軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第64話 死闘の報酬

「はー……しんど……」

メイリンが地面にドサリと腰を下ろす音が、ようやく訪れた静寂の中にやけに大きく響いた。

その表情は、戦いを終えた安堵と疲労とが入り混じったものだ。口元を歪めて、苦笑いとも達成感ともつかないような顔をしている。

思わず、俺もふっと肩の力を抜いた。

そりゃ、そうだ。

あれだけ集中して矢を放ち、急に発動した派生スキルで視て狙い続けたんだ。

彼女にとっては命を削るような綱渡りだったに違いない。むしろ倒れ込まないだけ大したものだ。

俺は、といえば……脚に残る鈍痛と、背筋を這うような疲労感が心地よいくらいだった。

だが、そこで気づく。メイリンに寄ろうとしたその足元に、黒く、銀に縁取られた物体がきらりと鈍く光った。

「……ああ、そうだ。ドロップアイテム、か」

言葉にしてようやく思い出す。

最近、こういうものを得ていなかったので、一瞬気が緩んでしまった。

──いかんいかん。

落ちていたアイテムは三つ。

正確には、似たものが二つと、一本。

まずは目についた、対になる指輪のようなものに手を伸ばす。

触れた瞬間、視界に薄く魔法文字が浮かび上がった。

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【 影送(えいそう) の 双環(そうかん) 】

種別

:アーティファクト(装飾品・指輪型/二対一組)

