軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

897.混合戦式

メイは研究区画の最奥部へ向かう。

見えたのは、紋様付きの両開きドア。

紋様に触れ扉を開き、さっそく内部へ。

灰色のブロックで造られた広い部屋には、物々しい無数の傷が刻まれている。

そこは兵器として作られた魚やサンゴなどを、実際に『試す』実戦場。

今はもぬけの殻となったこの部屋を調べていたのは、一人の黒仮面。

「……冒険者だと?」

やってきたメイを、いぶかしむような声を出す。

「フローリスの邪魔者たちか……何用だ」

「門を探しに来ました!」

「目当てはゼティアか。あれは大望なき者には過ぎたるもの。世界を治める新たな王である、我らにこそ相応しい」

そう言って黒仮面は、右腕を紫結晶に包む。

「……ちょうどいい。貴様には『混合戦式』の実験台になってもらおう」

そして右足と右手を引き、わずかに腰を落とした。

「よろこぶがいい。新たな王が進む覇道の、礎となることを」

「っ!!」

風の爆発音と共に、真正面から低空飛行で迫る黒仮面。

見ればそのブーツには、緑結晶の輝き。

放つは紫結晶に覆われた、鋭い爪の振り上げ。

「【アクロバット】!」

メイはバク転でこれをかわす。

すると空いた手も結晶化し、続くは結晶碗の振り払い。

これをしゃがんで回避すると、黒仮面は大きく一歩踏み込んだ。

放たれる結晶爪の振り降ろしにメイはいち早く反応し、後方への速いステップで距離を取る。

すると、即座に輝く緑結晶。

高速の低空飛行で追撃、腕を一回り巨大化しての大きな回転払いへ。

これもしっかり距離を測り、下がって回避を成功させるメイだが――。

「【毒爪】」

手のひらの橙結晶が輝く。

とがった爪の描く軌道を追うように、放たれる黄色の毒液。

「うわわわわっ!」

いきなり範囲を広げた攻撃に、思わず驚くメイ。

慌ててその場に『腕立て』の姿勢で伏せ、毒液をスレスレでかわす。

すると黒仮面は両手を組み巨大化。

「【毒破十字槌】」

祈りを捧げるように組んだ手を、そのままハンマーのように叩きつけにくる。

メイはすぐさま『腕立て』から床を強く押して立ち上がり、そのままの勢いで二度の連続バク転で距離を取る。

直後、床にめり込んだ手が十字の輝きを走らせる。

「あ、あぶなーい!」

吹き上がった毒液を、メイは慌てて斜め後方への移動で回避した。

二段目がある攻撃には、まだまだ慌てるメイ。

しかし意識の切り替えは早い。

「【バンビステップ】!」

大きな攻撃の直後を狙って動き出し、速い移動で接近。

「それっ!」

仕掛けた剣の攻撃を、黒仮面は紫結晶の腕で防御する。

続く二連撃も、両手を使ってしっかり防御。

ダメージは低い。

紫結晶は防御時の物理耐性が高いようだ。

「【フルスイング】!」

しかしその一撃の火力は恐ろしいと判断、黒仮面はメイの豪快な払いを後退することで回避した。

「そういうことならっ!」

メイは攻める。

早い踏み出しから使うのは、剣でなく拳。

「【キャットパンチ】!」

近接から放たれる速い拳には防御も回避も間に合わず、初撃の突き出しが見事に直撃。

「パンチパンチパンチパンチパンチ!」

続く連打が、黒仮面を容赦なく打ち付ける。

「くっ!」

連打を喰らったことで、ようやく生まれた距離。

1割強のダメージを受けた黒仮面は、ようやく防御に成功する。しかし。

「【カンガルーキック】」

これをメイはあっさりと崩して、再び攻勢に入る。

「【キャットパンチ】パンチパンチパンチ! からの――――!」

メイは剣でも振り下ろすかのような軌道で、掲げた右手を強く振り下ろす。

「【虎爪拳】! がおーっ!」

「ぐううっ!?」

豪快な四本のエフェクトと共に繰り出された一撃が、黒仮面の胸元を切り裂いた。

『がおーっ!』の部分は完全なアドリブだが、自然に口を突いて出たため、メイは自らの野生ぶりに気づかない。

さらなる追撃を狙って、接近を仕掛ける。

「【異常液噴射】!」

「うわーっと!」

その勢いを前に、黒仮面はたまらず吹き上がる状態異常液でメイを急停止させる。

やはり毒液の使用はやっかいだ。

「そういうことならっ! ……いただきます!」

そう言って高々と掲げてみせたのは【原始肉】

さっそく嚙り付こうとしたところで――。

黒仮面は、伸ばした右の結晶碗を叩きつけにくる。

「うわっと!」

これをかわし、もう一度【原始肉】にかじりつき――。

黒仮面はさらに一歩踏み込んで、左の結晶碗を叩きつけにくる。

「うわわわっと!」

これも慌てて後方に回避して、今度こそと口を開けたところで――。

叩きつけられた腕に灯る橙の輝きが、状態異常液を吹き上げた。

「ぜ、全然食べられないよーっ!」

メイは片手にデカい肉を持ったまま、続く黒仮面の払いと突きをかわし、回転撃には一度【原始肉】を真上に放り投げてキャッチ。

