軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃*24

位並ぶ31人の妃ら。背後にはその親族やら後見がついている。背後が寂しい妃はフェリアだけだ。だからといってフェリアは項垂れたりはしない。気にもしない。唯一この場でフェリアだけが、単体の妃として立っている。しがらみもなく立っている。それが王マクロンにとって、どんなに輝いて見えることか。何の配慮も思惑も考えず、手を伸ばす存在がいる。傀儡でない存在が。

マクロンの頷きを受け、ビンズが楽団に合図を送る。音楽が奏でられた。夜会のはじまりである。

先の茶会が嵐と例えられるなら、この夜会は何と例えられるのか……

『田舎者でもドレスは持っているのね』

『どうせ借り物でしょ』

『それにしたって品のないドレスだこと』

『ドレスは蝶が着るものよ』

『そうそう、蛾が着たって美しくはありませんわね』

『そういえば、ボヤはあの31番邸なのでしょ』

『身のほど知らずを誰かがお教えなさったのでは』

クスクス

クスクス

クスクス

これまた聴こえるほどの小声で妃らや参列者が嘲りを言い合っている。

フェリアは毅然と立っていた。プルプル震える足を何とか踏ん張って立っている。ヒールなど履いたことのないフェリアにとって、今一番の問題は立っていることなのだ。それだけに集中していた。

「別室にてお妃様の意向をお訊きいたします。何名同室されてもかまいません。では、まずは1番目のお妃様から。皆様は夜会をお楽しみあれ」

ビンズの発言で王マクロンが別室に動いた。続いて1番目の妃一行がビンズの促しで動く。それを見送った後、楽団の音楽が大きく変わった。皆がいっせいに動きだす。貴族社会の交流のはじまりだ。所々で紹介合戦がはじまり、お見知りおきをなどの言葉が飛び交っていた。

しかし、フェリアの周りには誰も寄り付かない。お見知りおきしたい背後の者もいない。一番低位の妃などには誰も声をかけない。損得で言えば得を得られる対象でないからだ。嘲り笑いがフェリアを包んだ。遠巻きに、しかし確実に浮かせる存在として、蔑む存在としてそこに立たせている状況である。

ーーカツンーー

フェリアは一歩を踏み出した。キュリーに言われた通りに歩を進める。その歩が進む先はキュリーだ。皆が遠巻きにしているフェリアの進む先は開けている。やがて、その道がキュリーの元に自然に導かれた。

キュリーはフェリアを一瞥すると、サッと扇子を開き口元を隠した。それは、あなたとはお話ししたくありませんわとの意思表示だ。他の妃らはさらにクスクス笑いを継続させる。

しかし、フェリアは構わず進んだ。嫌がる目元のキュリーに、膝を軽く折って一礼した。

「この度は、私のためにドレスをお見立ていただきありがとうございます」

クスクス笑いがピタリと止まった。まさか、高位な隣国の姫の見立てのドレスであるとは思っていなかった妃らは、青ざめる。品のないドレスだと発していた妃に至っては、顔の色を失っていた。

サブリナは表情を変えなかったが、内心は驚愕していた。

「嫌だわ。王様から頼まれたから仕方なく、見立てたのですが……私の見立ては、ここダナンでは受け入れられないようね」

キュリーの辛辣な発言が、嘲り話をしていた妃らを縮こまらせた。フォローに向かおうとする親族らの足はすぐに止められる。

「2番目のお妃様、こちらへ」

そう、ビンズの声がかかったからだ。

「あなた、私を笑い者にして満足?」

キュリーはフェリアを蔑む。そのような行いをする。キュリーは剣を演じた。フェリアの味方であると思われてはいけないからだ。

「滅相もありませんわ。キュリー様のお見立ては完璧です」

「フェ、フェリア様、とてもお似合いよ」

ミミリーが震える声で参戦してきた。これには、フェリアもキュリーも内心驚く。フェリアはニッコリ笑ってミミリーに黙礼する。そして、声を響かせた。

「どんな女性も、ドレスを纏えば華になると私は思いますの。ですから、『囁き』こそ華の価値。他の華からの『囁き』は華に魅入った敗北宣言ですわ。自ら蝶や餓に下り、華を蔑んでいるのですから。自身の華に誇りがあれば、他の華になど目もくれませんもの。キュリー様のように」

フェリアの発言は、青ざめた彼の令嬢たちの顔を一気に紅潮させた。

「まあ、そうね。ですが、華といっても……あなたは王城の華でなく、野山の華ね。失礼」

キュリーはさらりと言って、王の待つ部屋へと歩んでいった。見事な剣と盾っぷりである。

残されたフェリアは『ふふふ』と笑んだ。

***

マクロンはキュリーの話に顔が緩んだ。マクロンが退いた夜会の出来事を聞いたからだ。

「文を」

キュリーが三通の文を侍女から受け取ると、テーブルの上に置いた。その一通をマクロンに渡す。

「加えて報告いたしますわ。フェリア様の寝顔ですが、とても健やかであらせられました。また、寝相も悪くありません。右側を下にして寝ておりましたので、王様は左腕での腕枕が出来ましょう。右手はベッド脇の剣をすぐ掴めるはずです。寝位置を矯正せずにすみますね。そちらがその報告の文にございます」

