軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

701.真実

「ど、どうしましょう……っ!」

「なんだ、どうした?」

顔を青ざめさせる運営担当者の一人に、声をかけるレイド戦責任者。

「今戦っているレイドボスなんですが、テスト時に使った設定値をそのままにしてしまったようです」

「感じていた異常な強さの原因はそれか! テスト時ということはもしや……例のもの用に調整された値をそのまま出してしまったという事か!?」

「はい。申し訳ありません」

まさかの事態に、さすがに責任者も頭を抱える。

「……もう戦いは始まっている。今から調整を入れようものなら、どう決着しても操作や違和感を覚えるだろう」

始まった戦いに手を入れる、それは当然許されることではない。

こうなってしまった以上、戦闘中に突然の弱体化を入れることはなしだ。

責任者は大きく息をつき「よし」と、一つしっかりうなずく。

「このままいこう。現状のトップたちが手を結んでも打倒し得ない、届かないボス。そんなのをフェスの最後に出してきたとなれば、批判も出るだろう」

そう言って、あらためて現状を確認する。

集まったトップたちはよくやっているが、それでもやはり足りてない感じだ。

「だがこれだけのプレイヤーをもってしてもなお、勝てない存在がいることをここで知らせておくのも悪くはない。まさかこんな形でお目見えすることになるとは思わなかったが、こうなった以上容赦のない結果になることは確実だ。我々も腹を決めよう」