ようやく一段落したところで、懐へ飛び込んでいく。

そして肉を持ったままの【カンガルーキック】で敵を崩し、【原始肉】の骨部分で仮面を強めに突いたところで、ようやく隙を奪うことに成功。

「くっ……この世界は我らのもの。邪魔立てするならこの海もフローリスのように毒に沈めてやろう。貴様ごとなぁぁぁぁ!」

「ふぉんなの、ゆるひませんっ!」

メイはお行儀悪く、食べながら反論。

「そんなの、ゆるしませんっ!」

聞こえてなかった場合もあると考えて、もう一度しっかり指を差し直して宣言した。

「――――ゆくぞ」

黒仮面は、緑結晶を煌々と輝かせて高速突進。

そのまま攻撃体勢に入る。

「【異手刀乱舞】」

放つは状態異常液の刃を乱舞する、とても恐ろしい攻撃だ。

しかしメイにこれを、全力でかわす必要はなし。

「いきますっ!」

なんとそのまま、手刀が放つ液刃の中へ直進していく。

その場での回避と違い、進行しながらの回避は格段に難しい。

怒涛の状態異常液乱舞はその形状が不確定なのもあり、メイの肩や手、脚を切り裂いていく。

しかし直撃でないためメイの進行を止めるには至らず、三つ四つの【複合毒】になるはずの状態異常液も【原始肉】が無効化。

本来ならその速さと結晶攻撃、さらに複合毒まで使う脅威の敵を前に、メイは戦車のように真っ直ぐ突き進む。

「【装備変更】っ!」

そして懐に飛び込んだところで、【猫耳】を【狐耳】に変更。

「【キャットパンチ】パンチパンチパンチパンチ! パンチパンチパンチパンチだーっ!」

【狐火】によって、青い炎をまき散らしながらの連打を叩き込む。

「【虎爪拳】! がおーっ!」

そのまま青い炎を灯した爪の一撃で、黒仮面を弾き飛ばした。

メイは止まらない。

弾かれ大きく転がった黒仮面が慌てて防御姿勢に入ると、振り上げた手を床に突く。

「【グリーンハンド】【イバラの道】!」

伸びる無数のイバラが黒仮面に襲い掛かり、そのトゲで切り裂いていく。

「くっ! 【疾空】!」

装備とHPを削られた黒仮面は、たまらず空中へ。

そのまま高速飛行で、メイを狙いに行く。

「【旋風回転蹴り】!」

「【グリーンハンド】【バンブーシード】!」

しかしメイが放つ一撃は、一斉に突き上がる竹。

空中の黒仮面を突き刺し、弾き返す。

「くっ……! やはり貴様たちは我らが覇道の邪魔になる者! ここで葬る必要があるようだ……っ!」

植物連携に大きくダメージを取られた黒仮面のHPは、3割を切った。

ここで身体を侵食する、紫結晶の勢力を増加。

同時に掌の橙結晶、踵の緑結晶も同時に輝かせる。

「ゆくぞ。貴様の死は――――今確定した」

身体の7割を結晶化させた黒仮面が、最後の攻勢を仕掛ける。

緑結晶による低空高速移動で、一気にメイの前へ。

結晶腕の三連続突きから踏み込み、二度の払いという連携をメイがかわす。

すると回転して放つ斬撃は、腕を結晶で伸ばした手刀。

これをしゃがんでかわすと、すぐさま爪による上段からの切り裂き攻撃へ。

「よいしょっ!」

バックステップすると、目の前を紫の輝きが通り過ぎていく。

「もう一回!」

予想通り、腕粉砕から吹き上がる大量の状態異常液。

黒仮面は後を追うようにして跳躍。

レンの魔法を飛び越えた『弧を描く高速跳躍』から、巨大化した結晶腕の叩きつけへ。

「【装備変更】【アクロバット】!」

メイはここで大きなバク転での回避を選択。

叩きつけられた結晶碗は、砕け散り弾丸となるが届かない。

「――――【紫手刀乱舞】」

キラキラと輝く結晶片の中、向かい合う二人。

放つは紫結晶の手刀による、斬撃乱舞。

右手の振り降ろしからの振り上げ、左手の払いから戻し、両手をクロスしての振り上げから垂直の振り降ろし。

怒涛の斬撃を、メイは回避に集中することで回避。

続く回転撃に至っては、その攻撃距離を見計らって後方へ早めの小ジャンプ。

鼻先を通り過ぎていく手刀。

反撃が狙える位置への着地、メイはヒザを曲げて態勢を整えるが――。

最後の一撃は縦の振り降ろし。

270度の弧を描く一撃は長く、天井も床も切り裂く威力で振り下ろされる。

しかしこの攻撃を、『真上から』迫る形にしてしまったのは失敗だった。

「【装備変更】っ! とっつげきー!」

この状況からでもメイは、反射的に【鹿角】によるパリィを決める。

大きく弾かれた黒仮面。

メイが選んだのはめずらしいことに『突き』だった。

「大きくなーれ!」

突き出した【蒼樹の白剣】はあっという間に伸長。

黒仮面を突き、背後に残った竹にガンガンぶつかりながらそのまま壁に激突。

大きなヒビと共に、深くめり込ませた。

「バカ……なっ」

そのHPゲージを吹き飛ばし、そのまま打倒。

メイはさっそく、最奥にある紋様に触れてみる。

するとドアが開き、エレベーターらしき空間を発見。

「ここじゃないのかな……?」

しかしエレベーターは、まるで動かない。

どうやらここも、ゼティアの門へ続くものではなかったようだ。