軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31番目の妃*21

「頼んだ」

マクロンは、最も信頼する邸にフェリアを運んだ。

「承知いたしました。まさか、このような荒事が早急に起こるとは思っておらず、こちらもフェリア様の盾としての体制ができておりませんでした」

「それは、こちらとて同じだ。お茶会のあれで、動き出す妃らがいるだろうとは踏んでいたが、まさか、これほどまでに早いとは思っていなかった」

盾である2番目の妃と、王マクロンの会話である。

「ところで……このような荒事があったにも関わらず、なぜニヤついているのです?」

2番目の妃の指摘に答えたのは、マクロンの背後に控えているビンズだ。

「フェリア様の発言のせいですね。『私に触れられるのは、マ』」

「ビンズ!」

それをマクロンは止めた。少し耳が赤い。

「……なるほど」

そう言って2番目の妃は扇子を開き口元に当てた。表情を隠すその行為に、扇子の中の含み笑いが想像できる。

「とにかく! 頼んだ。邸が整うまで、フェリアの居場所は内密だ。じゃあな」

マクロンはビンズの尻に一蹴りし、出ていった。

***

サブリナは報告を聞き、『やっぱり使えない侍女だったわ』ともらす。

「さてと、次の準備にかかりましょう。まずは、田舎虫が何処に匿われているかを調べなさい」

サブリナの侍女二人が頷き出ていった。

「これで、王様の寝屋であったら……あの侍女のせいだわ。荒事にしたって、お馬鹿な思考過ぎるわ。本当に使えない!」

サブリナは腹がたっていた。まさか、最大級の荒事を予想していなかったのだ。それも、こんなに早急な。そのせいで、フェリア邸への監視が追い付かず、フェリアの居所、動向がわからない。

「女官長を呼びなさい」

サブリナは冷たい声で命じた。

顔の色をなくしたような女官長は、サブリナの前でカタカタと震えている。

「あんな侍女があなたの片腕?」

「い、ぃぃぇ」

「ふーん、片腕でもない侍女を私につかせたの」

「ぁ、いいぇ……」

「ふーん、で、あなたまだ女官長よね。あの田舎虫のところに侍女をやりなさい。王様に直訴しなさいね。あなた、女官長ですもの。侍女をつかせたいと言えば、あの田舎虫の居所がわかるわ」

「はい! お任せを!」

「任せられないから、言ってるんじゃない!! あなたは勝手な行動はしないで!」

サブリナは女官長の顔すれすれで、言葉を発した。女官長は声にならない悲鳴をあげ、後退り勢いよく土下座する。

「それも、見飽きたわ。あのお馬鹿な侍女も同じだったもの。そんなことしかできないの、王城の侍女は?」

女官長は突っ伏した顔を真っ赤にさせ、涙ぐんでいる。その眼は憎悪に染まっていた。その憎悪は、サブリナに対して向かうのでなく、自身をここまで貶めたフェリアに向かっている。『あの小娘のせいで!!』女官長は顔を上げぬまま立上がり、サブリナ邸を後にする。その背にサブリナは告げた。

「お馬鹿な侍女の口も塞いでほしいわね」

女官長の肩がびくんと跳ねる。一寸の間の後、女官長の口から『かしこまりました』と小さな声で返答された。

***

「ここは?」

フェリアは目を覚ます。

「おはようございます」

見知らぬ女に、フェリアは飛び起き間をとった。

「さすがにございます。危機管理が体に染み付いておいでです」

女はニッコリと笑み、頭を下げた。

「私は、2番目のお妃様にお仕えしております侍女にございます。気を失われたフェリア様を王様はこちらの邸にお運びになられました。ただいま、フェリア様の居所は対外的に内密になっております」

侍女の言葉をフェリアは頭に飲み込んでいく。

「ここはマクロン様が信頼する安全な邸であるということね。そして、私は匿われているから……ここから出るなかしら?」

「さすがにございます。状況を飲み込むお力もおありなのですね」

侍女は満足げに頷いている。

危機管理や状況判断は、あのカロディア領で生き抜くには必須条件だ。稀少な薬草を狙う輩の襲撃やら、夜の薬草守りで魔獣を相手にする際などなど、一瞬でも躊躇したり判断を誤れば死活問題でもある。

