軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

605.和平と待ちかねた瞬間

「ついに、この日が来たか」

「長い、戦いの時代でしたな」

王と教育係ローウェイは青空を眺めながら、噛みしめるようにつぶやく。

隣国へ旅立つ準備は万端。

喜ぶ天子を馬車に乗せ、王は和平の調印式へと向かう。

「君たちには世話になったな。一つ贈り物をさせてくれ。これからの鳳国には必要なくなるが、冒険者なら役に立つだろう」

【火天大戦斧】:長らく戦いの中にあった鳳国で作られた高火力の戦斧。スキルの威力はすさまじいが、使用すると壊れる。

「斧だ!」

「かっこいい斧ですね」

その豪華な装飾は見事だが、三人の職業には合わない方向の装備品だ。

「歴史が変わる瞬間、しかと記さなくてはなりませんな」

「お出かけだー! いってくるぞ!」

「いってらっしゃーい!」

見送りに来たメイたちは、満面の笑顔で大きく手を振る天子たちを乗せた馬車が出て行くところを見送った。

ツバメも「よかったですね」と、しみじみ喜ぶ。

「……シオン兵長」

そこにやって来たのは、赤の装備を身に付けた街の衛兵。

「青龍塔に、侵入者があった模様です」

「なんだって!? まさか……っ! 青龍塔へ急ぎましょう!」

駆け出すシオンに続いて、メイたちは鳳の街へと向かう。

そして先刻、ならず者たちとの戦闘が起きた青龍塔前へ。

「ようシオン、遅かったじゃねえか」

「姉弟子……」

五重になっている青龍塔の二階屋根に腰を下ろしていたのは、白髪に濃いピンクの髪束をのぞかせた姉弟子ファーラン。

「その力、やはり青龍の加護を……でも一体どうやって」

その気の強さに、『加護』を確信するシオン。

「青龍の力が欲しければ向かえ。言われた通りにしただけさ。牢のカギは開かれ、青龍塔の警備もザルだった。おかげでこの通りだ……ッ!」

ファーランがわずかに気合を入れると、強い風が巻き起こり砂煙が舞い上がる。

「さて、あたしはここで引かせてもらう。一度城に戻ると約束したからな」

「約束? 一体誰と……」

生まれる疑問。

しかしファーランは答えることなく、砂煙に紛れて姿を消した。

「なんだか、嫌な気配ですね」

「ほんとうだねぇ」

尻尾をビビビと震わすメイ。

すると、鳳の住人NPCたちがざわめき出した。

どうやら皆、朱剣城に向かっているようだ。

「今度はどうしたのかしら、一応行ってみましょうか」

レンの言葉に駆け出した四人は、朱剣城の北門前へ。

高く作られた城壁のような門の上階に、将軍たちがやってきた。

「まさか、このような発表をする日が来るとはな」

フェイ・リンが集まる民衆を望みながら、感嘆の息をつく。

「すでにその始まりも定かではない争い。隣国も和平のために動いていたのだな」

ガオウも静かにうなずいた。

「ジュンシー、それでは頼んだぞ」

「はい」

始まる演説は、和平締結について。

帰ってきた王と天子を、皆で盛大に出迎えるという企画を伝えるためのもの。

フェイ・リンやガオウは、そのためにやって来た形だ。

ジュンシーは、いつもと変わらぬ穏やかな笑みで一歩前に出た。

「お集まりいただき、ありがとうございます」

丁寧にあいさつをして、集まった民衆に視線を向ける。

「本日をもって鳳国は――」

そして、ハッキリと宣言する。

「――――この僕、ジュンシー・ラウのものとする」

「……なんだと?」

「貴様、何を言っている」

驚くフェイ・リンとガオウの二人を無視して、ジュンシーは語る。

「平和など永遠に来ない。そして君たち国民には狂気の兵士として戦ってもらう。新たに始まる戦乱。その覇者となり鳳国が、この僕が世界の王となる!」

「狂ったかジュンシー!」

荒々しい声で怒鳴ったのはガオウ。

「青龍の加護すら受けられない貴様に、そのような真似ができるものか!」

「できるさ」

「【破山水砲】!」

問答無用で放つは、強烈な水塊砲。

「フッ」

しかしジュンシーはこれを、手の振り一つで払いのけてみせた。

「なっ!? なんだこのすさまじい『気』の力は……っ」

「力を隠すことなど、造作もないことだよ」

そう言って、「ふふ」と薄く笑う。

