軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

902.海の王Ⅱ

ツバメの【水月】によって与えた、大きなダメージ。

巨大な海の王すら貫く水の刃は、雨を降らせて消えていく。

「――――――ゥゥゥゥ!!」

3割を超えるHPの減少を見せた海の王は、反撃に入る。

咆哮と共に頭の長角を輝かせると、ヒザの高さの水流が巻き起こり足止めを始める。

「くるよっ!」

メイの声に視線を上げる。

海の王は空を高速で泳ぎ、迫り来る。

「この状態からの突撃はやっかいですね……!」

移動速度を大きく落としたところに、巨体を使った特攻がくるとなれば回避は難しい。

息を飲むツバメとレン。

「【装備変更】! ウォオオオオオオ――――ッ!!」

そのことに気づいたメイは、すぐさま【遠吠え】でターゲットを奪う。

「【アメンボステップ】!」

シンプルかつ豪快な【体当たり】に対して、水流の上を駆ける形での回避を選択。

高々と飛沫を上げて通り過ぎた海の王は、反転して再びメイを追う。

そのまま水上をドリフトするような軌道で放つのは、身体の側面を擦るような動きの【ヒレ斬り】だ。

「【ラビットジャンプ】!」

生まれる豪快な斬撃エフェクトを、メイは華麗な跳躍で回避。

すると海の王は、その場で反転。

高く持ち上げた尾を、着水したばかりのメイにそのまま力強く叩きつける。

「【かばう】【地壁の盾】!」

そこに飛び込んできたのは、まもり。

掲げた盾は見事に尾を受け、そのまま二人はもみ合うようにして水面を跳ね飛んでいく。

しかし弾かれただけで壁にぶつかることもなく、ダメージはゼロで済んだ。

「ぷはっ! まもりちゃんありがとー!」

「い、いえ、【不動】が間に合わなくてすみませんっ」

海の王は止まらない。

いまだ流れる水の上を、一直線に特攻。

飛沫を上げ、猛スピードで迫る攻撃は、単なる【体当たり】ではない。

【回転特攻】はプロペラのように回ることで、ヒレによる斬撃も狙う一撃だ。

ミキサーのような突撃が、容赦なくメイたちを狙う。

「まもり気をつけて! その攻撃は――!」

「はい! 今度こそ【不動】! 【地壁の盾】っ!」

「……うまいですっ!」

ツバメが思わず叫ぶ。

頭上を通り過ぎる海の王の『本体』は正面から迫ってきていたが、ヒレの回転はスクリュー状態のため、通り過ぎる際は『横から来る』

まもりは急な事態の中でもそのことに気づき、途中で盾を側面に向けることで防御を成立させた。

これにはメイも「すごーい!」と、尻尾を振り回す。

メイたちを狙った攻撃を受け止められた海の王は、そのまますれ違って行った。

「【誘導弾】【フリーズストライク】!」

この状況、レンにとっては良い的だ。

すぐさま放つ氷砲弾は、一直線に飛んでいく。

しかし海の王に直撃する寸前に生み出された水球バリアに突き刺さって、弾け散る。

飛沫と氷片が舞い散る中、レンは掲げたままの杖に再び魔力の輝きを灯す。

「その隙間を狙い撃つ! 【誘導弾】【フレアストライク】!」

即座に放つ炎砲弾は、氷砲弾によって空いた穴を抜けていく形で飛び炸裂。

炎を巻き上げ、叩き込んだダメージが水のバリアを強制キャンセルさせた。

「優秀な防御スキルだけど、対応できれば問題なしよ!」

「すごーい!」

「お見事です!」

上がる歓喜の声の中、杖を掲げてみせるレン。

すると海の王は再び【水球の守り】を展開。

なんと即座にそれを割り、全方位への【散弾飛沫】を放つ。

「「「っ!?」」」

「て、【天雲の盾】っ!」

恐ろしいほど大量の雫が、驚異的な速度で飛来する問答無用の範囲攻撃。

ズダダダダ! と打ち付ける強烈な水の散弾は、容赦なくまもり以外の三人を撃ち付ける。

