軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 幾度かの戦闘と報告

最初の戦闘から、既に何度か同様の交戦が発生していた。

ただ、毎度のことながら戦っているのは“あの男”──エリオ、ただ一人だ。

他の誰も、武器こそ抜くが、その様子を静かに見守っているだけ。

もちろん俺もその一人なわけだが……傍から見れば、見学会のようにすら思える。

あの最初に飛び出してきた“顎ハサミの化け物”以外にも、この階層には別の敵が潜んでいた。

たとえば、地鳴りとともに姿を現したのは、岩の塊を無理やり人型に固めたような存在──

ゴーレム。

「おお、デカいっ……」

思わず、喉の奥で呟いた。

見上げるほどの巨体。岩肌は乾いた苔に覆われ、重そうな腕を振り上げるたびに、ズシン、と地面が鳴る。

けれど、見た目の鈍重さとは裏腹に、動きは意外なほど素早かった。

その巨体で一気に距離を詰めてくる様子は、まさに“質量で押す”という感じだ。

……大剣だと相性が悪いんじゃないか?

そう思ったが、エリオは無言でアイテムボックスに大剣を納め、まるで調理器具でも取り替えるかのように、悠然と“道具”を変えた。

取り出したのは──大型のウォーハンマー。

まるで柱を削ったような鉄塊に、金属の輪を重ねたような武骨な造形。

「……なるほど。打撃系なら」

感心して声が漏れる。

エリオはそのまま、腰を落とし、両手でハンマーを構えると──

振り抜いた。

グシャァ。

鈍い音が、響く。

ゴーレムの胸部が陥没し、欠けた岩があたりに飛び散った。

だが、それでも奴は動きを止めない。

「核は……別の場所か」

エリオの呟きが聞こえる。

核? 制御する心臓みたいなもんか。

その後も、二撃、三撃と、位置をずらしながら叩き込む。

そのたびに、ゴーレムの動きが鈍る。けれど倒れない。

それでも焦る様子は微塵も見せず、エリオは淡々と攻撃を続けていた。

やがて──

四撃目が、ちょうど左肩の付け根あたりを砕いた瞬間だった。

ゴーレムの体が、ぶるりと震え、動きを止めた。

そして、ゴトリと崩れ落ちる。

「……ふぅ」

淡々と、ハンマーを地面についたまま一息。無駄な言葉はなく、ただ、まさしく一仕事終えたようにその場を離れた。

どうやら、核の位置は個体ごとに異なるらしい。

ゴーレムとの戦闘回数がある程度あると思われるエリオでも、確信をもっての攻撃はなかった。

……ランダム配置か、何かしらの規則性があるのか……。

思わず考え込むが、現状あまり有用ではない。

なにせ、俺たちは一度たりとも戦闘に参加していないのだから。

多少時間がかかっても、エリオが全て処理している。

試練の“本番”を前にして、実力の温存というのは分かる。

だが、それでもこれだけ長く何もさせずにいるのは、やはり「経験点の分配」をエリオに集中させ、"試練"で使われた経験点分を補填しているのだろう。

また、戦闘後には、何度か“ドロップ品”が地面に転がっているのを見かけた。

だが、戦利品は全て、回収役として、シドと言われた男が淡々と袋に詰めていくだけ。

中身を見せるでもなく、コメントをするでもなく、ただ当然の作業として処理されていく。

ちらりと見えたその中には、球体のものも混ざっていた。

恐らく、あれは……スキル球、か?

