軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃④

例えばフェリアがどこぞの深窓の令嬢なら、この状況に悲観し呆然としていただろう。しかし、フェリアはあの僻地中の僻地『孤島の天空領』たるカロディア領でたくましく育った生粋の田舎娘である。侍女がいなくとも、邸の部屋が整備されていなくても、台所がなくとも、井戸しかないこの31番目のお妃様の邸宅で、羽を伸ばすが如く自由に過ごすことができる。

「まずは、芋煮でも温めよう」

庭園に落ちていた小枝を広い重ねる。荷物の中から火打石と芋煮が入った鍋、鍋台を取り出して、小枝を集めた所に持っていき、ご想像通り火をつけ鍋を温めた。カロディア領において、フェリアも夜の薬草守りをすることがあったし、あの地では野営ができねば生きていけない。

美味しそうな匂いがたった頃、ご用聞きが邸を訪れた。

「……何をしているのでしょう?」

ご用聞きの騎士は、目前で美味しそうに芋を頬張るフェリアに問う。

「あ、おはようございます」

フェリアは、騎士の問いを華麗にスルーした。

「食べますか? 美味しいですよ」

騎士は確かに美味しそうだと思ってしまう。そんな顔になっていたのだろう、フェリアは察して騎士に芋煮を振る舞った。

「私の荷物の中に、兄さんの荷物も紛れ込んでいたんです。今頃、兄さん慌ててるわ」

フェリアがこの邸に持参したのは三つの荷物箱である。その一つが、リカッロの野営箱と入れ替わっていたのだ。火打石や鍋、鍋台の他、芋煮まで入っていた優秀な野営箱である。フェリアの失った箱には、本がぎっしり入っていた。どうせ、三ヶ月暇だろうと、ガロンが詰めこんだ迷惑な箱であったため、フェリアは内心ほくそ笑んでいる。

「……そうですか」

なんとも規格外なフェリアに、騎士は何と答えていいかわからず、ただそう言って笑い出す。昨日と同じで、フェリアは口を尖らせ騎士を睨んだ。

「いやあ、申し訳ありません。悪気は」

「ないのでしょ!」

昨日とは違い、二人は笑いあった。と、そこに見知らぬ騎士らが大きな荷物を持って登場する。

「隊長、一人だけサボってたんですか?」

地面にどかんと置かれた荷物は農機具である。フェリアは飛び上がらんばかりに喜んだ。騎士らを労い、芋煮をまたも振る舞う。

「……ビンズ隊長、俺にはお妃様に見えないんですが」

ぽつりと誰かが呟く。皆、同意だと言わんばかりに頷いている。騎士隊長ビンズは、ニヤリと笑んだ。

「あの女官長にも物怖じせず牙を剥いてたぞ。全くとんだお妃様じゃないか。お前ら四の隊は三ヶ月楽しみだな」

ビンズ騎士隊は今、四つに分隊しお妃様邸の警護にあたっている。一の隊は1~10番のお妃様、二の隊は11~20、三の隊は21~30、そして、四の隊がこの31番目のお妃様の邸警護である。四の隊だけは隊の人数は少ない。今、芋煮を食べているたった三人だ。他は三十人ほどであるが警護対象の人数の違いから妥当と言えよう。

「あのきっつい女官長に? そうっすね。最初はなんで、味噌っかす隊に入れられたんだって文句言っちゃいましたが、他のお妃様の警護……大変そうだし。あのお妃様なら、楽しいかも。それに芋煮美味しいし」

「そうだな。芋煮美味しいし」

「そういや、15番目のお妃様候補の担当の奴らなんて、半泣きだったぞ。下僕扱いらしい。しきりに変わってくれって頼まれるし。俺、この邸の警護で良かった。芋煮美味しいし」

三人の騎士は、そう言い合って笑っている。

フェリアは農機具に夢中だ。

ビンズは……

『王様、初日が15番目のお妃様じゃあ、今日も機嫌が悪いだろうな』

と、遠く離れた邸の王の心中をおもんぱかったのだった。