「あいたたたたっ!」

「まさか最初から攻撃専用の使い方もできるなんて、こんなの回避不能だわっ……!」

「ダメージは少ないですが、動きも止められてしまいますっ!」

「……待って! もう一回来るわ!」

海の王は水バリアを張り、再び粉砕。

使用間隔が短いためまもりも動けず、三人は再び防御に回った。そして。

「「「っ!!」」」

これにはレンも、驚愕の声を上げる。

「ウソでしょ?」

見れば海の王は、もう一度水バリアを展開している。

「メイっ! 『樹』をお願い!」

「りょうかいですっ! 【グリーンハンド】【豊樹の種】!」

ここでメイは【豊樹の種】を育成して木々の盾を生み出し、ツバメとレンは即座にその背後へ。

三発目の水散弾からは、どうにか逃れることに成功。

「あのままだったら、どこまでも削られてたのかしら」

メイで1割弱、ツバメとレンは2割強もHPを削られた嫌らしい攻撃が止まり、息をつくレン。

しかし海の王の攻勢は、プレイヤーたちを防御に集中させてからが本番だった。

「――――――ゥゥゥゥ!」

輝く宝石の角と、響き渡る鳴き声。

発動した【無限水牢】によって、一帯に長さ2メートルほどの正方形の水塊が設置される。

その数は無数。

密度はバラバラだが、市松模様を思わせるほどに密な部分もある。

「何これ……」

「見た目には綺麗ですが、良からぬ気配がしますね」

設置型の魔法を思わせる、仕掛けの配置。

攻撃準備が完了すると、海の王が動き出す。

速い移動で迫る巨体は、四角い水牢に触れても崩すことなすり抜ける。

「【バンビステップ】!」

「【加速】!」

前衛二人は海の王を引き付けつつ、突撃を回避。

「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」

海の王はそのまま尾を振り払い、メイとツバメは後方跳躍で距離を取る。

すると付近に生まれた水魚たちが、後を追うように突撃。

これを細かなステップと剣技で払っていると、放たれたのはシンプルな【体当たり】

「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】【エアリアル】!」

水魚の突撃によってわずかに体勢を崩していたツバメは、二段ジャンプでどうにか回避に成功。しかし。

「っ!」

その身体が空中に設置されていた水牢に触れ、そのまま中に引きずり込まれた。

水牢を構成する水は粘度が高く、外へ出るのに時間がかかる。

そして海の王は、この隙を逃さない。

【エレメンタルスピア】はその宝石のような角で、水牢に閉じ込められたプレイヤーを貫く突撃技だ。

ダイヤのごとき長角を煌々と輝かせ、海の王は豪速で飛来。

そのまま水牢ごとツバメを貫き、プリズムのような輝きを炸裂させた。

「ああああああ――――っ!!」

舞い散る飛沫。

ダメージはなんと約5割。

ツバメのHPは一気に残り3割強ほどまで減少、そのまま地面に落ちて倒れ込む。

海の王は、一気に加勢。

これまでにない大量の水棲生物を生み出し、攻勢をかける。

一瞬でアクアリウムのように賑やかになった空間。

トビウオに熱帯魚、イルカとサメが群れを成しての特攻だ。

敏捷型のツバメやメイ、飛行で回避するレンは、水牢を怖れて回避が制限される。

「っ!」

トビウオをかわせば熱帯魚が刺さり、イルカに目を取られれば、サメが喰らいつきにくる。

これをどうにか避けると、すでにそこへ高速のトビウオが突撃。

メイは脚を弾かれ、レンは熱帯魚の三連撃を受けHPを削られる。

「【不動】【地壁の盾】!」

必死の回避の隙を突き、動き出した海の王。

逃げ場を大きく限定したうえで狙う、シンプルな【体当たり】

