作品タイトル不明
586.お茶を楽しみますっ!
道場に置かれた茶室は、とても優雅な作りをしている。
深い色味の板の間に、薄く紅色を帯びた木材で作られたすだれ。
彫刻の施されたイスとテーブル。
その上に置かれた黒い茶器が、とても良い雰囲気を醸し出している。
おかれた茶器は見事な陶器でできており、レンは置かれた説明書を手に取った。
「なるほど、このお茶にも簡単な『調薬』のシステムが使われてるのね」
どうやら備え付けの『東方美女』という茶葉を使って、そこに採取してきた果実を入れることで完成するようだ。
材料の選別と、その作成過程によって成功失敗が決まってくるのだろう。
「ツバメは果実のカット、メイは茶葉と果実の量をサジで計って。私はお湯を沸かしちゃうから」
「はい」
「りょうかいですっ!」
この辺りの作業はもう、慣れたもの。
【技量】の高いメイが量を計り、魔法珠を使った火加減は【知力】の高いレンが担当。
果実に釣られて出てきたいーちゃんを制しつつ、メイはさくさくと計量を完了。
ポットごとに分けて準備したものに、各自の素材を投入してお湯を注いだら、後は蒸らすだけ。
「見事な手際だ」
そんなシオンの言葉に、勝利を確信する。
陶器の美しい湯呑に注げばもう、成功の予感しかしない香りが漂い出す。
「それでは乾杯しましょう!」
「いただきます」
「さあどうかしら……」
三人はドキドキしながら、湯飲みに口を近づける。
「あ、いいわねこれ……」
思わず力の抜けた笑みがこぼれるレン。
【大紅袍】はお茶特有の渋みもあり、それでいて薄くふわっとした甘みも感じる。
期待するお茶の味に、しっかり答えていている感じだ。
「とても美味しいです」
ツバメの【徳利苺】は程よい甘酸っぱさをもたらし、爽やかな風味に仕上がっている。
いくらでも飲めてしまうタイプの一杯だ。
赤みを増した色使いも綺麗で、目にも楽しい。
「ふわあぁぁぁぁ。おいしいねぇ……」
メイの【仙桃】は、まろやかな甘みが茶葉によって飲みやすくなっている。
思わず、とろけるような笑みがこぼれてしまう。
耳も尻尾もリラックスして、ゆっくりと揺れている。
「よろしければどうぞ」
ここでツバメは、買い置きしておいたゴマ団子を取り出した。
「私たちはお茶が甘いので、さっぱりした物を。レンさんは甘いカボチャのものをどうぞ」
「えへへ、ありがとぉ」
「気が利くわねぇ……」
茶室はベランダのように窓がなく、秘仙郷の風景が綺麗に見える。
「こういうところで一息つけるのはいいわねぇ。飲食システム、最高のタイミングで実装してくれたわぁ」
「本当だねぇ……」
一息ついたとき特有の『もうここから動きたくない』感に浸かりながら、遠く秘仙郷を眺める三人。
「皆、とても良い素材を持ち帰ったようだ」
どうやらメイたちが持ち帰ってきた素材は、どれも当たりのようだ。
状態異常はおろか、補助効果が見られる状況。
お茶の配分や生成にもしっかり成功して、出来としても最高の形になっている。
実はメイたちの飲んだものは、ここでないと味わえない特別品だ。
「でも、問題はここからね」
そう言ってレンは、真面目な顔をする。
あくまでこのクエストの目的は、シオンの能力向上だ。
「これで、いいのだな?」
「待ってシオン、その質問はやめて」
「直前に問われると不安になる。ゲーム特有のやつです」
「ほ、本当だーっ。今の質問一つで急に『本当に大丈夫?』感が出てきたよーっ」
シオンは自ら茶葉を用意し、そこに【鳳翼霊芝】を投入。
しっかりと蒸らした後、湯飲みに注ぐ。
「ドキドキするね」
最後の質問で、急に感じ出す迷い。
集まるメイたちの視線を前にシオンは大きく息を吸い、覚悟を決める。
そして緊張をしっかり煽った後、一気に飲み干した。
「……あ、ああ」
「あれ?」
「あああああ……っ」
「なんか、様子がおかしいですね……」
「あああああああああああ――――っ!!」
全身から吹き出すオーラは、何によるものか。
ヒザを突き、身体を抱えるその姿は尋常ではない。
「どうしたっ!?」
異変に気付いた老子も、慌てて駆け込んできた。
そしていよいよ頭を床につけ悶えだすシオンを見て、老子は一言――。
「成功じゃな」
そう言って大きくうなずいた。
「もう、手前からずっと紛らわしいから驚いちゃったじゃない!」
「びっくりしちゃったよー」
「これはドキドキの演出です」
苦笑いのレンに、メイたちも笑顔で応える。
「やはりシオンの才は目を見張るものがある。これだけの気を発するとは……」
シオンの身体から吹き出していた気がやがて落ち着き、静かにたゆたい出す。
「今のシオンであれば……四神の加護を受けることも可能かもしれんな」
「これは……」
シオンも自らの手から昇る気を、興味深そうに見つめる。
見れば血の気が良くなり、髪の艶やかさも増しているようだ。
「これが【鳳翼霊芝】の作用ですか……」
やはりメイの見立ては正しかったようだ。
正しい選択をできたことが分かり、レンは「さすがね」とほほ笑み、メイは「えへへー」とうれしそうに笑い返す。
どうやら今回のクエストも、最高の形で達成することができたようだ。
「む、思い出したぞ。【鳳翼霊芝】にはよく似たものもあり、そっちは毒性があったはずじゃ。よく正しい方を見つけてこられたのォ」
「それ、絶対先に思い出さないといけないやつよね?」
「とても意地悪なクエストです」
この情報を先に知っていても、なお悩むであろう選別クエスト。
今さら大事な事実を思い出した老子に、レンは「まったく」とため息を吐いたのだった。