軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃*26

夜会での笑みの応酬は、色んな思惑を持ち、さらに色んな思惑を封じる。そんな高度な技術をフェリアは実践し習得していく。

サブリナはそれを目の当たりにし、その清楚で可憐な顔を歪ませていた。公爵が戻ってきて、小声で指摘するまで自身で気づかぬほどであった。

「サブリナ、引いた方がいい」

公爵はフェリアに感じ取った大きな器を驚異に思った。感覚でわかるものなのだ、こういうことは。下働き時代に得た感覚だ。人には身分とは違う格がある。公爵は、フェリアから発せられる格を肌で感じ取っていた。公爵はつと視線をブッチーニ侯爵に向けると、公爵の感じているものがわかるのか、神妙な面持ちで目礼を送ってきた。公爵も目礼で返す。淑女が笑みでの会話をするならば、紳士は目で会話をする。それが、社交界、貴族界の習わしであり、身に付けるべき技である。

「サブリナ、彼の嬢は格が違う」

サブリナをなだめる公爵の言葉は、サブリナを反対に荒立たせるだけだ。女とはそういう生き物である。

「父上、私があの田舎者に劣ると言うのですか?! 格? 格ならば私が上でしょう。毛並の違う者だからでしょう、未知の者への恐怖です、父上が感じているものは。目を覚ましてください。私は退きません」

サブリナは気づいていない。ミミリーと同じセリフを吐いたことに。目を覚ませ……ミミリーも同じセリフを茶会で吐いていた。

荒事の次の一手を考えるサブリナの顔は、氷のように冷たく、しかし、憎悪にのまれた劣情の顔であった。

***

ビンズはやっとだとの思いで、フェリアを呼びに夜会会場に向かう。そのビンズの横を足早に過ぎる存在に、ビンズはこめかみに手を置いた。

「王様、どちらへ」

「フェリアを迎えにだ」

答えはわかっていたが訊かずにはいられなかった。

夜会会場では、フェリアが自分の番であるとわかっているため、痛い足を動かして面談部屋に続く扉に歩む寸前であった。

そこに王マクロンが現れる。フェリアを敵視する令嬢らは、31番目の存在を忘れて王が戻ってきたと、フェリアに誇った笑みを向けていた。『お前、相手にされていないわよ。忘れられているわよ』との笑みだ。

「フェリア、さあ行こう」

マクロンはフェリアの元に歩み、フェリアをサッと横抱きにした。夜会会場に悲鳴が上がる。色んな感情の入り雑じった悲鳴だ。フェリアを蔑む者とひそかに応援する者では、悲鳴の音色は違う。

フェリアは突然のマクロンの登場と、横抱きにされた状況に顔を真っ赤に染めていた。

「足は痛いか?」

「あ、歩けますわ!」

「そうはいかぬ。王城の不始末の責は我にあるからな」

「支えて……支えていただくだけでいいのですが」

「長い時間待った足がうまく歩を運べるとは思わんよ。甘んじて……抱かれていろ」

最後のセリフは、フェリアの耳元で告げられた。フェリアにだけ言った言葉であるが、その声は淑女らと同じように、周りにかろうじて聴こえる色気のある小声でだ。その色気とセリフで、幾人かの女性たちは悶絶していた。

マクロンとフェリアが二人だけの世界を作り、夜会会場から出ていった。ビンズはやっちまったなと、小さく息をもらす。それから気を取り直して……

「皆様、長きに渡る意向面談も最後の31番目のお妃様となりました。今しばらく……しばらくお待ちを」

ビンズは深く頭を下げて退室した。しばらくはしばらくだと、最後に暗に示した。今までの妃より時間を取るとの言いまわしである。

フェリアを抱き、面談室に入ったマクロンはそのままの状態で椅子に座る。

「あ、あの?」

「ん?」

「おかしくはありませんか?」

「気にするな」

「気にします!」

マクロンは真っ赤な顔がひかぬフェリアに笑い出す。フェリアは潤んだ瞳でマクロンを睨んだ。

「王様、いたずらが過ぎますよ」

ビンズが若干怒った顔で発した。

「親族も後見人もいないフェリア様と、二人だけの時間を持つことは、本当は憚られることです。辛うじて、フェリア様はお渡りの事実がありますから許されますが、あのように夜会から連れ出すなど、反対にフェリア様への風当たりが強くなると思わないのですか?!」

