……バルドレム師匠より勉強になんの?それ」

バルドレム先生……薬学医官として王立貴族学院に三年のみ在籍していた教授。薬学に関しては他の追随を許さないその人に、僕がリシアンを紹介したんだ。

「師匠から五年、色々習ったんだけどそれよりすごいこと教えてくれんの?」

……リシアンの私室や書庫には薬師というより、医官レベルの本もあったなぁ。

バルドレム先生、あなたは弟に何を……どこまで教えたんでしょうか。

「てか、それだと俺が王都に行く理由としては弱いと思うよ?」

いいえ、他の薬師なら喜んでいく案件です。

「では、こちらを」

新たに差し出された封筒には王族の封蝋。

王弟殿下からのものだった。

それを開いたリシアンは……ちょっとびっくりしてから、不敵に笑っている。

「王都、行くわ」

ねぇ、王弟殿下からのその手紙には何が書いてあるの?「セイたーん」「レオナリスくん、リラーックス」どうしよう、医官総長で王弟殿下のはずなんだけれど普段の奇行しか思い浮かばない。

「理由は……そうだな、お前ら歳近そうだけどいくつ?」

ルミスくんは二十二歳で、アグニスくんとリシアンは同じ二十三歳だ。

「やっぱそんくらいか。じゃあ、お前ら冒険者ってことにするから。ルミスとアグニスって呼ぶからそっちも合わせて」

うん?

リシアンが言うには二人はかつての冒険者仲間ということにする。

辺境特有種である薬草の採取依頼を受けて辺境にやって来てリシアンと再会。そしてその薬草は薬師でもなければ管理ができないので、リシアンに輸送を手伝ってほしいと依頼する。

リシアンも僕が王都に帰るから、その護衛を共同で請け負うのを引き換えに輸送依頼を受けることにした。

兄上はどっからどう見ても貴族だし、護衛依頼なく王都に戻るのは不自然だから冒険者を雇ったことにしてともに移動するのがよいと。

……流れとしても違和感がなく、うちの弟ってすごいのかもしれない。

「まぁ冒険者ギルド長にはちょっと相談しないといけないと思うけど」

Bランク冒険者からは長期の移動の際には申し出る義務があるらしい。上位十パーセントだし、どこのギルドもほしい人材だからねぇ。

そこは僕とルミスくんとである程度、事情をぼかして説明することにした。

「兄上、ミレア姉さんに挨拶だけしてきてもいいですか?その……事情は言わないんで」

いつ事態が終息するかも分からない。普段はやらかすリシアンだけど、ミレアさんが相手なら大丈夫だろうと許可する。

リシアンはミレアさんへの挨拶と街の薬師たちへの協力要請、僕たちは冒険者ギルド長へ話をしに行くことにした。

「こんにちは、今日はギルド長にお話があるのですがいいですか?」

受付さんはすぐにギルド長を呼びに行ってくれた。

ルミスくんはすぐにその場の空気に溶け込み……アグニスくんは物珍しそうにしているから、そっと「あまりキョロキョロしないように」と注意する。

「あぁ、兄上殿か。またリシアンのことですか?」

あれからもリシアンの不在時にたまにギルドに行っている。

「深層部はヤツの庭」「大牙熊討伐依頼が出たらリシアンを薬店に留める係がいる」とか色々と情報も集まっている。

「えぇ。それと少しご相談がありまして……」

「上の会議室をご用意しましょうか?」

少しここでは話しにくいなと思っていたら、察してくれたギルド長がそう提案してくれたのでありがたくそちらで話すことにした。

「兄上殿、そちらの二人は?」

「……さる方からのご命令で、騎士ですね。急ぎ私に王都まで来てほしいとのことです。詳しいことは話せないのですが……リシアンにも同行を願いたく」

セイラン殿下も「必要があればある程度のことなら、伝えても構わない」と言っていたとのことなのでこれくらいなら大丈夫だろう。

「リシアンなら腕も立つし同行しても役に立つでしょうな。兄上殿の頼みならあいつは何でも引き受けそうだ」

ギルド長が頷いている。大体あっている。

「それでリシアンがここをしばらく離れる理由を私の護衛依頼を引き受けたことにしてほしいのです。……依頼書を残さずにできますか?」

ふむ……とギルド長が規約の書かれた冊子を取り出す。無言で開かれたページには

――……所領の領主等、爵位を持つ者から依頼であっても不当と判断された場合、冒険者ギルドはそれを拒否することができる…………王族からの命令に関してのみ、冒険者ギルドは受け入れる義務がある……――

