作品タイトル不明
901.海の王Ⅰ
戦闘開始と共に、まさかの迷子ちゃん行方不明。
パーティメンバー離脱攻撃を持つ海の王は、少数精鋭であるメイたちには恐ろしい相手だ。
いきなりの事態に、驚きつつ警戒する四人。
すると空を泳ぐ海の王のダイアモンドのような長角に、プリズムのような光が灯る。
「空中に、大量の水の魚が」
「綺麗だけど、大変なことになりそうね……!」
次々に生まれる、トビウオのように鋭い形状をした水魚の群れ。
さらに熱帯魚のような縦幅のある水魚たちも生まれ、あっという間に大軍となる。
広がる圧巻の光景。
海の王が角を光らせると、一斉に襲来を開始をする。
「ツバメちゃん! 遅れて来る子に気をつけて!」
「はいっ」
前衛二人は直進のトビウオ型を回避しながら、視界を広くして熱帯魚型の回り込みを把握。
二段のバックステップでかわしたところに猛スピードで喰いつきにくるサメ型を、引き付けてからしゃがんで回避した。
「「っ!!」」
見事な回避を見せるメイたちだが、かかった大きな影に慌てて空を見上げる。
「【バンビステップ】!」
「【加速】【リブースト】!」
【圧し掛かり】の攻撃範囲は広大。
メイはレンを抱え、ツバメはまもりの手を引いて退避する。
直後、海の王の巨体は重たい破砕音と共に床を大きくへこませた。
「まだだよっ! 【アクロバット】!」
「ここは私が! 【天雲の盾】!」
【圧し掛かり】により一拍遅れであがった猛烈な飛沫が、まもりの盾にぶつかり銃弾でも受けたかのような音を鳴らす。
メイはその身のこなしで、ツバメとまもりは見事な連携で攻撃に対応。
四人は目線を上げ、攻撃の流れを入れるかを確認するが、海の王はすでに尾を上げていた。
そのまま一回転。
付近を薙ぎ払うような強烈な尾の払いが、大量の飛沫を飛ばす。
散弾のごとき範囲攻撃に慌ててまもりは盾を構え、ツバメはその背後に回る。
「【天雲の盾】!」
「【ラビットジャンプ】!」
メイはレンを抱えたまま、高く跳躍して回避。
下を見れば、大量の水弾が冗談のような速度で飛び散っていく。
海の王はわずかな時間で、その神々しさに恥じない攻勢を見せつけた。
「でも、この位置からだったら反撃が狙えるわ! 【フレアバースト】!」
メイに抱えられたレンは空中で杖を伸ばし、そのまま爆炎を放つ。
猛烈な爆発は海の王に一直線に飛び、そのまま豪炎を巻き上げるが――。
「バリア!?」
なんと巨大な海の王を包むような球形の水膜バリアが、爆炎を相殺。
飛沫と炎を、派手に巻き上げる。
「【連続投擲】!」
降り注ぐ水滴の中、ツバメも【ブレード】の投擲を放つが、海の王を守る水バリアに刺さって止まる。
「バリアの範囲内であれば、時間差の連続攻撃にも対応できるのですか……!」
海の王のほとんどを覆う水球バリアは、一度攻撃をぶつけられたら効果を失い終わりではなく、残った面も防御効果を持つようだ。さらに。
「「「「ッ!?」」」」
爆炎によって穴の開いたバリアを放棄すると、内側から弾けて大量の水散弾が飛んで来る。
「て、【天雲の盾】っ!」
直後、盾を打つ爆音。
とっさにツバメをかばって防御したまもりは、見事にダメージなし。
「きゃあっ!」
「うわわわわーっ!」
対してメイとレンに、逃げ場なし。
慌てて防御して、ダメージを1割程度に抑えた。
ここで海の王は、再び水魚による攻勢をかけてくる。
トビウオ型の群れが機関銃のようにメイに向かって飛び、熱帯魚型がツバメを狙う。
「【バンビステップ】!」
これをメイは駆けることで回避。
「【疾風迅雷】【加速】【加速】【加速】!」
ツバメは角度を変える走りで翻弄する。
「【クイックガード】【地壁の盾】盾……盾っ!」
まもりは迫るトビウオ型の突撃に、盾を合わせて防御。
遅れて来る熱帯魚型の攻撃にも、しっかりと対応するが――。
「うぇええっ!?」
いつの間にかまもりを取り囲むような形で布陣していた10体のイルカ型が、一点に集束するような形で特攻。
「きゃああああっ」
ぶつかり破裂するイルカ型の勢いに飲まれて、1割強のダメージを受けた。
海の王の攻勢はさらに続く。
「後衛に、こんな数をぶつけてくるの!?」
