軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

530.サバトと夜の神殿都市

「どうしたの?」

異変に気付いたメイに、レンが問いかける。

「あの暗いところに、真っ黒装備の人がいる」

「ま、真っ黒装備……? リズとか雨涙じゃないわよね……?」

『黒』と聞いて真っ先に闇の使徒を想像したレンは、かすかに動く影に近寄ってみる。すると。

「ッ!!」

黒のフード付きローブをまとった魔導士が、その場を早足で後にした。

「追いましょう」

魔導士の後を追い、神殿都市の住宅街へと入っていくメイたち。

「つかまえなくてもいいの?」

「捕まえちゃうより、仲間のところに連れて行ってもらった方が良さそうかなと思って」

「なるほどー!」

メイは「すごーい!」と目を輝かせる。

実はレンの選択は正解だ。

この時点で慌てて捕まえてしまうと尻尾切りの形で魔導士が残されてしまい、また新しい手掛かりを探さなくてはいけなくなる。

「この視界の暗さで黒の装備は、見つけるのも追うのも大変なんでしょうね」

魔導士は『小ステップ』の魔法を使用し、軽々と暗い街中を逃げていく。

速く、音も小さく、見つけにくい。

そんな魔導士の後を追うのは一苦労だ。しかし。

「次は右だねっ」

メイの【暗視】には、全てが見えている。

魔導士が何度か入れてきた『見失わせるため』のフェイントも軽々突破し、三人は余裕で魔導士の後を追う。

やがてたどり着いたのは、街外れにある空き家。

古びた石造りの一軒家をそのまま抜けていった魔導士は、裏手にある庭へと出た。

「【ラビットジャンプ】」

「【跳躍】」

「【浮遊】」

メイたちは建物の屋根へと上がり、魔導士の逃げた先に視線を向ける。

そこには十人ほどの魔導士たちが集まり、魔法陣を作成していた。

すでに陣としてはでき上がっているのか、ぼんやりと鈍い光が宿っている。

「どうした、そんなに息を切らして」

「悪いな。途中で聖教のやつらに目を付けられたかと思って」

「気を付けろよ。それで、例のものは持ってきたか?」

「ああ。かの有名魔導士が生前使っていた杖だ。残された工房に忍び込んで盗んできた」

そう言って、逃げてきた魔導士は魔法陣の中に杖を置いた。

「いくぞ」

そして、魔導士の一人が陣を起動しようとした瞬間。

「そこまでですっ!」

屋根の上で様子を見ていたメイたちが、魔導士たちの前に降り立った。

「チッ! 見つかったか!」

「こうなったら仕方ない! 潰せ! 潰しちまえっ!」

「あともう少しで召喚が成功する! それまで時間を稼いでくれ!」

「任せろ! 【ヒートネット】!」

「「「ッ!?」」」

初見タイプの魔法攻撃は、網状の熱線が頭上から落ちてくるという変わり種。

「これ、すごくドキドキするわね……っ!」

その網目の広さはまちまちで、ハズレを選べば熱線に肩がぶつかり爆発炎上という仕掛けだ。

三人は程よい広さの枠を選び、これを見事に回避する。

すると熱線は地面に着弾。

碁盤目状の赤光を輝かせ、炎を巻き上げた。

しかしこの『待ち時間』に、敵魔導士たちは魔法の準備を終えている。

「【エーテルウィップ】!」

「「「ッ!!」」」

決して広いというわけではないこの空間。

20本にもなる魔力のムチは広がり、空間を薙ぎ払うような形で振るわれた。

「【アクロバット】!」

「【加速】!」

ここでメイは、ムチの隙間を普通に潜るという妙技で回避。

ツバメは相手の手元に近づくことで攻撃範囲を抜け、見事な回避を見せた。

「二人とも初見とは思えない回避力ね……っ!」

一方のレンは後衛らしく早々に後方への移動をしていたため、大きなバックステップで範囲を脱することに成功した。

「【エーテルハンマー】!」

続く大型ハンマー化した魔力の一撃も、前衛二人は散開することで問題なく回避。

地面に突き刺さり、魔力光の柱を突き上げたところで反撃を狙うが――。

「【ヒートネット】!」

即座に三人が上部を見たところで、一瞬遅れで聞こえる声。

「【ヒートネット】!」

「「「ッ!?」」」

続く攻撃はまさかの、重ね掛け。

広範囲の熱線網が、折り重なるようにして降りてくる。

編み目の広さはまちまち。

さらにそれが重なることでいよいよ安全な『枠』が減り、判別するのも難しくなる。

「あっち!」

それでもメイは慌てない。

冷静に各枠の広さを見て、無理のない位置を選んで待機する。

「こ、これ……どこならいいのよっ!」

一方付近に程よい枠がなく、移動スキルも弱いレンは右往左往。

頭上近くまで降りてきた熱線網に慌て出す。

「レンちゃん、こっち!」

そんな中を駆け出したメイは、レンの手を引き走る。

「メイ!? この狭さはさすがに難しくない!?」

メイが新たに選んだ枠は、決して広くはない。

二人だとさすがに厳しくないかと、レンは躊躇するが――。

「だいじょうぶですっ!」

「えっ!? きゃあ……!」

メイはレンの腕を強く引くと、そのままギュッと抱きしめた。

降りてくる熱線は抱き合った二人の肩にかすめることなく接地して、ぼっと燃え上がった。

「えへへー。ねっ?」

「そ、そうね」

目を見つめて笑うメイに、思わず声の裏返ったレンの耳が赤くなる。

「さあ、今度こそ反撃といきましょう」

ちょっとだけうらやましそうな目をしたツバメがあげる声に、元気に応えるメイ。

「はいっ! 【バンビステップ】!」

「【加速】【リブースト】!」

超加速で先行したツバメは、敵魔導士たちの魔法が生成される直前に敵の前に到達。

「【紫電】」

伝わる雷光で、その動きを止める。

「【フルスイング】!」

そこにメイの横なぎが決まり、まとめて5人の魔導士が倒れた。

「【アクアエッジ】【四連剣舞】!」

振り返ったツバメが放つ水刃の連撃で、さらに4人の魔導士を弾き飛ばす。

そして、残った魔導士は――。

「【フレアストライク】!」

火炎砲弾が直撃。

最後の魔導士を吹き飛ばして、無事勝利を飾ってみせた。

いまだに耳の赤いレンの魔法が、いつもより大雑把な照準で放たれていたことは、運良く二人には気づかれなかった。