作品タイトル不明
836.勝利と部族
「テラ・レックスにー……勝ったぞー!」
リベンジを果たして歓喜するバニーは、メイに飛びつき拳を突き上げる。
「前回の借りはしっかり返させてもらったな」
「気持ち良かったにゃん」
夜琉も大きくうなずき、灰猫も相変わらずの不機嫌顔で続く。
「みんな、仇は取ったからね……」
「バニー、まだ全滅したとは限らないからここに来たのよ」
穏やかな笑みを浮かべて天を仰ぐバニーに、そう言って笑うアーリィ。
「でも本当に勝っちゃったね。人数は攻略組の時の半分以下だったのに」
「打倒が速かった分、余計なモンスターの邪魔が入らなかったのも大きかったな」
「その都度隙を作ってくれたメイちゃんたちのおかげだね。ありがとう」
「いえいえー」
「アーリィたちの火力が十分高かったから、うまく連携になったのよ」
「じゃ、邪魔にならなくて良かったです……」
敵の攻撃の隙を突き、チャンスを作ってアーリィたちに攻めを任せる。
そんな戦い方もこなしてしまうメイたちに、あらためてアーリィは感嘆する。
「あの広報誌や動画に、脚色はなかったのだな……」
「数々の大型クエストを、こんな少ない人数でクリアしちゃうわけだね」
「さメ」
こうして攻略組を崩壊させたボスに、勝利したメイたち。
当然、大事なのはここからの展開だ。
他のマップでは出てこない、恐るべき恐竜型モンスターの打倒。
その光景を見た部族の者たちは、攻撃を仕掛けてくることもない。
驚きの表情のまま、長老の判断を待つ。
「――――」
するとやって来た長老は何か一言告げて、手にした杖を遺跡の一角に向けた。
そしてそのまま少女と共に、歩いていく。
「付いてこいということでしょうか」
「そうみたいだねっ」
これからの展開にワクワクして、尻尾をブンブンし始めるメイ。
8人はうなずき合い、長老たちの後に続く。
たどり着いたのは、大きな石板の前。
壁のように立つ石板には何の紋様もなく、何も書かれていない。
長老は杖の先で、そこに文字を書いていく。
やはりその文字は古いもので、読むことはできない。しかし。
文字を書き終えた長老が杖の先で石板を叩くと、文字が橙に輝き変化していく。
『この石板はかつて、言語学者を名乗る者がこの地に置いていったものだ』
「……読めるようになった!?」
「おおーっ! すごーい!」
並んで興味深そうにするメイとツバメの後ろから、飛びつきにいくバニー。
二人の肩に手を乗せ石板を見つめていると文字が消え、長老はまた続きの文章を書いていく。
『まずはかの魔物を打倒した猛き者たちに感謝を。あれは赤月の夜にも現れた、恐ろしい兵器だ』
「「「「ッ!!」」」」
出てきた言葉に、メイたちは思わず顔を見合わせる。
「赤月の夜と兵器……」
それは帝国の兵務区画に忍び込んだ際に、知った言葉だ。
『まずは一つ聞かせて欲しい。君たちは何を求めてここに来た』
長老は一歩引いて、こちらの反応を求める。
「……ええと、まずは赤月の夜と兵器について知りたいでいいわよね」
レンが自前の杖で石板に書くと、文字が変化して部族のものとなる。
するとそれを読んだ長老は、再び石板に文字を書いていく。
『赤月の夜。我らの祖先は恐るべき魔物と戦い、どうにか押し返すことに成功したが……世界は崩壊した。その時我らの祖先は、文明を捨てたのだそうだ。そして地に根付き、遺跡を守り生きる者としての道を選んだ。テラ・レックスはその戦いの際に兵器として利用され、後に封じられたようなのだが、先日その封印が解けて動き出したのだ』
「赤月の夜によっておとずれた終焉とは、世界の崩壊ということですね」
「へ、兵器はその戦いに用いられたもの。そういうことでしょうか」
やはりまもりはフローリスを破壊した兵器について、興味を持っているようだ。
「続いて、部族と遺跡についても聞いておきましょうか」
レンは再び杖で、石板に『貴方たちはどうして遺跡を守っているの?』と書く。
「会話よりも反応に時間がかかる分、ドキドキしますね」
「本当だね……っ」
長老が書く返事を、並んで見守るメイたち。
誰もがこの展開に息を飲む。
『我らが守る遺跡には、赤月の夜に関わるものがある。だが我らには、それが何なのかまでは知らされていない。ただ過去に酷い過ちがあり、それを遺跡が生み出すという情報だけが残された。かつてと同じ悲劇を繰り返さないためには、あの遺跡を守る必要があるのだ』
「ただの現代人嫌いではなくて、守る物があって攻撃を仕掛けていたのね。それなら次は、アーリィたちの気がかりも聞いておきましょう」
レンはそう言って『他にここへたどり着いた人は?』と書く。
『分からない。だが少なくとも我らのもとにやってきた者はいない』
「ここじゃないのかな」
これにはアーリィも、首を傾げる。
「だがエルラト禁域のメインはどう考えてもここだ……それなら、行方不明プレイヤーたちはどこに消えたんだ?」
『だが最近何者かが遺跡に近づこうとしているようだ。もしもそれが悪しき者であれば、世界は再び終焉を迎えるかもしれない』
「これは誰のことを言ってるのかしら」
「帝国の黒仮面さんたちも、怪しいですね」
『……汝らは正しき者と見える。遺跡に向かい、何が起きているのかを確かめる気はあるか?』
「…………どう?」
部族と敵対せず、少女を助け、そしてテラレックスを討つ。
そんな流れでようやくたどり着く展開を前に、レンは振り返る。
するとメイはもう、目を輝かせていた。
アーリィも静かにうなずく。
「ここまで来て、ありませんはないんじゃなーい?」
バニーも楽しそうに笑う。
満場一致の答えに、レンは『はい』と回答。
すると、少女が一歩前に出た。
そして長老が石板に書いた文字が変わっていく。
『エルラトの巫女と呼ばれた者の末裔が、このローラだ。彼女が遺跡に案内してくれる』
「遺跡に……案内?」
すでにここは遺跡の内部。
出てきた意外な言葉に、レンは首を傾げるのだった。