作品タイトル不明
915.モデルになります!
枝垂桜で出会った狐娘と分かれ、メイたちは京の町内へと戻ってきた。
石畳の道に、並ぶ町屋。
桜の花びらが小川を流れていく光景は、なかなか趣がある。
「夜はまた、全然違う雰囲気でいいわね」
「はい。ひたすら寺院を見ていた現実の修学旅行は、夜にはぐっすり寝ていましたので新鮮です」
「わたしも金色のトカゲと戦ってたなぁ……今も時々、お寺でトカゲと戦うごちゃ混ぜの夢を見るよー」
「わ、私はご当地限定のお菓子などを食べていました」
「もし夜も外出可能だったら、私は最強の黒歴史を生み出していた可能性があるわね……」
まともな記憶が一切出てこない四人が京の町を歩いていると、何やら悩んでいる一人の中年男性が歩いてきた。
「君たちは冒険者だね? 私の悩みを聞いてもらえないだろうか!?」
さっそくクエストの予感。
四人はうなずき合い、話を聞いてみることにした。
「僕は最近、着物を始めとした和服を扱った店を始めたのだが、とにかく知られていなくてね。そこで考えたんだ。印象的なチラシを何枚か作って配布しようって」
「チラシの配布仕事でしょうか」
「いや! 君たちにはモデルになってもらいたいんだ! 僕が希望する『イメージ』に沿った衣装や小物を選んで装備、ポーズをとってくれ! そうしたら僕の【転写】スキルでチラシにするよ!」
「へえ、楽しそうなクエストね」
「衣装交換のクエストにしても、こういうのは初めてですね」
「本当だね! どんなチラシができるのかな!」
「その結果次第で、客入りが変わるはずだ! それではさっそく頼むよ!」
さっそく着物店の店主に連れられ店内へ。
そこにはたくさんの衣装や小物が並んでいて、その前にはチラシのもとになるのであろうポストカードの紙が積まれていた。
「まずはその赤い着物で、楽しい感じのものを頼む! 人数は複数。ポーズはもちろん関係性や物語を感じさせるものにしてくれ!」
「……なるほど、結構想像力が必要になるわけね。いいわ、やってみせようじゃない!」
思わぬオーダーに、気合を入れるレン。
「でも、衣装の時代背景は結構バラバラなのね」
「そーなの?」
「大正っぽいものもあるし、鎧なんかもある。基本は日本のものばかりだけど、時代は割と混ざってるみたい」
「なんでバナナ柄なんてあるのーっ!?」
確実に『野生児』を狙いに来ている商品を見つけて、メイは驚愕する。
「レンちゃん、コーヒー柄はないかな!?」
「それも野生から脱却できてないわよ……あ、私もこの黒と紫のやつは着ないわよ! 絶対!」
こちらも狙い撃ちの『黒に血しぶき模様』と、『紫に十字架模様』のものは最速で退ける。
「指定の赤くて綺麗な着物はメイ、ツバメはこの白にツルの模様が入ったものを、まもりは淡い緑のこれでいきましょう! 私はあえて水色でいってやるわ!」
「メイさん、似合いますね……!」
「似合いますっ!」
「えへへ、ありがとーっ」
メイの肩までの黒髪によく似合う鮮やかな赤に、ツバメとまもりが盛り上がる。
「ツバメちゃんの綺麗な髪に、華やかな模様の着物は似合うねっ!」
「あ、ありがとうございますっ」
白地に赤や橙、黄色のツルが舞う鮮やかな着物はツバメの長い黒髪によく似合う。
照れるツバメが可愛いさに、レンも感嘆してしまう。
「まもりちゃんも淡い緑が似合うねぇ……」
「わ、わわわわたしには恐れ多いですっ!」
「指定は楽しい一枚よ! ほら、まもりもおいで!」
そう言ってレンが手を引くと、申し訳なさそうにしていたまもりを先頭に、四人が抱きつき合うように並ぶ。
「ツバメちゃんも」
「はいっ」
今もカメラの前に自ら立つようなことはないツバメだが、メイと一緒なら断る理由などない。
満面の笑みのメイ、驚きのまもりに、楽し気なレン。
そしてしれっと、ピースでカメラ目線のツバメ。
「おおっ、いいぞ! 最高の一枚だ!」
できた文句なしの一枚に、店主も大喜びだ。
「ふふふ、闇要素の押し売りになんて負けないわ! さあ次の指定を持ってきなさいっ!」
闇の着物を見事にパスしたレンは、気合を入れ直す。
「よし、次はカッコいいやつを頼むよ! この紺色の袴を使ってくれ!」
「今度は袴ですか……」
急な方向性の変化に、面食らうツバメ。