効果

:一対で使用することにより、物品を互いに転送し合うことができる魔導指輪。

片方の指輪に物を収納すれば、もう一方の指輪から出し入れが可能となる。

両者は“影の空間”で繋がっており、使用者が転送の意志を持つことで、

物品は空間を介して即座に反対側へと送られる。

通常時は手のひらに収まる装飾指輪の形をしているが、使用時には小さな“影の輪”が宙に展開され、

その内部に手を差し入れることで物の出し入れが行われる。

転送のたびに微量の魔力を消費し、

一方が破損、あるいは強力な封印を受けた場合は、もう一方も同時に機能を停止する。

なお、生物や特殊なアイテムは転送対象外。

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読み終えて、思わず「へぇ」と唸った。

これはかなり使い勝手の良いアーティファクトだ。

移動先で物資を受け取ったり、回収に送ったりと、アイデア次第でいくらでも活用の幅が広がる。

「……けど、これ、ペア運用前提ってやつだな」

もう一つの指輪は誰かに持たせなきゃ意味がない。

つまりは、相手に対する信頼が必要不可欠ってことだ。

メイリン──

ちらりと視線をやる。肩で息をしながらも、どこか誇らしげな笑みを浮かべている彼女の姿が見える。

……信頼できる部分もある。個人としては信用してもいいかもしれない。

だが、彼女の周囲は別だ。

彼女の手元に渡したそれが、いつか誰かの手を経てこちらに牙を剥かないとも限らない。

「……今は、まだ早いな」

苦笑しながら、指輪をその手に握りしめた。

そして、残る一本の弓に手を伸ばす。

触れると、こちらは詳細情報までは表示されず、名前だけが魔力の膜に浮かび上がった。

< 月喰(つきばみ) の弓>

黒銀の光沢が夜を呑むかのように揺らめいている。

見た目だけでも只者ではない雰囲気があるが……詳細は後で鑑定用の識別札で調べるとしよう。

多分、相当に高ランクの装備だ。

手に入れた指輪と弓を軽く持ち直しながら、俺はメイリンの方へと歩を進めた。

彼女は脚を投げ出し、背を丸めてそのまま天井をぼんやりと見上げている。まるで、空虚な空間の一点を見透かすような眼差しだった。

やがて、俺の気配に気づいたのだろう。彼女はゆるゆると片手を上げて、気の抜けた声をこぼす。

「おつかれー。いやぁ……大変だったわね」

にへら、と笑うその顔は、どこか魂が抜けかけているようで、それでもちゃんと達成感に満ちていた。

あれほどの集中と緊張を強いられた戦いの直後だ、こうも脱力してしまうのも無理はない。むしろ、よく立っていたものだと思う。

俺も彼女の向かいに腰を下ろし、ほっと一息吐いた。

「そっちこそ、最後は助かったよ。……凄かったな、派生スキル」

事実だ。

あのタイミングで彼女が“視えて”いなかったら、どこを攻めるべきかも分からず、俺一人だったら、がむしゃらに斬りかかるしかなかっただろう。

いや、もしかしたら、スキルを新たに得るという選択肢もあったかもしれない。でも、あれほど効果的な一手を引けていたかどうか……それは、怪しい。

俺は言葉を区切って、手にした指輪と弓を彼女に差し出した。

「……これ、ドロップアイテムだ。指輪の方はアーティファクトで、弓は詳細不明だけど、見た感じかなりの代物っぽい」

メイリンは「ほうほう?」と声を上げながらまず指輪を受け取り、浮かび上がった文字をじっと見つめた。

ふむふむ、と頷きながら読み進め、理解した様子で返してくる。

「なるほど、これは使い方次第ね。転送系かぁ、夢あるわね〜」

次に、弓を両手で抱えると、そのまま「ほえー」と感嘆の息を漏らしながら眺める。

その姿はまるで、高級スイーツを前にした子どもだ。

そんなメイリンの反応に、つい口元が緩む。

「いやぁ、見事見事」

不意に聞こえてきた拍手の音。

次の瞬間、俺たちのすぐ傍に、ふわりと浮かぶようにして管理人が降り立ってきた。

彼は、穏やかな笑顔を浮かべながら、ぱちぱちと優雅に手を叩いている。

「相性の問題で中々に難しいかとも思ったが、実に見事な勝利だった。これで、無事におぬしたちを“送る”資源も揃ったようじゃな」

満足げに頷きながら、俺たちを交互に見つめるその視線には、どこか誇らしげなものさえ宿っていた。

「さて……すぐにでも送ってしまっても良いんじゃが、まだ戦闘の余韻があるじゃろ? 少し休んでからにでもするか?」

穏やかな提案に、俺とメイリンは一瞬目を合わせる。

そして、自然と、同時に小さく頷いた。

「はい、すみませんが……少しだけ、待ってもらえますか」

俺がそう答えると、管理人は満足げに微笑み、指を軽く鳴らす。

パチン──

空間が揺らぎ、まるで幻影のようにテーブルと椅子が現れる。

白銀色の脚を持つ椅子と、装飾の施されたテーブル。

その上には、銀のポットと三つのカップが静かに並べられていた。

「サービスみたいなもんじゃ。こんなもんですまんがの」

管理人はそう言って、自ら一脚の椅子に腰を下ろす。

俺たちもそれにならって座り、テーブルの上のカップを見やった。

琥珀色の液体が湯気を立て、甘い花のような香りがほのかに漂ってくる。

それはどこか懐かしく、緊張でこわばっていた神経を優しく撫でるような匂いだった。

管理人が、ずずっと上品に一口啜るのを見て、俺も恐る恐るカップを持ち上げる。

唇を寄せ、一口──

「……うまい」

思わず漏らした言葉は、自分でも驚くほど自然だった。

程よい温度で、渋みの奥に爽やかな甘さがあり、口の中から鼻へと抜けていくように香りが広がっていく。

その余韻が、まるで体の芯にまで沁み込んでくるようだった。

驚いたことに、体の痛みがすうっと消えていく。

重くのしかかっていた疲労も、まるで薄皮を剥ぐように、静かに、しかし確実に抜けていくのを感じた。

視線を横にやると、メイリンの肌にあった切り傷が見る間に塞がっていくのが見えた。

彼女も気づいたのか、カップを手にしたまま、こちらを見て、にっと笑う。

「……あー、もうこれ、あと一杯くらい欲しいかも」

その笑顔に、俺も小さく笑い返す。

ふと視線を前にやると、管理人がこちらを見ながらニコニコと満足げな笑みを浮かべていた。

「いいもんじゃろ? 回復薬上級の、まあ、亜種みたいなもんじゃよ」

木製の椅子にもたれかかるように腰を落ち着け、管理人はカップにもう一度口をつける。ごくり、と喉が鳴る音がやけに心地良い。

なるほど、あの妙な甘みと芳香、そして即効性……確かに回復薬の延長線上にあるものだとすれば、納得がいく。

俺も手元のカップをぐいっと傾け、残りを一気に飲み干す。途端に、内側からじわじわと体が温まっていく感覚が広がった。重だるかった肩はすっと軽くなり、わずかに痛んでいた腕の痺れも、気づけば消えていた。

隣でメイリンも勢いよくカップを空にして、ふうっと小さく息を吐いた。

「……はぁ、完全復活って感じ」

頷き返したところで、管理人が札を一枚取り出した。

「さて、ドロップ品の方もさっき見てたようじゃが、こいつを使って今確認してみるがよかろう」

差し出されたのは、識別札──それも通常のものとは少し色味の異なる、濃い銀色の縁取りが施されたもの。

「ありがとうございます」

頭を下げてそれを受け取り、そっと弓にかざす。札がほのかに淡く光り、その輝きが弓に吸い込まれた。

直後、視界に情報が浮かび上がる。俺は思わず、息を呑んだ。

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【月喰の 弓(つきばみのゆみ) 】

種別

: 武器(エピック)