「は、はい……っ!」

こうしてレイドボス戦の担当者たちは、プレイヤー敗戦という未来に対して覚悟を決めた。

「当たるのものかっ!」

一つ目の顔が仕掛けてきた喰らいつきを、しっかり引き付け回避。

すると二つ目の顔が即座に炎弾を吐き、これをかわしたところを三つ目の顔が喰らいつきにくる。

「くっ! 【セイントシールド】!」

たまらず黄金の盾で防御。

直後【爆炎喰らいつき】は猛烈な炎を上げるが、物理攻撃後の派生まで対象とする防御スキルで難を逃れる。

「【ソニックドライブ】!」

ここでグラムは距離を詰め、アルトリッテの盾に喰いついた頭を狙いにいくが――。

「「ッ!!」」

左右二つの顔が同時に吐くブレス。

「【ソニックドライブ】!」

「【ペガサス】!」

広範囲高火力の一撃に、二人慌てて回避に入る。

するとそこへさらに、光る尾による強烈な叩きつけが迫りくる。

「くっ!」

「ぬああああっ!」

これが肩や腕を弾き、前衛二人は2割近いダメージを喰らって大きく体勢を崩した。

一体の敵にして7回攻撃を誇る、黙示録の獣。

【喰らいつき】と【炎弾】の組み合わせに加えて範囲攻撃の【ブレス】時にバラバラ、時に合体で放つ攻撃は、一方的な攻めを継続する。

「なるほどね。黙示録の獣は、リヴァイアサンとの同一視によって作られているようだよ」

「そのようだな」

刹那の言葉に、応えたのはリズ。

「それじゃ、ボクたちもいこうか」

グラムとアルトリッテへの追撃を阻止するタイミングで動き出す、闇の者たち。

「――【早駆け】」

先頭を切ったのは、鳴花雨涙。

高速移動で一気に距離を詰めると、放たれた炎弾を見て急停止。

「【風遁・爆進脚】!」

サイドステップで軸をずらしてからの超高速接近。

「【遅れ咲き】【苗木越え】!」

赤の切り傷を刻み込み、そのままハイジャンプ。

この時点では小ダメージだが、その後任意のタイミングで斬撃を起こし、隙を作ることができるのが【遅れ咲き】の利点だ。

「――今!」

「もらったよ! 【クルシフィクション】!」

雨涙の起こした斬撃によって飛び散る血しぶきと、生まれた隙。

刹那が放つのは、鎖が突きあがり敵を磔にするスキルだ。

紋様の刻まれた鎖が縛るのは、巨体ゆえに腕のみ。

その拘束は短時間だが、確かに獣の動きを大幅制限してみせた。

「頼んだよ」

「頼みます」

「「――――レクイエム」」

そんな二人の視線に、動き出すのはリズ。

「【暗衝】!」

足元に黒色の波動を残しながらの突撃で、一気に距離を詰める。

「喰らうがいい! 【暗天の大剣】!」

放つ回転斬りは、付近一帯を薙ぎ払う重い一撃。さらに。

「それでは詰めが甘いのではなくて? 【ライトニングスラスト】!」

リズの真横を追い越していく白夜。

直後、腹部に突き刺さったレイピアにまばゆい光が集まる。

「【極光乱舞】!」

燐光が舞い散る爆発、獣が大きく弾き飛ばされた。

「すげえ……っ!」

「使徒たちの連携だ!」

ここでしっかり全員がポーズを決めるのが、使徒が使徒たるゆえん。

確かな連携は、確かなダメージを与えた。

しかし獣はヒザを突くことで転倒を防ぎ体勢を立て直すと、これ以上の追撃を許さない早い復帰から反撃へ移る。

六つの頭が同時に放つブレス。

火力と範囲の大幅な向上によって、回避の隙もなし。

「「「うわあああああ――――っ!!」」」

これによって前衛にいた使徒たちは、2割から3割に迫るダメージを受けた。

キュービィやアトラクナイア、ローチェといった中距離組もイフリートの背後に隠れることでやり過ごすが、わずかにかすめてHPを減らす。

どうにか召喚獣と盾防御で切り抜けたトップ組だが、HPもMPも減りが目立つ状態だ。

「「まだだ!」」

叫び声は、先頭のアルトリッテとグラムのもの。

ブレスに参加しなかった7つ目の頭は、追撃も可能な状況で待機していた。

この時点で選んだターゲットは、魔導士が呼び出す中ボスたちを片付けていた参加者たち。

放たれる巨大な火炎弾。

その一撃はなんと、『溜め』から放たれた。

「あぶないっ!」

思わず叫ぶローラン。

イチかバチか放った矢は、豪炎球に飲まれて消える。

「任せるぽよ――っ! 【飛び跳ね】【材質変化】!」

ここに飛び込んで来たのはスライム。

直撃すれば付近一帯を焼き払い、中ボス狩りの参加者たちを一気に瓦解させてしまう一撃を、身を挺して止める。

飛び散る猛烈な火花に、誰もが言葉を失う。

地面に叩きつけられたスライム。

本来であれば、一撃死もありうる火力の一撃。

「あ、危なかったぽよーっ!」

しかしスライムは【材質変化】を『攻撃の種類』に合わせることで、ダメージを軽減できることを知っていた。

HPの5割を飛ばされたものの、無事生き残ることに成功。

「すげえな、あのスライム!」

「やるじゃーん!」

思わぬ見事な動きに、驚きを見せる金糸雀とローチェ。しかし。

スライムが抜けたところに生まれた隙間。

新たに生成されたキングオーガ二体が、部下を引きつれ猛烈な勢いで襲い掛かってくる。

「……貴様と共に戦うのは今回だけだ」

「は、はい」

「【魔王滅殺剣】!」

「【熾天剣舞】!」