先ほどとは違い、一転して大正風だ。
「これはツバメがいいわ! これをセットで着てみて!」
しかしレンは止まらない。
すぐさま出た指示に従い、ツバメは紺の袴に羽織という姿になった。
意外にも、中には襟のない白シャツ。
「そこに学帽をかぶって刀ね。これで間違いないわ!」
「わあーっ! ツバメちゃんカッコいいー!」
「ツバメさん、美少年剣士ですね……っ」
「そ、そうでしょうか」
髪をまとめたツバメは、少年剣士を思わせる雰囲気だ。
「相棒はまもりでいきましょうか! 着物に袴、足元はブーツでツバメの後ろに並んで!」
「おおーっ! なんかいい感じだね!」
メイは二人を見て、尻尾をブンブンさせる。
「ツバメが怪異と戦う少年剣士、まもりが外国から来たハイカラなお姉さんって感じね! これでどう!?」
「おお、いいじゃないか! これで一枚、いかせてもらうよ!」
二人の姿はまるで『大正怪異譚』のようだ。
こうして早くも、二枚目の転写が成功で終わる。
「今回もしれっと決め決めの黒い軍服とか用意されてたけど、そんなのに今の私は乗らないわ! 広報誌だろうと動画だろうと、かかってきなさい!」
「では最後はグッと、京の不思議を思わせるカッコいい世界感で頼む!」
「任せて!」
レンも思わず手ごたえを覚えるほどの好調。
このクエスト、最高の流れでここまできた形だ。
「…………」
しかしレン、一瞬で無言になる。
最後のオーダーで示された装飾品は、まさかの白と黒の狐面。
「キツネのお面? これは難しいねぇ……」
「全然想像がつきません」
「これは難問です……」
メイとまもりはもちろん、ツバメも狐面を上手に使う方法は思いつかないようだ。
レンは深く、ため息を吐く。
「……こんなの、使い方は一つしかないわ」
これがクエストである以上「思いついているのにやらない」のはなし。
しかもその思い付き、明らかに自分向け。
チラシになった時のカッコよさを求めるなら、黒の仮面はツバメか自分の二択。
だが、より雰囲気を出すのなら自分だろう。
手を抜くことは、できない。
「……メイはこっちの、白い着物を着て」
「りょうかいですっ!」
「そしたらお祭りにいる子供みたいに、白の狐面を頭に斜めにつけて」
「はいっ」
黒の短い髪のメイは一瞬で、可愛く元気な白狐の化身のようになる。
その姿に見惚れる、ツバメとまもり。
一方レン。
黒の着物をまとい、黒の狐面をかぶる。
「さすがレンさん、雰囲気があります」
「本当ですね」
ツバメとまもりは感嘆し、メイも「おおーっ!」と歓喜する。
「…………んー」
しかし意外にもまだ、店主は成功の判断をくださない。
雰囲気はすでに十分のはず。
まさかの事態に、メイたちは悩み出す。
「ああもうっ! これならいいでしょ!」
するとレンは、かぶった狐面を外して片手に持った。
そして、手にした黒の狐面で『顔の半分だけ』隠してみせる。
「わああああーっ! レンちゃんかっこいいー!!」
「さすがレンさんです! 顔を半分だけ隠して半身……圧倒的な雰囲気が出ました!」
「そ、そうやって使うんですね、確かにカッコいいです!」
片方だけ見える目は、完全な流し目。
そして天真爛漫な白狐メイと、妖しい黒狐レンが向き合ったところで、店主が拳を突き上げた。
「か、完璧だ! これで最高のチラシができるぞっ!!」
このクエストの成否は、その後の客入りで決まる。
完成したチラシをまきにいった店主が、戻ってくるとすぐに――。
「ここだ! この店だ!」
「あの可愛くてカッコいいチラシの店はここだな!」
「あの上下を、セットで売ってくれ!」
すぐに客NPCが殺到。さらに。
「メイちゃんのチラシがもらえる店はここか!?」
「全種類くれ!」
「3枚ずつくれっ!」
駆け込んでくるプレイヤーたちで、店はすし詰め状態。
こうして四人は、変わり種のクエストを見事に成功させてみせたのだった。
「本当にお見事でした。とても楽しいクエストになりました」
「はいっ!」
「レンちゃんすごいねー! こんなの思いつかないよーっ!」
見事な指示に、感嘆する三人。
「……それなのにどうして、普段着の一つも買えないのかしら」
まもり宅にも制服で来ているレン、震える。
そして世界観がないと途端に服装の感覚がなくなる自分に、白目をむくのだった。