「依頼書を残さず、リシアンが私の護衛依頼を受けたという情報を流してください。後者は私からのお願いですが……」

そう告げる。

「兄上殿の頼みならそちらも引き受けますよ。とは言ってもリシアンなんで……情報は流さなくても勝手に広まって皆納得しそうですがね!」

ギルド長はにこやかにそう答えてくれた。

「とは言えそちらの騎士様は、冒険者としては少々……それらしい装備を貸出しましょうか?」

アグニスくんかぁ……。

「まぁ、リシアンの知り合いだと言えば多少のことは誰も気にしないとは思いますがね」

……なぜその理由で誰も気にしなくなるんだろうか。装備は借りることにした。

階下に下りると何組かの冒険者たちがちらほらといる。

「おい、お前ら!近々リシアンが兄上殿を王都まで送っていくから、しばらく不在になるからな!」

ギルド長がそう声を掛けると

「よっしゃあー!!」

「これで諦めていた依頼も……!」

「兄上殿、できるだけゆっくりでお願いします」

冒険者たちから歓喜の声があがっているよ……リシアン。

「しばらく麓の薬店にリシアンがいないんだぞ?!お前ら薬はいいのか?」

ギルド長がそう付け加えると

「あー!!!リシアン、待って!」

「マジか……ちょっと依頼料の前借りとかって頼めませんか、ギルド長!」

「血止めのストックあったか?あと毒消しと麻痺と……何がいる?」

今度は悲鳴があがる。

あと一週間ほど滞在するし、リシアンが街の薬師に協力要請に行っているから慌てなくとも大丈夫だと伝える。

冒険者ギルドを出てから二人に

「リシアンってどんな人なんですか?冒険者たちの反応、おかしくないですか?」

と聞かれたけれど……僕もうまく答えられずに曖昧な笑みしか返せなかった。

先に薬店まで帰り着いたので、調合をしながら二人にリシアンの話をする。

「小さい頃から魔法が得意でね、精霊様とよく遊び回っていたんだ。でも、母上がリシアンのことは表に出したがらなかったから……同世代の友人が出来なかったんだ。君たちはリシアンと歳も近いし、仲良くしてくれるとうれしいよ」

少し、口は悪いけれどいい子だから。今でこそ、冒険者や街の人々とも親しげに話している姿を見かけるようになったんだけど。

それでも、あの頃のリシアンに友人を作ってあげられなかったことはずっと気掛かりだったから。

アグニスくんは特にリシアンと同じ庶子。その育ちにはずいぶんと違いがあって、少し衝撃だったみたい。

「……同じ庶子だから親近感がなどと思っていましたが、そうだったんですね」

アグニスくんは他の兄弟と同じく他家との交流もあり、貴族学院にも行っていたからね。

「リシアンの事情は分かりました。仲良くなりたいです!」

うん、そうなってくれたらいいなぁ。

「兄上!戻りましたー」

そんな話をしていたらリシアンが帰ってきた。

「おかえり、リシアン。街の薬師さんたちは協力してくれるのかな?」

「はい!バッチリです。みんな快く協力してくれることになりました」

ニコニコといい笑顔をしているリシアン。

……最近、お兄ちゃんは君がその顔をしているときは企み事が成功したときだということに気付いたんだよ。

「すごいな、リシアンは人望があるんだな!」

キラキラした笑顔でアグニスくんがそう声を掛ける。

「そんなにすぐ決まるものなんですか?」

ルミスくんはちょっと訝しげ。

どうやったのかを好奇心いっぱいに問い詰めるアグニスくんに

「……ないしょ」

そう言って笑うリシアンは何だかすごく楽しそうに笑っていた。