上司と部下が放つ一撃で、キングオーガの片割れが吹き飛び消える。

「お前の相手はこのオレだぁぁぁぁ――――っ! 【奈落落とし】ィィィィ――ッ!!」

そして二体目の頭には、裸に金仮面の男が跳躍から降り下ろすハルバードが直撃して消滅。

続く魔導士組の攻撃で、お供のオーガたちを片付ける。

息をつく後続組。

「生き残りがいるぞ!」

「このままじゃ前線に入り込まれちまう!!」

しかしその背後に残っていた猛獣を見落とした。

絶対に崩したくない戦線を狂わせるかもしれない、足の速い魔獣オルトロス。

後続組は思わず冷や汗をかく。

「えいっ」

「……な、ないすぽよーっ!!」

誰もが慌てたところに、現れた少女。

これまで付近をウロウロしていた迷子ちゃん、騒がしいと思ってたどり着いた先でまさかの好プレイ。

オルトロスの弱点を一刺しして動きを止めた。

「【不動鉄観音】!」

立ち直った後方部隊を見て、トップたちも再び意識を黙示録の獣に集中することが可能となる。

アルトリッテとグラムが下がった代わりに前に出た金糸雀は、攻撃ダメージを大幅減し、その場から一ミリも動かないスキルで尾の振り払いを受け止めた。

「――【風遁・爆進脚】! 【火遁・竜鳴砲】!」

即座に距離を詰めた雨涙は二刀流を叩き込み、火炎砲で獣を崩す。

「【サンダーウィップ・エクステンド】!」

そして雨涙に喰らいつきにきた頭は、ローチェがフォロー。

「それーっ!」

続く頭をココの拳が弾いたところで、動けるようになった金糸雀が続く。

「いっくぞぉぉぉぉ!! 【ミョルニルインパクト】だあああああ――――っ!!」

炸裂する一撃は地を割り、天を突く派手なエネルギーエフェクトを噴き上げた。

「畳みかけますわぁん! 【流転避行】【首狩り一閃】!」

滑るような動きの瞬間移動から、斬撃の軌跡が駆ける技を叩き込む。

「ここ、勝負所! 【フレアドライブ】!」

「ゴアァァァァァァァ――――ッ!!」

アトラクナイアの指示に咆哮をあげたイフリートが、爆炎をあげつつ迫る体当たりで獣を弾き飛ばす。

「【裂空一矢】【バーストアロー】!」

「……【霊鳥鳳火】!」

着弾と同時に高火力の爆発を起こす矢と、無数の光の鳥が一羽の巨鳥となって突撃する一撃が混じり炸裂。

大きな爆発を巻き起こした。

間違いなく、戦いの優劣を決めるような流れ。しかし。

「あはは……これでもまだ3割にもならないなんて、悪い夢みたいだよ」

「……耐久オバケ」

RPGなどで稀に感じる『まだ無理』『早すぎた』感に、ローランは苦笑い。

どうやらマリーカも同じ感想のようだ。

煙が晴れると、潰れた二つの頭が復活。

六つの頭が同時に口を開き、18発の大型炎弾の乱射を、ローランたちを中心にした後衛に向けて放つ。

「――後衛狙い!」

「退避! 間に合わない者は防御で!」

指示を出してから【ラピッド・ワン】で回避を狙うローランだが、その範囲の広さからは逃れられない。

「「「うわあああああああ――――っ!!」」」

後衛組は続く火炎弾の炸裂に、吹き飛ばされて転がる。

「これ以上は許しませんわ! 【エンジェライズ】【ライトニング・スラスト】!」

追撃を止めつつ再び攻勢を始めるため、飛び込んでいく白夜。

その狙いは見事だが、残った1つの頭は接近するプレイヤーをしっかり捉えていた。

「きゃああああッ!!」

残った頭が放つ水砲弾は、その異常な飛来速度で白夜を弾き飛ばした。

地面に叩きつけられ、跳ね転がる白夜。

さらに獣は前足を叩きつけ、地面が突きあがる。

「「ッ!!」」

これをグラムとアルトリッテが慌ててかわすと、そこに振り回される尾。

「こいつ……っ」

「化物ではないか……!!」

尾に弾かれ2割ほどのダメージを受けたグラムとアルトリッテが、その表情に驚愕を見せる。

見ればココを始めとした前衛別動組も、まとめて戦線を下げる形になっていた。

「しっかりと1つ頭を残してくことで炎弾乱射の後の隙も消し、隙を突きに来た白夜ちゃんにカウンターを叩き込む」

ただ闇雲に7つの頭をぶつけるのではなく、それすらオトリにする戦法を持つ獣はやはり強い。

「どうにか戦いを作ってはいるけど、攻めに勢いが足りてないかも。大技の連携が長くつながっていないのも、大ダメージを与えられない理由かな……」

起き上がったローランは、パーティメンバーの生存を確認しながらつぶやく。

互いのスキルの感覚などもあまり知らないため、連携が最大限をなしていない感じは確かにある。

攻守はしっかりしているが、攻め切れていない印象だ。

「それにおそらく後半戦はまた、新しい強力なスキルも使ってくるはず」

その対応に必要な時間もかかると考えると、閉会式までという制限時間は絶望的な気がしてくる。

「メイちゃんたち、どうしたのかな……」

かつてない厳しい戦いになったレイド戦、メイはまだ姿を見せてない。

「メイちゃんは来ないのか……?」

参加者たちからも、聞こえてくる声。

トップ勢の中にはもう、HPが3割ほどの者もいる。

黙示録の獣の攻撃なら、次に直撃を喰らえば終わりだろう。

ローランはもう一度全体を見回しながら、再び前線のサポートに戻るのだった。