マクロンは驚愕し、渡された文がパサリと手から落ちた。そんな報告をされるとは思っていなかったのだ。

「あら? こちらダナンでは寝位置の矯正はされませんの?」

マクロンは、隣国の恐ろしさを肌で感じた。いや、このキュリーに関してかもしれない。敵には回したくない人物である。

「二通目ですが……荒事による傷がないかを確かめさせていただきました」

マクロンの顔が変わる。真剣な顔つきだ。

「まず、張りのあるお肌であったと。また麗しい鎖骨の流線は、なぞりがいがあるように思います。左脇の色気あるほくろ」

「待たれよ!」

もちろん止めたのはマクロンである。

「いささか、報告の方向性が間違っていないか?」

「あら? では、こちらの報告の文はいりませんの?」

キュリーは二通目をテーブルの中央にあえて進ませた。マクロンに選ばせるためである。マクロンはまたもキュリーにいいようにやられている。

「走りすぎたせいか、両足ともに足裏が赤くすれておりました。また、どこかにぶつけたのでしょうね、右足首に打撲痕があります。いずれも大したことではありません。……ヒールで立つのがお辛いくらいでしょう。さっさとこの意向面談をお進めくださいませ。足の負担を軽減されませんと」

マクロンはすぐに文に手を伸ばした。

「協力感謝する」

医師ではそこまで確認しないだろう。侍女だからこその働きである。それを指示したキュリーもであるが。

「侍女がもっと必要だな」

「当面は今まで通りがよろしいかと存じます。急激な変化は他の妃らを刺激しましょうから。水面下でご準備を。それと、夜会後のフェリア様の身の置き所ですが」

「仮設ができている。元に戻す。それが一番良いと思っている」

「私も同じにございます」

マクロンとキュリーは互いにニヤリと笑んだ。そして、キュリーは三通目を渡した。

「フェリア様の言動をつぶさにしたためました。荒事による心の傷はないように存じます。確認くださいませ。いえ、フェリア様との面談後がよろしいでしょう。フェリア様とお約束しましたから」

キュリーは口元を隠した。含み笑いを隠す。王にさらなる土産を贈れるのだから。文を読んだ後の王の顔を想像しながら、キュリーは面談部屋から出ていった。

***

「11番目のお妃様、どうぞ」

自国の妃候補筆頭サブリナが面談部屋へ入ってきた。背後には、公爵夫婦が立っている。着席後、まず声を出したのは公爵だ。

「後宮でボヤ騒ぎがあったそうですな。早く王妃を決め、後宮を仕切ってもらわねばなりませんな」

そう言って、サブリナを見つめる。ここに最適な者がいるだろうとの主張だ。

「11番目のお妃様の担当侍女が、ボヤ騒ぎに一枚かんでおられます」

ビンズが発した。公爵夫婦とサブリナは目を大きく開き驚きの表情を見せた。

「な、なんてことでしょう! 私、その侍女を感情的に解任してしまったのです」

「なに? どうしてそのようなことをした?」

マクロンにしてみれば、滑稽な茶番劇を見ているようなものだ。サブリナと公爵は台本通りに言葉を紡いでいく。

「他のお妃様に失礼をしたと聞きましたの。私、恥ずかしくって……感情的になってしまって……解任してしまいました」

「では、その侍女の逆恨みですな、王様」

公爵がマクロンに視線を移した。

「意向をお訊きしたい」

マクロンはサブリナと公爵の三文芝居には反応しない。王の言質をとろうとする公爵家を相手になどしなかった。意向を訊く視線もサブリナには向かず、テーブルの書面を追っている。

「王様、私……私は、王城に残りとうございます。私は」

「ビンズ」

マクロンは言葉を続けようとするサブリナの声を遮り、ビンズを呼ぶ。

「意向の確認はできました。どうぞ、夜会へお戻りくださいませ。お妃様おひとりおひとりと、長く時間は取れません。31人もいるのです。親族たる後見人の方も含めると莫大な人数にございます。本来、長老が伺う意向を王様自ら行っております。王様の身はひとつ。意向のみを確認するだけのご無礼をお許しくださいませ」

ビンズは不服げな公爵にそう言うと、深々と頭を下げた。有無を言わさぬとの態度である。公爵は、王マクロンを見る。自国の筆頭公爵を蔑ろにするのかと。しかし、マクロンは書面からいっさい顔を上げなかった。公爵の顔は憤怒寸前だ。

「ああ、そういえば、うろちょろする侍女は王城から退いてもらいたい」

マクロンは顔を上げた。サブリナと憤怒する公爵の顔を見ながら、冷たく言い放った。