確信はない。ただ、その形状と質感、それに周囲の連中の反応を見る限り、間違いではない気がする。

ドロップの内容も気になるが、今のところは何の問題もなく道程は進んでいるようだった。

* * *

戦闘を繰り返しながら、黙々と進み続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。

ずっと同じような景色を歩いているせいで、体感時間の感覚が曖昧だ。太陽の位置も変わらないので、余計だ。

ただ、やんわりとかいてくる汗と、脚の筋肉にじわりと疲労が溜まっていく感覚だけが、確かな時間の経過を教えてくれる。

途中、何度か小休止が挟まれた。

だが、休憩中も俺と他の連中との間には、会話らしい会話はほとんどなかった。誰もが自由に過ごしている。

ジョンはいつものように分厚い本を手にし、ページをめくる音だけが静かに響く。

三人組の男たちは、やや距離を取って腰を下ろし、小声で何やら戦利品の話をしているようだった。

俺はといえば、少し離れた岩に腰をかけて、水筒を傾けながら一人、ちびちびと水を飲んでいた。

その合間に、意識を集中し、メイリンへの報告を始める。

《……というわけだ。正直、思っていたよりもずっと妙なことに巻き込まれている気がする》

メイリンと別れた後、ヘリで無理やりこの島に連れてこられたこと。島で出会ったフランク達の事。マシューによって行われた、謎の契約──いや、契約のような何かを強制されかけたこと。そして、それがどうやら、俺自身には今のところ影響が出ていないということ。

《……装備のおかげで契約そのものを防いでるのか、詳細は不明だ。けど、俺の体感としては“何かに縛られている”感覚はない》

少しの沈黙のあと、メイリンの声が返ってくる。

《そっちは大変だったのね。でも、こっちはこっちで朗報よ。どうにか“家”の人たちと合流できたわ》

良かった……。

内心、ほっと胸を撫で下ろす。

正直、マシュー達から何かしらのアクションはあると思ったが、少々拍子抜けだ。

《で、イトウさん的にはどうするの? 捕まってるとはいえ、契約に縛られてないなら、抜け出そうと思えば抜け出せるんじゃない?》

その問いに、しばし考え込む。

──抜け出す。それは当然、最優先にすべき行動だ。

けれど。

《……気になるんだよな、色々と》

この島のダンジョン。それに契約で縛られている人々、“試練”を使って行われていること。

それらすべてが、異質で、気になってしまう。

《……ちょっとばかり、覗いておきたい気持ちもある》

《まぁ、イトウさんがそう言うなら。じゃあ、情報集めなんかは私の方で続けておくわ》

メイリンが軽く笑う。なんだか申し訳ない。

《で、お願いが一つあるんだが……》

言葉を選ぶように、慎重にメッセージを送る。

《……日本の自衛隊に、タケウチさんっていう人がいる。俺が電話で話していた人なんだけど。たぶん“一等陸尉”だったと思う。今は階級が変わってるかもしれないけど》

一瞬、息を詰めた。

《彼に……もし、可能ならコンタクトを取ってもらえないかな。俺が今、こういう状況にいるってことを、伝えたい》

マシューが何かを企んでいるのは確実だが、それがどういった問題を引き起こすのか、ただの一般人たる俺には判断できない。

自衛隊かつ、日本の迷宮の前線にいる彼には、知っておいてほしい。

《陸自のタケウチね。分かったわ。迷宮絡みで調べれば、たぶん比較的すぐにヒットするはず。コンタクトの結果がどうなるかは保証できないけど、動いてみる》

《……ありがとう、メイリン》

《ただ、うちの国にもこのことは伝えるから、その後になっちゃうし、もし"上"がダメって言ったら……》

少しばかりばつが悪そうにメイリンが伝えてくる。

まぁ、こればかりは仕方ない。

あと、急に中国から連絡が来ることになるかもしれない、タケウチさん、すみません。

もしかしたら国内で内通者とか思われるかもですけど、ホント、すみません。

《うん、大丈夫、お願い。じゃあ、そろそろこっちも出発するみたいだから、また》

彼女の返事を待ち、通信を切る。

ふぅ、と息を吐いて立ち上がると、ちょうどエリオたちも再び動き出すところだった。

「さて、そろそろ何か起こってもおかしくない頃合い、だよな」

独りごちて、俺もまた、歩みを再開した。