作品タイトル不明
446.覚醒とまさかの展開
「ここが最下層ね」
石作りの螺旋階段を駆け降りたレンたちは、そのまま最下部へとたどり着く。
すると壁や足元に刻まれている溝に魔力光が灯り、鈍く道筋を照らし出す。
続く広い一本道に、描かれた紋様。
そこに敵の姿はなし。
しかしゆっくりと開いていく重厚な石の扉は、進むのに手間を取られる。
どうやら、追って来た敵陣との戦いをさせるための仕掛けのようだ。
遅い扉の開きにそわそわしながら、たどり着いた祭壇の間。
そこにはたくさんの動物たちの像が並んでいる。
中央にある猿の手の上、吠えるトラの口に【輝石】を奉じると、中央の魔法陣に光が灯った。
「――――我を呼び覚ませしものよ、何を願う」
まばゆい光と足元に伸びる影。
聞こえてきた重厚な声と共に、生まれる選択肢。
『――――守り神の力で、戦場を薙ぎ払う』
『――――島の危機を伝えに来ただけ』
「……こういうことなら、『島の危機を伝えに来ただけ』かしら」
まさかの守り神を『使わないという』選択。
「それで負けちゃった場合は、それはそれで仕方なし……というのは、なしかしら?」
レンは合流組に問いかける。
人数的に大きな不利を背負う陣営が、得られるはずの『武器』を放棄するという選択は、基本的には悪手だろう。
しかし合流組、ここでもこくこくする。
「ここまでの流れで、敵陣への攻撃に守り神を使うってのはなぁ……」
「テーラ組にいて、なおかつメイちゃんがいるのに守り神を攻撃に使うのはなしじゃないか?」
「二択を出されてる時点でもうね」
フロンテラ陣営にいるのであればいいが、ここまでの流れに沿わない選択はしない方向で。
メイというリーダーの『野生児』ぶりも踏まえて、すぐに選択が決まる。
ここでレンは、『島の危機を伝えに来ただけ』を選択した。
「了承した。テーラの者を見守ることを約束しよう」
守り神の言葉と共に【輝石】は光を失い、ここでアナウンスが入る。
『――――ただいま、守り神との契約が締結されました』
『――――勝者となったのはテーラ陣営』
『――――これにて、第一対戦クエストは終了となります』
「戻りましょう!」
「はいっ!」
「「「おうっ!」」」
こうして守り神クエストの攻略者となったレンたちは、すぐさま踵を返す。
クエストが終わったとて、始まった戦いは終わらないだろう。
ましてメイは、テーラ陣営のリーダーだ。
誰もがここで叩くべきと判断する。
メイが負けるとは思っていないが、敵数もトッププレイヤーの数も多い状況。
この短い時間で勝利することは難しいはずだ。
来た道を全力で駆け戻り、螺旋階段をレンは【浮遊】ツバメは【エアリアル】を使った二段ジャンプで一気に上がる。
「メイ! 来たわよ!」
そして【コンセントレイト】を発動したレンは、即座に杖を構えた。
「遅くなりました!」
ツバメもすぐさまダガーを構えて続く。
「レンちゃんツバメちゃん! 今ちょうどみんなのところに行こうと思ってたところだったんだ!」
振り返ったメイは、ブンブンと手を振る。
そこはすっかり元通りの、静かな古代遺跡。
残っているのは、わずかな『観戦に切り替えた勢』だけ。
「……え、まさかもう終わったの?」
「あれだけたくさんのプレイヤーがいたのに……」
「「「行くぞーっ!」」」
「…………あれ?」
そして遅れて上がってきた合流組も、ぽかんとする。
メイはダメージを負っている様子もなし。
これまで幾度となくそのすさまじさを隣で見てきたレンとツバメも、決して長くはなかった戦いの時間に、久しぶりに驚愕したのだった。
◆
「な、なあ……もう【輝石】集め、終わっちまったみたいだぞ……」
長い黒髪に華奢な体つき。
黙っていれば清楚な美少女。
そんなアングル陣営のリーダーである桜子が、密林の中で頬を引きつらせる。
「出遅れたとはいえ、今になって霧の森にたどり着くって……方向間違ってたんじゃないのか?」
たずねると、肩までのピンク髪に赤いリボンの少女、アトラクナイアが真面目な顔で振り返る。
「確かにこの方向だと言っていた」
「本当か? 誰が?」
「……私の勘が」
「勘だったのかよ!」
「勘だったのーっ!?」
これには長めの髪を二つのお団子にした、瑠璃花も飛び上がる。
この一大事に密林をフラフラしていた三人は、ここでついに足を止めた。すると。
「見ーつけたんっ」
そこに空からやって来たのは、エジプトの王族を思わせる金の装飾品を身に着けた、妖艶なお姉さん。
「探しちゃったの!」
それに続くのは、短い銀髪の小柄な元気少女。
「赤い腕章! ていうか、七新星じゃねえか!」
白い竜を待機させ、三人の前に降りていくる二人。
さすがに緊張感が走り出す中、アトラクナイアだけが枝の上の変わったトカゲに夢中になっている。
「実は野性児ちゃんに、守り神を取られちゃったみたいなのぉ」
「おおーっ、さっすがメイちゃん!」
「しかも5000人もいた敵対プレイヤーたちを片付けてぇ、七新星も3人返り討ち。それもたった一人でね」
「5000かよ……しかも七新星が3人いて止められないって……」
「はあーっ! メイちゃんやっぱりすごいなー!」
メイの活躍を聞いた桜子は唖然とし、瑠璃花は目を輝かせる。
「私がボコられる予定だったのに……」
「どんな予定を入れてんだ」
一方のアトラクナイアは、なぜか肩を落とし出す。
「……それでキュービィちゃんがここに来たのはぁ、同盟のお誘いに来たのーん」
「同盟だって?」
「もっちろん、一時的なものよん」
「そーなの! 最初は仲良く! でも最後にはまた互いを狙い合う関係にっ!」
大げさなアクションで、小柄少女ココが説明を捕捉する。
「でも勝手に決めちまっていいのか? そっちのリーダーはアンジェラなんだろ?」
「そこは大丈夫よん。アンジェラちゃんは作戦の多くを私に任せてくれちゃってるしぃ、銀騎士への速攻を決めたのも、このキュービィちゃんだから」
「なるほどなぁ」
「5000人でも止められない野生児ちゃん。そのうえ守り神の加護持ちだなんて、ちょーっと大変でしょう?」
「そうだな。そういうことなら……結ぶか。同盟」
そう言うと、キュービィは「やったぁ」と可愛くほほ笑み、「よろしくねぇん」と硬く握手を結ぶ。
「まずは両陣営で野生児ちゃんたちを落として、勝負はそこからってことでお願いするわぁ」
「ああ、了解だ」
「私たちが手を組んじゃえばぁ、さすがに野生児ちゃんもイチコロよん」
「ボッコボコだー!」
「それじゃあ、まったねぇん」
「ばいばーい!」
七新星の二人は、白く綺麗な竜に乗って去って行く。
「……大変なことになっちまったな」
そう言って竜を見送った桜子は、気合を入れる。
「よしっ、どうせならあたしたちでメイちゃんを倒して、そのまま七新星もぶっ倒しちまおうぜ!」
「おおーっ!」
「がんばれ」
「お前もやるんだよ」
「でも台風の目になりそうなテーラ陣営を、先に潰しちゃうってのは良い作戦かもね!」
ぶつかり合うべき二大陣営が、少数陣営を潰すために結ぶまさかの同盟。
これまで幾度となく行われてきたイベントの歴史にも一度としてなかった事態が、この時ついに始まったのだった。