ターゲットになったまもりは、これをしっかり弾くことに成功。

しかし空中で大きく旋回した海の王は、狙いをレンに換えて突撃を仕掛ける。

「【低空高速飛行】!」

レンはかすめていくトビウオ型を気にせず、回避に全力を賭ける。

しかしその前に迫るのは、一頭のサメ型。

これを慌てて回避したことで、身体が水牢に触れてしまった。

「しまっ……!」

海の王は即座に速度を上昇し、そのまま空中で尾を払う。

「きゃあっ!」

すると尾に弾かれたレンは、そのまま床をバウンドして転がっていく。そして。

その先になんと、あらたな水牢。

「……うそっ!?」

レンは再び水牢に閉じ込められ、海の王はその角を輝かせて突き進む。

狙いは、ツバメのHPを大きく減らした刺突の一撃だ。

慌てて駆け出すまもり。

だがレンのもとに【かばう】で飛び込むには、別の水牢が邪魔になる。

「【裸足の女神】!」

おとずれた危機。

レンの前に立ち塞がったのは、メイだった。

豪速で迫る海の王に対して足を止め、真正面から向かい合う。

「メイ……?」

「メイさん……っ」

輝く角による突撃を仕掛ける巨体を、ただ静かに待つメイ。

海の王が照準に入ったところで、目を見開く。

「追撃、よろしくお願いしますっ!」

そう言って腰を落とし、右手を大きく引く。

大事なのは『二段階攻撃の、二発目だけを上手に当てる』こと。

「【装備変更】!」

しっかり距離感を見計らい、海の王が狙いの距離に来たところで両手を掲げる。

そして一呼吸ついた後、手にした【大地の石斧】を振り下ろす。

「いきます! 【地裂撃】!」

振り下ろした石斧が、地面を大きく割る。

だが明らかにそのタイミングは早く、そもそも空を泳ぐ海の王に足元の変化は関係ない。

「からの……【グレートキャニオン】だああああああ――――っ!」

もちろんそれは計算済み。

メイの狙いは、足元から突き上がる岩塔によるカウンター。

初撃を捨て二発目だけを叩き込むという狙いの攻撃は、見事に海の王を高く突き上げた。

強烈な一撃が決まり、展開していた水牢が弾けて消える。

「【加速】【リブースト】!」

追撃に走るのはツバメ。

「【連続投擲】!」

岩塔が消え、大きく跳ね上がった海の王が落ちてきたところに【雷ブレード】を投じて『隙』を継続。

感電によって硬直する海の王。

そしてツバメは、この『好機』を絶対に逃さない。

「【魔眼開放】」

レンの足元に、回転する黄金の魔法陣が展開。

「罪ある目には見えねども、慈しみぞ満ちたれる、神の栄ぞ類なき。闇なる、冥なる、悪なるかな。御手の業なるもの皆は、三つにいまして一つなる、神の大御名……堕ち奉らん」

回転する陣の中心で右目を金色に輝かせたレンは闇のオーラまとい、優雅な低空飛行で接近。

そしてバチバチと黒の魔力光を弾けさせる闇の細剣を、静かに海の王に突き刺した。

「――――【ナイトメア】」

ここで一転、静から動へ。

海の王を中心に付近から一斉に集まった闇色の輝きが、恐ろしい勢いで集束。

海の王の巨体をなんと、数十センチほどの球体にまで収縮させた。

一瞬の制止。

そして二度、惑星の輪を思わせるエネルギーの円環を放った後、臨界を迎えたエネルギーが壮大な爆発を巻き起こす。

背を向けたレンの髪がバサバサと揺れ、紫の盛大な輝きを背負うことで生まれた陰に、魔眼の金光が妖しく光る。

「――――永遠の眠りに、ふさわしき悪夢を」

「「…………」」

讃美歌の一節を変えての詠唱。

そして圧倒的な演出。

世界に終末がおとずれたのかというその光景に、あんぐりと口を開けたままでいるメイとまもり。

「え……詠唱の最後に決め台詞まで追加してんじゃないわよー!」

そんな中でレンだけが、ツバメの肩をつかんでガクガクと揺さぶっていたのだった。