作品タイトル不明
603.そんな終わり方だからこそ
荒れる戦場に飛び込んで来た、重装備の黒戦士。
手にした大槍を振るうと、一撃ごとに水流が伸び炸裂。
「「「うおおおお――っ!!」」」
突きから放つ水砲が、紅陣営を吹き飛ばした。
この乱舞を、ツバメは【加速】と【跳躍】を織り交ぜることでかわす。
「【電光石火】!」
「ぬうっ!!」
高速の斬撃を、槍で守る黒の重戦士。
互いの武器がぶつかり火花が散ったところで、紅陣営が一団で魔法攻撃を放つ。
「「っ!!」」
これに気づいたツバメと黒戦士は、とっさに回避。
炸裂した数々の魔法は混ざり合い、派手なエフェクトを生み出した。
「もうめちゃくちゃじゃない……っ!」
重戦士の登場により紅魔導士が攻撃を集中し、それを見た黒衣装たちがさらに攻撃を向けてくる。
戦いはいよいよ、大掛かりなスキルの打ち合いになってきた。
「一つ確かなことは、私たちが生き残れば全て解決ってことね!」
「はい、その通りです! 【加速】【リブースト】!」
高速直線移動からの二連撃で、重戦士を斬る。
すると振り返りと同時に払う一撃が、水の刃を生み出した。
これをツバメはしゃがんで回避。
「【破山水砲】!」
「【跳躍】【エアリアル】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」
続く水塊砲を跳躍でかわし、空中から水刃の四連撃で迫る。
「くっ!」
これを黒戦士は素直に防御で対応、仕切り直しとなったところで――。
「ツバメ! 上っ!」
レンの叫びに、とっさに視線を上げる。
見れば建物から大きな跳躍で落下してくる、紅色装束の仮面戦士。
「【黄金花乱舞】!」
手にした金の板で地を叩くと、地面から黄金の大花が突き上がる。
「【加速】【リブースト】!」
「くっ!」
この大技をツバメは、前方へ最速で駆け抜けることでかすめるまでに抑える。
すると黒の重戦士と紅の戦士は向かい合い、互いの武器を構えた。
「【大蛇豪水砲】!」
「【金剛超然壁】!」
飛び掛かる巨蛇のごとき猛烈な水砲の前に、立ちはだかる黄金の豪壁。
街を押し流そうかという一撃とぶつかり合い、大量の飛沫が巻き上がった。
「助かりました……」
「どうにか範囲外に逃れられたわね」
大慌てで距離を取ったツバメとレンは、安堵の息をつく。
「助かったぞメイ!」
「危なかったね!」
メイも天子を抱えて付近の屋根の上に退避。
無事、ダメージなしでこの場を乗り切った。
「まだまだァァァァ!!」
「はああああ――ッ!!」
壁が消え降りしきる飛沫の中、二本目の槍を取った重戦士と金の扇を開いた紅色戦士が激突。
派手な火花を散らしたところで、顔を隠した両者が異変に気づく。
「その二本の槍。おい、まさか……っ!」
「鉄扇だと……貴様、もしや!?」
ぶつかり合った二人は、互いに兜と仮面を脱ぎ捨て確信する。
「ガオウ!」
「フェイ・リン!」
「どういうことだ! 天子様を狙うとは!」
「それはこっちのセリフだ! 白虎の加護を得て気でも狂ったか!」
「何を言う! 隠れて天子様を見守るよう、王様より直々に命を受けているのだぞ!」
「こちらとてそれは同じこと。天子様の護衛を教育係ローウェイより依頼されている」
互いの表情を見あい、見合う二人。
「「……まさか」」
それからあらためて、付近の状態を見回す。
「ま、待て! よく見ればどちらも国軍ではないか!」
「止まれ! 全員止まれぇぇぇぇ!!」
ここで明かされる事実。
どうやら街の中で戦う者たちの中には賊などおらず、王に頼まれフェイ・リンが連れてきた部隊と、教育係ローウェイに依頼されていたガオウの一団が戦っていたようだ。
「最初から、身内で勘違いをしていただけだったわけ?」
「意外な展開です」
「びっくりだね!」
まさかの展開を迎えたクエストに、さすがに驚くレンとツバメ。
こうして無事、ガオウとフェイ・リンが事実に気づくまで『耐えること』が求められるクエストが、終了を迎えたのだった。
◆
「父上」
「すまなかった」
「ローウェイ」
「…………」
朱剣城へと戻ってきた天子は、王とローウェイを呼びつけ怒りをぶつける。
「隠して兵を送っているなど、聞いていないぞ!」
「本当に悪かった! だが、そうは言ってもどうしても心配はあるだろう? 警備を兵に任せ、護衛を冒険者殿にしてもらうという二重の作戦だったんだ」
「これも天子様を守るため。私の判断は当然のことです」
苦笑いしながら謝る父に対して、ローウェイは譲らない。
「ですが、シオン殿や冒険者殿には礼を言いましょうぞ。この度も、お見事でした」
「ああ、娘はケガ一つなし。やはり君たちの手腕は本物だ」
「いえいえー」
頬をふくらませる天子。
大掛かりで荒れたクエストだったが、皆どこか楽しそうだ。
「すまなかったな。我が配下の若手従魔士が『しつけ』をしっかりできず、バクを暴れさせてしまったのが騒動の引き金になったようだ」
そんな中、ため息をついたのはフェイ・リン。
「ふん、どうせ貴様が食い意地を張っている間に起こした事件なのだろう?」
「侮るな! 点心を買いに行くのはこの後だ!」
「NPCの従魔士、従魔に暴れられがち問題ね。それに追跡部隊もそこそこ天子に当たりそうな攻撃してたわよ」
「フェイ・リンさんも、買い食いに行くこと自体は否定しないのですね」
「あははははっ」
コメディ感のある展開に、笑う三人。
顔を隠して向き合った兵たちは互いの正体に気づかず、天子に迫る者を敵と判断して交戦。
シオンや天子は国軍たちとは面識もほぼないため、戦いは過熱。
そこに遅れてきたガオウとフェイ・リンがぶつかったことで、ようやく事実が明らかになる。
やはり少し、変わったクエストになっていたようだ。
「はははははっ! これだけの騒ぎの中、そこに敵はいなかったとは面白い! つい数年前までは、長く続いた戦いによって常に敵の影を感じていた! それが皆天子を守るために動いた末の勘違いだったとはな! このような平和な騒ぎは、生まれて初めてだ!」
「このことも『書』に残しておきましょう。鳳の歴史の一つとして」
笑い声をあげて喜ぶ王に、ローウェイも笑い出す。
「ようやく決意ができた。ローウェイよ、隣国に――――和平を申し込む」
「っ! 長き戦いが本当の意味で終わりを迎え、平和な時代が到来するのですな」
「……和平」
そんな王と教育係の言葉に、驚きの表情を見せるシオン。
「コメディ感のあるクエストだから、こういう締め方ができるってわけね」
「楽しい終わり方で良かったね!」
「本当です」
そしてそんな和やかな雰囲気の中、シオンもついに覚悟を決める。
「そうか……それなら私も、将軍の任を受けようと思う」
「おや、それは助かります。白虎の加護を得たフェイ・リンに続き、シオンもいる。これで準備は万全です」
笑い声を聞きつけてやって来たのは、城内仕事を片付けていたジュンシー。
こうしてお使いクエストは、平和な時代の到来を感じるものとなったのだった。