レンは思わず息を飲む。
一斉に空を泳いでくる水魚たち。
トビウオからイルカまで、まさかの一斉攻撃だ。
「回避はどう考えても無理……それならイチかバチかよ!」
吹っ切れたレンは【ヘクセンナハト】を構え、迫る水魚の一団を引き付ける。
「【フレアバースト】!」
放たれる広範囲の爆炎が、魚群にぶつかり豪炎を上げる。
レンは目を凝らし、炎の間を抜けてくる個体を確認。
「【魔力剣】!」
進行速度のやや遅い熱帯魚型たちを、魔力の刃で斬り払ってみせた。
「いける……! 水魚たちは攻撃でも払えるわ!」
「なるほど! 【フルスイング】!」
それを見たメイは迫るトビウオ型を回避して、回り込んでくる熱帯魚型を全力の振り払いでまとめて叩き飛ばす。
「【装備変更】!」
そしてそこに喰らいつきにきたサメ型に対して、【魔断の棍棒】を取り出した。
「せーのっ! 【フルスイング】っ!」
その狙いは功を奏す。
叩かれたサメ型はなんと、飛んできた時よりも早い速度でリターン。
そのまま海の王の腹部に直撃した。
わずかに生まれた隙は、反撃のチャンスだ。
「ここっ! 【フレアバースト】!」
レンはこの隙を突き、すぐさま放つ爆炎で攻撃。
しかし海の王は、当たり前のようにこれを水バリアで相殺する。
「【フレアストライク】! 【フリーズストライク】!」
続く魔法攻撃も、水球のバリアにぶつかり届かない。
飛沫だけが、虚しく飛び跳ねる。
「ああもうっ! 本当にやっかいなバリアね!」
「そういうことならっ! 【装備変更】! レンちゃんっ!」
「なるほど、それは面白いわねっ!」
水魚の攻撃をかわし、余裕を作ってからの攻撃も水球のバリアが通さない。
しかしメイが装備を換えたことで、レンはその狙いに気づいた。
二人は目線を合わせ一度、うなずき合う。
「もう一回! 【フレアバースト】!」
放つ爆炎は、張り直されたバリアによって弾かれ飛沫を上げる。
だがこれは最初から、続く一手のための前フリだ。
「いきます……! 【ゴリラアーム】!」
身の丈ほどもある【王樹のブーメラン】を抱えたメイ。
その場で大きく、ハンマー投げのように三回転。
「せーのっ! それええええええ――――っ!!」
轟音と共に投じられたブーメランは、レンが『開いたばかりの水球の穴』目がけて飛来。
爆炎によって破られた部分を見事にすり抜け、そのまま海の王の頭部に直撃した。
ようやく入った一撃が、確かに敵の体勢を崩す。
「これはオマケよ! 【超高速魔法】【ファイアボルト】!」
追撃は弾丸のように飛んでいく、超高速の炎弾。
しっかり着弾して、海の王を弾いた。
「このバリアの隙間を抜けていく感じ、気持ちいいわね!」
ダメージはブーメランが衝突なこともあり、二人合わせて1割程度。
それでもようやくバリアを割っての反撃が決まり、メイとレンはピースサインを送り合う。
すると海の王は体勢を立て直し、再び水魚による攻撃に入った。
「【地壁の盾】! 【シールドバッシュ】!」
まもりは迫る魚たちに対して、攻撃も使ってさばくことで余裕を作り出す。
そして魚たちの攻勢に慌てる必要がなくなれば、【圧し掛かり】への対応もしやすくなる。
先ほどは大慌てで回避したその一撃を、しっかり待って引き付ける。
「まもりさん! きます!」
「はひっ!」
その狙いは、カウンターだ。
「いきます! 【フレアバースト】!」
あらかじめレンに頼んで用意しておいた【マジックイーター】をここで放出。
盾から巻き起こる爆炎に、海の王が弾き返された。
「その角度、最高です――――!」
下から吹き上げる形の爆炎に弾かれた海の王が、落下する先には駆けてきたツバメの姿。
腰を落とし、装備を【村雨】に変える。
そして、抜刀。
「貫け――――【水月】」
【村雨】の水属性向上効果によって延伸した水の刃は、一瞬で海の王を貫いた。
わずかな静寂の後、長い水刃が弾けて消える。
「……何度見ても、渋いスキルねぇ」
「お、大技なのに、職人のようです」
「ツバメちゃんカッコいいーっ!」
降り出す飛沫の雨の中、飛び跳ねて歓喜するメイ。
海の王は、大きく崩した体勢を慌てて立て直しつつ距離を取る。
そのHPは、3割ほどの減少となった。