「青龍は僕にふさわしくない。前にそう言ったよね? それはね、君たちよりはるかに高みを行く真の強者たる僕には、四神では力不足だということなんだよ」

「……貴様、まさか」

「そうさ。僕には――――黄龍こそ相応しい」

「黄龍だと……っ?」

「四神の加護を受ける者がそろえば、黄龍が目覚める。それこそ僕が求めた力だ」

「くっ、だがいかに強くとも、我ら二人を相手にできるものか!」

武器を手に、動き出すフェイ・リンとガオウ。

しかしジュンシーの笑みは変わらない。

「これも言ったはずだよ? 漢方には欲望を大きく強めるものがあってね。膨れ上がった欲は狂気となり、気は龍穴にて増大する。そうなれば人は、奪わずにはいられない狂兵と化す」

そう言って再び、「ふふ」と笑う。

「王宮の水や食料に混ぜた漢方が効き出す頃だ。どうだ? 身体が熱くなってきたんじゃないか?」

「あ、ああ……あああああっ!!」

「フェイ・リン! くっ、ああああっ!」

「狂化薬と龍穴を使えば――――この城の者たち、国軍もまとめて狂わせることができる」

道場を出た後は漢方を学んでいたジュンシーの手によって、居並ぶ大量の国軍兵たちが一斉に狂化を果たしていく。

「ついにこの時が来た……待ち続けて幾星霜。このジュンシー・ラウが全てを手に入れる時が来たんだ!!」

ジュンシーの目に、輝く欲望の光。

「まずは隣国を滅ぼし我が力を示す! ――――老いた王と、マヌケな天子ごと血祭りにあげるんだ!」

「……なるほど、老子の立てたフラグはここにつながるわけね」

「フェイ・リンさんやファーランさんに四神の加護を勧めたのは、黄龍の加護を得るためだったのですね」

二十年ほど前に現れたという、老子が恐れるほどの才能と野望を秘めた者。

ジュンシー・ラウは、その野心と武力を隠したまま鳳国将軍へと成り上がり、静かに好機を待ち続けていたようだ。

「鳳だけではなく、隣国まで賭けるレベルのクエストになりました」

「うん……っ」

大きな展開に、思わず尻尾をブルブル震わせるメイ。

鳳の住人NPCたちが「また戦いが始まるのか……」と、愕然としながらヒザを突く。

「……皆さん」

そんな中シオンは、静かに目を閉じた。

「もう一度……皆さんの力を貸してください。この街を、鳳の国を守るために……っ!」

「もちろんよ」

「はい」

「おまかせくださいっ! 鳳はわたしたちが守りますっ!」

メイは両手を握って気合を入れる。

するとシオンは、集まった民衆に振り返った。

「鳳の街の衛兵たちは無事。だが国軍の人数は膨大で、これだけでは戦力が圧倒的に足りない! 皆さん、この街を、国を守るためにどうか力を貸してください――っ!」

大きな声で、街行く者たちに請願する。すると。

「「「「待ってたぜええええええ――――っ!!」」」」

拳を握りしめたまま深く頭を下げるシオンに、集まっていたプレイヤーたちが『今や遅し』と名乗りを上げた。

「な、なに、この数……」

「まるで、この時を待っていたかのようです」

「すごーい!」

掲示板の流れを知らないメイたちは、その勢いに驚かされる。

続々と集結してくるプレイヤーの数は、もはや一つの大軍団。

「天子ちゃんの危機でもあるんだろ? やるに決まってんじゃねえか!」

「こんな規模の話になるとは思わなかったけど……メイちゃんたちと一緒とか、燃えてきたぁぁぁぁ!!」

「こちとら最初から合戦待ちで来てんだ! 準備は万端だぜ!」

シオンは一歩、前に出る。

「隣国へ侵攻するとなれば、北の平原を通ることになる。兵たちを動かすにしても多少の時間が必要になるはずだ。先回りしてそこで迎え撃とう!」

「それじゃ、準備といきましょうか」

「はい」

さっそく、平原を舞台にした戦いに向けてスキルやアイテムの確認を始めるレンとツバメ。

「あらためてお願いする。鳳を守り、王や天子様を救うために力を貸してください……っ!」

シオンはもう一度、勢いよく頭を下げた。

「皆さんっ、何卒よろしくお願いいたしますっ!」

「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」

そしてメイの元気なあいさつに、プレイヤー軍団は高く拳を突き上げたのだった。