「これ、止めなさい。起きたばかりであられるのよ。それに、それら教育は私が王様より承っているのですから」

新たな登場人物にフェリアは驚いた。2番目お妃様の存在が。侍女に伝えられてはいたが、本当にこの邸がそうであるとは疑わしかったからだ。

「フェリア様、私キュリーがあなた様の教育全般を承りました。以後よろしくお願いいたします」

2番目の妃キュリーがフェリアの前で膝を折った。

「ちょちょちょちょちょーっと待って! 教育?! それよりもお顔をお上げください」

フェリアはあわてふためいた。隣国の高貴な姫であるキュリーに膝を折られるなど、フェリアにとって恐怖でしかない。

「何をおっしゃいまする。ダナン国王妃様になられるお方に、膝を折るなど至極当然のことにございますわ」

フェリアは部屋の隅に視線を移す。つまり、明後日の方向に視線があるのだ。

「ここは31番目の邸ではないし、見たこともないお部屋だし、マクロン様はいないし、素敵な方が膝を折ってるし、きっと異世界なのだわ。現実であっては可笑しいものね。うふふ……さあ、起きなさい私!!」

両の頬をバッチーンと叩くフェリアを、ニコニコと見守る侍女と、扇子で口元を隠しながらクスクスと漏れる声を出すキュリー。

「起きましたか?」

キュリーが扇子の内から声を出す。

「いいえ、まだ夢の中のようですわ」

「では、そのまま夢の中でお過ごしくださいませ。さあ、夢の中です。どうせですから、綺麗なドレスに着替えていただきましょう」

キュリーは淀みなく発し、それに合わせて侍女が素早く動き出す。部屋の外からサササササッと十人程の侍女が入ってくる。フェリアは『ヒッ』と悲鳴を上げた。

「い、いえ! このままでぇぇ」

「やっておしまい!!」

フェリアの叫びとキュリーの命は同時であった。

担がれたフェリアは、豪華な湯殿で身ぐるみ剥がされ、たっぷりの湯の中に沈められる……鎮められる……静められる……フェリアは途中から抗うこともできなくなっていた。

「まあまあ、なんと張りのある肌にございましょう!」

「麗しいほどの鎖骨の流線でございます!」

「左腕脇ほくろの美味しそうな色気、これはきっと美味にございましょうね!」

侍女らが口々にする誉め言葉に、フェリアは居心地が悪い。最初こそ、そんなことはないと言い返したのだが、それを覆す十倍以上の賛辞が返ってきて、フェリアは静かにならざるを得なかった。

だが、しかしだ。気になる存在がこの湯殿にいる。なぜか、紙とペンを持った侍女である。嫌な予感しかしないが、確かめねばとフェリアは疑問を口にした。

「お気になさらずに。こちらでのフェリア様の様子は余すところなく逐一報告せねばと、キュリー様のご命令ですので、侍女の言葉も含め書面にしたためております」

フェリアの顔色が一気に燃え上がり、そして一気に青ざめる。

「まさか、さっきのを?」

「はい、フェリア様のお体は余すところなく……王様に」

「や、やめてぇぇ」

ーーバシャーンーー

紙を持ち、ペンを走らせる侍女にフェリアは湯を浴びせたのだった。

湯殿から出たフェリアに、キュリーが第一声を発する。

「寝顔報告しかできなくなったじゃありませんか」

「やめてください!」

フェリアの顔はカッと目を見開き真っ赤である。噛みつかんばかりの勢いだ。

「か、体の特徴とか、あれこれを、マクロン様に知られるなんて、恥ずかしいじゃないですか! キュリー様だって、そうでしょ?!」

「王様は、フェリア様のあれこれをいつかはお目になさるのですよ。事前情報ですのよ。それに、この情報は必須ですわ。侵入者にどこも傷つけられていないということを、お伝えしたいじゃありませんか」

またもフェリアは顔を真っ赤にさせ、その後考えこんだ。だが、ハッと気づいたように言い返す。

「『身体どこも傷はあらず』……だけの報告でいいでしょ! それに、寝顔の報告いりますの?!」

キュリーは扇子を広げ、その内で『ちっ』と舌打ちする。ボソボソと聞こえる内容は……

『どうせいつかは全身網羅状態で見られるのに』

と、ばっちりフェリアの耳に届く。淑女たるヒソヒソ声で。

「全身網羅ってなんですかぁぁ!」

フェリアの叫びにキュリーはおーっほっほと笑った後、『私への謙遜がなくなって良かったわ』と言った。フェリアはパチパチと瞬きし、キュリーの意図を汲んだ。そして、『策略家だわ、キュリー様って。そういうの好きだけど』と言い返す。

二人はうふふと笑い合った。キュリーの人見知りは外れている。裏表のある淑女らの前では気位の高い姫であっても、裏表のないフェリアには同じ目線にたてるのだ。

「さあ、フェリア様、本日は妃選び三ヶ月が終わった最初の日です。本日、妃の意向を王様に伝える大切な日ですわ。夜会が開かれます。フェリア様、このキュリーに全てお任せを」

キュリーがフェリアに膝を折った。フェリアはもう慌てない。

「こちらこそ、お願いいたします。キュリー様」