ビンズは段々語気が強くなっていった。フェリアとマクロンが仁王立ちのビンズをポカーンと見ている。それに気づいたビンズが、しまったという顔になり、ばつが悪そうに頭を下げた。

「あの、ビンズ。風当たりって、私、特に感じておりませんよ。目前の魔獣の吐く咆哮に比べたら、ぜんっぜん気にも止めませんわ」

今度はマクロンとビンズが口をあんぐりと開けた。

「そういう、危機的直の風でなく……というか、はぁ」

ビンズはもう覇気がない。フェリアはやはり規格外である。

「戦っている対象が人以上の獣なら、夜会に集う者など、フェリアにとって猫ぐらいのものだろうな。まあ、とりあえずビンズよ、出ていけ」

ビンズの覇気が戻る。

「二人っきりにするわけにはいかないですから!!」

マクロンはすかさず舌打ちした。

「フェリア様、ご意向をお願いします」

ビンズがフェリアを促した。マクロンが嬉しそうにフェリアを見つめる。

「あ、えっと……その、す、すぅ」

もじもじ

もじもじ

フェリアがマクロンの胸元の服を掴むと、それに向かって

「好き」

マクロンの胸に投下された爆撃発言は、マクロンのみならずビンズにも大いなる打撃を与えたのだった。

「あのですね、フェリア様? お気持ちは十分に、ええ十二分にわかりましたし、わかっております。いちお、ご意向……つまり、後宮に残りたいかどうかのご意向をお訊きしております」

ビンズは、訊くまでもないとは思うがお妃選びの規則に乗っ取って、訊ねるしかなかった。

「残るだろ、フェリア?」

「はぃ、マクロン様」

マクロンを見つめそう言ってから、恥ずかしそうにビンズをちらりと見たフェリアを、マクロンは引き戻す。ソッとフェリアの顎に触れて。

「我も好きだ」

微笑み合う二人を残し、ビンズは退室した。退室せざるをえなかった。あんな甘い空間にいる無粋な存在とならぬように。いや、甘すぎて吐き気が……

***

「では、王様より発表いたします」

ビンズが夜会会場で声を張り上げた。王マクロンが夜会に戻ったにも関わらず、ざわつきがおさまらないのは、フェリアを大事に抱え戻ってきたからで、さらに用意させた椅子に宝物のように優しく座らせたからである。ビンズはやけくそ気味に叫んだのだ。

そして、マクロンが口を開く。

「意向は全て通す!

今回の妃選びは候補が揃わず長きに渡り、皆には迷惑をかけた。

本来の帰国期間を過ぎ、冬の悪路を進まざるをえない国や辺境地の妃より、妃は辞退するが滞在を延ばしてほしい旨や、国内事情により避難地として滞在させてほしい等の様々な意向が上がっている。また、王都での商業計画を実行中の者も、今しばらくの猶予を申し出ておる。

全ての意向は受け入れよう。

ただし! 最大は九ヶ月までである。都合がつけば随時退城していただく。また、我の足は我の意思により妃邸に向かう。我の訪問がない者は、我の意向を汲め。

以上だ」

ビンズは何とか表情を変えずに耐えた。長老らも表情を変えずに、頷いていた。互いの顔をたてるには、この結論しかないであろう。

夜会会場は再びざわつき出す。妃や親族、後見人らは口々に今後の身の振りを囁きあっていた。

マクロンはビンズに合図を送った。ビンズは頷く。

「夜会を解散とします。おのおのの邸にお戻りください。親族、後見人の方々は、閉門の時間までお妃様と邸宅にてご歓談できます」

ビンズの発言後、誰よりも素早く動いたのはマクロンである。フェリアを再度抱き抱えて颯爽と夜会会場を後にした。

これほどまでに王マクロンの意向を見せつけられれば、諦めもつくだろう。その反面、サブリナのように激情を抱く者もいる。それに追随する者も。低位の者に頭を下げたくはないと、同じ思いで結束していくだろう。

その夜、サブリナ邸では幾人かの妃らが集結していたのだった。