効果

:かつて“月の影を狩る者”が用いたとされる伝説の魔弓。

黒銀の弓身は冷たい魔力を帯び、薄闇の中でかすかに光を放つ。

攻撃力 +138

特殊効果

:本弓は使用者の魔力から矢を自動生成する機能を持っている。

:この弓には以下の三つの付随効果が付与されている

①【影縫い】

命中した対象の“影”を地面に縫い留める。

対象の移動を一時的に阻害し、影が明確に存在する場所で最も効果を発揮する。

夜間、洞窟、屋内などの暗所で効果増大。

②【静音の風】

矢を放つ際の音と気配を完全に抑える。

放たれた矢も着弾するまで音を発せず、索敵反応を回避しやすい。

狙撃・待ち伏せ・離脱時の援護に最適。

③【月光残痕】

矢が命中した地点に、微細な魔素の痕跡(残光)を一定時間残す。

この痕跡は使用者にのみ視認可能で、目印・追跡・視界誘導などに応用可能。

最大3箇所まで同時に残留し、古い痕跡から順に消える。

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「おお、特殊効果が三つもあるのか……」

思わず声が漏れた。弓に浮かぶ情報の数々は、まるで宝具のような趣を纏っていた。俺の手元の識別札からは、淡い青白い光が差し、情報の輪郭が空中にくっきりと浮かび上がっている。

隣で覗き込んできたメイリンが、目を見開いて息を呑んだ。

「ほんとだ……私の今の弓より、ずっと性能が上じゃない。あっ……でも、あれ?」

眉をひそめたメイリンが、不意に疑問の声を上げる。

「どうして……識別札って、使った本人以外には見えないんじゃなかったかしら?」

言われてみればその通りだ。確かに、以前メイリンが使ったときには、周囲には情報は見えていなかった。

「うむ、それはのう。上級識別札ってやつじゃよ。他人にも効果が見える優れモノじゃ」

管理人がカップを置きながら、まるで天気の話でもするかのような軽さで答える。なるほど、上位互換品というわけか。そういうのも存在しているのなら納得だ。

「じゃあ、この弓は──メイリン、使うか?」

俺は弓を両手で支え、そのまま彼女へと差し出した。

「えっ、えぇ!? い、いいの……?」

戸惑いながらも目を輝かせて、メイリンは弓と俺の顔を交互に見つめてくる。欲しい気持ちはありありと伝わってくるが、それを押しとどめるように視線が泳いでいた。

「俺は弓を扱えないしな。さっきの戦い、どう見ても一番活躍してたのはお前だ。遠慮する理由なんてない」

あそこで共闘しておいて、後になってドロップ品で揉めるなんて御免だ。あの瞬間、確かに俺たちは生死を共にした。だからこそ、報酬も素直に分かち合うべきだと思う。

メイリンは一瞬きょとんとした後、顔をぱぁっと輝かせた。

「ありがとう! じゃあ……アーティファクトの指輪はイトウさんが持ってて。ここに来るまで、私、ほんとに何もできなかったんだし……恩返しにもならないけど!」

彼女はそう言って、弓を胸元にぎゅっと抱きしめた。宝物を手にした子供のような、幸せそうな笑みだった。

その姿を見て、俺も自分の手にある指輪に目を落とす。光沢のある金属の輪に、微細な魔法刻印がびっしりと彫られている。まあ、こちらも悪くはない。とりあえず、右手の人差し指と薬指に嵌め込んでおいた。

「そういえば……メイリン、レベルの方はどうだった? さっきの戦い、かなり経験値が入ってたけど」

俺はそう言いながら、パネルの表示を思い出す。俺自身はつい先日レベルアップしたばかりだ。さすがに今回は据え置きだったが、彼女なら──と予測していた。

実際、先ほどの戦いでは【25,000】という、かなりの経験値が手に入っていたのだ。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」

メイリンが、突然椅子の上で立ち上がって両手を高く突き上げた。

「なんと! レベル21になりました!! パンパカパーン!!」

口でファンファーレの効果音まで鳴らしながら、得意げに胸を張る。

「お姉ちゃんたちと同じくらいになっちゃったのよ。これは、帰ったら自慢しなくちゃ……ぐふ、ぐふふふふ……!」

その笑みはどこか黒く、不穏で、怪しげで──

「お、おい……?」

「うふふふ、どうしよう、どんな顔するかしら、うちの姉様たち……うふふ、ぶふふふふ……」

大丈夫か、本当に。

俺は弓を抱えてニヤつく彼女を横目に、ただただ、静かにため息をついた。めでたいのは確かなんだけどな。